閑話 2
第49話の後の話になります。
実力試験の結果を見に、カレンが訪れていた。
すでに結果は、友人たちから聞いていたので、把握していたが、どうしても気になって、来ていたのである。
そこに、隣にクラスで、吹奏楽部仲間のアニスが、すでに来ていたのだった。
周囲に、二人以外、誰もいない。
「アニスも、来ていたんだ」
掲示板を凝視していたアニスが振り向く。
柔らかくアニスが微笑んだ。
「カレン。カレンも、空いているのを見計らって?」
「うん。張り出された直後は、ごちゃごちゃしてうるさいからね。だから、ゆっくりと見ようと思って」
授業も終え、ほとんどの生徒が、寮に戻っている時刻だった。
そんな時間帯に、誰もいないだろうと、ここに確かめに来たのである。
小さく笑っているアニスの脇に立ち止まった。
ややつり目なこともあり、より気の強さを醸し出している。
ゆっくりとした動作で、実力試験の結果を確かめた。
(四十八位か……、ギリギリだったわね)
ホッと、胸を撫で下ろすカレンだった。
(もう少し早く、カーチスに勉強を教えればよかったかしら? でも、すぐに私を頼るからな……)
不意に、去年のことを振り返っている。
試験勉強するように促しても、後で教えてくれればいいよと言って、カーチスは試験勉強を後回しにし、遊び回っていたのだ。そのため、今回はギリギリの日程になるまで、声をかけずに無視し、カーチスから声が掛かるように仕向けたのだった。
(もう少し、やる気になってくれるといいのに……)
憂いを僅かに覗かせている姿に、アニスが苦笑している。
何を巡らせているのか、見当がついていたが、口に出さない。
フワフワの綿のように、温かく見守っていたのである。
咄嗟に、自分だけではないと抱き、伏せていた顔を上げ、いつものように明るい表情に戻っていた。
「アニスは、どうだったの?」
ニコニコとした顔を滲ませ、アニスが指で指し示す。
「あそこよ」
促された場所に、三十二位と書かれていた。
「……随分と、落ちたわね」
「音楽コンクールに、重点を置いていたから」
納得の順位だと、アニスは抱いている。
普段だったら、十五位から二十位ぐらいの位置につけていたのである。
音楽コンクールに集中するために、試験勉強をあまりしなかったのだった。
だから、順位が落ちるのは、当たり前だと納得済みだ。
そして、カレンはいつもと変わらず、二十二位だ。
いつも、二十番台の前半の位置につけていたのである。
「そう言えば、また、一位だったよ」
珍しく怯えた様子もなく、自分から話を振ってきたアニスに、微かに首を傾げるのだった。
一位と言う順位が入学以来、不動で、同じ人物が取っていたので、名前を言わなくても、誰も把握していたのである。
「ムカつく。剣術科に行ったくせに、当たり前に一位取っちゃって」
不貞腐れた顔を、カレンが覗かせていた。
友人から聞くまでは、剣術科に転科したので、変わるなと巡らせていたら、しっかりと魔法科の試験も受けていたのだった。
聞いた時は、あんぐりと口を開け、バカと呟いてしまったほどだ。
魔法科から剣術科に転科したと聞いた時、無茶苦茶で、天然なところをある、リュートのことを、密かに心配していたのである。
魔法科でも一位を取るほど、余裕があることに、安堵した一面もあったのだった。
「だって、天才だし」
カレンの口から、憎まれ口しか出てこない。
「天才だからって、涼しい顔で、一位を取らないでほしい。ホントに、リュートのやつ、勉強しないのよ。それなのに、いつも一位で。でも、うちのクラスって、他の人たちも、大して変わらないのよね……」
「凄いよね。そうした中でも成績を維持しているんだから」
「凄いと言うよりは、要領がいいだけよ」
微かに、不満げに吐き捨てた。
A組の生徒たちの一部は、リュート同様に授業に出ず、行われる試験で、いつも上位を占めていたのである。
A組では、真面目に授業を受けているのは、半分ぐらいしかいなかったのだ。
カレンは、真面目に授業を受けている側の生徒だった。
「ホント、うちのクラス、変わり者が多くって、大変よ」
脱力感が否めない。
疲れモードを、カレンが演じてみせた。
実際、カレンが言うほど、憤慨していないのを、仲が良く、話を聞いているアニスは知っていたのである。
不満を言いつつも、その顔が楽し気だったからだ。
不意に、笑顔を覗かせているアニスの髪に、以前なくしたと、消沈していた銀の髪飾りが付けられている。
「それ? 見つかったの?」
つけている銀の髪飾りを触りながら、柔和な微笑みを滲ませていた。
「うん。彼が見つけてくれて……」
視線の先が、一位の脇にリュート・クレスターと書かれた文字を眺めている。
その双眸に、全然怯えが窺えなかったのだ。
「リュートが……」
僅かに目を見張り、じっとリュートの名を見つめているアニスと、書かれている文字を見比べてしまう。
アニスがリュートを敬遠している理由も知っていたし、カレンも、アニスと同じように、リュートの花火と、力を抑えられなかった魔法の犠牲になった一人だったからだ。
ただ、アニスと少し離れていた位置にいたこともあり、被害はアニスよりも、低かった程度だった。
だから、余計に平気そうなアニスの様子に、驚きが隠せない。
これまでのアニスは、リュートの名前だけでも、僅かに怯えたところをみせていたからだ。
「大丈夫なの?」
恐る恐る窺うような眼差しを、傾けているカレン。
そんな仕草に、小さく笑う。
「……うん。まだ、少し怖いけど、前ほどじゃないから」
「そう……。それなら、よかった」
安堵の表情を滲ませている。
できれば、アニスの怯えを、解消してあげたいと抱いていたからだ。
犠牲になったとは言え、カレンはリュートとも仲が良かったのである。
「ごめんね。心配かけて」
「いいのよ。リュートが悪いんだから」
きっぱりと言うカレンの姿に、苦笑するのだった。
「アニス。今度、リュートから怖い目にあったら、すぐに言いなさいよ。私がちゃんと、怒ってあげるから」
「ありがとう」
「ホント、リュートって、常識知らないから、困るし、法力の加減も忘れるし……、ホント迷惑なやつよ。あれで、もう少し、常識が備わってくると、いいんだけどね」
リュートのことを力説する姿に、さすが面倒見のいいなと、巡らせるアニスだった。
そして、その口角が上がっている。
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