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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第3章 それぞれの休日
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第60話

 リュートの妹で、一年生のミントが、ツインテールの髪を揺らしながら、一人で森の中を散策していた。

 クラスメートは、友達同士で遊んだり、勉強したりして、連休を過ごすようだった。

 だが、兄リュートのように、天才的な才能に恵まれているミントも、簡単な勉強をする気にもなれず、それに友達と、遊ぶ気分にもなれず、一人で森の中を、何かする目的もなく、ただ歩いていたのだ。


「暇だな」

 何度目かの呟きが、漏れた。

 兄リュートではなく、幼馴染のトリスの顔を思い浮かべる。

「トリスと、いたかったのに。出かけちゃって……」

 頬が、プックリと膨らむ。

 連休にトリスと、遊ぼうと巡らせたが、学院の外に出てしまったので、一緒の時間を過ごすことが、叶わなくなってしまったのだ。


 ずんずんと、森の中を目的もなく、進めていく。

 下ろす足に、段々と、力がこもっていった。


 小鳥のさえずりと、柔らかな風。

 葉が擦れる音しかしない森。

 乱暴なミントの足音だけが木霊する。

 奥へ進むにつれ、響く足音に驚き、小動物や小鳥たちが逃げていった。


「どうして、私には、何も、声をかけてくれないのよ」

 連休が始まってすぐに、寮に出向くと、兄と、その友達しかいなかった。

 捜していた、目当てのトリスの姿がなかったのだ。

 落胆せずにはいられない。

 徐々に、膨れ上がってくる苛立ちを、関係のないリュートにぶつけ、その場を後にしたのだった。


 嘆息を零した。

「せっかくトリスがいる、この学院に来たのに」

 唇を尖らせる。


 元々、ミントは入学する意思がなかった。

 屋敷で、これまで通りに、過ごす予定だった。

 フォーレスト学院に入学した目的は、母リーブに命じられたことと、大好きなトリスと、少しでも一緒の時間を共有したかったからだ。


 それらの理由がなければ、高度な呪文を使いこなせる能力があるのに、魔法を学ぶ学院に、入学する意味なんてなかったのである。

 母リーブの元で、弟子入りして学んだと、称号が貰える魔剣審査連盟協議会に申請すれば、貰える実力は、すでに培っていたのだった。


「意味がない」

 不貞腐れた顔のままで、歩いていた足が止まった。

 溜まっている鬱憤を、吐き出すためだ。


 目の前に、腕組みをし、不敵な笑みと共に、上級生たちが立ちはだかっていた。

 その数は六人。

 魔法科五年生で、素行が芳しくない男子だった。

 怯む様子をみせない。

 ただ、目の前に立ちはだかる男子たちを眺めている。


「さっきから、こそこそと。私に、何か用なの?」

 咎めるような眼差しだ。

「さっきから、鬱陶しいだけど?」

 自分の後をつけ、こそこそと、まとまって周辺に潜んでいたことを、小さいながらも、優秀なミントは、以前から気づいていた。

 けれど、構うのが面倒だったので、放置していたのだった。


(バカじゃないの? 六人が固まって、探っているなんて。これだけの数がいれば、二手か、三手に分散し、探れるじゃない。そんな計算も立てられないの? この人たちは!)


 意中の相手トリスがいなかったので、虫の居所がすこぶる悪かった。

 六人の顔を、それぞれ目を細め、見据えている。


(……お兄ちゃんより、上? 下? ……たぶん下かしら?)


 僅かに、六人の生徒の顔に、幼さが残っていた。

 中央に立つ、一番柄の悪いリーダー格の男子が胸を張っている。

「一年のミント・クレスターは、お前か」

「そうだけど? 何?」

 動じず、平然としたままだ。


(だから、つけていたんじゃないの?)


 くだらない問いかけに、人知れず、嘆息を零していた。

 満足したようで、男子たちが、汚くニヤッとしている。


 ミント以外の一年生ならば、怯えていただろう。

 まだ、物怖じしていないミントに、気づいていない。

 校舎からも、寮からも、離れ、人を呼ぶこともできなかった。

 そんな状況だったのだ。


「生意気なんだよ」

「どこが?」

「授業にも出ずにサボって、その辺、うろちょろして。目障りなんだよ」

 言い掛かりを、つけてきたのである。


(ただのやっかみじゃない。くだらない。ホントにくだらない)


 イラつく表情を、表に出さない。

 平静を装って、男子たちを眺めているだけだ。

「そう。簡単過ぎる授業が、つまないんだもん、しょうがないじゃない? 見た限りでは、あなたたちでは、大変そうに見えるけど? 教えて、差し上げましょうか?」

 ニッコリと、微笑んでみせた。


 たちまち男子たちが、歯軋りするほどに、苦々しい表情を滲ませている。

 語り始めたミントの口が止まらない。

「何から、教えましょうか? 二年生レベルで、いいかしら? それとも、一年生レベル?」


 実際問題、素行が悪く、教科によっては、赤点を取っている男子もいたのである。

 下手したら、進級も危なく、留年か退学になっていたレベルだった。

 悔しさで、顔が歪み、睥睨していた。


「バカにしやがって!」

「だって、そうでしょ? 私、強いもん。あなたたち、弱そうだし」

 話の内容とは、打って変わるような愛らしい表情を垣間見せた。

「痛い目みせてやる」


(最初から、そのつもりだったくせに)


 男子たちは、ただ生意気なミントを、当初の予定では脅かすだけだった。

 けれど、バカにされ、年下であるミントと、やり合う気持ちでいっぱいに変貌していた。


 トリス不在で、不機嫌なところに、因縁をつけられ、表情とは裏腹に、機嫌の悪さが急上昇していて、上級生の男子たちを挑発し、気分転換に遊ぼうとしていたのである。

 楽しげに、ミントの口角が上がっていた。

「ストレス解消させて、貰いましょう」

「バカはお前だ。どうやって、六人を相手にするつもりだ」

 人数的に、有利と踏んでいたのだ。


「大丈夫よ」

 不敵な笑みを覗かせたと同時に、戦闘開始の準備に、ミントが入っていく。

 リュートとは、何度も戦ったことがあった。

 それに、負ける気持ちがない。

 自信に溢れていたのである。


 動きの素早いミント。

 遅れること、数十秒で、上級生たちも、臨戦体制に入るが、実力の差があり過ぎ、ミントの早い呪文攻撃を避けられない。

 瞬く間に、上級生の男子たちが倒れていった。

 立っているミントの周りに、気絶している男子たちがいる。


「ストレス解消にも、ならないな。この程度じゃ」

 伸びている男子たちを、視界に捉えている。

 だが、起き上がって、攻撃を仕掛けてくる様子もない。

 冷ややかな眼差しに変わっていた。


「簡単過ぎ。もうちょっと、歯応えがあるかと思ったけど」

 数度の呪文攻撃で、倒れるとは思ってもみなかった。

 倒れても、起き上がって、仕掛けてくる余力があると、踏んでいたのだ。


 レベルに合わせ、威力を抑えて、攻撃呪文を放っていたつもりだった。

 けれど、実際は、起き上がることもできず、意識を完全に失っていたのだ。

 不満が溜まっていたせいで、手加減をしたつもりが、できていなかった。


 味気がないと、溜息を吐いた。

 手に持っていた薬草を置き、その場から、姿を消したのだった。




 姿を現わしたのは、保健士グリンシュがいる保健室だ。

 リュートたちの溜まり場の一つだった。

 ミントも、頻繁に、ここに姿を出しては、グリンシュが作る、手作りお菓子を堪能していたのである。


「お菓子ある?」

 保健室にあるテラスに、グリンシュの他に、魔法科の教師カテリーナが、のんびりとした時間を過ごしていた。

 八年生の担任で、リュートたちの剣術科の生徒にも、呪文に対する耐久性の授業を持っている。

 二人で、ティータイムをしていたのだ。

 テーブルに、様々なお菓子が勢揃いしている。


「久しぶりね。ミントちゃん」

 穏やかな声音で、まず初めにカテリーナが声をかけた。

 その後に続き、紅茶を入れ始めたグリンシュが、声をかけたのである。

「ありますよ」

 たくさんの品数のお菓子を、すでに焼いていた。

 それを見越し、訪ねてきたのだった。

 余計に、不満が溜まったものを、解消できるのは、甘いお菓子しかなかった。


「やった」

 歓喜している姿を捉えていると、スカートの裾に汚れがついているのを、何でも見透かす新緑の色した瞳で、グリンシュが目ざとく見つける。

「スカートの裾、汚れていますね」

「あー、これ? さっき上級生の男子たちに、因縁をつけられて」

 何でもないような口振りだ。


「大丈夫ですか。上級生たちは?」

 慌てた様子もない。

 ただ、カテリーナが、上級生の安否を確認した。

「うん、たぶんね」

 二人は、ミントの心配をしていない。

 実力を知っているからこそ、逆に、上級生の方を、心配していたのである。


 注ぎ終わった紅茶を、ミントの前にそっと置いた。

 食べ始めたミントに、その後の上級生たちの具合を尋ねる。

 暖かな焼き菓子を頬張りながら、治療呪文をかけず、放置したことを伝えた。


「ほっといたのですか」

「うん」


 磁器のような真っ白い顔に、眉間のしわが少し浮かび上がっている。

 ミント以上に、ミントの実力を知っていたので、手加減できず、倒された生徒たちの傷が深いと逡巡していたのである。

 さすがに、治療していくべきかと巡らす。

 だが、自覚がないミントが、傷を負った生徒たちよりも、ほっとけなかった。


 不意に、ミントが食べていた手を止める。

 射抜くような視線に、目を合わせた。

 珍しく、ミントが萎縮してしまう。

「……でも、薬草は、置いて来たよ」

 しゅんと、ミントが落ち込んでいる。

 仲がいいグリンシュに、こんな視線を、注がれたことがない。


「でも、大丈夫じゃない? 外回りしている先生たちに、発見されるわよ」

 どこまでも、マイペースなカテリーナが話に加わった。

 小さな嘆息を零すグリンシュだ。


「そうですね。発見されて、手当てされているかもしれませんね」

「そうだよ」

 落ちかけていた気持ちが、持ち直した。

「やっぱり兄妹ですね。因縁つけた相手を、ほっておくなんて」

「お兄ちゃんも?」

 リュートと同じと知って、眉を潜める。


「入学して早々に、何人もの生徒に、因縁をつけられていたようですね。先生たちに発見されて、負傷した生徒が、よく保健室に担ぎこまれていましたから。リュートで懲りて、ミントに仕掛ける生徒も、少ないとは思いますよ。リュートによって、ケガを負った生徒は、数多くいますから、その生徒たちの話が伝わって、そうバカな生徒はいないと思いますよ」

 滑らかな舌で、当時の様子を語った。


 リュートが一、二年生の頃、リュートによって、負傷させられた生徒が、数多く現れ、忙しい日々を送っていたのである。


「じゃ、今日は、そのたまたまのバカに、出くわしただけか」

「そうね。困った皆さんたちね。自分の身体を、大事にしないと」

 どこまでも、のんびりしたカテリーナだった。

「これからも、あるかな」

「あるでしょうね」

 鮮やかな手早さで、グリンシュがケーキをサーブしている。


「〈法聖〉リーブの子供だなとかさ、リュートの妹だなって言ってくるのって、面倒臭いのよね。ホント、やになっちゃう」

 今後のことを巡らせ、剥れ始めている。

「大変ね、ミントちゃん」

 他人事のような口調である。


「暖かいうちに、飲んでくださいね。まだ、お菓子はたくさんありますから」

 グリンシュが、手が止まってしまった二人を促した。


読んでいただき、ありがとうございます。

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