閑話 3
第50話目の少し前の話です。
突如、学院が三連休になった初日。
すでに、トリスの姿がない。
前日の午後から、出掛けてしまったのである。
リュートたちの寮の部屋に、トリス以外の仲間たちが、揃っていたのだった。
四人部屋の寮に、リュート、カーチス、クライン、ブラーク、キムがいたのである。
それぞれに、ジュースやお菓子を持ち込み、騒いでいた。
「集まりが悪いな」
「しょうがないだろう」
不貞腐れているリュートに、やれやれとカーチスが窘めていた。
他の仲間にも、声を掛けたが、揃わなかったのだった。
「リュート、剣術科で頑張っているな」
「当たり前だ」
ゲラゲラと笑っているブラークを、ムッとした目で見据えていた。
「どこが、楽しいの?」
剣術科には、体力ばかり使い、疲れそうなイメージが拭えないキムだ。
年中、身体をいじめているイメージしか、持てなかったのである。
そして、自分には向いていないところだと、巡らせていた。
「全部だ」
胸を張っているリュート。
誰もが、首を竦めていた。
信じていない様子に、口を尖らせている。
「やってみるといい」
「「「「断る」」」」
「何で?」
「当たり前だ。疲れるのは、好きじゃない」
「向いていない」
「カーチスと同じ」
「魔法に、興味があるからな」
ブラーク、カーチス、キム、クラインの順で、それぞれの見解を口にしていた。
さらに、ブスッとした顔を覗かせている。
面白いのにと、ブツブツと文句を漏らしていた。
徐々に、面倒臭くなっていくリュートだった。
「ほら、これを食え」
カーチスが、近くにあるクリームパンを手渡した。
受け取り、満面な笑みで、リュートがパクつく。
甘いものを与えれば、大抵はおとなしくなると心得ているのだ。
「美味しい」
「きっと、この味が気に入るだろうなと、昨日買っといた」
以前、カレンに誘われ、その際に、リュートが気に入る味だなと、憶えていたので、わざわざ昨日のうちに、買いに行っていたのだ。
「どこで、買ったんだ?」
嬉しそうな眼差しを、カーチスに傾けていた。
「今度、連れて行ってやるよ」
「楽しみにしている」
上手そうに食べているので、ブラークたちも、興味を持ち始め、大量にあるクリームパンの山に手を伸ばしていった。
それぞれに、一口噛り付く。
濃厚でいて、口後があっさりしていた。
絶賛している様子に、カーチスの口元が緩んでいる。
甘いお菓子に、夢中で頬張るリュートの姿に、誰もが優しい双眸を巡らせていた。
「ところで、このところ諜報員の数が、増えてきたな」
ジュースを飲みながら、ブラークが何気なく口にしていた。
ブラークやキムは、頻繁に村に出かけているので、自然と、村の様子を把握することができていたのである。
教師たちは、毎年のように諜報員が学院の敷地内に、入り込んでいることを、生徒たちに話したりしない。
だが、徐々に、学年が上がるにつれ、諜報員の存在を、知っていくのだった。
カーチスたちは、その中でも、すでに一年生の頃から、諜報員の存在に気づいていたのである。
何度も、トリスが仕掛けた罠に、引っ掛かっているマヌケな諜報員を、見つけたからだった。
「随分と、早いな」
若干、クラインが目を見開く。
用事がない限り、このところ、村に出かけていないのだ。
数人の諜報員を、見かけた程度だった。
そのため、気にもかけていなかった。
「先生たちも、大変だよね」
他人事のようなキムが、フルーツゼリーを食べている。
クラインは、並べられているクッキーを摘んでいた。
「また、マヌケな諜報員が、トリスの罠に引っ掛かっているかな」
何気なく、キムが呟いた。
学院をうろつく諜報員を、捕まえようとして、罠を仕掛けった訳ではない。
ただ、祖父から教えて貰った仕掛けを、試していただけに過ぎなかった。
それに、トリス自身が考案したものを、学院の敷地内に試しに仕掛けていたのである。
「いるんじゃないのか?」
「だろうな」
肯定しているブラークとカーチス。
「捕まえるか」
妙に、やる気になっているリュートに、誰もが視線を注ぐ。
その顔は、怪訝そうだ。
これまでは、どちらかと言えば、否定的だった。
「珍しく、好戦的だな」
口角を上げているリュートの顔を、クラインが捉えている。
「実戦だ」
不敵に笑みを漏らし、自信も感じられる。
けれど、周りは違っていた。
「俺、パス」
「僕も」
ブラークとキムが、不参加を表明した。
不貞腐れつつも、返事をしていないカーチスと、クラインに顔を傾ける。
「いいのか? 魔法科よりも、剣術科の方が厳しいじゃないのか? 勝手に、事を起こして、問題になっても、知らないぞ」
クラインの言葉に、怒っているカイルの姿を思い返していた。
先日も、怒られたばかりだった。
「……確かに」
「テストが終わったばかりなんだ、おとなしくしていろ」
クラインの意見に頷く。
「下級生の中で、お前の妹、ミントちゃんの話で持ち切りだぞ」
カレンから、情報を仕入れたことを、カーチスが伝えていた。
妹のことを言われ、唐突に、胡乱げな表情を滲ませている。
「大差をつけで、一位だって。お前と同じだな」
当時のリュートも、圧倒的な点数で、二位と差をつけていたのである。
「さすが、リュートの妹だな」
「そうだね」
「楽しくなりそうだな」
称賛している面々に、さらに不貞腐れるのだった。
(当たり前だ。あんな簡単な問題に、ミントが手こずる訳がない)
「どうやったら、勉強もせずに、一位なんて取れるんだ?」
好奇心溢れる眼差しを、ブラークが覗かせていた。
テスト近くになると、苦しむブラークたちを放置し、勉強せず、遊んでいたイメージしかなかったのである。
勿論、ブラークたちがいない、静かな場所で読書していたので、それなりに、知識を増加させていたことに、気づかなかったのだった。
「暇な時に、本を読んでいる」
「それだけか」
「当たり前だ。それで、いろいろと、入り込むだろう」
何を聞いているんだと、顔を顰めているリュート。
そんな姿に、誰もが、困惑を隠せない。
((((やっぱり天才だな))))
突然、ドアが開く。
そこに、ミントが立っていたのだ。
グルリと、部屋の中を確かめる。
目当ての人物がいない。
「トリスは?」
「……昨日から、出掛けたぞ」
唐突な来訪に、驚愕を隠せないブラークたち。
それらを放置し、兄妹で話を進めていく。
「嘘……」
「ホントだ」
「聞いていない」
「知らん」
徐々に、頬を膨らませ、仏頂面になっていった。
「いつ、帰ってくるの?」
「たぶん、連休中は、帰ってこないぞ」
さらに、剥れていくミントだった。
「ミントも、食べるか?」
いつの間にか、ミントが顔を伏せていた。
尋ねても、返答がない。
「ミント?」
「お兄ちゃんのバカ!」
瞬殺の勢いで、ミントが攻撃呪文を、リュート目掛け、放たれていく。
巻き添えを喰らうブラークたちだ。
交わすことができない。
辛うじて、リュートは半分ぐらいの攻撃呪文を回避できたが、すべてを、交わすことができず受けていた。
瞬く間に、部屋が無残なことになっていた。
「じゃね、お兄ちゃん」
鬱憤を晴らしたミントは、スッキリとした表情で、自分の寮へ帰っていくのだった。
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