第71話
明けましておめでとうございます。
今年も、頑張って、投稿したいと思います。
今日から、新章に突入します。
店内に、様々な声が溢れ、普通に話しても、聞こえない。
フォーレスト学院の敷地内の、ペケロ村の一角にある、酒場『道化師』だ。
多くの客が、村の住人ではない。
学院の周辺を、観光に訪れている者や、旅人などである。
そして、旅人や観光を装い、生徒たちの調査に訪れた、各国の諜報員が、密かに集り、仲間同士で、手に入れた情報交換や、別なところに所属している諜報部隊との情報を交換している。
ペケロ村は、情報交換のやり取りしている場所として、諜報員たちに使われることも多かった。
店内にあるテーブル、椅子、カウンター席は満席で、スペースが空いていない。
隙間に立っている客まで、いる状態だ。
むさ苦しい状況は、村にある、どこの酒場にも言えることだった。
「座る場所も、ないな」
見渡す限りの人の多さに、落胆している旅人が、愚痴を吐露した。
旅人は、シャール大陸を縦断するように、長旅をしていたのだった。
身体がヘロヘロで、体力を消耗していたのである。
治安がよく、何の弊害もない、フォーレスト学院で休息を取るつもりで訪れていた。
だが、ゆっくりできそうもない状況に、憂いしかない。
「悪いな、お客さん。このところ観光で、訪れる客が増えてな」
カウンターにいるオヤジが、悪そうな顔を覗かせていた。
上の階の宿泊できる部屋は、すでに満室だった。
ひっきりなしに、注文が入っている。
酒場の従業員も、限られているので、手が回っていない。
消沈している旅人が、酒場内を隈なく見渡す。
何度、窺っても、人、人、人で、溢れんばかりだ。
「どこも、かしこも、酷い状況だった」
旅人が、最初にこの酒場に、来た訳ではない。
いろいろなところを回り、ここに辿り着いたのだった。
「だろうな。ここは村の中で、比較的、奥まっているから、客の入りも遅い。それが、このあり様だからな」
呆れた表情を、オヤジが滲ませていた。
店内は、人で溢れている状況だ。
どこからも、干渉をされない、フォーレスト学院は、シャール大陸の一角にある半島全体を所有し、その中に、四つの村が点在していたのである。
ペケロ村は、そんな村の一つだった。
他の国との国境に、一番近くにあるため、どこの村よりも、多くの旅人や観光客などの人の出入りが激しかったのだ。
「とんでもない時に、来たようだな」
自分の運の悪さに、旅人が首を竦める。
「そうでも、ないぜ。いろいろと、面白いことが起こるぞ」
「どういうことだ?」
「知らないのか、お客さん?」
「何がだ」
「数年先の卒業生に、粋のいい生徒たちがいるから、それを検分する諜報部隊が、混じっているせいだよ」
軽く息を吐き、合点がいった。
「なるほどな。エラい時に来たものだ」
旅人が、吐き捨てた。
オヤジと、旅人が話している最中の奥の方では、観光客を装っている諜報員が、学院の中にどのように忍び込もうかと、算段をしている真っ最中だった。
少し前から、ペケロの村を拠点として、潜り込んでいたのだ。
溢れる客たちの声のせいで、諜報員たちの声が、他の客たちに聞かれることがない。
「考えることは、同じだな」
自分たちとは違う、諜報員の人間たちを、店内でも、いくつも確認していたのである。
情報を交換する者や、全然、情報を開示しない者まで様々だ。
誰しも、考えることは、同じだった。
それぞれが所属している諜報員が、早い時期から、学院の敷地内に、入り込んでいた。
「結構な数の人間が、学院側に、捕まったらしい」
「相当なトラップも、仕掛けられているし、警備も、例年以上に厳しいな」
「どうする?」
眉を潜めている諜報員たち。
情報を掴めず、深刻な状況だった。
一つも情報を得られず、帰る訳にはいかない。
給金の査定に響くからだ。
「他の連中と、手を組むか?」
「……それはまだ、先の話にしよう。が、情報だけは、常に、交換して置いた方がいい」
「だな」
「法聖の息子か……」
リーダー格の男が、唐突に口にした。
その眼光は、獲物を静かに捕らえようとしている。
目の前にいる仲間の背後へと傾けた。
こちらを窺っている双眸を、向けられていたのだった。
「先を、越されるものか」
不敵な笑みを零している。
ここに、集まっている多くの客の、半分以上が、法聖リーブの息子である、リュートの情報を得ようとしていた。
自分たちも、卒業予定の生徒たちの情報よりも、リュートに関する情報を、重点的に集めるように、指示を向けていたからである。
偉大な魔法使いリーブの息子リュートに、自分たちのところに来て貰うため、あるいは、娘と婚姻関係を結ばせるため、リュートに関するあらゆる情報を、諜報員たちは欲しかったのだった。
「徹底的に、周囲を探れ。何が何でもだ」
部下たちが、コクリと頷いた。
読んでいただき、ありがとうございます。




