第82話
「ねぇ、何、話していたの?」
森の中を歩いているセナが、抱いていた疑念をぶつけた。
セナとリュートは、秘密基地からの帰る途中だった。
「何が?」
「ひそひそと、カーチスと、話していたでしょ?」
挑むような視線を浴びせている。
そこには、逃げを許さない意志が、込められていた。
カレンと意気投合し、話に夢中になっても、カーチスにつれていかれ、こそこそと話し込んでいる姿を、しっかりと把握していたのだ。
その場で、問い詰めても、誤魔化される気がし、素知らぬ振りを通していた。
「ああ」
ようやく、納得した顔を覗かせる。
悪びれる様子がない。
ますます、闘志が燃え上がらせた。
「それで、何を企んでいるの?」
悪い芽を、早く潰しておいた方が、いいと真剣そのものだ。
セナとしては、これ以上、不機嫌なカイルを刺激したくない。
不用意に、突っつく真似をしたならば、連帯責任だと言われ、罰がセナやクラスメートまで、降り注ぐ可能性が大だからだ。
その脳裏には、これまでのことが、走馬灯のように流れていった。
数々の連帯責任の罰の記憶に、がっくりと肩を落とす。
リュートが剣術科に移って来て以来、穏やかな学院生活が過ごせていない。
何かと、厄介ごとに、足を突っ込まされていた。
安らいだ日々を、暮らせないでいたのだ。
問題の張本人リュートは、全然、意に介さず、平然としている。
「別に、大した話ではない」
「……」
丸ごと、鵜呑みにしてはいけない。
(絶対に、大した話よ!)
けれど、そんなセナの心情も、通じていない。
カーチスと、話した内容を、意図も簡単にバラす。
「今夜、合コンに、誘われただけ」
「はぁ! 合コン! それも今夜!」
ケロッと、何でもないような様子に、開いた口が塞がらない。
ジト目で、リュートを睨んでいる。
とんでもないことを、口にした自覚がなかった。
(別に、カーチスから、口止めされていなかったし、大して重要なことでも、なかったのに。……ま、いいか)
深く考えるのが、面倒になり放棄した。
「うん。無理やりに、行くことになった」
「……そんなこと、いつも、やっているの?」
隣を歩く呆れ顔のセナ。
どこか足取りも重かった。
なぜ、そんな顔をするのか、見当もつかない。
不可思議に、首を傾げるだけだ。
だから、素直に、セナの質問に答えていく。
「そうだな。俺は、あまりいかないが、カーチスたちは、よくやっている」
「……トリスも。それに、真面目そうに見えた、クラインって人も?」
声音が厳しく、眉間にはしわが寄っている。
(どうしようもない連中なんだから……)
目の前に、しっかりと、トリスの顔を掠めている。
(その手の話には、興味なさそうだった気がしてたのに)
「あの二人も、めったに行かない」
「そうなの?」
「誘われて、渋々いく程度だ」
「そう……」
やや力が入っていた肩が和らぎ、どこか、安堵するセナであった。
秘密基地であった、魔法科のリュートの友達の顔を、一人一人思い返す。
カーチスやブラーク、キムの三人が、ちゃらちゃらしている感じがし、瞬時にかかわりたくないと、印象を巡らせていた。
けれど、物静かな雰囲気をしていたクラインに対しては、割りと好印象を抱く。
とんでもない友達ばかりでは、なかったと言うことねと着地していた。
「楽しいやつらだろう?」
嬉しそうに、友達を自慢している。
楽しいと言うよりも、迷惑な感じよと、突っ込みそうになるのをやめた。
友達を貶されれば、気分がいいはずがないだろうし、この場で、言い争いになるのは必至で、これ以上帰るのが、遅くなるのは、不味いと言う懸念が生じたからだ。
「カレンが、大変そう……」
遠い目で、独り言を呟いていた。
知り合ったばかりのカレンの苦労が、手に取るように理解したのである。
「何で? カレンが大変なんだ?」
多大な迷惑をかけている意識がない。
幸せなやつと、横目で眺めていた。
「何でだよ」
何も言わないセナに、声音が荒くなった。
「私と、同じ匂いを感じただけど」
「匂い?」
ますますわからないと、首を捻った。
(ホントに、無自覚なんだから!)
「何で、セナも、大変なんだ?」
答えが見えそうもない、底なし沼に陥っているリュート。
眉間には、いくつものしわが刻まれていた。
「不毛なところを、ぐるぐる回っていないで、帰って来なさい」
「セナ?」
「魔法科って、面白い人たちが、多いのね」
「もっと。いいやついるぞ」
友達の話を振られ、すっかり先ほどまで、引っ掛かっていた疑問を忘れ去っていた。
「へぇ……」
「ところで、セナも、合コンに来るか」
単純に、友達を褒められ、さらに一緒に遊べば、みんなの親交が深くなり、楽しくなると提案したのだった。
ぴたりと、無表情でセナが立ち止まった。
それに続き、ニコニコ顔のリュートも、止まったのである。
友達を面白いと評され、心が弾んでいたのだ。
様子が変わったことに、気づかない。
「……何て、言った?」
低い声音で、セナが聞き返した。
顔も、伏せ気味なので、表情が読めない。
「合コンいかないかって、誘った」
「誰を」
「セナを」
「……とても、重要なことを、忘れていない?」
きょとんとした顔で、まだ表情を窺えないセナを見つめている。
「私が、女ってこと、忘れていない? 行く訳ないでしょ!」
捲くし立てられ、唖然としている。
だが、その顔は、どこか、おかしなことを言ったかと、考えあぐねいていた。
(何で、こんなにセナが怒っているんだ? 俺、ただ飲み会に、誘っただけなのに)
パチパチと、瞬きを繰り返している。
強い足音で、リュートの元へ詰め寄っていく。
あっという間に、胸倉を思い切り掴んだ。
「何で、女の私が、合コンに行かないと、いけないの!」
不愉快な顔を、前面に押し出している。
これまでにないぐらいに、怒っているが、その原因が思い当たらない。
「……カーチスたちが、ナンパした女も、来るぞ」
胸倉を掴んでいる手が震えている。
(飲み会で、怒ることなのか?)
「一緒にするな」
形相と共に、声を張り上げた。
あまりのことに、思わず、身を正す。
「一緒じゃないのか」
ますます、火に油を注ぐ状態に、陥ってしまう。
「一緒じゃない」
殺気の籠もった眼光に、さらに頓珍漢な言葉を投げ下ろす。
「じゃ、セナって、男なのか?」
不可思議そうな眼差しを、リュートが注いでいた。
「何で、そこで、私が、男にならないと、いけないのよ」
「だって、一緒にするなって……」
「そこじゃないでしょ!」
んっ?と、小さく首を傾げているリュート。
「ナンパされた女と、一緒にするなって、言っているのよ! 私は、ほいほいとついていくような女じゃないの! わかった! リュート」
「ほいほい、来ないぞ。トリスとクラインがいて、やっと、来るらしい」
カーチスたちが、話す苦労話を蘇らせ、カーチスたちだけでは成功せず、トリスたちを連れ、ようやくナンパに成功した話を披露したのである。
聞いていないようで、一応、耳に入り込んでいた。
「リュート……」
地響きのような声音が、轟いていた。
どうにか、落ち着かせようと、リュートなりに、言葉を紡いでいく。
「とにかく、カーチス曰く、合コンは、楽しいらしい。可愛い子と、話せば、セナの気分は、よくなるからさ、来いよ」
セナの口角が、引きつっている。
「……いかない」
何を怒らせているのか、理解していないリュートに言っても、無駄と諦めるしかない。
「何で」
「言っとくけど、リュート。あなたも、ダメだからね」
「何で、約束したんだぞ」
「当たり前でしょ」
「これは、授業なのよ。だから、ダメ」
「約束した」
意固地になっていった。
「約束しようが、しまいが、関係ない」
ブスッとした顔に、さらに言い包める。
「勝手に、抜け出したことがばれれば、連帯責任になることを、忘れないで」
「……見つかるミスでも、すると思っているのか」
堂々と胸を張っているリュートだった。
「あのね……」
頭を抱え込むセナである。
「俺を、誰だと思っている」
「ダメなものは、ダメなの」
諦めていないセナ。
「絶対に、認めない」
ふと、不貞腐れ、リュートが横を向いてしまった。
決着がつかない状況で、二人は剣術科がいる場所へと帰っていった。
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