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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第3章 それぞれの休日
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第56話

 トリスとセナは、港近くの階段で、休憩を取っている。

 荷卸しのバイトで、セナが体力を使い、だいぶ体力を失っていたのだ。

 黙ったまま、セナがお菓子を食べている。

 呆然と、トリスが眺めていたのだった。


 待っていたトリスが立ち上がる。

 ここに来る前に、セナはバイト先に事情を話し、それまでのバイト料を貰って、やめてしまった。

 買って、食べていた糖分の高いお菓子を、体力が落ち込んでいたセナに渡し、少しでも、体力が回復するように促したのだった。


「そろそろ、大丈夫だろう?」

「えぇ」

 トリスに続いて、セナも立ち上がった。


 身体は万全とは言えない。

 だが、貰った糖分の高いお菓子で、八割方身体の疲れが癒えていた。


 休憩の間、密かに、セナの顔色を窺っていたのである。

 疲労の色が薄れてきたところで、声をかけたのだった。

 自分を観察していたなんて、体力の回復に努めていたセナが、気づく様子もない。

 平然とした仕草で、トリスはただ正面に見える、広大な海を、黙って眺めていたとしか映っていなかったのである。


「ところで、仕事の内容は?」

 含みがある笑みを零しているトリス。

 不意に、怪訝そうな視線を、セナが注ぐ。


(トリスの仕事、引き受けない方が、よかった?)


 仕事の内容を、休憩している間も話さなかった。

 お菓子を食べながらも、怪しい仕事なのではと、頭を掠めていたが、三倍と言う響きが、どうしようもなく、惹かれてしまったのである。

 引きつり気味なセナの表情に、やれやれと巡らすトリスだった。


(随分と、警戒しているな。そんなに怪しい仕事じゃないのに)


 ただ単に、お喋りとかで、体力を使わせようとしなかっただけだ。

 とにかく、糖分の高いお菓子を食べさせ、回復するようにしただけだった。

 それが講じて、落ちていた体力が、回復していったのである。


(一応、体力がいるかもと思って、回復させたかっただけなのに、疑り深いな、セナは)


 やや誘ったことを、少しばかり後悔し始めていた。

 少しでも、幽霊騒動の際に、脅かしたことを、埋め合わせしようかとした行為だった。


「もう話してくれても、いいでしょ?」

「そうだな。仕事の内容は、簡単だ」

 じっと、胡乱げな眼差しを、セナが傾けてくる。

 それに対し、トリスの表情が変わらない。

「ただ、漁師が隠し持っている地図を、見てくること」

「何、それ」

 簡単な仕事内容に、目を見開く。


(一人でも、できる仕事じゃない? 何なの? もしかして、私を試しているの?)


 そんなくだらない内容で、バイト代の三倍とは思えなかった。

 もっと、危険を含む仕事内容かと、巡らせていたのだ。

 段々と、訝しげな顔を覗かせる。

 何かあるのではと、勘ぐっていた。


(うわっ。セナのやつ、疑っているぞ。素直に考えられないのか)


「いい加減なこと言わないで。さっさと話してよ。信用していないの?」

「そんなことないよ。ちゃんとした仕事だよ」

 素直に、鵜呑みにできない。

 ムスッとした顔で、トリスの顔を睨む。


(地図を見るだけ……。本当に? そういう仕事なの?)


 どこが、おかしいの?と言う顔に、セナの頬が引きつり始めていた。

「嘘でしょ?」

 まだ、半信半疑だ。

 以前に、痛い目に合っているセナは、心底信用できない。

 また、自分を騙し、遊ぼうとしているとしか、思えなかったのである。


 脳裏に、手付けとして、貰ったお金が掠めた。

 一日貰う分の、荷卸しのバイト料と、同じ金額を貰っていたのだ。

 疑心暗鬼な表情を垣間見せるセナ。


 頭を掻いているトリスが、小さく笑っていた。

「ホントだよ。ただ、その漁師は、普通の漁師じゃないけど」

「普通じゃないって、どういうことよ」

 眉間いっぱいに、しわが寄っている。


(最初から、言いなさいよね)


 不満げなセナをほっとき、太陽の位置を確かめる。

「時間が勿体ない。とにかく行こうか」

「ちょ、ちょっと……」

 呼ぶのも聞かず、トリスは背を向け、歩き始めてしまった。


 しょうがないとばかりに、その後に、大丈夫なのだろうかと、不安ながらも着いていく。

 何度も話しかけようとしたが、セナはなかなか喋るきっかけを失っていた。

 黙ったままのトリスの後を、不安そうな顔を滲ませ、歩いていたのである。




 港近くにある、古ぼけた一軒の小屋のような家に、二人が辿り着いた。

 周囲に、ぽつんと小屋のような家しかない。

 他に、全然、何もなかった。


 その家と、二人の間に、いくらかの距離がある。

 悟られないように、距離を置き、周囲の様子を窺っているのだ。

 小屋のような家は、さほど大きくはない。

 小さい家に、珍しく出入り口が二つあった。


「珍しい造りね。小さい割に、出入り口が二つなんて……」

「さすが目の付けどころ、悪くないね」

「バカにしてる?」

「いや」

「嘘」


 ジト目を注いでいるセナ。

 散々、バカにされてきたからだ。


 遊びとは言え、トリスを含めたリュートたちは、実戦をしているようなものだった。

 そういった面で、最近、劣っていると、セナ自身、痛感させられていた。

 下に見られた感が否めない。

 ただ、不服そうに睨めつけた。


(被害妄想気味だな、セナのやつ)


 困ったなと、トリスが首を竦めている。

 先ほど発した言葉を、素直な吐露だったのだ。

 到着したトリスは、早速、目的の家や周囲を観察しているセナを、窺っていたのである。

 その優秀さに、ただ感嘆し、自然と浮かんだ言葉を口に出しただけだった。

 納得していないセナに、やりすぎはダメだと心に刻む。


(何で黙ったまま、こっちを見たままなのよ。今度は何?)


 同級生に、自分を試されているようなことをされるのは、気分がよくない。

 『十人の剣』としての矜持があった。

 次は、負けないと、トリスやリュートと一緒にいながらも、警戒を怠らないようにしていたのである。


「そういうところに、気づかない人って、多いよ。出入り口、二つと言っていたけど、正確には三つ。壁に見えるけど、あれ隠しドアに、なっているから」

 周囲に気づかれないように、サッと、隠しドアを指差した。

 どう見ても、壁にしか見えない。


「この距離じゃ、無理もないけど」

「どうして、わかるの?」

 探るように、トリスのことを窺っている。


「散歩して、見つけた」

「散歩?」

 散歩しているように装いながら、昨日のうちに、家の造りや、何かトラップが仕掛けられてないか、密かに確かめていたことを語った。


「さっさと、言いなさいよね」

 半眼しているが、どこ吹く風のトリスだった。


 家の周囲に、トラップが仕掛けられていない。

 人気が薄いとは言え、漁師の住人は、トラップを仕掛け、周囲に変に気取られないようにしていた節があったのだ。

 他の住民たちに、怪しまれないように細心の注意を払っていたのである。


「随分と、念入りに、調べていたのね」

「まぁね」

「じゃ、聞くけど、この時間帯は、大丈夫なのね」

「勿論」


 わりと、自信がある言い方を、気に入らないとセナが抱く。

 ますます実力に、開きを感じずにはいられない。


 僅かに顔を曇らせていることに、トリスが気づかず、さらに話を進めていく。

「漁から戻って、あっちの浜辺で、明日の仕掛けを作っている最中だよ。だから、一応大丈夫かな。ただ、何があるかわからないけど」

「そう」

 そっけなく返事を返した。


「ここを訪ねてくる人は?」

「いる時を見計らって、来る人たちはいるよ」

「それ以外は?」

「この辺の人たちも、今の時間帯は、あっちだろうって、浜辺に行く。でも、挨拶程度しか、会話していないから、深い付き合いはないだろうね」


「ドアのカギは?」

「しまっている」

「すべて?」

「勿論。それも、わりと簡単そうに見えて、難しいカギだね」

「そう……」

 段々と、セナの顔が、引き締まっていった。

 ただの漁師に過ぎない男が、こんなに警戒することはないからだ。


「何をしているの?」

 無駄な会話をしない。

 単刀直入だ。

「表向きは、漁師。でも、裏では、密輸とか、危ないことを、いろいろしている」

 眉を潜めていくセナ。

「危険が、いっぱいな訳ね」

 嘆息を吐いた。


(とても、厄介な仕事ね)


「そういうこと」

「私は、どうすればいい」

 神経と研ぎ澄まし、セナが周囲をグルリと見渡している。

 先ほどまでの、トリスへの警戒心がない。


「俺の背後にいて、何かあれば、よろしく。離れた場合の落ち合い場所は、街の土産屋か、さっき休憩していた階段ってことで」

 余計なことを、トリスも口走らない。

「わかった」

 常に、携えている剣の位置を確かめる。

 いい顔つきに、トリスはさすがと口角を上げていた。


 警戒しながら、目的地の家に近づく。

 普段から人気が少ないために、距離が離れたところで、数人の中年のおばさんが、立ち話をしている程度だ。

 会話まで、はっきりと聞き取れない。

 夢中で話しているようで、家に近づくトリスたちの存在に、気づいていなかった。




 細心の注意を払いながら、二人が家の中へ入り込む。

 綺麗な家とは、言いがたかった。

 家の中は、いろいろなものが溢れ、散乱している状況だった。

 その状態を、崩さないように歩いていった。


 緊張した面持ちで、セナが進んでいく。

 足下を気にするのは、住人に入られたことを気づかれないためだ。

 前を歩くトリスは、軽快な足取りだった。

 素早く、物の位置をずらすことなく、飄々と歩いていく。

 物怖じしない仕草に、驚きが隠せない。


「いつから、こんなことしてるの?」

 手馴れている様子に、初めてではないと巡らせていた。

 散乱している状態のところを歩くのに、躊躇もないのだ。

「入学前からかな」

「はぁ」

 意外な返答に、驚嘆の色が滲み出る。


「驚くことじゃないよ」

 自分の背後で、セナが眼光を鋭くしている姿が想像できる。

 思わず、クスッと笑みが零れてしまった。


「知らなかったっけ?」

「何を?」

「俺のじいさん、盗賊なんだよ。一応、名前が知られているほどだけどね」

「……知らなかった」

 抑揚のない声音だ。


 まさかトリスの祖父が、名の知れた盗賊なんて、思っても見ないことだった。

 でも、言われてようやく、トリスの情報収集力や、トラップの仕掛けなどの鮮やかさに、納得せざるを得なかった。


「でも、俺の母さん、じいさんの手伝いしていること、いい顔しないから。これ内緒な」

「いいけど」

 困惑が隠せないセナだ。


(普通、そういうこと、あっさりいうことなの? 言わないと思うけどな)


「母さん、じいさんの仕事、嫌いでさ。俺たちが、連絡していることは、薄々感じているらしいけど、………予想以上に、汚い家だな。どこにあるやら」

 物の位置を、ずらすことなく、手早く探していく。

 躊躇いの欠片もないぐらいに、トリスが手を動かしていった。

 その手際のよさに、驚嘆するしかない。


「どんな地図なの? 私も探す」

「黄ばんで、汚いボロボロの地図」

「どういう地図なのよ」

 眉間にしわを寄せている。

 できるだけ、物を動かさないように探していく。

 けれど、物が乱雑に溢れ、どう動かしていいのか躊躇い、何度も手を止めてしまった。


「以前、栄えていた貴族の隠し金。今は、没落しているけど」

 目を見張るセナ。

「……大丈夫なの? その地図」

「大丈夫だよ、信用できる地図だよ」

 聞けば、聞くほど、信用できないでいる。


「じいちゃんが、調べたからね」

「……」


(おじいちゃんを、随分と、信頼しているのね)


 ふと、数人の足音が、耳もとに届いてくる。

 瞬時に、顔を見合わせた。


 言葉を交わさず、緊張の面持ちで、セナが剣を構える。

 緊張の欠片も、垣間見せないトリス。

 ただ、地図探しのペースを速めた。

 段々と、近づく足音。


(ヤバい、すぐ近くまで来ている)


 突然、足音が、駆け出してきたのだ。

 足音を出していた主たちは、気づいたのである。

 出入り口辺りに、僅かに残る足跡に。


「トリス」

 焦り気味な声音で囁いていた。

 すぐ目の前まで足音がし、そしてピタリと止まった。


(来る!)


 緊張が、ピークに達している。

 少しでも、緊張を解こうと、息をゆっくりと吐いた。


「あった」

 チラッと、トリスの方へ視線を傾ける。

 手にしていた地図を、視界の先に掠めただけで、セナが足音の主たちが、飛び込んで来るだろう出入り口に、全意識を集中させた。


 足音の主たちは、出入り口、すべてに配置されていた。

 それを、ただならぬ殺気で、セナが感じ取っていたのである。

 ゴクリと、つばを飲み込む。


「!」

 三つあるドアから、それぞれに家の中に、侵入してくる怪しげな男たち。

 怒涛のような勢いに気後れず、きりりと引き締まった顔で、襲ってくる男たちを、セナが順に倒していく。

 無駄のない動きに、今度はトリスが驚嘆する番だ。


(セナを連れてきて、正解だったな)


 自分に向かってくる男たちの攻撃を、慣れた体術で交わしながら、軽やかに出入り口へと進行していった。

 怪しげな男たちが、必死の攻撃を加えてくる。

 人数の差で、勝っていると、高を括っていた男たちが、素晴らしい動きを窺わせる二人に驚愕し、余裕もなくなっていった。


 ただ、闇雲の攻撃を、仕掛けていくようになっていく。

 そんな躍起になっている攻撃に、冷静に対処していき、二人のペースに持ち込んで、圧倒的な攻撃を仕掛け、次々と倒していったのである。

 残っている男たちが、後、僅かだ。

 さらに、焦り出す怪しげな男たち。


 体術を駆使し、トリスが三人の男たちの攻撃を交わした。

 ダガーや呪文は、使わない。

 ただ、体術のみで、応戦していく。


 そのうちの一人の男が、攻撃を受けながら、トリスが手にしている地図を鷲掴みする。

「!」

 顔を覆う下から、驚く目を滲ませるトリス。

 二人の男の攻撃を交わしながら、互いに地図を奪い合っている。


 蹴りやひじを入れるが、大きなダメージにならない。

 男たちの方も、地図を奪われないために、必死なのだ。

「よこせ」

 鷲掴みしている男が、吐き捨てた。

「……」

 互いに、地図を引っ張り合う。


 剣で、敵と応戦しているセナ。

 トリスに加勢をしたくても、できない。

 二人倒し、四人と対戦している最中だからだ。


 次の瞬間、互いに奪い合っていた地図が、二つに千切れてしまう。

「!」

 互いに、手にしている地図を見る。


 トリスに攻撃を加えていた男たちが、手を緩めない。

 千切れてしまった大部分の地図を手にした男が、ニヤッと、汚らしい笑みを覗かせている。

 トリスの手の中に、切れ端しか残っていなかったのだ。


「引け」

 瞬時に、トリスが大声で、戦っているセナに叫んだ。

 その叫び声で、トリスとセナが、家から飛び出していった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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