表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第4章 ドッキドッキな野宿体験学習
76/401

第72話

 魔法科の授業に、参加する気が起こらないトリス。

 のんびりと、木陰で、久しぶりの読書に明け暮れていた。


 トリスが所属している魔法科のクラスでは、現在フォーレスト学院にある、オラン湖で泊りがけの授業が行われていたのである。

 高度な精霊呪文の取得するためだ。

 それを、堂々とサボり、リラックスしている。


 細長い黒い影が、開いている本に伸びてきた。

「トリス。読書しているのか?」

 声を掛けてきたのは、クラスメートであり、寮の同室でもあるクラインだ。

「借りていて、そのままだったからな」

 愛嬌のある笑みを巡らせ、持っていた本を上げる。


 借りていたクラインの本が、何冊も溜まり、部屋に放置されていた。

 ずっと、気になっていた。

 だが、時間がなく、ようやく、この時間を利用し、読んでいたのである。


「このところ、リュートのお守りだったからな」

「まぁな」

 数ヶ月前の学年の終わりに、魔法科から剣術科に転科すると、突如、リュートが言い出し、何か仕出かさないかと、心配と好奇心から、剣術科の授業を窺っていた。


「幼馴染も、大変だ」

 自分たちよりも、長く付き合いのあるトリスを労う。

 学院からの付き合いしかないが、しみじみと、リュートといる大変さを、クラインなりに身に染みていたのだった。

「あいつといると、面白いことが、尽きないからな」

 何でもないと言う顔を、滲ませている。


 問題児の一人として、学院内で知らない者がいなかった。

 成績が悪い訳ではない。

 むしろ、魔法科では、常にトップで、その席を一度も、他の生徒に明け渡したことがなかった。

 飛び級し、すでに卒業し、第一線で、活躍してもおかしくはない、実力の持ち主だった。

 ただ、やる気がなく、授業をサボり、何かと、事を大きくしてしまう、傾向が強かったのだ。


「そうだな」

 納得した顔で、過去の出来事を、クラインが思い返していた。

 とても濃い、数年間だった。

 若気の至りの思い出ばかりに、思わず苦笑してしまう。


 不意に、トリスの問いかけで、意識が戻される。

「できたのか?」

「ああ。ほぼな」

 来る前に、クラインは高度な精霊呪文を取得した。

 苦労した色を匂わせていない。


(さすが、クラインだな)


 ここ数年、クラインの能力が伸び、学年の成績でも、3位をキープしている。

「クラインのことだから、ひと通り、全部やってみたんだろう?」

「今日は、相性がよかったようだ」

 あっさりと答えている姿に、トリスの口角が上がっている。


 精霊呪文には、いくつかの種類があるが、テストでは幅広く出題されていた。

 取得するには、かなりの時間が、必要とされていたのだ。


「四霊呪文を、こうも、あっさりとは」

 感嘆な視線を込め、笑顔を覗かせているクラインを捉えていた。

 精霊呪文を使うには、それぞれの精霊との相性があり、満遍なく取得するのが、非常に難しかったのである。


 主に、オラン湖では、精霊呪文の中の四霊呪文を、学びに来ていたのだった。

 あっさりと、自分のものにしたクラインに、賞賛するしかなかった。

 器用なクラインは、傲慢な態度にもならない。

 惜しみなく、人に教えたりするところが、ますます清々しいと巡らすトリスだ。


「たまたま、調子がよかっただけだろう」

 一応、現在でも、リュートが所属している魔法科のA組には、魔法科の生徒の中でも、優秀な者が集まっている。

「さすがだよ」

 素直に、トリスが絶賛していた。


 遠くで、聞こえてくるのは、苦心する声ばかりだった。

 泊りがけの授業の期間中に、完璧に取得できるのは、A組でも二、三人しかいないだろうと踏んでいたのである。

 それを、ほぼ取得できているのが、凄かった。


「トリスは、いいのか」

「俺は、苦手だ」

「だからこそ、練習した方が、いいぞ」

 魔法科において、トリスの成績は、A組の中で、ずば抜けていい訳ではない。

 けれど、魔法科全体では、上の位置につけていた。

「どうにかなるさ」


 全然、危機感のない、ゆとりある姿に、クラインが首を竦めている。

 苦手と、トリスが豪語しても、テストでは抜かりなく、点数を取っていたのだ。


 担任との取り組みで、決めてある約束以内の順位を、キープしているので、それほど心配はしていない。

 A組の担任ラジュールは、年3回行われるテストすべてにおいて、学年で50位以内に入っていることと、必ず提出だと言われた課題さえ、出していれば、授業を出ず、何をしていても、いいと言う放任主義の教師だった。


「余裕だな」

「そうでもないさ。試験近くになったら、指導を頼む」

 勉強を見て貰うのを、気軽に頼んでいた。

「俺で、いいのか?」

「剣術で、忙しそうだからな」


 チラリと、リュートがいるだろうと、思える方面に、視線を巡らせる。

 疑問に思ったことは、すぐにリュートや、他の友達に聞く、人懐っこさを持ち合わせていた。


「わかった」

 当たり前のように、クラインも承諾した。

 教えるのは、三人も、四人も、代わらなかったからだ。

 成績が優秀で、教えるのが上手なので、試験近くになると、友達の試験の面倒を見ていたのである。


「そう言えば、この近くで、剣術科の生徒を見かけた」

「剣術科の生徒……?」

 頭をフル回転し、リュートたちの授業の進行を巡らした。

 頻繁に、剣術科に出入りしていることもあり、授業内容も、ほぼ把握済みだった。


「ああ。それだったら、確か、野宿体験学習で、オランの向こう側で、テントを張っているはずだ。久しぶりのテントだと、喜んでいたな」

「野宿か」

 僅かに、眉間にしわを寄せている。

「現場調達して、数日、過ごすらしい」

「こっちとは、大違いだな」


 剣術科は、テント暮らしだったが、魔法科は、小屋で過ごしていた。

 食事においても、剣術科は自分たちで、狩りや木の実などを、採取をしなければならないが、魔法科では、事前に用意し、豊富な材料を持ち込んでいたのである。

 快適とは思えない状況に、クラインが不憫だなと抱く。


「楽しいと思っているから、いいんじゃないのか」

「それって、リュート一人だけだろう?」

「まぁな」

 リュート以外の剣術科の生徒たちが、ぼやき、気落ちしていた。

 数週間前に、日程が発表され、剣術科の誰もが、不貞腐れていたのだ。


 トリスの他に、授業をサボっているカーチス、ブラーク、キムが、二人の元へ駆け寄ってきた。

「何の話を、しているんだ?」

 授業に飽きていたカーチス。

 トリスとクラインが喋っている姿を見掛け、ブラークたちを誘い、二人の元に遊びに来たのだった。


「向こう側で、リュートたちが、野宿体験学習をしている話だ」

「えっ」

 三人が、湖へ双眸を傾けた。

 けれど、大きな湖のため、姿を捉えることができない。


「いるのか?」

「向こうにな」

「面倒臭いな。野宿なんて」

「そうでもないそうだ。リュートは、一人で喜んでいたらしい」

 トリスから聞いた話を伝えた。

「あいつらしいな」

 クラインが抱いた感想を、三人も同じに抱いた。


「じゃ、剣術科の女子も、来ているのか?」

 いたずらな笑みを漂わせ、ブラークが振り返っていた。

 何を企んでいるのか、想像がつくトリス。

 それは、クラインも、同じことだった。


「返り討ちに合うぞ」

 冷ややかな視線を、トリスが覗かせていた。

 このところ、ブラークがナンパに明け暮れている。

 近くにいる剣術科に、ナンパしようと、目論んでいるのを、瞬時に見抜いていた。


「トリスも、クラインもいるから、大丈夫だ」

「一緒にするな」

 単純なブラークに、呆れながらクラインが吐き捨てた。

「助けるつもりはない」

 一緒にされたら、たまらんと言う表情を、トリスが注いでいる。


「村で、大人気のトリスと、クラインがいれば、釣れる」

 ジト目で、ブラークを窺う二人。

「きっと、剣術科でも、評判は高いぞ」

 ギラギラと、マリーゴールドの目を輝かせ、自信満々に拳を握っている。


 トリスとクラインは、どの村でも、イケメンなので、評判がよかった。

 静かに、黙っていれば、リュートも、顔は不味くないので、人気があったのだ。

 ただ、露骨に、憮然としているせいもあり、あっという間に、興味を失われていった。


「いけるぞ、今度こそ、いけるぞ」

「「あのな……」」

 安易な思考に、名指しされた二人が疲れてしまう。

 それも、そうだなと、カーチスとキムが、ニヤリと単純に頷いていた。

「いいじゃないか。友達なんだから、紹介してくれよ」

「無理だ」

 そっけなく返事した。


「どうせ、よく行っているんだからさ」

 甘えた声音で、頼み込んだ。

 簡単に、頼む態度に、開いた口が塞がらない。

 子供のまま、三人の成長が止まっていた。


「リュートに、頼め」

「あれは、ダメだ」

 即決で、ブラークが否定した。

 近くで、カーチスとキムがそうだ、そうだと頷く。

 クラインも、そうだろうなと、クスッと笑っていた。


(クラインも、俺のこと、見捨てるのか)


 微かに、不満げにクラインを捉えている。

 声を出さず、ごめんと、呟くクラインだ。


「頼めるのは、トリスだけだ。それに、顔のいいクラインがいれば、なおいい」

「俺を、入れるな」

 意気込むブラークに、突っ込んだ。


 頭の中が、年中薔薇色一色だった。

 きっと、一生直らないだろうと、抱かずにいられないトリスとクライン。

 だからと言って、頻繁に村に連れ出されるのは、面倒だなと巡らせ、どう逃げるかと、いろいろと頭の中を駆け巡っている。


「でもさ、剣を振り回す女の子は、いやだな」

 思っていることを、ついキムが口挟んだ。

「バカだな。全部が、派手な動きをする、女の子ばかりじゃないぞ」

「でも、気性が荒いのは……」

 二の足を踏むキムだった。


 今度は、カーチスが言い募る。

「それも、面白いじゃないか」

 いいものだぞと、カーチスの顔が訴えかけていた。


((((それは、お前だけだろう))))


 誰もが、カーチスの恋人のカレンの姿を、浮かび上がらせている。

 みんなに、知られていないと思っているのは、当人ばかりで、二人の関係に、誰もが気づいていた。

 だが、あまりに、二人が必死に隠すものだから、それに付き合い、知らない素振りを見せていたのだ。


(カレンを、好きならば……)


 不意に、トリスの思考に、セナの姿を掠めていたのである。

 普段のカレンは、誰に対しても、面倒見がいい姉のような存在だった。

 ひとたび、豹変すれば、気性の荒さを醸し出していた。


(ま、カレン一筋みたいだし、いいっか)


「気性が荒いと言えば、セナって子も、荒そうだな」

 何気なく、カーチスが漏らした。

「そうか。あれは、ただの真面目だけだろう」

 セナの容姿を、クラインが振り返っていた。


「セナ……?」

 どんな子だと、ブラークが首を傾げている。

「『十人の剣』の子だよ」

 思い出す手がかりを、トリスが渡した。

「あ……、少し目がきつめだが、容姿がいい子だな」

 ふむふむと、ニンマリと、ブラークが頷く。


「僕としては、もっと控えめで、可愛い子がいいな」

 自分の理想の子を、キムが膨らませている。

「面白みがないだろう、それじゃ」

 キムの理想に、ブラークがケチをつけた。


「でも、安らぎも、必要だと思うんだけど」

 押しの弱いキム。

 珍しく、意見を言うものの、恐々と、揺れている瞳は、どこか相手を探るようなものだ。

 言いたいことがあっても、どこか押し黙って、周りについていくのが、これまでのキムだった。


「それだけじゃ、つまらない」

 ブラークに言われ、瞬時に縮こまってしまう。

 だが、灰色の瞳だけは、まだ、何か言いたげだ。


「好みは、それぞれだろう?」

 終わりそうもない論争に、クラインが割って入ってきた。

 うーんと、唸り声を漏らし、ブラークが考え込む。

「ブラークは、ブラークの。キムにはキムの」

 うんうんと、何度も、キムが頷いていた。

 その表情は、どこかホッとしている。


「そう焦らなくても……」

「何を言うクライン。俺たちの、ひと時の楽しみじゃないか」

 俺も、含めないでほしいと言う顔を、トリスが覗かせる。

 それとは違い、ブラークに賛同する、カーチスとキムであった。


(ブラークに突っ込まれていたのに、すぐにブラークにつくのか)


 トリスが目を細め、楽し気にブラークと喋っているキムを捉えている。

 けれど、キムが気づかない。

 ヘラヘラと、笑っていたのだ。


「この時期を、謳歌しないで、なんとするか」

 力説するブラーク。

 ついていけないと、早々にクラインが降参している。

「だから、時間を無駄にせず、ナンパして、この華やかな時期を、楽しもうじゃないか」

 カーチスとキムが、おうと声を張り上げている。

 軽い二人だった。


 距離があるクラスメートたちが、胡乱げに、騒いでいるカーチスたちを窺っていた。

 そんなこと、お構いなしに、ブラーク、キム、カーチスが、声を、また張り上げ騒いでいる。

「謳歌するのは、お前たちだけにしてくれ。俺たちを巻き込むな」

 拒絶するトリスだった。

 だが、ブラークも、逃がすつもりがない。

「つまらん。お前たちが来れば、女の子の数が、増えるのに」


 数を増やすために、呼ばれては溜まらんと、トリスとクラインが互いに顔をつき合わせている。

「付き合いが、悪いぞ」

 不貞腐れ始めるカーチスの顔を窺う。

「何がだ」

「このところ、一段と付き合いが悪い、二人は」

 二人を、指で思いっきり、カーチスが指した。


「「そ、そうか」」

 同時に、惚けていた。

 その裏側では、そういった自覚を、しっかりと抱いていたのである。

 一人は、一段と、外で出かけるようになり。

 もう一人は、一段と、図書館や一人の時間を増やしていた。


「昔は、みんなで、まとまって遊んでいたのに」

「「そうだったかな……」」

 瞳を彷徨わせ、言葉を濁す二人。

 逃がさないぞと言う勢いのあるカーチス。

 居た堪れない二人だった。


「……そうかもしれないな、クライン」

「そうだな、トリス」

「そうだ。たまには、一緒に付き合え」

 強い口調に、反論できそうもない。

「わかったよ」

「付き合うか。でも、剣術科は、やめとけ」

 開いていた本を、しょうがないなと、トリスが閉じる。


「どうして」

 不満げに、ブラークが詰め寄る。

「いいから」

「……だったら、村か」

 切り替えの早いブラークだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ