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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第2章 幽霊騒動
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第47話

 一気に、〈第五音楽室〉の空気が変わった。

 黙り込んでいる男子を凝視し、徐々に顔色が悪くなりながらも、トリスとセナが臨戦態勢を取り始めたのである。


 どう考えも、二人が知らないのはおかしい。

 自分の好きなことにしか、興味を抱かないリュートが、知らないのはあり得る話だが、情報通のトリスも、優等生のセナも、知らないのは決してないことだった。

 今にも、戦闘が始まりそうな勢いに、リュートただ一人だけが、目を丸くする。


「おい! 何してる?」

 訝しげに、それぞれの顔を窺っていた。

 けれど、トリスもセナも態勢を解こうとしない。

 眉間にしわを寄せ、三人の間に飛び込んだ。

 なぜ、トリスとセナが、友達に対し、戦闘モードをとるのかわからなかった。

 だから、間に踏み込んだのだった。


 無気力に、名前を知らない男子が、険しい二人を眺めている。

 体術の構えを示す二人に対し、リュートはいつでも《壁》を発動できる構えだ。

 魔法は使わないと言う戒めも、すっかり忘れていた。

 二人の鋭くなっている双眸は、真剣そのものである。


 一瞬でも、判断が鈍れば、無気力な男子はひとたまりもない。

 大切な二人も、傷つけたくないリュート。

 さらに、神経を鋭く研ぎ澄ます。

 とにかく、三人を傷つけたくなかった。

 ただ、それだけだった。


「どけ!」

「何やっているの? リュート。あなたも、構えなさい」

 立ちはだかるリュートを、二人して窘めた。

「何でだ」

 ブスッとした顔を、リュートが覗かせている。

 リュートの戦闘能力の高さを把握している二人は、こちら側に取り込もうと、説得を試みていた。

 互いの意思は、平行線のままだった。


「部外者だ」

「そうよ。だから……」

「いやだ! 仲間だろう」

「「違う!」」

 鋭い眼光で、幼馴染であるトリスを睨む。

 取り込めない苛立ちを、トリスが隠せない。


 勝ち目が薄いと抱きつつも、どこかに隙がないか、模索していた。

 その様子を黙って、眺めていた男子。

 その瞳が、悲しげなだった。


 前で庇ってくれるリュートに語りかける。

「二人の言う通りだよ」

 どういうことだ?と言う顔を滲ませていた。

 攻めに転じたくても、二人は攻められない。

 鉄壁なガードが、前に存在しているからだ。


「暗示をかけたんだ。少しばかり」

 悲しげな瞳に、引き込まれていく。

 リュートだけではない、二人もだ。


「暗示?」

「友達の一人としての暗示だよ」

「「「……」」」

「だた、君に掛かっているのか、いないのか、わからないけどね」

 リュートが振り向いたまま、じっと男子の顔を窺っていた。

 身体は、いつでも二人から、男子を守れるように、態勢を取ったままだ。


「わからないって……」

 渋面した顔を覗かせていた。

「法力が、強いからだよ」

「なるほど」

 素直な返事に、微かに男子が笑った。


「やっぱり部外者だな。お前は何者だ。何でこんなことした」

 冷静に、問いつめるトリス。

 緩くなった二人に対し、トリスとセナの表情が固い。

 いつの間にか、呪文をかけられていたと知り、身体が反応していたのだった。


「それは、君のせい」

「俺の?」

 まっすぐ向けられる視線。

 その顔は納得できず、眉間のしわが寄っていた。

「君が、あんないたずらを仕掛けて、彼女を脅かすから」

 チラリと、気遣うように、男子がセナのことを窺う。

「!」


 ゆっくりと、驚愕した視線を、男子からセナに移す。

「どういうこと? トリス」

 眉間に深くしわが刻まれ、さらに咎める声に、顔が引きつっていた。

 痛いところを突かれ、言葉が上手く出てこない。


 小さな笑みを漏らしながら、男子が説明する。

「君が驚いたいたずらは、彼が仕掛けたんだ」

 さらに、眉間のしわが深くなる。

「本当、なの?」

 ばつが悪い顔を覗かせているトリスに、胡乱げな視線を傾けたままだ。


 視線に耐えられず、強張っていた肩を緩める。

「ごめん」

「何で?」

 咎める声に、思わず、苦笑してしまう。


「ちょっと、代わり映えのない張り込みに色をつけよう、かな?って」

 相手を探る視線を見せながら、トリスが吐露した。

 愛想笑いを滲ませているトリスを、目を細め、睨む。


「……呆れた」

「ごめん」

「私が、どんなに驚いたか」

 憤りが収まらないセナ。

 男子の存在を、忘れている。


「聞いているの? トリス」

「本当に、ごめん」

 真摯に謝った。

「許せない」

 首を竦めているトリスだった。


「ちょっとばかり、度が過ぎたよ」

「ちょっとじゃないわよ!」

 見るのもいやとばかりに、勢いよくそっぽを向いた。

「だから、ごめん。反省しているよ」


 低姿勢なトリスに、男子の口が開く。

 促されるように、誰もがいっせいに男子に視線を注いだ。

「だから、彼女の変わりに、僕が驚かせてあげたんだ、君を」

「……お前だったのか」

 ムッとしていた顔を、トリスが滲ませていた。

 元をただせば、自分だったことが消え失せ、男子を責める視線を巡らせていたのである。


「うん。ごめんね」

 素直に謝られ、ばつが悪いトリス。

「いや」

 これまでの会話の流れを耳にし、何となくこれまでの経緯をリュートが把握する。


 自分が気づかない間に、トリスがセナに対し、いたずらを仕掛けていたと驚き、そして、今度は逆に、目の前にいる男子によって、トリスにいたずらを仕掛けられたと、ここに来て把握し、どうして自分だけ、仲間外れにされたのかと憤慨していた。

 口を尖らすリュートだ。


(リュートのやつ。機嫌を悪くしたな、後で、何かお菓子でも、買ってやるしかないか)


 やれやれと、トリスが首を竦めていた。

「だからと言って、部外者を逃す訳にはいかない」

 置かれている状況に、いち早く戻ったセナ。

 距離を詰めようと、一歩前へ出る。

 セナの一言で、状況が最初に戻ってしまった。


「待て!」

 捕まえる気満々なセナを止めるが、殺気が緩むことがない。

 一段と、鋭さが増していた。

「いい加減に、目を覚めたら?」

「楽しい、張り込みをした仲間だ」

 いっこうに男子を庇っているリュート。


「あのね……」

 意思が変わりそうもないリュートと、穏やかに立ち尽くしている男子を、交互に眺めている。

 埒が明かないと巡らせ、理由を男子に求めた。

「生徒じゃないの?」

「半分だけ当たっている。僕、ずっと前に、死んでいるんだ」

 平然と語った内容に、瞠目している面々。


「「死んでる?」」

「150年前までは、生徒だったんだ。でも、病気で、呆気なく死んじゃった」

 男子は150年前まで、フォーレスト学院の生徒で、当時の流行り病にかかり、呆気なく亡くなっていたのである。

 幽霊として、学院に止まっていたのだ。


「「……」」

 想像を超える真実に、フリーズしている二人。

「幽霊なのか」

 そのままの言葉を、気軽にリュートが口にした。

 平然と立っている姿に、二人以上の驚きがない。


 和やかに会話を始めてしまった。

「うん」

「名前は?」

「フィーユ」

「俺は、リュートだ」

 新しい仲間に、胸を張る。

 友好的なリュートの姿に、嬉しさが滲む。


「フィーユは、ずっと一人だったのか」

 首を振った。

 質問攻めにされても、いやな顔を見せない。

 逆に、楽しそうに、一つ一つに答えていく。

「幽霊の仲間は、たくさんいるよ。それに生きている人間もね。でも、見える人は、少ないから、だから、ついつい見える人に、話しかけちゃって……」


 幽霊はフィーユだけではなく、学院にたくさん存在していると、驚愕の事実に、ぐらりと目が眩む二人だった。

 当たり前のように、接しているリュートとは違い、今までの自分たちの現実に、あり得ないと脳が訴え、ついていけてない。


「そうか。じゃ、俺たちも、仲間だな。いつも、ここにいるのか?」

「違うよ。いろいろなところに、いるよ」

 さらに、愕然とする二人。

 その中にいても、リュートとフィーユの、ほのぼのとするお喋りが止まらない。

「じゃ、どこでも、会えるのか」

「一応ね。学院の中なら」


「村は?」

 悲しげに、フィーユが首を振った。

「寮には?」

「行ける」

 けれど、悲しげな表情だった。


 学院に住み着く幽霊たちは、学院では存在できるが、その他の場所にいけなかったのである。

 それに寮に行ったとしても、見える人間の対応が、トリスたちのようなものばかりで、リュートのような友好的な対応が少なかった。


「じゃ、遊びに、来いよ」

「びっくりするよ。たぶん、彼らのように」

 青くなっている二人に苦笑しつつ、フィーユが視線を巡らせていた。

 促されるように、リュートもフリーズしている二人に、双眸を移す。

 二人の表情が、寮に着てほしくないと言う顔つきだった。


「どうした? トリス? セナ?」

 何か、話しかけようとするトリスに、自嘲気味に男子の口が開く。

「無理しない方が、いいよ」

「……」

「無理って?」


 フィーユの言葉の真意が、わからないリュート。

 微笑むだけのフィーユ。

 目が泳ぐトリスに問いかけるが、きつく口を結んでいる。


「言わない方が、いいかな?」

「教えてくれないのか?」

 釈然としない顔を、リュートが覗かせていた。

「彼のためだよ」

「トリスの?」

 訝しげに、視線をそらすトリスを眺めている。


「僕は、そろそろ消えるね」

「行くのか?」

「うん。毎日の張り込みで、疲れているでしょ? それに、もうすぐ朝になっちゃうよ。少しは帰って、仮眠と取らないと」

「そうだな」

「じゃ、ね」

 見えていたフィーユの身体が、薄くなっていき、最後は消えてしまった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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