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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第3章 それぞれの休日
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第61話

 セナと別れた直後、寄り道をしないで、トリスが祖父が暮らすチュダ村に、足を運んだ。

 家同士が点在している場所から、少し離れた位置にも、数軒の家が建っている場所があった。

 その一軒の家に、慣れた足取りで入っていく。

「じいちゃん、いる?」


 かまどで、火がおこしてあるだけで、人の姿がない。

 さらに大きな声で、呼びかけると、奥の部屋から、ひょっこりと老人が顔を覗かせる。

 愛用の道具や、武器に、研磨作業し、磨いている最中だった。

 神経を研ぎ澄まし、作業していたので、トリスの気配に気づくのが、僅かに遅れてしまったのだ。

 道具や武器に、研磨作業を施すのは、日課になっている。


 その老人こそが、トリスの祖父ベックだった。

 姿はみすぼらしいが、名が知られている有名な大盗賊の一人だ。


 服を乱暴にはたき、研磨の粉やゴミを、ざっと落とす。

 孫の訪問に、顔を綻ばせていた。

「終わったのか」

「問題なく、終了」

 作業中の物を置き、部屋から出てきた。


 自分の家のように、慣れた手つきで、二人分の飲み物を用意している孫の後ろ姿に、段々と逞しくなっていくと、ベックが感慨深げな眼差しを注いでいる。

 年のせいで、めっきり外に出るのが、億劫気味になっていった。

 時々、孫のトリスに、自分の仕事の手伝いをして貰っていたのである。


 孫の中で、一番ベックの血が濃く、流れていたのだ。

 密かに、自分の技術などを教え込んでいた。


 ベックの娘は、父が自分の息子に、技術を教え込むのに、いい顔しない。

 トリスの母で、ベックの娘マリーヌは、父の仕事である盗賊家業を嫌い、父親とは疎遠状態が続いていたのである。

 孫たちは、年老いた祖父の身体を案じ、母親に内緒で、祖父の家に密かに訪れていたのであった。

 けれど、そのことを、薄々感じ取っていたが、口に出す真似をしない。

 マリーヌ自身、年老いた父親のことを、気にしていたからだ。


 テーブルを挟んで、ベックが向かい側に腰掛ける。

「バイト代、もう一人分くれる?」

「珍しいな。リュートも、加わったのか?」

 目を丸くしている。


 ベックが頼む手伝いを、最近はトリス一人がこなしていたからだ。

 数年前までは、リュートや二、三度カーチスやクラインなどの友達も、手伝っていたのである。

 だが、学年が上がっていき、それぞれが別行動を取るようになってからは、小遣い稼ぎの手伝いは、一人でしていたのだった。


「リュートじゃない。別な友達」

「別なって、クライン、カーチス、後は……」

 魔法科の友達の名前を、次々に上げっていった。

 それらを、すべて首を振って、否定した。


「他に……」

 学院の話を聞いていたベックは、まだ出していない名前を、口に出そうとする。

 けれど、いっこうに思い出せない。

 自分も、そろそろ来たかと、嘆きかけていた。

 そんな祖父の姿に、苦笑する。

 体力を落ちていたが、記憶力は、普通の人以上にあったのだ。


「ボケていないよ。剣術科に、所属しているセナって子だよ」

「剣術科……。初めてだな」

 意外な言葉に、瞠目していた。


 剣術科とは、そりが合わないと、耳にしていたからだ。

 リュートが剣術科に移ったと知らせたが、剣術科のセナたちの話をしていなかった。

 わざと、話していなかった訳ではない。

 ただ、話すタイミングを、逃していただけだった。


「うん。リュートが剣術科に移ったことは、知らせただろう? リュート経由で、知り合った友達。女で、優秀だよ。そして、熱くって、まっすぐかな」

 脳裏に、セナの姿を浮かべているトリス。

 ベックの双眸に気づかず、自分なりのセナの評価を、口に出していった。

「そうか。いい子のようだな」


 楽しそうに話す姿に、口角が上がっている。

 孫から、話を聞くのが、近頃の楽しみの一つだった。

 ここ数年、めっきり仕事の数が、減っていた。

 その分、孫と触れ合う時間を、こよなく愛していたのだ。


「その子が、手伝ったのか」

「うん」

 歳相応の、無邪気な仕草で頷いた。

 セナと知りあった経緯を、ベックに話を聞かせる。

 話の間、相打ちを打つものの、最後まで口を挟まない。

 耳を済ませ、孫の話に耳を傾けていたのである。


「ほぉー」

 勤勉なセナの姿に、心から感心する。

「将来が、楽しみじゃな」


 大盗賊として、名が知られているが、むやみに人を殺生しない。

 そんなベックを、義に重んじる盗賊として、民衆には人気があった。

 けれど、娘マリーヌの評価が低い。

 いくら民衆に人気があっても、盗賊と言う仕事を、納得できなかったのだった。

 それに、めったに家に戻ってこないことも、許せない理由の一つだ。


「わかった。バイト代を出そう」

「ありがとう。じいちゃん」

「ところで、この前、カメリアがきた」

「カメリアが?」


 名が出たカメリアは、トリスのすぐ下の妹である。

 一人暮らしのベックを気にかけ、二ヶ月に一度、この家に訪れていた。

 孫たちは、母と祖父、互いを和解させようとするが、互いに意地っ張りな性格のために、和解の道筋が立っていないのが、現状だ。

 母親マリーヌの前では、祖父のベックの話は、禁句となっている。

 話が出てきたのならば、機嫌が悪くなり、当り散らされた。


「いろいろと、食い物を持ってきてくれた。一人だと、作るのが面倒だから、助かる」

「そう。何を、持ってきたの?」

 簡素なキッチンに、目を巡らせる。

「いろいろだ」

「へぇー」


 孫の成長を楽しんでいるベック。

 カメリアが作ったと、信じているようだが、実際は母親が作ったもので、こっそりと詰め込んで、持ってきたものだった。

 店の手伝いや、下の弟や妹の面倒を見ていることもあり、作っている暇がなかったのである。

 だから、多く作る母の料理を、いつも詰めて、持って来ていた。


「少しは、入られるのだろう? 一緒に、後で食べよう」

「うん。後これ」

 漁師の家から、手に入れた地図を、ベックの前に差し出した。


 受け取り、念入りに地図を、鑑定し始める。

 孫の目利きを、疑っている訳ではない。

 受けた依頼だからこそ、念には念を入れ、調べるのである。


「本物だな」

 地図を手にしたまま、立ち上がった。

 そして、湯を沸かしている、燃え盛る炎の中に、何の躊躇いもなく放り込む。

 あっという間に、苦労の末、手に入れた地図が、灰と化してしまった。

 苦労し、手に入れたトリスは、止めようとはしない。

 平然と、燃えていく地図を、完全に燃え尽きるまで、眺めているだけだ。


 請けた仕事の依頼は、地図の正当な持ち主である、没落貴族からのもので、人手に渡った地図を、本物か、贋物か、判別し、本物の場合のみ、回収し抹消することだった。

 没落貴族は、今の没落生活を気に入っており、その財宝の宝で、家族や子孫が争いを起こすことを、危惧していたのである。

 そして、それが、赤の他人に渡り、悪用されることも許せなかった。

 だから、義に熱いと称される大盗賊ベックに、仕事を依頼したのだった。


「後、一枚だな」

 ボソリと、ベックが呟いた。

 残る地図は、最後の一枚になっていた。


「そうだね。そっちの方は、どうなの?」

「大丈夫だ。勉学に勤しめ」

 残り一枚の場所を突き止め、ベックが一人で、回収する運びとなっていた。

 心のどこかで、年老いたベックのことが、気になっていたのだ。

「……勉強なんて……」

 顔を顰めている。


「勉強だけじゃない。友達と、過ごすことも、大事だ。それに、これ以上、かかわらせると、あいつに怒られる。それも、疲れるからな」

 マリーヌが、何度か、怒鳴り込んできたことがあった。

 子供たちに、技術を教え込むなと。


「わかった」

 苦渋な表情を窺わせているベックの姿に、苦笑してしまった。

 誰を、連想しているのか、わかっていたからだ。


「そうだ。新しいトラップ、開発したんだ、じいちゃん」

「どんなものだ」

 新しいトラップを、開発したトリスの話に、興味が注がれる。

 カメリアが、持ってきた料理を食べながら、尽きない新しいトラップの話で、盛り上がっていた。

 

読んでいただき、ありがとうございます。

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