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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第4章 ドッキドッキな野宿体験学習
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第80話

「大丈夫そうだな」

 しゃがみ込んでいるトリスが、満面な笑みを零している。

 目の前に壊れた様子がない、罠が仕掛けられていた。

 カレンが姿を見せるだろうと予測し、いち早く脱出し、近辺の罠などの仕掛けが、劣化していないか、確かめていたのだった。


 祖父仕込みの腕を持つトリス。

 作る罠は精巧で、評判が高かった。


「しかし、ここに来るのは、久しぶりだな」

 学院の至るところに、新作や改良した罠を仕掛け、日夜、研究していた。

 定期的な点検をしていたが、学院自体が広大な敷地なので、すべてを憶えている訳ではない。


 感慨深げに、周囲を見渡す。

 授業をサボり、よくこの辺一体に、遊びにきていた。

 木につけた傷まで、うっすらと、残っている状況だ。

「三年ぶりか……」


 反れていた意識を、足下に戻す。

 慣れた手つきで、残っているものを確認していった。

 無理やりに解除し、壊されているものや、傷み具合が酷いものが、いくつかある。

 だが、比較的に無傷で残って、使用できるものが多かった。


 オラン湖周辺は、あまり人の出入りがない。

 あるのは、剣術科の野宿体験学習や、魔法科の高度な精霊呪文を、取得するぐらいだ。

 以前は、猟師たちが狩り場の一つとして、使用していたが、近年は使われていない。

 出入りが少なくても、生徒の調査に訪れる諜報員が、罠に掛かっていた。

 学院の膨大な敷地を、縦横無尽に散らばっており、捜索に当たっていた諜報員が、トリスの仕掛けた罠に掛かることもあったのだった。

 そのために、トリスたちの行為を、教師たちはある程度、見逃していた。


「いくつか移動させて、新たな試作品でも、使ってみるか」

 今後の計画を、巡らせる。

 まだ、試していないものが、いくつもあった。

 授業をサボって、コツコツと作っていたのである。

 そして、ここに来るにあたり、完成間近なものを、持ってきていた。

 それを試そうかと、画策していたのだった。


「ここで、使うつもりはなかったが、面白いことになるかもしれないな」

 踊る気持ちと相まって、不敵な笑みを漏らしていた。

 ふと、遠くで、人の気配を感知する。

「誰だ?」


 瞬時に、諜報員の可能性を諮った。

 剣術科の生徒や、魔法科の生徒の可能性が低い。

 教師と言う選択も浮かぶが、とりあえず、確かめる必要があると、瞬殺の速さで、次の行動を巡らせた。




 足音を消し、近くまで走っていく。

 気配を辿って行くと、すぐに緊張の意図をといだ。

 森の中で、小動物とミントが、無邪気に戯れていたのだった。


 ようやく、追い回していたターゲットを、ミントが捕まえる。

 可愛らしい顔を滲ませていた。

「ミントちゃん。こんなところで、何をしているんだい?」

 突然、声をかけられ、身体を震わせる。


 四肢で歩く愛嬌あるリリモンに、夢中になって、声をかけられるまで、人の存在に気づかなかった。

 見る見るうちに、声の主がトリスだと把握し、顔を綻ばせていく。

 捕らえたリリモンは、体長が40センチで、耳が大きく垂れ下がり、フワフワと毛並みがいい。


「トリス」

 リリモンから、意識がそれる。

 まさか、ここで会えるとは、思ってもみなかった相手が立っていたのだ。

 腕の力が、ついつい緩んでしまう。


 開放される機会が訪れたリリモンが、素早く逃げ出した。

 先ほどまで、腕の中にいたリリモンが消える。

「ごめん」


 何でもないと、強がった顔を、横に振っていた。

 無理に、大丈夫と装っている姿に、もう少し、タイミングを計ればよかったと後悔し、後でリリモンでも捕まえ、渡すかと巡らす。

 小動物が、大好きなのを、把握していたのだ。

 屋敷から出ないミントは、同年代の友達がいなく、時々、トリスの妹や、弟たちと話をするぐらいだった。

 そのため、いつも遊んでいる相手が、敷地内にいる小動物だけだ。


「こんなところまで、遊びに来ているの?」

「違う。グリンシュの手伝いで、薬草摘み」

 オラン湖の周辺は、いい薬草の生殖場でもあった。


(薬草摘みに、飽きたのか……)


 これまで聞いた言葉と、行動から導き出した答えが、グリンシュと一緒に、薬草摘みにオラン湖周辺に来たが、薬草を摘む単純作業に飽きてしまい、小動物を捕まえ、遊ぼうとしていたのかと汲み取ったのである。

「トリスは?」

 無邪気なミントだった。

 すっかり、頭から逃げ出したリリモンが、いなくなっている。


「授業の一環で、こっちに泊り込み」

「そう」

 トリスに会え、嬉しそうな顔を注ぐ。

 テストなどがあって、近頃、顔を合わせていない。

 それに、よく学院から抜け出すので、トリスと会えなかった。


「リュートも、剣術科で来ているよ」

「お兄ちゃんも?」

 目を丸くしている。


 その瞳に、会いに行こうかと言う色を覗かせていた。

 今までは、学院と屋敷が離れ、長い休暇の時しか、会えていなかった。

 それが、同じ学院にいることで、頻繁に顔を合わせられ、一緒にいられる時間が増えていたのだ。

 本人も気づかぬまま、楽しげに綻ばせている姿を、垣間見せていた。


 天真爛漫な仕草に、思わず顔が緩む。

 同じ歳の子と比べると、どこかミントは、冷めていたのだ。


「野宿体験学習ですね」

 二人の背後から、声が割り込んだ。

 話し声を聞きつけ、保健士のグリンシュが、やってきた。

 妖艶な美しさを漂わせているグリンシュを窺う二人。

 学院のたった一人の保健士であり、エルフでもある。

 そして、学院一、あらゆる方面の情報を網羅していた。

 歩くたびに、流れるような長い銀髪が、なびいている。


「ああ」

「野宿?」

 眉間にしわを寄せ、ミントがいやそうな顔を覗かせた。

 素直に、感情を出す仕草に、クスッと、グリンシュが笑みを漏らしている。


「いやですか?」

「だって、シャワーも浴びれないし、ベッドもないし」

「なるほど。そうですね」

 不満を並べていった。

 それに対し、グリンシュが相槌を打った。


 穢れを知らない、絹のような滑らかなグリンシュの肌が目立つ。

「それは、しょうがないよ」

 綺麗好きな性格を、把握しているトリスが、らしいなと苦笑している。

 屋敷から、めったなことがない限り、外の世界に出てこない。

 まして、学院に入学するまで、ほぼ村から出たことがなかったのだ。


「私も、するの?」

 思いっきり、拒否反応を示している。

「上学年になって、からですね」

 拒絶する反応に、グリンシュが首を竦めた。

 それほどまでに、露骨に表れていたのだった。

「それはそれで、面白いと思うから、ミントちゃんも、参加してみたら?」

 それとなく、参加するように促した。

 友達でいろいろすることも、楽しいと知って貰いたかったのだ。


「……トリスが言うんだったら……、やってみても、いいけど」

 まだ、腰が引けている。

 そんな姿に、小さな笑みが零れてしまう。

「まだ、時間があるから、ゆっくりと、決めればいいよ」

 逡巡している頭を。優しく撫でた。

 トリスの下に、九人の妹や弟がいるので、あやすのに慣れている。

「……うん」


 不安を取り除き、次に、グリンシュが手にしている、かごの中を覗き込む。

 すると、多種の薬草が、摘まれていた。

 どれも、校舎の周辺や、薬草園では、取れない優れものばかりだ。

 学院には、研究のためと、生徒たちが負傷する際に、使用できる薬草が、薬草園で育てられていたのである。

 エルフとしての知識を活用し、それ以外の薬草も使用し、生徒や教師たちの治療に当たっていた。


「随分と、摘んだんだな」

「えぇ。いろいろと、近頃は、不足していますからね」

 和やかな声音で、近況を語った。

「警備も、厳重だな」

 薬草が不足している原因に、心当たりがあったのだ。


 隠そうとせず、口をスムーズに動かす。

「何かと、うるさい虫が、数多入り込んでいますからね」

 諜報員を虫と例えたグリンシュに、愉快な笑みで返した。

 すでに、何人かの諜報員を、トリスも、ミントも、見かけている。

 だから、教師たちが、ひた隠ししている諜報員たちの影に、気がついていた。

 勿論、リュートも、その存在を、把握していたのだった。


「ところで、いいのか? そんなこと、喋っても?」

 教師たちにより、諜報員たちの存在は、緘口令がしかれ、多くの生徒たちは、その存在を認識していない。

 それをあっさりと、暴露しているグリンシュを気にかけていた。

「大した問題ではないですよ。何せ、トリスたちですから」

「そういう問題か?」

「そういう問題です」

 平然としている姿に、トリスが首を竦めていた。


「随分と、早いお出ましだな。それも例年よりも、多いし」

 不意に、目で、確かめた状況を口にした。

「人数も、そうですが、かなり優秀な諜報員も、入り込んでいるそうですよ?」

 容易に、秘密事項を二人にバラした。

「優秀って、まさか……」

「そのまさかで、各地に送り込んだトップクラスを、こちらに、回しているようですよ」

 瞠目し、言葉もなかなか出てこない。


「ここまでしますかね」

 やや呆れているグリンシュだった。

「向こうも、やるな……」

 まさか、そんな優れた人材が、入り込んでいるとは思っていない。

 それほどまでに、リュートの情報がほしいのかと巡らす。

 諜報員が、偉大な〈法聖〉リーブの息子リュートに、興味を深めているのを把握はしていたが、想像以上の躍起ぶりに、情報の修正に取り掛かっていた。


「それほど、ほしい情報でもあるのでしょ? それとも、接触が、目的かもしれませんね?」

「どっちでも、いいけど」

 どこまでも、他人事のようなミントだ。

 ミント自身も、その対象となっていることに、気づいていない。

 そして、リュート、ミント以外にも、接触を試みたい相手の顔が、浮かび上がる。


「ですから、何かと、薬草が必要なんですよ」

 教師たちと、トップクラスの諜報員たちの戦闘を過ぎらせる。


(熾烈な攻防に、なりそうだな)


「手は、足りているのか?」

「不眠不休で、頑張っているようですね」

「随分と、他人事だな」

 静観しているグリンシュに呆れていた。


 ふと、本気になることがあるのだろうかと、途轍もないことを巡らせている。

 のらり、くらりとしているグリンシュを、突っつかせ、本気にさせてみたいと言う欲望に、駆り立てられたのだった。


 そんなトリスを、知ってか、知らずか、淡々と、話を進めていく。

「私は、しっかりと睡眠と、食事を取るようにしていますから」

「グリンシュらしいな」

「えぇ。私とは正反対に、何かと押し付けられて、頑張っている人も、いますからね」

「何だ。それは?」

 わからないと、怪訝な表情を滲ませている。


「頼み事が断れなくって、要領が悪いって、ことですよ」

 ニッコリと、微笑んでみせた。

「グリンシュは、押しつける方だな」

 意地悪く、トリスが突っ込んだ。

「いいえ。お願いしますと、お願いするだけです」


(どこが、違うんだよ。同じだろうが)


 現に、生け贄になった教師が、数人か、存在していた。

「ところで、トリスの研究も、成果も、これでいろいろと、出るのではないですか?」

「そうだな。トップクラスもいると言うことだし、いろいろと、試してみる価値があるな」

 楽しさが、倍増していった。

 自分の腕が、どこまで証明できるのかと。


「こちら側に、降り注ぐ被害は、最小限で」

 トリスたちを理解していない、新人の教師たちが、よく罠にかかっていた。

 それを安易に、示していたのだった。

「わかっている。できるだけ、外に仕掛けるさ」


 仕掛けた罠の場所を、教えろとは、決して言わない。

 未熟だから、掛かるのだと、冷ややかな態度を取っていた。

 手厳しいグリンシュだ。


「私も、お手伝いしようかな」

 黙って、二人の話を耳にしていたミントが、口を挟んだ。

 脳裏に、華麗に自分が諜報員を、退治している映像が流れている。


(対象者になっているんだから、動かない方が賢明なんだが)


 授業が、先まで理解しているミント。

 単純に、暇を持て余していた。

 だから、こうして授業をサボって、手伝いとかこつけて、遊んでいる。


「ミントちゃん。見かけても、かかわっては、ダメだ」

「どうして?」

 不満げに、頬が膨れる。

 トリスに諭されても、納得できないミントだ。

「一人では、つまらないよ。みんなと、遊ばないと」


 リュートと同じで、無理にやめさせれば、意固地になり、一人でやろうとするのを、承知しているトリス。

 一人にさせないように、仕向けていた。


「……そうだけど」

「ただ、一年生のみんなを連れて行っては、ダメだよ。まだ、経験値が浅いから」

 さらに、口を蕾める。

「グリンシュか、カテリーナ先生を、連れて行った方がいいよ。その方が、きっと、思い存分、遊べるから」

「……そうだね」

 目を輝かせ、顔を綻ばせている。


「トリス」

 厄介ごとを押し付けないでくださいと、顔に描いてあった。

 けれど、軽快なトリスは、どこ吹く風だ。


「いいだろう? そのくらい」

「しょうがありませんね」

「よろしく」

 ミントのお守りを、グリンシュに頼んだ。


読んでいただき、ありがとうございます。

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