表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第3章 それぞれの休日
54/401

第52話

 リュートが職員室を出て行って、二人分のレポートの採点を終えたところで、カイルがラジュールを訪ねてくる。

 快活なカイルは、生徒受けもよかった。

 ここに辿り着くまで、複数の生徒たちからの質問の対応に、追われていたのだ。

 外回りの警備を交代し、疲れを滲ませながら、カイルは学院に戻ってきたのである。

 それでもいやな顔せず、軽快に生徒たちと接していたのだった。


 背後から、カイルが覗き込む。

 生徒が提出したレポートに、何か書き込むのを感心しながら、眺めていたのである。

 細かい文字で、びっしり書いていた。

 見入っているカイルの手に、紙袋に入った焼き菓子が握られている。


「採点か。どうだ? 生徒たちの評価は?」

「大して変わらない。で、何か用事か?」

「まぁな」

 採点する手を止める。


 迷惑とも、そうでもない、どちらつかずの表情を覗かせていた。

 レポートを除き見るだけで、用件を話す様子が見られない。

 さっさと、用件を済ませ、採点に集中したかったのが本音だった。

 愛想笑いを滲ませている姿を、眉間にしわを寄せ、凝視している。


「これ」

 紙袋を、差し出した。

 紙袋を見つけた時点で、訪ねてきた理由を、大体飲み込んでいた。

 それ以外の用件も、あるかも知れないと、あえて口にしなかった。

 手に持っている紙袋を、ラジュールが胡乱げに漆黒の双眸で捉えている。


「グリンシュからだ。研究と採点で、何も、食べていないだろうからってさ」

 グリンシュは、学院の保健士をしているエルフ。

 人よりも寿命が長く、長い月日を、学院で保健士の仕事をしていた。

「そうか」

 そっけない返事をし、カイルの手から、紙袋を受け取る。


 二人は科が違うが、フォーレスト学院を卒業した、同期組の親しい友達だった。

 そして、リュートの母親リーブも、同期組の一人で、在籍していた当時は、いつも一緒に遊んでいた仲間だったのである。

 学院で教師をしている面々にも、まだ同期組の親しい友達が、たくさん残っていた。


「的確に、評価を書き込んでいるな。放任主義化と思えば……」

 呆れと、感心が混じった言葉が漏れていた。

 レポートの評価を、余白に、詳細に書かれていたからだ。


(細かっ! 戻ってきたら、この評価では落ち込むな)


 出掛かった言葉を、飲み込む。

 辛辣に、指摘が書かれていたのだ。

 生徒に対しても、容赦ない性格を把握していた。

 それに余計なことを言って、降りかかる恐れがあったからだった。

 担当は、ラジュールであり、自分ではないと、心得ていた。

 コメントを読み終わると、無表情でいるラジュールに、視線を移した。


「俺なんて、点数と一行のコメントが、あるかないかだ」

「人、それぞれだろう」

「ま、そうだな」

「けど、少な過ぎだな。一応、自覚は持て」

 さりげなく、注意を施した。


(うっ。まとも過ぎて、言い返せない。……でも、何か癪だな)


「で、でも、渡す時に言っている。だから、プラマイゼロだろう」

 渇いた笑いを漏らしているカイルを、ラジュールが目を細め、窺っている。

 ふと、受け取った紙袋から、暖かさが、手に伝わってきていた。

 冷めないように、焼き立てを、届けに来たのだった。


(律儀だな、相変わらず。自分が食べる前に、届けにくるとは)


 何も聞かずとも、カイルの行動パターンを読んでいたのである。

 今すぐに届けてほしいと頼まれたものではない。

 実際、カイルの分も、しっかりと用意されていた。

 だが、自分が食べるよりも、先にラジュールに届けに来たのだった。

 自分のことよりも、他人を気にかける性格に、損なことをしていると呆れてしまう。


 思考が、カイルの言葉で途切れる。

「評価を書くのもいいが、メシぐらい、ちゃんと食えよ」

 時間がないと、食事を抜くクセが、昔からラジュールにあった。

 それは学院で生徒をしていた頃からで、勉強や研究に熱心に取り組むために、食事の時間を削り、その時間を勉強や研究に、少しでも当てていたのである。


「時間が、勿体ない」

 当然のことだと、自信が溢れている顔に、カイルが溜息を漏らした。

「お前な……。寝る時間をとるのに、どうして食事の時間を削る」

「食事を二、三日取らなくても、死にはしない」


 表情一つ変えない。

 間違ったことは言ってないと言う顔つきだ。

 身体を案じるカイルも、譲れない。

 旗から見ると、睨め合っているかのようだった。


「食事は、身体の資本だ」

「知っている」

「だったら、気をつけろ」

 互いに、持論を譲る気になれない。

 似たような、押し問答を繰り返している。

 鋭い眼光が、ぶつかり合っていた。


 鬱陶しいと、早々に感じ始めたラジュール。

 その用件は終わったとばかりに、言い合いを打ち切り、紙袋に入っている焼き菓子を、無造作に食べ始めた。

 美味しそうな香ばしい匂いにつられ、ラジュールが手にしている紙袋から、焼き菓子を一つ拝借し、カイルも食べる。

 外回りの警備で、限界をすでに達しっていたのだ。

 だが、何も食べてないと予測できるラジュールに、届ける方が先決だと抱き、空腹を我慢し、訪ねてきただった。


「上手いな、相変わらず」

「ああ」

 黙々と、焼き菓子を食べる二人。

 香ばしい匂いを、職員室に漂わせていた。


 二人の性格を把握しているグリンシュは、しっかりと二人分を紙袋に詰めていたのである。

 少食そうな顔に似合わず、ラジュールは食べる時は、食べるのだ。

 不意に、目を細め、黙々と食べているラジュールを窺う。

「リュートは? どうだった?」


 魔法科での成績を尋ねたのだった。

 魔法科でトップだったと把握していたが、詳細な内容を知りたかったからだ。

 魔法科での成績に、影響を与えると、魔法科の担任ラジュールに迷惑が掛かると、気にかけていたのだ。


(そのことを聞きたくて来たのか。心配し過ぎだ)


「……パーフェクトだ。要点が、しっかりとまとまっている。くだらない書き込みは、一切ない。ミス一つもない。提出したレポートも、簡素に、要点がまとまって、読みやすい」

 実力テストと、提出させたレポートの評価を、淡々と語っていった。

 無駄な肉付けもなく、要点がしっかりと、まとまっていたのだ。

 減点一つ付けられない代物だった。

 ラジュールが担任となった時より、変わらない評価である。


「こっちで、身体使わせているから、評価が落ちたら、悪いなと思ってな」

 頭を掻きながら、その目が泳いでいる。

 移ってきたばかりのリュートが、ばてるほどの体力を使わせたと言う自負があった。

 ひっそりと、夜中に寮を抜け出し、リュートたちが、何かをしていたことに気づいていた。


 自分の授業を受けているにもかかわらず、夜に寮を抜け出し、遊んでいる姿に大人げなく、いい根性していると、闘志が燃え上がってしまった。

 そして、長年剣術科で学んでいる生徒でも、ばてるほどのメニューを、授業や課題でさせていたのだ。

 少しばかり気づくのが遅く、手を緩めようとした時に、大半の生徒が次々と倒れていき、今回の実力テストは、大半の生徒が、以前のテストより、成績が落ち込んでいたのである。

 その現状に触れ、魔法科での実力テストにも、影響を与えたのではないかと危惧していた。


「その心配は、要らない」

「そ、そうか」

 ホッと、胸を撫で下ろすのだった。


「あれのことだ、抜けているようで、しっかりしているところは、しっかりしているからな」

「そうか。それを聞いて安心した。これで思い存分、しごける」

「お前のことだ。手を抜けずに、しごいているだろう」

 表情が一定で変わらないラジュールが、カイルの目を窺う。

「まぁな」

 のん気に、カイルが笑ってみせた。


 もう一人、気になっている人物のことを掠める。

「で、トリスは?」

「法力が低い方だからな、上がったり、下がったりと、毎回違うな」

「そうか。しょっちゅう、こっちに来ているから、大丈夫なのか?と思ってさ」

「気にするな。伊達に、A組じゃない」

「そのようだな」


 自分の生徒ではないトリスの成績を、気にかけている性分に、昔と変わらない面倒な性格をしていると、僅かに首を竦めてしまう。

 自分のことよりも、まず他人のことを心配するカイルだった。

 親しい友達は呆れながらも、カイルらしいと気に入っている部分でもあったのだ。


 顔を顰めているのに、カイルが気づく。

「何だ? 俺の顔に、何かついているか?」

「人の心配するより、自分のこと考えろ。口にカスがついている」

「えっ? あ……、すまん」

 無造作に、口についていたカスを払った。


 真面目な顔つきになったカイル。

「そうだ。お前の指導方針に、文句をつける気はないが、授業に出る、出ないは、自由だと言う放任主義は、どうかと思うぞ。他の生徒に、悪影響を及ぼす可能性がある」

 いつか、言おう言おうと、思っていたことを口に出した。

 以前から、気になっていたのだ。

 けれど、平然としているラジュールだった。


「やる気のない生徒がいても、授業に悪影響だ。それに面倒臭い。いない方が、ラクだ」

「お前な、他の教師のことも、考えろよ」

「自分の生徒を、手懐けるのは、その教師次第だろう? 俺には関係ない」

 自分の指導方針に問題はないと、きっぱりと言い捨てた。

「お前の自分本位な性格、変わってないな。昔から」

「変わる必要があるか?」

 堂々と、胸を張る姿に、うな垂れてしまう。


「……好きにしてくれ」

「外回り終わったのだろう。だったら、俺の代わりに、夜中の警備に出ろ」

「おい」

 思いっきり眉を潜め、カイルが突っ込んだ。


「それまではゆっくり過ごせばいい。十分だろ、カイルにとっては」

「俺の睡眠は?」

「一日や、そこら寝ないでも、平気だろう。お前の頑丈な身体は? 大体、さっきの外回りの警備だって、デュランの代わりだろう?」

 何も、言い返せない。

 実際、言葉通りだった。


 デュランは、魔法科の教師で、カイルたちの同期組の親しい友達だ。

 研究で、忙しいから代わってくれと頼まれ、自分の担当時間の次に当たる、デュランの担当時間を、代理で務めていたのである。


「なら、頼む。レポートの採点を続けたい」

「……。……わかった」

 がっくりと、肩を落とすカイル。

 頼まれ、いやとは言えない性格なのである。


読んでいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ