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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第3章 それぞれの休日
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第62話

 フォーレスト学院の敷地内にある、小さな湖の畔。

 畔近くに直に座わり、カーチスとカレンが親しげに語らっている。

 密かに、会っている場所なのだ。


 二人は、密かに付き合っていた。

 けれど、付き合っていることを隠していても、周囲には周知の事実として、知れ渡っていたのである。

 本人たちが、秘密にしているので、周りの人間が言わないだけで、気づいていないのは、男女のことに興味がない、リュートぐらいなものだった。


 小さな湖に、めったに教師も、生徒も、近づかない。

 静かで、のんびりと過ごせる場所だ。

 二人にとって、デートコースの一つだった。

 そこで、いろいろなことを、語り合っていたのだ。


 作ったサンドイッチを渡し、カーチスから飲み物を受け取り、芝生に置く。

 両方、持たせておくと、一度に、両方とも、口に入れてしまいそうな勢いがあった。

 だから、カーチスから、飲み物を回収したのである。

 慣れた手つきで、甲斐甲斐しく、世話を焼いていた。


「ほら、パンくずが口についている。それにクリームも」

 頬張っている口に、ついたパンくずを取ってあげる。

 行儀が悪いと、いつも注意しても、直る気配がない。

 怒っている表情とは違い、アップルグリーンの瞳が、優しげに笑っている。


「んっ、……ん」

「口に、入っている最中は、喋らない。喉に、詰まっちゃうでしょ」

 話すなと言われ、頷いてみせた。


 ダラしない格好で、現れたカーチス。

 着替えてきてと叱り、いったん部屋に戻し、着替えさせたのである。

 自分のウィークポイントの、後ろの三つ編みだけを直し、他は、その場にある服装を、ただ着込んで、待っているカレンの前に、姿を現わしたのだった。


「デートに、あんな格好しないでよね」

「うっ」

 フリーズしている。

 遅刻していたので、カーチスは身だしなみよりも、時間を優先させてしまったのだった。

「いつも、言っているでしょ? 身だしなみは、三つ編みだけじゃないの?」

 後ろに垂れ下がっている三つ編みに、視線を巡らす。


 綺麗に、整えられていた。

 思わず、カーチスが口を尖らせる。


「他のことにも、気遣ってよね」

「ごめん。寝坊して……あっ……」

 余計なことを口走ったと狼狽える。

 世話をしていたカレンの動きが、瞬間的に止まった。

 そして、ゆっくりと、目が泳ぐカーチスへ、向き直ったのだ。


「寝坊したの?」

 愛想がいい顔で、問いかけた。

 顔が笑っているが、物凄く眼光が光っていたのだ。

 入学して以来の、付き合いの上、付き合いだして長い。


「ちょ、ちょっと……」

 しどろもどろで、思案顔だ。

 上手く対処しなければ、後が、物凄く怖かったのである。


 解決策の糸口を探すが、なかなか見つからない。

 逡巡している間に、カレンの目が細くなっていく。

「夜更かししたんでしょ?」

「っ」

「リュートたちと、一緒だったの、知ってるのよ」

 さらに、愛想よく笑う。


(怖い。何で、知っているんだ?)


「……うん」

 逃げ道がなく、認めざるを得ない。

 ただし、視線を合わせられなかった。


「いつまでも、いたずらして喜んでいないの」

 母親が子供を叱るように、カーチスを叱った。

「ごめん」

「それとも、ナンパでもしてたの? ブラークとキムも、一緒だったと、考えると?」

 ギロリと、隣で萎縮し始めていたカーチスを半眼している。


 ブラークとキムたちが、絡んでいる場合、村に行って、ナンパしている確率の方が高かった。

 知られないように、ひた隠しにしていたが、すべて筒抜けだった。

 友達から、その情報を仕入れていたのだ。

 そのせいもあり、デートする前から、不機嫌だった。

 けど、久しぶりのデートを楽しみたかったので、知っていても触れない。

 きちんと、カーチスの好みに合わせ、サンドイッチを手作りしていた。


「えっ! ……あ……、え……」

 追及されたように、リュートやクライン、ブラークたち仲のいい仲間たちと、遊んで過ごしていた。

 けれど、遊びには出かけたが、村で今回はナンパをしていなかった。

 ただ、純粋に、喋り合って、じゃれて遊んでいただけだ。

 隠れてナンパをしていた経緯があったために、身体が自然と、萎縮してしまったのだった。


 なかなか煮え切れない態度に、腹の虫が収まらない。

「どっちなの?」

 冷ややかな低い声だ。


 厳しい表情で、詰め寄っていく。

 たじろぎ、逃げ場を探すが、見当たらない。


「こ、こん、今回は、ナンパしていない」

「今回は?」

 首を傾げ、狼狽しているカーチスを見据えている。


「だったら、ナンパしていたのね、その前は?」

 二の句が出ない。

 実際に、いっていた。

 一週間以内にだ。

 脳裏に、以前にナンパがバレて、怒られた光景が、映し出されている。

「……えーと……」

 黒い瞳が泳ぐ。


 アップルグリーンの瞳に、問いつめられると、嘘がつけない。

「言い訳は、よろしい」

 きっぱりと、吐き捨てた。

 容赦ない態度に、もう謝るしかない。

 けれど……。


「そ、そうじゃない、カレン。ブラークたちが、メンツ少ないから、どうしてもって。だから、しょうがなく、渋々とだな……」

 プイッと、そっぽを向いた。

「ごめんなさい」

 二人の間に、沈黙が流れる。


(まったく、ついていく方も、悪いのよ)


 しょうがないやつと内心抱きつつ、落ち込んでいるカーチスを窺っていた。

 頭を下げ、平謝り状態だ。

 思わず、苦笑してしまうカレン。


 自分を大切にしてくれるので、どことなく、ナンパしても、憎めないのだ。

 そして、仲のいい友達と、遊んでいることに過ぎないとも理解していたのである。

 ナンパと聞き、ムカつくが、別れようとは、実際に思ったことがない。

 ただ、拗ねているだけだった。


「……トリスに、渡しといて」

 下げていた頭を、恐る恐る上げると、そこに、いつもより、枚数が多いチケットがあった。

 カレンが所属している、サークルの吹奏楽の演奏会のチケットだ。

 いつも、クラインたちを誘い、聞きにいっていたのである。


「トリス? あいつも、来るのか?」

「この前、誘ったの。来るように説得したの。だから、渡しといて」

「多くないか? それにしては?」

「剣術科の友達も、誘ってって、言っておいたの」

「それでか」

 合点がいくカーチス。


 渡すと、すかさず、さらに枚数が多くなったチケットを、目の前にドッサリと出した。

「これは、カーチスの分」

「えっ? さっきのは……」

 受け取ったばかりのチケットと、今受け取ったばかりのチケットを見比べる。

 かなり量が違っていた。


「トリスの分に、決まっているでしょ?」

 今回は、トリスが配るのかと、ホッと胸を撫で下ろしていた。

 いつも、チケットを貰ってくれる生徒を、掻き集めに苦労していたのである。

 だから、今回は開放されたのかと、安堵していたのも、束の間の出来事だった。


「じゃ、これは……。……いつもより、多くないか」

 画然とした眼差しを注いでいた。

「いつもより、友達多く連れてきてね」

 可愛らしく、微笑んでみせる。

 いつもの、三倍の量があった。


「……限度が……」

 か細い声で呟いた。

「ナンパして、親交を深めていっている友達も、多いんでしょ? たくさん、連れてきてね。楽しみにしてるから」

 有無を言わせない、ニコニコと笑う姿が、カーチスの目の前にあった。


 対抗する術を、持っていない。

「……わかった」

 がっくりと、うな垂れる。


(今回の罰は、キツいな。どうやって、こんな人数、連れてくればいいんだ。クラインたちにも、手伝って貰うしかないな)


「練習したの。私のフルート聴いて」

 顔を上げ、わだかまりもない、カレンの笑顔を眺める。

「ああ」

 元気がない声音で返した。


 練習した成果を、カーチスに披露する。

 二人の時間は、こうして過ぎて行くのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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