表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第4章 ドッキドッキな野宿体験学習
77/401

第73話

 剣術科で、行われている野宿体験学習は、実際に、これまで学んだ内容を、やってみると言う体験だった。

 上級学年になると、学院の外へ出て、グループごとで、旅する課題がある。

 そのため、七年生から外に比べ、若干、安全な学院の敷地内で、外での実地訓練の前に、予備訓練が行われ、それが野宿体験学習でもあった。


 内容は、少量の携帯用の食糧と水、それに、テント、寝袋など、最低限な物しか持っていけない、二泊三日の泊り込みだ。

 剣術科の生徒たちは、すでに一泊している。

 その場で、食糧を取り、水も、自分たちで確保することも、目的の一つだった。


 一班のリュート、ダン、パウロの三人が、食糧調達の狩りを担当し、セナ、ローゼルの二人が、不足し始めた飲み水の補給を担当し、各々で行動を取っていたのである。

 班同士は、適度な距離をあけていた。

 テントを張り、食糧や飲み水の補給、出されている課題を、それぞれの班で、話し合い、班ごとで動いていたのだ。


 最初は、真面目に狩りをしていたものの、すっかり飽きてしまった男子面々。

 セナたちがいないことを幸いと、いつものように遊び惚けている。

 他の班は、課題をしたり、稽古をしたり、食べ物や飲み水の調達など、勤しんでいたのだった。

 携帯している剣で、簡単な模擬戦に興じている。


 余裕なリュートと、どうしようかと、思案顔のパウロだ。

 その傍らで、両者に、面白げな眼差しを送っているダン。

 ただ、野次を飛ばしている。


 岩の上に胡坐し、ダンが持参した携帯食を食べ、二人の戦いぶりを観戦していた。

 セナに、これ以上の携帯食に、手をつけるなと、釘を刺されたにもかかわらずだ。

 空腹が我慢できず、口に運んでいる。

 身体がデカい分、腹の空き具合も早かった。


「簡単に、やられるなよ」

「そんな……」

 悲壮感溢れる顔を、パウロが滲ませていた。

 それでもダンは、容赦することがない。

 ますます、あたふたとし始めるパウロだった。

「負けたら、おごりだからな」

「えっ、やだよ」


「それと、あっさり負けたり、ずっと剣を交えずに、逃げ惑っていた場合は、二倍でおごりだぞ」

 不安の色が濃いパウロに、更なる不安を煽った。

 逃げ腰で、なかなか前へ出ようとしないからだ。


 平然と、食べて、観戦しているダンを、恨めしげに睨んでいる。

 睨まれても、痛くも痒くもない。

 ムッとしながらも、目の前のリュートに、パウロが集中しようとしている。

「負けたら、おごり。逃げ惑っていたら、二倍だ」

 しっかりと、発せられる野次だけが、耳に入り込んでいた。


(うるさいな。少しは、黙っていてほしいな)


 模擬戦を始める前に、負けた方が、俺におごりなと、ダンが言っていた。

 不服を口にすると、剣術科で、修行が長いのは、パウロなんだから、数ヶ月前に来たリュートに、負けるはずがないと言われ、強制的に決まってしまったのだ。


(いくら、魔法を禁止になっているからって……)


 どうしても、不安が拭えきれない。

 口角を上げ、この状況を堪能している相手に、目が放せなかった。

 目の前にいる相手に、特別なルールを課していた。

 それは、戦いの中での、魔法を禁じていたのである。

 リュートは魔法が得意で、瞬く間に、結果が出るからだ。


 魔法の天才と謳われるリュートを前に、怖気ない方がおかしいと掠めている。

 何せ、偉大な〈法聖〉であり、魔法に愛されていると、称されているほどのリーブの息子なのだ。

 そのリーブは、魔法の称号の他に、上から三つ目の剣の称号〈剣司〉も、持っていた。


 あまりに、有名な逸話を、承知しているパウロ。

 黒い影が落ちない訳がない。

 ただ、リュートは、この事実を、数ヶ月前に把握した。

 母親の話なのに、全然、知らなかったのだ。


(リュートも、のん気だよな)


 実際に、見たことがないリーブの顔を、脳裏に浮かべている。

 自分勝手に、美化している姿だ。

 ますます、勇敢な想像へと、変貌をしていった。

「うっ」

 僅かに、顔を歪ませる。


(そんな人の息子に、勝てる訳がないよ)


 泣き言しか、溢れ出ない。

「そろそろ行くぞ」

 ワクワクと、黒い瞳を輝かせているリュート。

 ずっと、相手の出方を待っていた。

 だが、それよりも、うずうず感が勝ってしまったのだ。


「まだ、こないで」

 弱気なパウロだった。

「いいじゃないか」

「ダメ」

「ケチ」

 お預けを喰らい、拗ねてしまう。


 剣術科に、転科したばかりの頃は、そこそこだと、鼻で笑われていた。

 だが、毎日の稽古などで、メキメキと、剣の能力が、日々高くなっていったのだ。

 周りにいる生徒も、リュートの高い身体能力に気づき、負けるものかと、躍起になる生徒や、やはりそうなったかと、傍観する生徒など、様々な心境を抱いていたのである。


 パウロがこんなにも、腰が引ける理由は、他にもあった。

 力の加減が、全然リュートができない点だ。

 じゃれ合って遊んでいるのに、力を上手く抜けられず、相手に傷を負わせることが、ままあった。


 痛い過去の出来事が、鮮明に頭の片隅で流れていく。

 いくら、薬草を携帯しているからと言って、後で、支障が出るほどの、深手を負いたくなかったのである。

 だから、できるだけ、深手を負わず、済むようにできないかと、使わない頭をフル回転で巡らせていた。


「腹をくくれ」

 楽しそうなダンの揶揄に、恨みがましい顔を覗かせている。


(ダンが、やればいいのに)


 二人のレベルアップのためだと豪語し、遊びの模擬戦に参戦していない。

 見て回る方に、回っていたのだった。

 近頃の勝敗は、パウロが負け続けている。

 始めた当初は、無意識に魔法が発動してしまい、リュートがルール違反により、負けていたこともあったのだ。

 だが、実力が伸びてきて、それに勝負勘も、すでに備わっていたので、剣の腕前だけで、勝つようになっていたのである。


「待っているのも、飽きた。こちらから行くぞ」

 右往左往しているパウロに、楽しそうに向かっていく。

 物凄いスピードで、慌てふためいているパウロに襲い掛かる。


 砕けた体勢で、ダンが二人の観察を怠らない。

 それに、栄養補給も忘れなかった。


(せっかちに、突っ込んでいったな。冷静さに、少し欠けるかな)


 ダンの口角が上がっている。

 チラリと、狼狽えているパウロを捉えていた。


(普通、あんなに、待ってくれないぞ)


 リュートが、何度も剣を振り抜き、それをひたすら、パウロが交わしている。

 強く打っていくリュートに対し、弱々しいながら、相手の力を利用し、剣を流していった。

 上手く左右に流し、重量感のある攻撃を交わし、必死に、パウロが逃げ惑っている。


「魔法を放っても、いいぞ」

 ケラケラと、笑っているダン。

 二人が、ムッとしていた。

「負ける」

「痛いじゃないか」


 剣で傷を負うよりも、魔法の破壊力の方が、増しているのだ。

 その時の痛みが回想され、思いっきり顔を顰める。


「俺は、どっちが負けても、いいがな」

 嬉しそうな顔で、試合を窺っていた。

「俺は、負けない」

 倣岸に、リュートが言い放った。

 撃ち続けるのを、止めずにだ。

「ただの遊びなんだから、もっと、力を抜いてよ」

 恨めしげに、パウロが抗議した。

 だが、撃ち込んでくる剣を弾く。


「それは、無理だ」

 あっさりと、要求を撥ね退けた。

「そんな……」

 悲痛な声音だ。


「後で、しっかりと、手当てしてやるから」

 気楽に、ダンが叫んだ。

 不敵に笑っているものの、こうして、しょっちゅう剣を交え、遊び中で、パウロの剣の能力が、上がっていることを感じ取っていたのである。

 深手を負うのは、いやだと、死に物狂いで、剣を弾くことにより、剣をよく見る能力が、以前より、格段に上がっていたのだ。


「治癒で、治してやる」

 剣で、押し合っているリュート。

 勝つ気満々だ。


「リュートも、そう言っているんだ。足掻いてないで、さっさと負けろ」

「いやだ!」

 少ない力を振り絞り、押しやって、間合いを、どうにかあけた。

 息が上がっているパウロだ。

 その双眸は、痛いのは、いやだと訴えている。

「まだ、そんな力が、残っていたのか」

 口笛を吹くダンだった。


 ふふふと、リュートが笑みを零した。

 面白くってしょうがない。

 魔法科にいた頃よりも、充実した日々を満喫していたのだった。


 二人に構っていられるかと、懸命に、リュートの動きを窺っている。

 何一つ、見逃さないと言う意気込みが、身体全体から、立ち込めていた。


「頑張るな」

 からかうダンにも、パウロが突っ込まない。

 ガードが固くなっていく。

 そんな姿に、俄然と、やる気が湧いてくる。


「面白い」

 多少は、パウロの要望を聞き、力を抜くかと、頭の中で描いていたが、歓喜が増してくると、そんな意識が薄れていく。

「面白くない」

 何の反応も見せなくなったパウロが、噛み付くように吐き捨てた。


 それが、合図だったかのように、リュートのスピードが、若干上昇する。

 それに追随するように、パウロの目の動きも早まった。

「「……」」

 黙々と、剣を追い、交わしていく。

 完全に、パウロの意識が、剣に注がれていた。


「リュート。魔法は、禁止だからな」

「わかっている」

 二人の会話も、耳に届かないほど、集中している。


「力任せの攻撃、相変わらずだな」

「うるさい」

「もっと、肩の力を抜けよ」

「……」

「お前の悪い癖だ」

「……」


 的確なアドバイスを、ダンが送った。

 チラリと、自分たちの声が、耳に入っていないパウロへと巡らせた。


(周りが見えてない。別な敵が潜んでいたら、すぐに、やられているな。後で、こってりと絞らないと)


 ここで、パウロにアドバイスを送っても、無駄なことが、わかっていた。

「とにかく、力を抜いて。闇雲に撃たずに、緩急をつけてやれ」

「……わかった」

「ただ、力の加減だけは、してやれよ」

「ああ」

 何だかんだ言っても、弱気なパウロを、労わっていた。


 華麗な動きで、次々と、パウロに、軽傷を与えていく。

 徐々に、目で、追えなくなる打撃が増えていったのだ。

 腕や足、わき腹などに、負傷していく。

 それでも、パウロの目の動きが、止まらない。


 額からは、汗も滲み始めていた。

「悪いな」

 勝負は、終わりだと、口の端を上げ、パウロの剣を弾き飛ばした。

 そして、妖しき光る自分の剣先を、喉仏スレスレの位置で突き出す。


 喉仏と、剣先の距離が、数ミリしかない。

 完全に、動きを停止させた。


「俺の勝ちだ」

 苦々しい顔で、パウロが剣を降ろしてくれと、目で訴えていた。

 それに応じ、剣を鞘に仕舞う。


読んでいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ