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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第4章 ドッキドッキな野宿体験学習
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第75話

 担任のカイルは、眼光鋭く、周囲を警戒し、それぞれの班の様子を窺っている。

 できるだけ、口出ししない。

 生徒たちの自主性に任せるのも、今回の授業の一環だからだ。

 だが、各国の諜報員が入り込んでいるせいもあり、のんびりと、傍観者でいる訳にはいかない。

 異変がないかと、常に、目を光らせていた。


 広範囲に気を配り、神経が張り詰めている。

 放任主義のラジュールではないが、ある程度、生徒たちに自由を与えていたのだ。

 好き放題に、生徒たちが動き回り、気が休まるどころではなかった。


 決められた範囲から、出ようとする生徒を見掛け、瞬時に怒号を張り上げる。

 普段、生徒に対し、寛容なカイルの行動からは、想像できない。

 それほどまでに、ピリピリし、余裕の欠片がなかった。

「出るなって、言っているだろうが!」


 決められた場所から、出ないようにと、生徒たちには、口を酸っぱくするほど、言い伝えていたのである。

 それにもかかわらず、出てしまっている生徒。

 まなじりが、ついつい上がってしまう。


 諜報員と、生徒たちの接触を避けるため、例年よりも、厳しく制限範囲が設けられていた。

 入り込んでいる諜報員のことが、生徒に内密となっている。

 そのせいもあって、他の教師たちが、密かに、生徒たちを警備し、守っていたのだ。


「す、すいませんっ」

 いきなり怒鳴られ、バッサが長身の身を竦めている。

 食べられる木の実を捜し、僅かに、範囲を飛び出していた。

 珍しく、声を荒げている、機嫌の悪いカイルの姿に、生徒たちが、何だ、何だと訝しげだ。

 只ならぬ様子に、生徒たちが、眉を潜めていたのだった。


 全然、気にした様子を見せなかったのは、野宿学習を楽しんでいるリュートだけだ。

 他の者たちは、辟易している。

 誰が、カイルの怒りに、触れた?や、リュートが、またやったのか?と、様々な視線が飛び交っていた。

 そして、バッサが怒られていると目視すると、ハズレくじを引いたのかと、哀れんでいたのだ。


 カイルの全身から、針のような棘が出ている。

 いつもとは違う対応に、気が気ではない。


 生徒たちが、近頃のカイルの様子に、不審を抱いていた。

 神経を尖らせているので、理由を尋ねられない。

 放置状態が、続いていたのだった。

 まさか、野宿体験にきて、爆発するとは思っていなかった。

 もっと早く、理由を突き止めておけばよかったと、誰も抱いている。


 身体が浅黒く、若干筋肉質のエリザが、肘で同じ班のルーブンを突っつく。

「ちょっと、何とかしろよ」

「俺に、言うな」

 互いに、余計な刺激を、与えないように、か細い声音だ。


 ガミガミと、小言が始まった光景を、ルーブンが嘆息を吐きながら眺めている。

 逃げを許さないぞと言う眼差しで、カイルが叱っているのだ。

 藪蛇になるなと、冷静に状況判断を下した。


「これじゃ、息が詰まる」

 現状の不満を、エリザが口に出した。

「そうだな」

 野宿体験にいる生徒たちの見解だった。


 休まる時間がないと、誰もが、精神的な疲れを生じさせていたのだ。

 そして、傍観しているルーブンに、咎めるような眼差しを巡らせている。

 多くの生徒は、嫌がりながらも、野宿体験で、のびのびできると、密かに楽しみにしていたのである。

 エリザも、その一人だった。

 それなのに、窮屈な状態に憂いていたのだ。


「そんな目で、見るな」

 あからさまに、注がれる視線から、視線を外す。


(何なんだよ。俺はヤダだから)


 頻繁に見回ってくる、刺々しいカイルに、生徒たちは針のむしろ状態だった。

 また、ルーブンが、息を漏らしている。

 誰も、触らない方がいいと、無言の合意で、必要以上に、接触を避けるように心掛けていた。

 そんな均衡を破れと、エリザの双眸が言っている。


 反発するルーブン。

 けれど、居た堪れなさも、憶えていたのだ。

 ひたすら、押しに弱いルーブンだった。


 その間も、眉間にしわを寄せているルーブンを捉えている。

 微かに、エリザの口角が上がっていた。


 生徒の気持ちも気にかけず、やたらと見回りをし、生徒の様子を教師たちは窺っていたのだった。

 ただ、生徒たちの身を案じていた。

 諜報員によっては、生徒の実力を確かめるため、何か仕掛けてくる可能性もあったのだ。

 生徒たちに、危害が加わらないようにと、目を光らせていたのである。


「班長でしょ?」

「好きで、なった訳じゃない」

 憮然とした顔で抗議した。

 また、面倒ごとを、押し付けようとするエリザを睨んだ。

 ルーブンが班長となった経緯は、エリザが押したからだった。


「同じ班のバッサが、可哀想な目に、あっているのに?」

 上目遣いで、嫌がっているルーブンを凝視している。

 事あるごとに、班長でしょと言い、すべての面倒ごとを、ルーブンに丸投げしていたのだった。

「範囲から出た、バッサが悪い」

 言われても、しょうがないと言う顔を覗かせている。

 若干、罪悪感があった。


「ほんの少しよ」

「三歩程度でもだ」

 範囲から、飛び出した距離は、たった三歩だった。

「いつもの、カイルじゃない」


(確かに、いつものカイルじゃないな)


「おかしいわよ」

 頑として、エリザが食い下がらない。

「……そうだな」

 ルーブンの鳶色の瞳が、カイルの後ろ姿を捉えている。


 いつも彼だったら、目を瞑っていたはずだった。

 それなのに、このところ、大雑把な普段とは違っていた。

 細かいところまで、神経を尖らせていたのである。

 何か、あったのかと、頭を掠めるが、考える材料が少なく、答えに結びつかない。


(何で、あんなに、機嫌が悪い? 朝だって、空気を読まないリュートを、怒っていたし……。空気を読まないリュートが、怒られるのは、よくあることだけど……。セナが途中で、割り込んだから、あれで済んだが、入っていなければ、続いていたな)


 朝の光景を、漠然と思い返していた。

 前日の夜に、勝手に動くなと、言われたにもかかわらず、早朝散歩に出かけようとしたリュートが捕まり、叱責を受けていたのである。

 途中で、セナが間に入り、どうにか収拾したのだった。


(それにしても、どうして、機嫌がこうも悪い? 確実に、何かあったのは、確かだな。それが、何かだな……)


 深く逡巡しても、理由が掴めない。

 思わず、何度目か、わからない溜息を吐いた。


(それに、他の先生の様子も、変なんだよな……)


 不意に、一部の教師たちの様子も、おかしいことを過ぎらせている。

 以前から、気づいていたが、カイルの機嫌の悪さとの関連性も、見つかっていなかったので、放置していたのだった。


(ここまで酷いと、関連させて、考えるべきか)


 その間にも、容赦なく、バッサに小言を言い続けている。

 怒られているバッサを、他の生徒たちも、災難と言う眼差しで窺っていた。


「どうする? このままにしておくの?」

 再度、何も動こうとしないルーブンに、視線を傾けているエリザ。

 視界を広げると、他の班が、動き始めようとしている。

「バッサは、うちの班よ。それを他の班に、任せるの?」

「……そうだな」

 ようやく、踏ん切りをつけた。


 重い腰を上げ、助けるためにルーブンが歩き出す。

「そうこないとな」

 満面の笑みを、エリザが零した。

「エリザ。お前もこい」

「えっ」

「早く来い」

 呻き声を上げながらも、エリザは前へ足を踏み出していた。




 遠目で、様子を窺っていたダン。

 カイル、バッサとルーブン、エリザの状況を見定めている。

「ルーブンのやつ、助けに行ったようだな」

 被害にあっているバッサを助けようと、座っていた岩から、降りようとした途端、ようやくルーブンたちが、動き出したのだった。

 だから、その行方を、見守っていたのだ。


「機嫌が悪いよね」

 今日は、バッサの厄日だなと、パウロが抱いている。

 下手したら、自分だった可能性も、捨て切れない思いがあった。

 パウロ自身も、頻繁にへまをし、ダンたちに助けられていたのである。


「当分、続きそうだから、気をつけた方がいい」

 飄々とした顔を滲ませ、トリスがアドバイスを送った。


「どうして? 続くって、わかるのさ」

 胡乱げなパウロが、余裕なトリスを捉えていた。

「何となくさ」

 惚けられた感が否めない。

 だが、追及する手立てが、浮かばなかった。


「だったら、こいつを、どうにかした方がいいぞ。朝っぱらから、藪を突っついたんだからな」

 ケロッとしたリュートを、顎で指すダンだった。

「ただ、散歩しようと、しただけだ」

「らしいな」

 容易に、想像ができトリスが笑っていた。


「散歩ってな」

 懲りていない態度に、ダンが呆れている。

「心配するな。長時間、説教を受けるのは、慣れているから」

 のほほんとしているリュートに、面白げな視線をトリスが投げかけた。

 魔法科時代に、何度も、長時間の説教を受けていたのだった。


 やや顔を、引きつらせているパウロ。

 巻き添えはゴメンだよと、顔に描かれている。


「慣れているのも、どうかと思うけど? ねぇ、ダン」

「そうだな。魔法科で、どんなこと、やっていたんだか」

「まぁ、いろいろだね」

 軽くトリスの口角が、上がっていた。


(絶対に嘘だな。かなりのことをやっているはずだ)


 ジト目で、ダンがリュートとトリスを窺っている。

「俺だけじゃない。お前だって、いたじゃないか」

 自分一人だけが悪い言い方に、リュートが納得できない。

 ブスッとした顔を、滲ませていた。

「でも、リュートの方が多いよ」

 落ち着いた顔で、トリスが突っ込んだ。


「……それは、そうだな」

 過去を振り返り、数々の説教を思い出した。

 数だけ上げれば、断然リュートの方が多い。


 苦い回想していると、カイルたちの様子に、トリスが視線を巡らせた。

 ルーブンたちでは、埒が明かなかったようだった。

 他の生徒たちも、バッサを救出するため、輪の中に加わっていた。

 ほのぼのする光景に、目元を和ませ、トリスが眺めている。


「ダンたちも、加わらなくっても、いいのか」

 チラリと、視線を注ぐ。

「大丈夫だろう。あのメンツがいれば、収まるさ」

「そうか。では、俺は消えるか。カイルに見つかって、面倒が起こるのも、厄介だからね」

「じゃな」

 軽やかな足取りで、トリスが消えた。


読んでいただき、ありがとうございます。

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