第70話
太陽が沈みかけ、空がオレンジと群青の二色となった頃。
外回りをし、戻ってきた教師から、変わり果てた〈白露の森〉の話を、聞きつけたカイルたちが、ずらりと集まっていたのだった。
唖然と、無残な姿を窺っている。
誰の目から見ても、酷い状況が広がっていた。
外回りして戻ってきた教師たちが、この惨状に気がつき、職員室に報告がいったのだ。
「何だ、これは?」
それ以外の呟きが、出てこない。
数多くの木が折れ、枝が無数に散らばっている。
そして、あちらこちらで、地面が陥没し、見るも無残な、壊滅的な姿を露わにしていた。
ある一定時間以外、靄がかかっているせいで、教師たちが、この状況を発見するのに、時間がかかってしまったのが要因だった。
「知らん。だが、戦闘が行われたのは、確かだ」
冷静に、状況を分析しているラジュール。
ひと目で、ここで、戦闘が行われたのは、明白な事実として映っていたのである。
靄で、覆われているはずの時間なのに、薄っすらと、靄が透け、視界が広がっていた。
カイル同様に、話を聞きつけ、ラジュールが採点作業を途中で抜け出し、駆けつけたのだった。
戦闘が行われ、高度な呪文を使った形跡も、残されていると、ラジュールが掠めている。
「外部同士の揉め事か?」
眉間に深いしわを刻み込み、カイルが意見を求めた。
各国の諜報員たちが、何らかのいさかいを起こしたものかと、巡らせていたのである。
それしか、考えられない。
「やった者がいないのでは、わからない」
さらりと、涼しい黒い双眸が、カイルを捉える。
まだ、この段階で、軽率な答えを控えたのだ。
他人事のように振舞うラジュール。
思わず、口角がピクピクと引きつっている。
「お前たちは、何をしていた」
辺り一面の状況を、静かな双眸で、眺めているラジュールに、苦々しく抱いているカイルが珍しく声を荒げていた。
職員室で、待機していたのに、気づかずにいたことに、腹を立てていたのである。
部屋で、仮眠と取っている間に、この話が出て来て、駆けつけたのだ。
十分に睡眠が取れていないので、機嫌がすこぶる悪い。
「別に。職員室で、待機してた」
噛み付かれた教師が、事実のみを伝えた。
「採点途中だ」
無表情で、ラジュールも返答した。
「お前な……」
仕事もしないでいる教師たちに、カイルが不服そうな顔を滲ませていた。
「〈白露の森〉は、深い靄がかかっている。それに、ここは皆無と言っていいほど、人が来ない。お前だって、そう考えるはずだ」
的を射ているラジュールの指摘に、唸り声を上げてしまう。
外部の諜報員が潜むには、いい場所の一つだった。
だが、深い靄のせいで、視界はゼロで、森の中を迷う可能性の方が高く、これまでの諜報員たちは、〈白露の森〉を避けていた場所でもあったのだ。
悪びれる仕草を見せない。
ムッとしながら、ラジュールを窺っていた。
(もう少し、すまないと言う顔ができないのか、こいつは。マジで、可愛げないやつだ)
「……そうだが……。それでも……」
「外回りに、人をとり過ぎだ。残っている教師だけで、ここまでは無理だ」
警備の穴を、表情一つ変えないで語った。
カイルも、方針を聞いた時に、同じことを抱いていたのだった。
学院の残る教師が、あまりにも少なかったのである。
だが、涼しい顔で、言われたくなかったのだ。
「何か、あるか」
自分は、間違っていないと言う眼光を、カイルに注いでいた。
それに対し、言い返せない。
「……そう……だな」
「わかれば、それでいい」
表情が揺るがないラジュール。
真っ黒なローブを翻し、対抗手段が浮かばないカイルに対し、背を向ける。
「後は、頼んだぞ」
「おい。お前は、ど……」
「村へ行って、捕まえてくる」
戻ってこないと、考えられる生徒たちを、捕まえるため、村へといってしまった。
二人分の採点をしてから、出かけようとしていたが、この騒ぎで、途中でやめてしまったからだった。
避けている場所を使う側面や、木の折れ方や、高度な呪文跡から、相当なやり手と見て、外に遊びに出かけている生徒たちを、直ちに寮へ戻した方がいいと、判断したのだ。
「しょうがない」
意図を読み、自分が残るしかないと嘆息を零した。
まず、生徒たちの安全が、最優先事項だった。
他の教師たちがしている片づけを手伝うため、頭をくしゃくしゃと掻きむしりながら、カイルが歩き始めたのである。
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