第85話
突然に、トリスたちの担任であるラジュールが、剣術科の生徒たちの様子を、巡回しているカイルの元に現れた。
全然、訪ねてくる予定がなかったのだ。
それにもかかわらず、姿をみせたラジュールに、表情を曇らせる。
「何か、あったのか?」
魔法科で、何事かあったのかと、勘ぐっていた。
「いや。警備の打ち合わせだ」
いろいろと、思案しているカイルと違い、ラジュールが平然と構えている。
そんな落ち着き払っている仕草に、ムッとしていた。
「お前じゃなく、他の教師がいるだろう」
密かに、隠れて警備している教師がいるのだ。
ラジュールではなく、その者に頼めと、示しているのだが、全然効果がない。
「私の方が、早い」
即効で返す姿に、だからと言って、担任のお前が出てくるなと、突っ込みたくなったが、ここは、グッと堪えていた。
先に、済ます用件が、あったからだ。
「……念のために聞くが? 生徒たちは、どうした?」
「私が、いなくても、大丈夫だろう」
顔色一つ変えない。
「……放置してきたのか」
言動に、頭を痛める。
「いつのもことだ」
悪びれる様子がなかった。
「今は、違うだろうが」
眼光鋭く、非難している。
だが、相手は痛くも、痒くもなく、やり過ごしていた。
ますます、腹立たしくなる。
必要最小限にしか、相手とかかわらない、ラジュールの昔から、一貫している性格に、しょうがないやつと思わなくなかったが、魔法科の生徒たちが、こんな欠陥だらけの教師に、教わった可哀想だと哀れむのだった。
「変わらん」
「お前な……、もう少し教師として、生徒たちに関心を向けろよ」
「もうガキじゃない。分別ぐらいは、あるだろう」
「……当時の俺たちには、あったか?」
「私にはあった」
当然のことだと言うふうな顔を、覗かせている。
「どの口が、自分が、一番まともだったと、言っている」
「この口だ」
素直に返す姿に、思わず、頬が引きたくなる。
何とか、これまで培った理性で、気持ちを押し止めていた。
「授業をサボって、魔法の研究していたのは、どこの、どいつだ。それに、危険なことやるって、知っていながら、止めなかったのは、どこの、どいつだ」
獰猛な眼光を、カイルが覗かせている。
それに対し、ラジュールの表情が崩れることがない。
「私だ。授業を、すでに理解していた。それに、危険を知らせるのが、面倒だった。第一、それぐらい回避しないで、世の中を渡っていこうなんて、カイル、甘いぞ。あの時の危機甘さを改善し、危機感を備わったから、今のカイルが、できているのではないか。これは、私や、デュランに感謝するべきだ」
「感謝なんて、したくない!」
「友達を、大切にしないやつだ」
眉間にしわを寄せているラジュール。
「友達なら、教えておくべきだ」
「それでは、つまらない」
「お前な」
納得できない顔を、カイルが滲ませていた。
「それよりも、論点がずれているぞ」
「……」
我に返ったカイルに、魔法科の状況を知らせる。
周辺地域で、怪しい影を、感知するまでしたが、捕まえるところまではいっていなかった。
「……そうか」
「剣術科は?」
「似たようなものだ。ただ、リュートが抜け出したがな」
「ほっとけ」
物静かな顔して、ラジュールが突き放した。
「あのな……」
何とも言えない顔を、カイルが滲ませている。
「あいつらの狩りの腕前の方が、上手だ。何せ、罠に関して強いトリス、バドがいるからな。悪知恵に関しては、カーチス、ブラークがいる。天然ボケではあるが、天才リュートもいるしな。それらをクライン、キムがサポートしている。だから、気にする必要性はない」
「彼らを、諜報員が、狙っているんだぞ」
心配の色が失せないカイル。
「これぐらいのことを、やってのけなければ、意味がない。それに、何か起これば、カレンを初めとして、魔法科で、動くだろうし、お前のクラスの生徒も、いるしな」
「生徒を巻き込むな。自分が動くのが、面倒だからと言って」
「いい機会だろう、実践訓練は」
放任主義で、生徒たちを、ほっとくだけだと、思われていることが強いが、ラジュールは一人一人の能力を、きちんと見定めていたのである。
「危険過ぎる」
「それぐらいが、ちょうどいい。お前が、実証しているではないか」
「……」
「打ち合わせも、終わったところで、私は、警備に回る」
「待て。監督者だろう?」
帰ろうとしていたラジュールを、引き戻した。
「私がいなくても、あいつらは、大丈夫だ」
「つくづく、お前のところの生徒たちが、可哀想だよ」
「そうか。自由だと、喜んでいるぞ」
「……。ところで、リュートに会っていかないのか?」
「必要がない」
「お前の生徒でも、あるだろうが」
「カイルだけで、大丈夫だ」
「押し付けるな」
納得できず、カイルがムスッとしている。
「あいつが、望んだことだ」
「……」
「他に、用件は?」
「生徒たちに、もう少し関心を持て」
「くだらない」
吐き捨てたラジュールが、瞬く間に消えてしまった。
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