閑話4
戦闘が行われたと思われる〈白露の森〉を抜け出し、ラジュールは村で遊んでいる生徒たちを、有無を言わせず、学院に強制的に戻していった。
僅かに、抵抗する生徒がいただけで、ラジュールの圧に押され、素直に学院に帰って行ったのだ。
ある程度、ひと段落したところで、立ち尽くし、周囲を窺っている。
生徒を捜している最中、サボっている教師たちを数人見つけ、物凄い殺気を込めた眼光で睨みつつ、状況を説明し、生徒たちを、学院に戻す作業をさせていたのだった。
説明をしている際、教師たちが凍りつき、怯えていた。
馴染みの気配に、眉間にしわを寄せ、そちら側に視線を傾けている。
近づいてくるのは、ラジュールが担当しているクラスのバドだった。
その背後からは、魔法で拘束されている三人の生徒たちがいる。
ラジュールにとっては、見慣れている光景の一つだ。
「珍しいな、こんなところに来るなんて」
黙り込んでいるラジュールに、バドが気軽に声を掛けた。
必死に、助けてくれと、拘束されている三人の生徒が目で訴えている。
勿論、魔法によって、口がきけないようにしていた。
そして、バドよりも、上級生である九学年生だった。
視線の先を、バドに戻す。
「実験体にするのか?」
「勿論」
「役に立つのか?」
拘束されている三人の生徒たちの実力を、正確に把握していた。
同じ学年の中でも、成績は半分より少し低い程度だった。
どう考えても、バドの実験体としては不十分だ。
学年が違っても、自分の魔法研究に、仲間たちを実験体にしていると、魔法科の中では知れ渡っていたのである。
「立って貰わなければ、困る」
恐怖に震えている、拘束されている生徒たち。
諤々と震えている。
噂で、流れていることをさせられるのだろうかと。
「そう言ってもな……」
バドの実力を把握している身としては、とても役不足な気がしていた。
助けようともしないで、冷静にラジュールが分析している。
ラジュールも、何より魔法研究に熱心だった。
バド同様に、かつての仲間を実験体にしていたのである。
二人は、どことなく似ている部分があった。
「大丈夫だ。薬草は大量に揃えてある」
「……誰か、捕まらなかったのか?」
自分の担当しているクラスのことを指していた。
彼らだったら、常に、バドの実験体になることが多いので、安心だった。
「逃げた。年々、勘がよくなり、逃げ出すのが、上手くなっている」
「そうか……」
必死な形相の生徒たちを放置し、話し込んでいたのである。
「罠を張れ」
「罠?」
まっすぐに、無表情のラジュールを双眸に捉えていた。
「そうだ。あいつらの行動パターンを、もっと、緻密に分析し、罠を仕掛けて置くんだ。勿論、カモフラージュの罠も、忘れずにだ」
「……なるほど。だが、面倒だな」
「手間を惜しむな」
「素直に、餌食になれば、いいものを」
忌々しげな表情を、バドが滲ませていた。
(随分と、あれらも、能力が上がってきているな)
不敵に、笑みが零れているラジュール。
必死に、バドから逃げることによって、彼らの能力が格段と上がっていたのだ。
「……あまり無理をさせるなよ」
「ああ」
「休みが終わったら、授業に出らせるようにさせておけ。他の先生たちが、うるさいからな」
能力高い、他のクラスの生徒も、実験体にしているので、苦情が来ていたのだ。
だが、簡単に捕まる方が悪いと、うるさい他の教師たちを、煙に巻いていたのだった。
「そうする」
バドの背後にいる生徒たちが、終わったなと言う顔を窺わせていた。
「ところで、至急、こいつらを連れ、学院に戻れ」
「……諜報員絡みか?」
思い至ることを口に出した。
「そうだ」
「何人か絡んできたので、のしておいた」
「……どこでだ?」
訝しげなラジュールだ。
一応、拘束しておく必要があった。
「この先の、人気のないところでだ」
平然とした顔を、バドが覗かしていた。
バドが指し示した場所を、ラジュールが半眼し、睨んでいる。
路地裏に、三人の諜報員たちが気絶させられていた。
「連絡ぐらいしろ」
「戻ったら、しようと思っていた」
白々しい顔を覗かせているバドだが、放置しようとしていたのである。
「嘘言え」
「……善処する」
「ダメだ。連絡しろ」
軽く息を吐きながら、顰めっ面のラジュールを窺っていた。
「……わかった」
状況を確かめるため、ラジュールがバドが促した場所へと歩き始めた。
バドも悠然とした足で、ガックリと落ち込んでいる生徒たちを連れ、学院に帰って行くのだった。
読んでいただき、ありがとうございます。
今年、最後の投稿となります。
次回は、新章に入りますので、楽しみに。




