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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第3章 それぞれの休日
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第59話

 地下に下りる階段を、薄明かりの中で、迷うことがなかった。

 慣れた足取りで、リュートが降りていく。


〈第五図書館〉の地下は、強大な書庫になっており、上にある本より、さらに貴重な本が所蔵されていた。

 地下二階まで存在し、生徒の出入りが、禁止されていたのである。

 時折、訪れていたリュートは、ビブロスと親しくなり、出入り禁止となっている書庫で、読書させて貰っていたのだ。


 歩くたびに、床の埃が舞い上がる。

 ビブロスでも、あまり地下の書庫に、足を踏み入れることがない。

 そのために、空気が悪く、長時間、ここにいると、喉が真っ赤に腫れたこともあったほどだ。


「やけに今日は、頼まれるな」

 これまでの行動を、振り返っていた。

 朝のカーチスから始まり、いろいろと頼まれ事を、請け負っていたのだ。

「何でだ」

 やや不貞腐れ気味なリュートだった。

 けれど、真面目に頼まれた事をこなしている。


 書庫では、年代物の本が痛まないように、僅かな灯りしかない。

 そうしたところで、ラジュールが借りた本が置いてあった場所を探していた。


 ここには、表に出ないような禁忌の本や、より古い年代の貴重な本が、ずらりと並んでいたのだ。

 そんなひんやりとする、静かな場所で、自由気ままに、読書をするのが好きだった。

 暇な時に、自分の屋敷にもない、古い本を、ここに来て、長時間読んでいたのである。


「あっ、これ読んだな」

 臙脂色の本を取り出し、表紙にある埃を、サッと拭き取る。

『古代ルーンと悪魔親族語』と、書かれていた。


(随分と、埃がかぶっていたな。何年も、読まれた形跡がないな)


「ここにも、あったのか。結構、面白かったのにな」

 『古代ルーンと悪魔親族語』の本は、自分の屋敷に所蔵されており、すでに読んでいたのである。


 いつも傷が絶えず、あまり外に出なかったリュート。

 屋敷の中で、膨大な量の本を読み漁っていたのだった。

 屋敷にある大概の本は、すべて読んでしまい、他の図書館にある本も、大概屋敷にあった本が多く、屋敷にない本が、〈第五図書館〉に数多く揃っていたのである。

 だから、この〈第五図書館〉が、好きだったとも言えたのだ。


「また暇な時、来るか」

 小さく笑った。

 手にしていた『古代ルーンと悪魔親族語』を、元の場所に戻し、ラジュールが借りた本の場所を探し始める。

 すると、次の書棚に、二冊とも収まった。

「それにしも、ここは変わらないな」




 魔法科七年生のアニスは、数冊の本を携え、緩やかな歩調で、〈第五図書館〉へ足を進めていた。

 アニスは、リュートたちの隣のクラスB組に所属している。

 カーチスの彼女カレンとは、同じサークルに入っている友達同士だった。

 少し前の出来事で、リュートたちと、接点ができていたのであった。


 到着した〈第五図書館〉へと、入っていく。

 よそ見せず、ビブロスがいるカウンターへ足を運ぶ。


 慣れない人ならば、司書ビブロスを、瞬間的に見ただけで、怯える仕草を窺わせるが、通い慣れたアニスは、全然、怯える様子も表さない。

 どちらかと言えば、久しぶりの友人に会え、楽しそうな表情と言ってもよかった。

 訪れるたびにカウンターで、読書を楽しんでいて、それはアニスにとって、見慣れた光景だった。


「こんにちは。ビブロス先生」

 穏やかなアニスに声をかけられ、視線を僅かに上にあげた。

 通い慣れた生徒でも、ビブロスに声をかける生徒が少ない。

「久しぶりだな。練習じゃないのか」


 ピアノが得意で、音楽コンクールの本選を、間近に控えていたのである。

 学院内の音楽コンクールではない。

 もっと大きな規模の音楽コンクールで、国中から予選を行って、本選に出場できるコンクールだった。

 それを把握していたので、練習に打ち込んでいるものかと抱き、当分の間顔を見せないだろうと踏んでいたのだ。


 アニスの柔らかな頬が上がった。

「返すのを、忘れていて」

「いつでも、構わんのに」

 以前、アニスが借りていった本に、視線を移した。


 特別に、ビブロス個人が、貸した本だった。

 魔法関連の本ではない。

 まして、得意な音楽関連でもなかった。

 見られないように、本にカバーが掛かっていて、表題が隠されている。


「そんな訳にはいきません」

「そうか。律儀なやつだ」

 口角が上がっているビブロス。

 数冊の本を、受け取った。

 用意してあった、新たな一冊の本を前に出した。

 いつ来ても、いいように用意してあったのである。


「ありがとうございます」

「気分転換を兼ねて、閲覧していけ。少しぐらいは、時間あるだろう? 気持ちも改まって、いい演奏が弾けるんじゃないのか?」

「はい。そうします」


読んでいただき、ありがとうございます。

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