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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第3章 それぞれの休日
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第57話

 隙を狙って、漁師の家を飛び出し、家から飛び出し追いかけてきた怪しげな男たちを、別々に分かれ、撒いていった。

 以前、休憩していた階段まで辿り着く。

 僅かに、トリスが先についていたのである。

 その顔に、疲れが滲んでいたのだ。

 そして、同じようにセナも、全身に疲れが生じている。


 ずっと、走り通しで逃げていたせいもあり、階段の場所に到着した時は、肩で息をしている状態だった。

 だいぶ落ち着きを取り戻したトリスが、まだ息の荒いセナに視線を移す。

 頬が赤らんだ様子で、身体を丸め、自分の膝に、手を置いている格好をしていた。


「大丈夫か?」

「……」

 視線だけを、トリスへ傾けた。


(こんなに、回復力が違うの?)


 明らかに、二人の回復力に、違いがあった。

 負けたような気がし、悔しさでいっぱいだ。

「無理するな」

 まだ、肩で息をしているために、口が聞けない。

 大丈夫と訴えかけていたが、荷卸しのバイトより、疲労度が滲んでいたのだ。


「ちょっと、ここで待っていろ」

 取り付く暇もなく、トリスが駆け出していた。

 数分後に、水筒を手にし、戻ってくる。

 すでに、セナも話せるほど、回復していた。

 冷たい水が入った水筒と、トリスの顔を見比べる。


「飲め」

「……」

「ただの水だ」

 同じように、疲れているはずのトリスが、自分を気遣い、市場へ行き、水を貰ってきたのだ。

 不甲斐なさに、居た堪れず、顔を顰めてしまう。


「酒が、よかったか?」

「水で、いい」

 乱暴に、水筒を奪い取り、ごくりと飲んだ。

 カラカラに渇いた喉を、柔らかな水で潤す。

 喉から入った冷たい水が、身体全体に広がっていくようだった。


「残りのバイト代、じいちゃんに貰ってから、渡すけど、それでいい?」

「……いらない。失敗したのに、貰える訳ないじゃない」

 か細い声音が、さらに萎んでいった。

「失敗? 成功だよ」

 沈んでいるセナを、きょとんした顔で眺めている。

 意外な言葉に、訝しげる。


「どこが、成功なのよ。地図千切れちゃうし、取られちゃったじゃない?」

「大丈夫。千切れても、取られても」

 平然とした顔を、覗かせていたのだ。

 セナの眉間に、何本のしわが浮かんでいる。


「どういうこと?」

「俺たちの仕事は、本物の地図か、どうか、調べること、実際に、本物だったけどね」

「だったら……」

「だから、本物と、贋物をすり替えておいた」

「はぁ……、いつ? そんな真似したのよ」

 不信の眼差しを注いでいる。

 ニコニコとした顔を滲ませていた。


「見つかって、すぐに」

 まだ理解していないセナ。

「チラッと、セナが見た時は、すでにすり替えておいた」

 悪気もなく、ケロッと吐露した。


 愕然と、ヘラヘラと笑っているトリスを窺う。

 驚愕と、困惑の顔が、混じったセナとは違い、仕事が大成功したと、トリスがホクホク感を垣間見せていた。

 疲れていた身体が、思考回路が回復していき、驚愕に目を見開いている。

 改めて、自分はトリスに騙されていたと、苦虫を潰していたのだった。


「相手に、渡ったのはフェイクな地図さ。あの地図を使っても、何も、見つからないだろうね」

 のん気に、漁師の家の方へ、視線を巡らせる。

「……でも、漁師が、気づくんじゃないの?」

 不貞腐れ気味に、吐き捨てた。

「その辺も、大丈夫」


(何が、大丈夫よ)


 口を尖らせているセナに、口角を上げているトリスだった。

 ますます胸を張っている仕草が、腹立っていたのである。


「何せ、この地図、全部で四枚あるんだ。その四枚の地図を、揃えないと、この地図を解読することができない。いくら本物でも、一枚では、役に立たないってこと。あいつらは、この一枚の地図で、獲物を手に入れられると、思っていたみたいだし、それにフェイクな地図は、本物と狂いもなく、いいでき栄えにできているから、大丈夫だと思うよ。だから、今回の仕事は、成功。セナが落ち込む必要はなし」

 滑らかに語る姿に、段々と、セナは顔を伏せ、暗くなっていく。

 仕事が予想よりも、上手くいったことを、一人で喜んでいるトリス。


「……また、私を騙したのね……。それで笑っていたの?」

 暗いセナに、ようやくトリスが気づく。

 そして、物凄く怒っていると、察するのだった。

 ちょっと、やり過ぎたかと頭を掻いた。

 けれど、その顔に、反省の色がない。


「セナに全部話したら、向こう側に、バレる恐れも、あるだろう?」

「どういうことよ?」

 半眼しているセナ。

 睨まれた方は、居心地の悪さを感じている。


「聞いているでしょ? 言いなさいよ」

「どのくらいの演技力があるかって。セナの演技力を、知らないし、基本的に、演技には、どこか、ボロが出るからね。あの真剣さは、なかなか難しいぞ。知らなかったからこそ、地図を手に入れようと、必死に戦えたんじゃないのか? 俺たちが、必死に、地図を得ようとしていたから、あいつらだって、地図が本物だと、今頃思っているはずさ。手に入れた時よりもさ。一石二鳥って、もんだろう」

「……信用してないのね」

 顔を、いっこうにあげない仕草に、嘆息を漏らした。


(意外と、気にするタイプなのか……)


「リュートにも、言わないぞ」

「嘘でしょ」

「本当だ」

「嘘よ」


 まだ、俯いた顔を、あげようとしない。

 困ったなと、トリスが首を竦めていた。


「その時の、仕事の内容にも、よるけど、詳しく話さないで、つき合わせたことだってある。今回のセナのようにな。俺たちには、時に本物の芝居も、必要な時がある。だから、俺はセナに話さなかった。話せば、どこかで、穴が出るからな」

「……リュートを、信用していないの?」

「信用してるかな。腕もいいし、何より、あいつといて、楽しいからな。で、セナのことも、信用してる。でも、仕事では、俺の流儀を通させて貰う」

 双眸の奥に、揺るぎない意思を感じていた。


「……」

「今後もな。これが俺の流儀だから」

「……」

「俺は、そういう人間なんだ」

「リュート。よく怒らないわね」

 顔を上げたものの、視線が伏し目がちだ。


「付き合いが長い、幼馴染だからな」

「……いいわね。二人の関係、言葉にしなくっても、通じるなんて」

「でも、理解不能な時もあるぞ」


 トリスがあっけらかんと笑っていた。

 それにつられるように、セナも笑ってしまう。


読んでいただき、ありがとうございます。

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