第49話
無事に試験を終え、掲示板に成績が張り出されていた。
いつもと変わらず、セナは上位をキープし、剣術科に移り、初めての試験を、リュートは中盤の成績を収めたのである。
それは誰も思ってはいない成績で、剣術科では話題に上がっているほどだ。
「信じられない。何で、こんなやつが、あそこの位置にいるのよ」
不機嫌な足取りで、セナが歩いている。
こんなやつと名指しされたリュートの試験結果に、こんなところだなと、余裕な態度を窺わせていたのだった。
ますます、そんな姿勢にぼやかずにはいられないセナだ。
セナを初めリュート、トリスの三人が、保健室に向かっていたのである。
「妥当だろう」
「そうだな。まずまずのところだな」
二人は、どこが変かわからないと言う顔つきだった。
剣術科の試験結果について、剣術科では、どよめきが起こる中、魔法科では、まずまずのところじゃないかと、生徒たちが平然とした様子をみせていたのである。
「転科したばっかりなのに、中盤なのよ。凄く変じゃない」
思いっきり、セナが眉を潜める。
「筆記は、上位につけていたぞ」
試験をしたリュートより、トリスの方が詳しい。
筆記のテストで、上位をつけていたリュートだった。
だが、実技の方が、他の生徒と比べ、少し大差があり、中盤の成績に落ち込んだのである。
そうだったのか……と、一人呟くリュート。
順位を気にしていたが、他のことに、つくづく無関心である。
「実技がなかったら、セナといい勝負だったな」
憤慨しているセナに目を細め、トリスがボソッと呟いた。
「……いい勝負じゃないわよ。余裕で、私が勝っているわよ」
筆記の順位は、大して変わらなかったが、点数にそこそこの開きがあった。
「そうか」
意味ありげな含み笑いを、トリスが滲ませている。
ジト目で睨むセナ。
「ところで、トリスは、どうだったのよ」
「一応、俺たちのクラスは、五十位以内に入っている。ラジュールとの条件だからな。つまり、俺も、五十以内に入っている訳だ」
当たり前な顔を、覗かせていたのである。
優秀な成績に納得できず、セナがブスッとしていた。
(何で、勉強もしていないトリスが、そんなところに入れるのよ)
「ホント、信じられない。どうしたら、フラフラしていて、五十位以内に入れるのかしら?」
「実力だろう」
ケロッと、即答した。
さらに、セナの癇が触る。
トリス初め、魔法科の実力は、認めざるをえない部分を感じ始めていた。
ただ、素直に、それを認めることが、できなかったのだ。
単に、矜持の問題である。
「強運でしょ」
「好きに、想像してくれ」
「えぇ。ただの強運だけよ。実力じゃないわ」
「強運も、実力のうちだと、思うけど?」
三人が喋っていると、目的地の保健室に到着した。
二人の言い合いを尻目に、リュートが扉を開くと、そこにグリンシュと、幽霊のフィーユが話していたのである。
瞬時に、硬直するセナとトリス。
友達感覚のリュートが、二人に気軽に挨拶を交わす。
「よっ。グリンシュ、フィーユ」
「試験は、どうでした?」
フィーユとの会話を中断し、開放感に慕っているリュートに窺った。
「中盤の位置だな。それに面白かった」
「それは、よかった」
青白い顔で、フィーユが微笑んでいる。
「おう」
「二人は?」
ホクホク感のリュートの背後にいて、強張っている二人。
チラリと眺め、フィーユが声をかけた。
フィーユと言う幽霊の存在に、まだ慣れていない。
「「……」」
答えない二人に成り代わり、リュートが答える。
「いつもと、同じみたいだ」
「そう。それはよかったね」
二人の態度に、気を悪くする様子もない。
セナとトリスは、何で幽霊のフィーユが、保健室にいると逡巡していた。
「さぁ。そんなところにいないで、入ってください」
ありふれた日常のごとく、振舞うグリンシュ。
促されるように、二人が保健室に入ってきた。
けれど、一定の距離は、保っている。
「どうした?」
声をかけるリュートに、訝しげながら二人は同時に、いやと返すのみで、他に何も言わない。
違和感もなく、話しかけようとするリュートより先に、意を決した顔色が優れない、トリスが尋ねる。
「グリンシュの知り合いか」
「フィーユとですか」
「ああ」
心の中で、他に誰がいると突っ込む。
それと同時に、もしかすると、他にもいるかもと、周囲を窺う。
それはセナも同じで、トリス同様に周囲を捜していた。
「フィーユしかいませんよ。今のところ」
「今のところって、まさか……」
いやな予感に、口をあんぐりと開ける。
(普段から、出入りしているのかよ)
三人の会話に、入っていくリュート。
「他にも、よく来るのか」
「えぇ。保健室は、間口が広いですから」
頭を押さえ込む二人。
((いたのかよ))
「俺、会っているのかな」
しみじみと、リュートが過去を振り返っている。
「会っていますよ。たまにリュートの話が、出てきましたから」
「そうか」
さらに、顔色の悪くなった二人。
グリンシュが面白げな視線を巡らせていた。
「具合悪そうですね。寝ていきますか」
「「結構です」」
脱兎のごとく、二人が保健室を出て行ってしまった。
それを呆然と、リュートが見送る。
「あいつら、どこへ行ったんだ? 保健室で、休憩しようって言っていたのに」
唐突に出て行った二人に、首を傾げた。
「気にすることないよ」
「そうだな」
「聞きましたよ。フィーユと、張り込みしたそうですね。楽しかったですか?」
「勿論」
久しぶりに、面白かったと、笑顔を滲ませていた。
「グリンシュが、君たちに来る頃だろうからって、ケーキを焼いていたよ。僕は食べることできないけど、一緒にいていいかな? お喋りをゆっくりしたいし」
「当たり前だ、フィーユ。俺たちは友達だろう」
「そうだね」
「では、早速焼き上がったケーキを、用意しましょう」
「頼む」
出て行ってしまった扉を、グリンシュが見つめる。
「二人は、きっと戻ってきませんね」
いたずらな笑みを覗かせ、下がっていった。
試験のことについて喋る、リュートの言葉を耳にしながら、二人はテーブルへ向かっていった。
談笑する姿は、他の生徒と変わりはない。
人間と幽霊だと言うこと以外はだ。
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