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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第3章 それぞれの休日
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第53話

 ラジュールから頼まれた本を、〈第五図書館〉に返しに行く途中で、リュートは魔法科のクラスメートだったバド・レスニーと、庭先で出くわしたのだった。

 草むらや、垣根などを、闇雲に何かを捜している様子に、首を傾げ、眺めている。


 授業に出ないリュートたちとは違い、バドは真面目に授業に参加していた。

 そして、空き時間や、休日に、リュートたちと、一緒に遊んだりしていたのだ。


「何してる、バド」

 声をかけられ、振り向くバドだった。

「ちょうど、いいところであった」

 ニヤッと、笑うバド。

 頭の中で、警鐘が鳴り響く。


 訝しげた表情を覗かせていた。

 まだ、ニヤッと笑ったままだ。

 獲物を見つけたハンターが、ほくそ笑むものと同じである。

 恐る恐るバドを窺い、警戒を怠らない。

 リュートたちと変わらない体格なのに、威圧するオーラが半端なかった。


「……何だ、バド」

「トリスは? 学院内を捜しているんだが、見つからない」


 何かを企んでいる顔に、警戒していたが、トリスの話題を持ちかけられ、自分の勘違いだったと、ひとまず安堵するのだった。

 バドは研究熱心なところがあり、その実験対象物として、クラスメートをよく使っていたのである。

 何度か、その実験対象物に、リュートも経験したことがあり、痛い目に何度かあっていた。

 どこか、ホッとしている顔に、バドは気づいてない。


「小講堂も、行きそうな森とか、捜しているが見つからない。あいつの行動範囲は、広過ぎる、捜すことも、考えてほしいな」

 憤りがこもった双眸を傾けていた。

 長い時間、捜しても、見つけることができなかったからだ。

 人に聞こうとしても、村に出かけている者が多く、庭に生徒が少なく、聞くに聞けなかったのである。

 そんな状況で、トリスの幼馴染リュートと出くわしたことで、疲れも伴っているせいもあり、文句が出てしまったのだった。


「トリス? あいつなら、外だ」

「やっぱり、そうか。捜してもいなかったからな。村まで行くしかないか」

 面倒臭そうに、バドが頭を掻く。


(研究の時間が勿体ない)


「余計な時間を、費やしたくはないが……」

 今、研究している実験が、大幅に遅れると、脳裏で時間の調整を行っている。


 フォーレスト学院の敷地内に、村は四つ点在していて、どこの村にトリスが行っているのか、皆目検討がつかなかったのだ。

 だから、その四つを虱潰しに当たるしかなかった。

 ナンパなどを目的としたブラークたちは、どこの村に行っているのかと、瞬時にわかるが、神出鬼没なトリスだけは、断定が難しかったのだ。

 思案顔を滲ませているバド。


「いっても、見つからないぞ。外って言うのは、学院の外だ」

 フォーレスト学院の敷地内は、広大で、学院や寮の他にも、大小様々な森や湖、四つの村がある。

 例えるなら、一つの独立した国とも言えたのだ。

 休日に、生徒たちも、敷地内にある村に出かけ、買い物したりして、休日の時間を過ごしていたのである。

 けれど、敷地内を出るのに、許可が必要なのだが、その許可を出さず、頻繁にトリスは外に出て行っていたのだった。


 思いっきり顔を顰めていた。

「そっちか」

「ここを捜しても、時間の無駄だ」

「そうだな」


 実験のためなら、どこへでも出かけるバドでも、さすがに敷地内の外に行くのは、困難だった。

 いくら許可を願い出ても、きちんとした理由がない限りは、許可が下りないし、まして許可を得ず、出ていったトリスを捜すためとも書けなかった。


 唸り声を漏らすバドを、きょとんした顔で眺めている。

 バドが、トリスを何かの実験に、必要としていることを察知していた。

 リュートとバドは、好きな研究に打ち込むと、夢中になるところが似ていたのである。

 だから、危険を承知で、どこかバドの実験に付き合っていたところがあったのだ。

 昔は、爆弾や花火といった、いたずら道具を、どちらが優れているものができるのかと、競っていた時期もあった。


 このままバドと別れることができず、話しかけてしまう。

「至急なのか?」

「ああ。手に入れたい薬草があってな」

「薬草か……」

 逡巡しているリュート。


 学院に、薬草園もあるが、特にA組の生徒は、トリスから薬草を買ったり、貰ったりしていた。

 それは、トリスの実家が、薬草店を営んでいたからである。

 トリスの両親は、腕白な二人に、常にいろいろな薬草を送ったり、時々顔を出すトリスに、大量の薬草を持たせていたのだった。


「今、研究している薬に、必要なんだ」

「薬草園には?」

「ない。珍しいものだからな」

 顔を曇らせながら、バドが嘆息を漏らした。


(確かに、研究に必要なら、ここにないかもな)


 最近、高度な実験をしていると、誰かから話を聞いていた。

「そうか。俺が持っているものは、どこでも手に入るものばかりだからな」

 熱心に研究を続けているバドと違い、今現在は、研究や実験をしていなかった。

 毎日、剣術の稽古に、明け暮れていたからだ。

 研究や実験用の薬草を、補充していなかったのである。


「休日が終わったら、戻ってくる気は、あるのか」

「知らん。いつ戻ってくるとも、言っていなかった」

「と、なると……休日が明けても、戻らない可能性もあるな」

「ああ」

 単純に、リュートが答えた。


 ふと、伏せていた顔を、バドが上げる。

 いいことを思いついたといった顔を覗かせていた。

 鷹揚な雰囲気を、醸し出していたのだった。

 そして、のほほんとしているリュートを見つめている。


「お前たちのことだ、トリスと、一応連絡は取れるだろう?」

「……取れるが。なぜ、俺を使う?」

 表情が、見る見るうちに曇っていく。

「だって俺、トリスとの連絡方法、知らないぞ」

「……」


 普段だったら、誰もがトリスが外に出て行ったと言えば、引き下がった。

 だから、この先の会話が、続いたことがなかったのだ。

 外と聞けば、話が終わるため、誰も連絡を取ったことがない。


「知らない人間には、できない」

 連絡を取るのは、当たり前と言う尊大さが出ていた。

「……教える」

「別にいい。今のところは」

 教えると言う行為を、あっさり断った。

 慣れているリュートが連絡を取った方が、手っ取り早いと、判断したからだ。


「後々に、必要なるかも知れないから。その時は、教えてくれ」

「……わかった」

 憔悴した双眸を滲ませていた。

「頼む」

 数種類の薬草が書かれたリストが渡される。


(やけに、今日は頼まれ事が多いな)


「そう言えば、相変わらず、一番だったな」

「んっ?」

 きょとんとした顔で、ニコニコと笑っているバドを窺う。

 何を言っているのかわからなかった。

「テストだよ。この前の」

「ああ」

 テストと言う響きで、ようやく合点がいく。


 魔法科の実力テストは、リュートの中で、気にかけている存在ではなかった。

 ただ、魔法科にも、所属していることが条件だったから、軽い気持ちで、受けたに過ぎない。

 そんな心境でも、魔法科の実力テストで、トップを取ったのだった。

 だからと言って、魔法科の所属していた時に、熱心だったかと言うと、そうでもない。

 担任から、テストを受けろと言われたので、受けたに過ぎなかったのである。


「一番は、変わらないと思ったが、以前と変わらずに、点数がパーフェクトだったな。剣術科に行ったから、点数が、少し落ちるかと思っていたが」

 遅れて試験結果を見かけた時のことを、思い出していたのである。

「そうだったか」

「そうだ。剣術科でも、中盤の位置だってな」

「ああ」


 魔法科で一番よりも、剣術科で中盤の位置にいたことを、誇らしげにいている姿に、バドはほそく笑んでしまう。

 剣術科での結果は、魔法科で噂になったものを耳にしただけだった。

 だから、正確な順位も、点数も知らない。


「バドは?」

「俺か。研究に夢中になり過ぎて、点数が落ちたな。順位は変わってない。お前に続いて、二番だ。三番はクラインだ」

 あっけらかんとした表情を、バドが覗かせていた。


 ここ最近のテストにおいて、三人の順位は、常に定着し、動くことがない。

 数年間、変わらず、一位がリュート、二位がバド、三位がクラインだった。

 四位以降の順位が変動し、いつも入れ替わっている状況なのである。


「そうか。いつもと、メンバー変わらないな」

「俺と、クラインは僅差だったぞ。確実に、クラインは上がってきているな」

 他人事のように、自分とクラインの差が、段々となくなってきていることを、バドが語ったのである。

 リュートと同じように、あまりテストの順位を、気にするようなタイプではない。

 ただ、研究し、新しい薬品や、魔導具を開発したりすることが、好きだった。


「そうなのか」

 目を見開くリュート。

 三人の順位は変わらないが、三人の間に、点数に開きがあったのだ。


「寮の部屋も、一緒にいるのに、気づかないのか?」

 自分よりも、興味のなさに、バドが呆れている。

「確かに、図書館に行ったりしているようだな」

 つい最近のクラインの様子を、耳にしたことを総合し、巡らせていた。


「お前は、別格としても、俺はいつか、抜かれるだろうな」

 自分が抜かれるかもしれないのに、バドが楽しそうに呟いた。

「ふーん」

「じゃ、頼むぞ。リュート」

 話し終わったとばかりに、バドが自分の部屋に戻っていった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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