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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第3章 それぞれの休日
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第69話

「ただいま」

 カレンとの秘密のデートを終え、カーチスが部屋に戻ってくる。

 部屋では、クラインが一人で静かに読書していた。

「早かったな」

 キョロキョロと、部屋を窺っているカーチス。

「リュートは?」


 いじけて拗ねているリュートが、部屋にいると思っていたのだ。

 けれど、クライン一人しか、部屋にいない。

 朝の不機嫌の様子を気にかけ、早々に、デートを切り上げ、寮へ戻ってきたのだった。


「出かけたようだ。帰ってきた時には、いなかった」

「そうか……」

 気の抜けてしまっていた。


(それなら、もう少し、カレンといればよかった。でも、リュートのやつ、どこにいっているんだ?)


 不意に、機嫌を損ねていた、朝の光景を思い起こしている。

 手持ち無沙汰なカーチス。

 手に持っているものに、クラインの双眸が止まっていた。

 思わず、クスッとした笑みが零れてしまった。


「それは?」

「ああ、これか? リュートにと思ってな。今朝、ラジュールに提出のレポートを届けて貰った礼と思って、買ってきたのに、いないのか」

「まだ、届けていなかったのか?」

 購入した理由に、クラインが眉間にしわを寄せた。


 早く出せと、以前に、何度も注意していたのだった。

 それが、また提出していなかったと聞き、どうしようもないやつだなと、気楽なカーチスに呆れている。


「まぁな。ところで、そっちの袋は?」

「似たようなものかな。きっと一人で、ブスッとしているだろうと思って」

 机に、数種類の紙袋が置かれていた。

 リュートの好きな甘いお菓子ばかりだった。

 数軒の店を廻って、お菓子を購入していたのである。


「考えることは、同じってことか」

「俺は、頼んでいないぞ」

 何気に、クラインが茶化してみせた。

「わかっているって。近頃、キツいぞ」

 最近のツッコミが、キツいと、不満げな顔を滲ませている。

「そうか」

 どこ吹く風のクラインだ。


「せっかく買ってきたのに、どこにいるんだ?」

 ベッドの脇に置いてある剣に、視線を巡らすカーチス。

 剣を持たずに出て行った様子から、ただの散歩と予測している。

 稽古ならば、剣を持って出て行ったはずだと、単純に思ったからだ。

 クラインも、同意見だった。


「そうだ。ブラークやキムも、後から合流する」

「あいつら、来るのか?」

 意外だと、目を見張ってしまう。

 街に、頻繁に出かけているのを把握していた。


「何か、買ってくるってさ」

「ふーん。そうか、来るのか」

 サイドポケットに、手をかける。

 そこには、大量に演奏会のチケットが入っていた。


(少しは、捌けるかな……)


「どうかしたのか?」

 伏し目がちなカーチスの様子に気づく。

 演奏会のチケットでも、渡されたかと勘繰るが、いつもよりも、気落ちしている表情の暗さが気になった。


 いつもだったら、演奏会のチケットが入っているサイドポケットから、一枚取り出し、聴かないかと言ってくるからだ。

 けれど、その言葉すら、まだ出てきていない。

 普段だったら、部屋に入ってきた途端、詰め寄り、開口一番に演奏会、聴かないかと言ってきていたのである。


「それがな……。カレンから頼まれて……、チケットを……」

 ようやく開いた口は、徐々に、口調が低くなっていった。

 サイドポケットから、何枚もある演奏会のチケットを、トリスの机に置いた。

 いつもの行動パターンとは違う行動に、目を細めてしまう。


「トリスに、渡すように頼まれた」

「そうか」

 さらに、曇っていく顔。

 完全に、何かあったと察する。


「で、カーチス。お前は、頼まれなかったのか?」

「……頼まれた。……頼まれた」

 その呟きのような言葉で、すべてを察した。

「じゃ、剣術科に、振りまくのは、無理な話か」

 仕掛けの道具の一部しか、置いていない机に、置いてあるチケットを窺っていた。


 急に、カーチスがクラインの手を握る。

 その顔は、必死の形相だ。


「助けてくれ、クライン」

「……わかった。一枚出せ」

 渡された大量のチケットを、取り出した。


 その量の多さに、唖然とするクラインだった。

 予想していた量より、多かったのである。

 これで、カレンの怒りの量が、半端ないことを示していた。

「いつものメンバーに渡しても、余る量だな」


(それを見越して、カレンのやつ、渡したか)


 握る手に、力がこもる。

「そうなんだ。どうしよう、クライン」

「……手分けして、探すしかないだろう」

「どうやって? 俺たちの知っているほとんどは、持っているぞ」

 焦るカーチスに対し、冷静にクラインが、チケットをどうするかと巡らす。


(ブラークたちも、働かせるとして、それだけでは、人手が足りないな……)


「だろうな。トリスの分は、剣術科の生徒たちだけで、配るとして……、剣術科の先生にも、リュートから頼んで貰って、来て貰うか。後、リュートの妹が、一年生にいたよな、そっちでも来て貰おう」

 提示していくクラインの案に、ブンブンと、カーチスが頷いていく。

「後は、俺たちで、一人一人の知り合いに、声をかけていくしかないな」

「大丈夫か?」

 不安な顔が拭えない。


「何とかなるだろう。とにかく、リュートが来ないと、話にならない」

「リュートのやつ。いつになったら、帰ってくる!」

「待つしかないだろう」

 いきり立つ仕草に、クラインが呆れていた。


 二人は、保健室で眠っているとは、思ってみなかったのである。

 しばらくすると、ブラークとキムが、部屋に顔を出した。


 最後に部屋に、まだ痛みが完全に癒えていないリュートが、戻ってきたのだった。

 その時には、仲間たちが集っていたのだ。

 演奏会のチケットの件を、どうするかと話し込んでいた。

 痛々しいリュートの姿に、驚く面々。


 一人で稽古し、作ったものだと、苦しい言い訳を零しただけだった。

 チケットのことが、すっぽりと抜け落ち、リュートのケガで、カーチスたちが騒ぎ、自分たちが持っている薬草を持ち出し、あたふたしていたのだ。

 リュートのケガのせいで、寮内は慌しくなってしまった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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