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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第3章 それぞれの休日
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第67話

 手続きを済ませたリュートとアニス。

 親しげに、〈第五図書館〉から出てきたのである。

 寮へ、向かう道すがら、図書館内で聞いた話について、語り合っていた。

 和やかな二人だった。


 邪気のない好奇心に、素直にアニスが答えていく。

「その力ってさ、叔母さんって言う人と、アニスだけなのか」

「はい、そうです」

「へぇー」

「私が、生まれるまでは、叔母一人だけでした。叔母も、数代ぶりに、能力を携えて生まれたようで、大変だったと聞いています」

「そうか」

 何度も頷くリュート。


 そんな姿を、微笑ましそうにアニスが眺めていたのである。

 はたから見れば、恋人同士にも見えた。

 当の本人たちは、そんな可愛らしい話をしていない。


 元々、人気が薄い場所に、休日となって、人の気配が、さらに少なかった。

 アニスの口が、柔らかい。


「必ず、生まれるって、訳じゃないのか?」

 僅かに、リュートが首を傾げている。

 面白い能力なのに、随分と、少ないんだなと巡らせていたのだ。

「そのようです。叔母が生まれるまでは、百年近くは、出なかったみたいです」

「へぇー」

 意外だなと言う顔を滲ませている。


 目の前にいるリュートは、今までの誰よりも違っていた。

 警戒したり、怯んだりしない。

 ただ、ニンマリと、口元を緩ませていた。

 態度を変えない姿に、徐々にアニスは惹かれていく。


(リュート君って、どんな人なんだろう……)


「私には、先駆者の叔母がいてくれましたから、助かりました」

「凄いな」

「先程、話しましたが、先祖は海賊でした。男の人たちが、海に出てしまうと、陸地には女や子供、年寄りしか残りません。ですから、自然と、陸地を守るのは、女たちの役目になっていたそうです」

「確かに、そうなるな」


「当時は、他の海賊などの襲撃や、街を乗っ取ろうとするやからとか、たくさんいたようで、自分たちの住む街を守るために、女たちが戦っていました。戦っていくうちに、段々と、強さを求める遺伝子が濃く、増していく、女の人も現れたそうです。どうも、その人たちが、私たちの先祖のようで。極まれですが、海賊ではなくなった私の家の者に、隔世遺伝として、生まれてくるそうです」


「アニスの家にだけ?」

「今のところそうです。他には、聞きませんから」

「どのくらいの力が、あるんだ?」


 ワクワクとした表情が、顔全体に広がっていた。

 若干の戸惑いもあったが、悪い気分になることがない。


「……日常生活に、支障が出るぐらいに」

 その顔は、頬を染め、テレが含まれている。

 ふと、過去の失敗談を、アニスが思い返していた。


 そんな仕草に気づかず、好奇心のまま、突っ込んでいく。

「それって?」

 高揚している気持ちを抑えられないリュート。

 久しぶりに、興味を注がれていたのである。


「触っただけで、破壊してしまう力です。テーブルとか、壁とか、いろいろと……」

 味わった恥ずかしさがぶり返し、か細い声音になっていた。

 最後の方は、やっと聞こえる程度だ。


 能力に慣れない頃、家の物を、散々破壊していった。

 その記憶が、鮮明に残っていたのである。

 学院の入学する前、アニスは能力を上手く、コントロールできなかった。

 悪戦苦闘しながら、日常生活を送っていた。

 そして、入学する直前に、コントロールできるようになり、学院の同級生にバレないように、寮生活を過ごしていたのである。


 興奮し、ウズウズ感が止まらないリュートだった。

 楽しそうな姿に、アニスの口角が自然と上がっている。

 不意に、どうして自分を変な目で、見ないのだろうと、疑問が浮かび上がってきた。

 けれど、まだ、尋ねる勇気が出てこない。


 キラキラと輝かせる、漆黒の瞳を、アニスに傾けていた。

「メチャクチャに、相手をノックダウンできるだろう? 凄い力だよな」

「はい。でも、歯止めが利かないので、大変です」

「歯止めが利かないって?」


 顔を曇らせたアニスの足が止まる。

 それに続いて、リュートの足も止まった。

 うな垂れ気味のアニスを、捉えている。

 すぐに返答が戻ってきたのに、今度の問いに、返答が返ってこない。


(どうしたんだ? 具合でも悪くなったのか、それとも……)


「どうした? お腹が減ったのか?」

 自分のものさしで、考えてしまう。

「ち、ち、違います。大丈夫です」

 狼狽え、顔を赤く染めている。

「じゃ、何で、歯止めが利かない?」


 視線を彷徨わせ、首を傾げているリュートを見ようとしない。

 それでも、アニスに双眸を注いでいた。


「……少しばかり、性格が変わるので……」

「性格?」

 ますますわからないと、首を傾げている。

 そんな姿に、苦笑しているアニスだった。


「……闘志に、火がつくと言うか……、とにかく、がらりと、今とは違う性格に……」

 歯切れが悪いながらも、言葉を紡いでいった。

 ほのかにピンク色に染めた、頬をしたアニスを窺っていた。

 徐々に、その顔が、苦渋に満ちた顔を滲ませていく。


 能力の秘密を解いた直後のことを、学院の友達にも話していない。

 知っているのは、ごく一部の教師しか知らないことだ。

 どうしても、恥ずかしいと言う観念が拭えないので、親しい友達に話せず、ひた隠しにしていたのである。


 逡巡し、アニスが息を吐いた。

 そして、注がれていた視線にアニスも視線を巡らせる。

 二人の視線があった。


「変ですよね?」

 最も話したくない部分を、話す決心を固めたのだった。

 迷いがない。

 とても、穏やかなラベンダーの瞳だ。


「変じゃない。凄いよ」

 無邪気に言い切る姿に、心から嬉しさが込み上がっていく。

 生まれ育った街の友達たちの一部は、知ってしまった途端、遠のいていったり、蔑むような目で、敬遠されてしまった過去の出来事があった。

 だから、まだ知らない学院の友達に、そんな目で見られたくなかったので、隠していたのだった。

 態度を全然変えない、まして、凄いと、この能力を賞賛してくれる姿勢に、感謝する気持ちが湧き起こっていた。


「あ、ありが……」

 途中で、言葉が途切れてしまった。


 キラキラと目を輝かせ、鼻が触れるぐらいに、頬を染めるアニスに顔を近づいていったからだ。

 目の前に現れた、リュートの顔に釘付けになってしまう。

 ドキッ!

 さらに、顔をリンゴのように色を染めた。

 まっすぐな黒い瞳から、逃れるように視線を外す。


「……あのー、か、か、顔が……」

 激しく狼狽しているアニスに、顔が近づき過ぎたと気づく。

 ようやく、真っ赤になっている顔から、離したのだった。

「悪っ」

「い、いえ……」

「羨ましいな」


 頭の後ろに両手を持っていき、澄み切った青空を、リュートが眺めている。

 動揺の隠せないアニスに、気づかない。

 自分がしたことすら、気づいていなかった。


「そんな能力があるなら、実技テスト、もっと上にいけたのに……」

「……私は、リュート君が羨ましいです」

 青空から、まだほんのり赤みが残るアニスに、視線を巡らせた。

「俺のこと。リュートでいい」

「えっ? ……はい……」


 一瞬、絡み合った視線が、下降してしまった。

 そんな敏感な思いに、ピンと来ない。


「何で、俺が羨ましいんだ?」

「……魔法、凄いじゃないですか」

「魔法か。面倒臭いだけだ。コントロールが」

 心の底から、面倒臭いと表情が露わになっている。

 素直な気持ちに、アニスが小さく笑っていた。


「……私も、大変です。たまに、体術の稽古をしないと、コントロールができなくって……。稽古できる場所も、限られていますし、ホント、何かと大変です」

 互いに、似たような境遇だった。

 思わず、顔を見合わせ、笑みが零れていた。

 しばらくの間、二人は楽しそうに笑い続けている。


 タイプは違うが、お互いに、同じ立場であることを、それぞれに感じ取っていたのだ。

 一年生の時に、爆破されて以来、リュートの避けていたアニスは、カレンや他の友達から、リュートのことの話を聞くだけで、実際にその凄さを垣間見たのは、一度もない。


「お互いに、大変なんだ」

「そうですね」

 歩き出そうとするアニスに、閃いた思いを打ち明ける。

「な、催眠術。解いてくれないか」

 唐突過ぎる言葉に、瞠目している。

 何も答えず、ただ真剣な顔を見張っていた。


「俺さ、実技テスト、悪かったんだ。だから、俺に稽古つけてくれないか?」

「でも……」

 突然の申し出に、躊躇ってしまう。

 能力を解いた姿を、人に見られたくない。


(あの姿を、人に見られたくない……、あんなふうになる姿を……。でも……)


 チラリと、真剣な眼差しをしているリュートを視界に捉えている。

 魔法科では、不真面目で有名だった。

 だが、剣術科に移って、見違えるほど稽古している話を耳にしていた。

 助けになれば、手伝いたい気持ちがあった。

 けれど、すんなりと、解いた姿を見せるまでの決意が持てなかった。


「頼む。俺と稽古してくれ。……絶対に、トリスにも話さない。秘密裏でも、何でもいい。稽古してくれ」

 真摯な姿勢で、瞳が揺れ動くアニス。

 不意に、アニスの両肩に、手を置く。

 咄嗟の出来事に、ピクリと身体を震わせる。

 さらに、真剣さが増していった。


 体術の心得があるトリスに、稽古を付き合って貰っていたのである。

 でも、マスターできず、四苦八苦していた。

 授業でも、体術を苦手としていたのだった。

 この前の実力試験の体術テストで、クラスの中で、最下位と言う汚点を受けてしまうほどだ。

 勝手の違う体術で、法力を抑え込みながら、体術をするのは至難の業だった。


「……無理です。生半可な力では、大ケガをしてしまいます。ですから、無理です」

 いくら剣術科で、体術を習っているとは言え、素人に近い人に稽古をつけるのは、自信がない。

「ケガなら、大丈夫だ。心配しなくてもいい。ちょっとで、いいから」

 諦めない姿に、心がぐらついてしまう。

 大事にしたくない。

 素直に、はいと返事ができなかった。


「でも……」

「俺、どうしても強くなりたい。……アニス、お前なら、俺を強くしてくれる。だから、頼む、俺に稽古してくれ」

「……」

「アニス、頼む。俺を強くしてくれ。諦めたくはない」


 ふと、様子を窺ってしまった。

 これまで見たことない真剣さに、フリーズしてしまう。


「どうしても、強くなりたい。初めてなんだ、面白いと感じたのは」

「……魔法は、楽しくありませんか?」

 唐突な言葉に、呆気に取られ、目を見張っている。

「魔法……」


 魔法が楽しいか、楽しくないかと、考えていなかったからだ。

 ただ身近にあり、自分の身を守るために、身につけたに過ぎなかった。


「……わからない」

 肩から手を外し、俯いてしまった。


(俺にとって、魔法って、何なんだろう? ……楽しい? 楽しくない? ただ、毎日の中に魔法があった……。俺にとって、魔法は……。……わからない)


 何度、考えても、同じ答えに行き着く。

「ごめんなさい。変なこと言ってしまって」

「別に、謝る必要ない」

「でも……」

「考えてみるさ。じっくりとな」

「……」

 リュートが笑ってみせた。

 剣術の面白さを知ったように、アニスにも、ピアノの楽しさを知った喜びがあった。


(私に、ピアノがあったように、リュート……にも、剣術と言う打ち込めるものがある)


 俯いていた顔を、僅かに上げた。

「……誰にも、話さないでください」

 コクリと頷いた。


「絶対ですよ」

「うん」

「……覚悟は、いいですね」


 ダメだと、諦めモードになっていたリュート。

 アニスの言葉に、瞠目していた。

 そして、次の瞬間、キラキラと顔を輝かせる。


「勿論」

「……わかりました。稽古の件、お受けします」


読んでいただき、ありがとうございます。

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