第83話
日も暮れ、剣術科では、班ごとで調達した食材を使い、料理し食事している。
狩りに失敗した班は、近くで生殖している果物や、木の実だけの質素な食事だったり、別な班では、狩りではなく、湖から魚を釣り、それを食している班もあった。
幸い、リュートたちの班は、狩りに成功し、多くの肉を、胃袋に収めていたのだ。
「肉ばかり……」
食事内容に、不服なローゼルだった。
肉一色で、他の食材、魚や果物、木の実が全然ない。
焼いた肉に、ハーブと一緒に煮込んだ肉しかなかったのだ。
「文句があるんだったら、食うな」
鷹揚に、ダンが突っぱねた。
そして、大量の肉を、平らげている。
「食べるけど、文句はあるわよ!」
互いに、火花を散らかす。
食糧担当だった男子組が、狩りだけしか行っておらず、他の食材を、採らなかった。
「バランスを、考えなさいよね」
「干し肉にすれば、保存食に変わるだろう」
対抗心を剥き出しで、ダンが言い返した。
日ごろから、二人の相性がよくない。
そのせいで、いつもケンカが絶えなかった。
見慣れた光景に、誰も、止めに入る者がいない。
「ただの、野宿体験学習なのよ。期間が短いのに、どうやって、干し肉にしようって、言うのよ。その筋肉バカの頭で、考えなさい」
「筋肉バカの頭って、何だ!」
もっともな、正論を突きつけられ、挙句、バカにされ、ダンの眼光が怒りに燃えている。
いつ、戦闘になっても、おかしくない状況だった。
パウロやリュートは、気にする様子もない。
黙々と、食事を堪能している。
食事をしつつ、ケンカが絶えない二人に、セナが脱力していた。
「そうじゃないの? 狩りだけで、他の食糧を、採らなかったんだから」
「肉は、大切だ」
「肉だけじゃないわよ」
「大切だ」
「違う」
睨み合う二人。
周りが見えてなかった。
「いい加減にしたら」
止みそうもないケンカに、セナが割って入っていく。
すべてが、採点項目に入っている状況下で、揉めるのは得策ではない。
一触即発の緊迫した状態を、落ち着き払った目で、二人を見据えている。
手にしている肉を放り出し、剣で、勝負に入り込みそうな絶妙なタイミングで、止めに入り込んだのだった。
すぐに止めてしまえば、完全に毒が抜けない。
次の対戦へと、いってしまうからだ。
「セナだって、そう思うでしょ?」
自分の正しさを、ローゼルが訴えた。
肉だらけの食事に、セナが視線を巡らせ、他の班の食事にも傾けている。
「……そうね。これも、授業の一環だから、肉だけの食事では、満点は貰えない」
冷静に、カイルの思考を読んで、分析してみせた。
グランドから、出発した時点で、採点が始まっていたのだ。
生徒たちの行動を、数人の教師で、逐一観察し、詳細にチェックしていたのである。
「……」
冷静に言われ、何も言えなくなる。
ほら見なさいと、誇らしげな眼差しを注ぐローゼル。
けれど、ローゼルの態度が気に入らない。
ジト目で、ダンが睨んだままだ。
険悪なモードが、続けられていた。
両者の顔を窺い、セナが首を竦めている。
「でも、それで揉めるのも、不味いわね」
ちくりと、顔に似合わず、ケンカっ早いローゼルにも、注意を促した。
今後、吹っかけさせないためだ。
「不満だけを言っても、しょうがないわよ」
「……」
ばつが悪そうなローゼルを、窺っている。
そして、習うように、ダンの口も、しっかりと結ばれていた。
黙り込んでいる二人に、ホッと、息を吐く。
パウロとリュートが素知らぬ顔で、ひたすら食事していた。
無言で、食事を始めたダンとローゼルを窺い、セナも食事を再開させるのだった。
焚き火を囲んでいる一班では、静かになっていた。
他の班では、和気藹々と、楽しい声が漏れ聞こえている。
無口な面々の顔に、セナが視線を巡らす。
「満点を狙うんだったら、まず、肉だけになった現状を踏まえ、話し合って、改善へ、導くべきだと思うけど?」
対策を、口にしていたのだった。
胡乱げなローゼルと、ダン。
「どうやって?」
二人は、先ほどの後遺症が尾を引き、代わりにパウロが口を開いていた。
視線の矛先が、すべてセナに集まっている。
それを見越し、余裕な顔を滲ませていた。
「そうね。組み合わせが、不味かったわね。私と、パウロが、水補給組で、リュート、ダン、ローゼルが、食糧調達組とするべきだったわね」
「何で、ローゼルと組むんだよ」
「そうよ。ダンと、何か組みたくない」
ケンカしたばかりの二人は、不満たらたらだった。
いやだと、険しい眼光で、二人が訴えている。
それでも、セナは臆さない。
「一番、妥当な線だと、思うけど? それぞれの能力を緩和見て」
高揚していた気持ちが、和らいでくると、ダンも、ローゼルも、セナの案に、一理あると抱き始める。
けれど、それを素直に認めることができない。
チラチラと、互いのことを、どう反応するのか、窺うばかりだ。
「「……」」
そんな静寂を破ったのは、満たされつつあるリュートだった。
「悪くないけど、食糧調達だったら、俺一人でも、よかったぞ」
のほほとしているリュート。
今回の授業の意図を、読み取っていない。
気楽な姿に、がっくりと肩を落とし、セナの視線が鋭さを増していった。
「リュート一人が、問題なの」
非難めいた顔を覗かせている。
「どうして?」
眉間にしわを寄せ、釈然としない。
だが、他のメンバーは、反論の意思がなかった。
「ムカつくけど、一番、もっともな意見ね」
「俺も、腹立たしいが、納得できる意見だな」
「そうだね」
もっともだと、三人がセナに同意している。
その様子が、一人蚊帳の外のような気がし、面白くない。
口を尖らせている。
「どこがだよ」
「リュート一人にしたら、何するか、わからないでしょ?」
「何するって、食糧を調達するだけだろう」
「それだけで、すまないのが、リュートなんでしょうが!」
乱暴に、セナが吐き捨てた。
同時に三人が、うんうんと頷く。
「考えるとしたら、班の人数も考えず、大量の食材を、集めてくるかもね。それに周りにも、甚大な被害を与えて……」
これまでのことを踏まえ、リュートが起こしそうな行動を、ローゼルがあげていった。
どれも、ありそうで、セナの頭が痛くなっていく。
ダンが腹を抱え、笑っていた。
「これも、あるよ、絶対に。食糧集めを忘れて、どこかへ、消えてしまうことも」
楽しげに、瞳を輝かせているパウロだった。
好き勝手言うみんなに、徐々に、顔を顰めていく。
「だったら、稽古している可能性の方が、高いぞ」
面白げにダンが、パウロの意見に付け足してきた。
三人は、リュートが仕出かす内容で、盛り上がっていたのである。
ムクムクと、不満の種を膨らませていた。
けれど、口を閉ざしている。
「つまり、リュートに単独行動はさせられない。班の中で、力と経験のバランスを考えても、この案が、一番、妥当なの。わかった? リュート」
諭すような眼差しも、セナは添えていた。
「納得できない……」
不貞腐れた顔で、黙々と、肉だけの食事を平らげていく。
口角を上げ、首を竦めている面々。
そんな姿を、不憫に思ったダンが、話題を切り替える。
「な、リュート。魔法科の時は、どんな班行動を、行っていたんだ?」
「……班なんて、なかった」
「えっ。班が、ないのか」
意外な事実に、目を見張る。
だが、それは、ダンだけではない。
ローゼルも、パウロも、衝撃を受けていた。
魔法科も、剣術科も、班が決められていたのである。
「それって、もしかして、A組だけじゃないの」
鋭くセナが、聞き返した。
「ああ。俺たちの組には、班なんて、最初からなかった。どういう訳か、俺たちのクラスだけ、クラス替えが、なかったからな。それに、人数も、他のクラスよりも、少なかったし」
昔を思い返しながら、口にしていた。
「特別扱いって、感じだな」
思ったことを、そのまま、ダンが吐き出したのだ。
僅かに、顔が渋面になっている。
(さすが、エリートが集まっているな)
「特別扱いなんて……」
反論しかけようとするが、確かに、他のクラスとの違いが、次々と、上がっていき、視線が空を彷徨っている。
当時は、変に感じていなかった。
けれど、こうして振り返ってみると、おかしいと抱くのだった。
「自覚は、あるようね」
落ち着きがなくなりつつある様子を、眺めていたローゼル。
「……ラジュールは、自由を許していたからな。少々のことをやっても、怒られなかった」
自分たちは、悪くないと弁明に回った。
「少々?」
胡乱げに、セナが視線を巡らせる。
居た堪れなさが、膨れ上がっていった。
「……少々より、若干、はみ出すぐらい?」
自信なさげに、訂正した。
そして、チラリと、セナの顔色を窺う。
まだ、納得していない顔を、覗かせていた。
「……遊んで、いただけだ」
思いっきり、頬を膨らませる。
「リュートだけが、遊んでいただけで、他の人にとっては、迷惑至極よ」
「俺だけじゃない!」
「あの連中だけでしょ」
さっき会った子供じみたカーチスたちの顔を、思い浮かべていた。
「違う。クラス全員だ!」
「はぁ?」
セナを初めとするみんなが、眉を潜める。
一体、魔法科のA組は、どうなっているんだ?と、誰の心も、支配していた。
「今は、みんな真面目に、授業とか、受けているが、みんなで、よく授業をサボって、遊んでいた。全員で、罰掃除を、受けたことだってある」
ふん、どうだと鼻息も荒く、胸を張っている。
((((威張れないだろうが、そんなことは))))
「巻き込んだの、間違いじゃないの?」
怪訝そうに、セナが覗き込んでいる。
「違う」
誰もが、疑っている視線を滲ませていた。
「絶対に違う。だったら、全員に証言させる」
勢いよくリュートが、立ち上がった。
魔法科がいる方へ、向かおうとしているのを、慌てて制する。
「ちょ、ちょっと、待って」
立ち止まり、険を帯びた双眸を巡らせていた。
「証言って、まさか、つれてくるつもり」
「当たり前だ」
毅然とした態度だ。
疑っているセナたちに、自分は間違っていないと証明するため、現在、同じオラン湖で、精霊呪文の取得しているA組全員を、連れてこようとしていたのである。
都合のいいことに、サボり組の面々も、来ていたので、探す手間もないと踏んでいたのだった。
突拍子もない行動に、ダンたちが軽い眩暈を起こしている。
セナのこめかみが、ピクピクと動いていた。
「魔法科にだって、範囲が決められて、そこからは、出られないはずでしょ?」
「大丈夫だ」
(どこから、来るのよ、その自信は!)
「クラインや、カーチスたちは、いいかもしれないけど。他の人は違うでしょ? カレンとかは。もしかして、無理やり、つれてこようとしている訳?」
「拒絶すればだ」
嫌がれば、考えもなく、強引につれてくる予定になっていた。
物怖じせず、不敵に、リュートが笑っている。
(((やるな)))
ダンや、パウロ、ローゼルが、複雑そうな顔を覗かせている。
「先生も、いるのよ」
セナの眉間が、より深くなっていた。
「ラジュールは、基本的に放任主義者だ」
さらに、こめかみの動きが、加速していった。
「だから、平気だ」
何も、問題はないと、自信の塊りのリュートを捉えている。
「そうやって、迷惑を、かけているでしょうが!」
突然の剣幕に、目をパチクリさせる。
「いい? それが、迷惑をかけているって、ことでしょうが」
胸倉を掴まれ、鬼のような形相が近い。
それを、きょとんとした顔で窺っていた。
どうして、セナが剥きになって、怒っているのかわからない。
「少しは、そういったことの、自覚を持ちなさい」
素直に、リュートが逡巡している。
一度も、迷惑をかけたと言う意識がなかった。
純粋に、みんなも、楽しんでいるものと、思っていたのである。
「迷惑なのか? ラジュールは、みんなを連れてきても、文句を言わないし、きっと、それぐらいでは、罰掃除はない」
「魔法科の先生がなくっても、カイルはある」
「……そうかもしれない」
これまでのカイルの言動を、思い返していた。
「なら、そんな考え、即刻消しなさい」
「わかった」
「なら、よし」
掴んでいた手を、解いた。
眺めていたダンたちが、セナによくやったと、拍手で称えている。
読んでいただき、ありがとうございます。




