表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第2章 幽霊騒動
47/401

第46話

 恐怖する思い出しかないリュートがいたのでは、これ以上、話が進まないと抱き、トリスが二人の会話に入り込んだ。

 怯えているアニスでは、答えにくいと、目に見えてわかったからだ。


 わかっていないリュートの前に、躍り出る。

 萎縮しているアニスの間に、壁を作ってあげた。

 ホッとしたような顔を、アニスが滲ませている。


(アニスのような犠牲者が、たくさんいそうだな)


 不意に、昔を思い返し、自嘲するような笑みが零れてしまっていた。

「ここからは、俺が聞く。少し下がっていろ」

「何で?」

 邪魔者扱いされ、納得できず、眉間にしわが寄っている。

「何でもだ。お前じゃ、話が進まない」

 不貞腐れながら、ダメだと促すトリスに、この場を譲り、渋々に後ろに下がった。


「練習って、言っていたけど? 何の練習?」

 ホッと、安心したアニス。

 トリスの問いに、スラスラと答えた。

 二人のやり取りを、ただ、ムッとしている。

 自分とは対照的に、答えていく姿に、無性に納得できなかったのだ。


(俺とトリスでは、何が違う)


「音楽コンクールです」

「世界規模の?」

「はい。私、本選に、選ばれて」

「凄い。本選に行くなんて、凄いことじゃない」

 音楽に疎いセナでも、音楽コンクールの話を知っていた。

 食堂や寮の憩いの間で、最近よく耳にしていたからだ。


 小柄なアニスに、尊敬の眼差しを傾けている。

 褒められ、どう応えていいものかとはにかんでいた。


「ねぇ、小さい頃から、やっているの? やっぱり毎日、弾かないと、指が動かないんだよね……。予選の時とか、緊張しなかった? 予選でも、大勢の前で弾くんでしょ?」

 止め処ない質問攻めに、困った表情を垣間見せる。

 どこで答えていいのかと、戸惑いが隠せない。


 好奇心のまま聞くリュートに続き、セナもかよと、呆れ交じりの嘆息をした。

 質問の量が多いセナに、トリスが腕を出し、静止させたのである。


(どいつも、こいつも、話を折るやつばかりで。リュートに続き、セナも、いい加減してくれよ。……まともに話を進めるやつは、いないのか)


「いい加減にしろ。困っているぞ」

「……ごめん」

 嗜まれ、しゅんと落ち込むセナ。

「いいえ。大丈夫です」


 ゴホンと咳を一つし、その場をいったん仕切り直す。

「夜中に、練習しなくっても、いいんじゃないか?」

 問うてきたトリスを、これまでにないぐらい真剣な面持ちで窺う。

「……私、絶対に勝ちたいです。誰にも負けたくないんです」

 必死な双眸に、そこにいた誰もが、アニスに引き込まれる。


(打ち込んでいるんだな)


 誰の心にも、その熱心さが伝わっていた。

「上位を狙える力があるって、聞いたよ」

 どこか悔しげな表情を、アニスが覗かせている。

「私なんて、まだまだです。もっと上手い人がたくさんいますし……。だから、たくさん練習しないと……」

 ふと、セナが『バトル』のことを掠めている。

 アニスが音楽コンクールに拘っていることと、自分が『バトル』に拘っていることが、同じだった気がしたからだ。


 口元が緩んだ口で、ポツリと言葉がつく。

「不安なんでしょう?」

「えっ」

 唐突に割り込んだセナに、ムッとしているトリス。

 でも、その口は、きちんと噤んでいた。


「私も、そうだったから。試合が近づくたびに、練習しなくっちゃって、強く思っちゃうのよね……。少しでも、練習していないと、プレッシャーに、押し潰されそうで」

「……」

 自分ひとりじゃないと思うと、いろいろと悩んでいたアニスの心が軽くなっていった。


 いきなり、リュートが叫ぶ。

「大丈夫!」

 いっせいに、誰もが声の主を凝視している。

 その見つめる視線の先に、誰も目を丸くしていた。

 拳を握り締め、爽快な笑顔を、振り撒いていたのだった。


 がっくりと、額に手を置くトリス。

「……お前は、黙っていろ」

「一言ぐらい、言わせろ」

「余計なことは、言うな」

「余計とは、何だ」

 つまらない論争が続くと巡らせ、早々にトリスが諦めた。

「……わかった。好きにしろ」


 自分に怯えているとは知らず、アニスを窺いながら話しかける。

 注いでくる、輝かせる視線に、耐えているが、尻込み状態だ。


 めったに、A組の教室に姿を見せない。

 友達のカレンを訪ねる時は、必ず教室にリュートがいないか、どうか、確かめて貰ってから、教室に姿を見せていたのである。

 それほど、リュートの存在を恐れていた。


 ゴクリと、唾を飲む。

「何でしょ?」

 大またで、アニスが立ち竦んでいる場所に近づく。

 後退りもできず、立ち竦んでいるだけだ。

 二人の距離が、短くなっていた。

 簡単に、手が伸ばせば、触れるほどに。


「失敗を恐れていたら、何もできないぞ。負けた時は、負けた時に、考えればいい」

 励ます言葉に、誰もが驚かされた。

 天然ボケなリュートから、考えられなかったのだ。

 唖然とするセナとアニス。


「久しぶりに、いいこと言ったな」

「私、初めて聞いた気がする」

 言いたい放題言われ、ブスッと口を尖らせ、へそを曲げてしまう。


(俺が、いつもバカばっかりしているような言い方じゃないか!)


 バカばっかりやっている自覚がない。

 真面目に生きていると、一人で勝手に信じ込んでいた。

 まだ、言いたい放題言っているトリスとセナを、鋭い眼光で睨んでいる。

 けれど、二人は痛くも、痒くもない。


 騒々しいけど、楽しい三人のやり取りに、小さくアニスの口角が上がっていた。

「ありがとうございます。なんか気持ちが、すっきりできました」

「前だけを見て、進め」

「はいっ」

 力強く返事し、その表情に、先程までの怯えが滲んでない。


「リュート。お前は前見過ぎ、たまには脇を見ろ。そして、後ろもだ」

「何だ、それ」

 訝しげに、眉を潜める。

「言ったままだ」


 首を傾げているリュート以外の誰もが、笑っていた。

 それにつられるように、リュートも笑う。

 和やかな空気が、流れていく。

 ようやく、アニスに笑顔が零れていたのだ。


「ところで。どうして、ここに?」

 首を傾げ、リュートたちを不思議そうに眺めている。

 音楽コンクールと、関係ないリュートたちが、ここにいるのかと抱いた疑問を吐露したのだった。


 まともに答えられるトリスが、今までの経緯を、簡単に説明する。

 常に騒動を起こすリュートに任せたら、脱線するか、余計なことを言い、怯えさせるかの、どちらかだと巡らせたからだ。

 だから、説明しようとしたリュートを押しのけ、このメンバーの保護者的なトリスが、その役目を担ったのだった。

 黙ったまま、アニスがトリスの話に耳を傾けていたのである。


「……そんな大事に、なっていたんですか」

「おかげで、連日徹夜だ」

「今夜から、ぐっすり寝られるわね」

 トリスとセナが、安堵の表情を覗かせていた。


 練習を誰にも邪魔されたくなかったので、網目のような、細かく警備されているのを縫って、アニスは練習の日々を送っていたのだった。

 音楽コンクールしか、頭になく、〈第五音楽室〉の怪談話を、知らずにいたのである。


 事情を飲み込み、みんなに迷惑をかけていたと、申し訳ない気持ちで、顔を伏せてしまった。

「すいませんでした」

「いいさ。それどころじゃなかったんだろう?」

「はい。ずっと緊張していて……」


 自分たちが張り込みをしている間、練習していなかったのかと、新たにセナは疑問が浮上する。

 もっと早くに知っていれば、解決していたと巡らせたからだ。


「そう言えば、間があったけど、それは何で?」

「あー。それは……」

 高熱を出し、寝込んでいたとアニスが吐露した。

 それで何日も、〈第五音楽室〉に姿を現さなかったのだ。

 納得する答えに、のどの棘が一つ取れた。


「もう、大丈夫なの?」

「大丈夫です。でも、皆さんに迷惑かけて、すいません。邪魔されたくなかったものですから。そのせいで……」

 しゅんと、落ち込んでしまう。


(随分と、周りが見えてなかったのね……。きっと、みんなにも、迷惑かけていたかもしれないな。謝ろう)


「けど、ポスターにいたずらするのは、よくないな。マジで驚いたからさ」

 肖像画のポスターのいたずらの件を、何気にトリスが持ち出した。

 自分がしたことを棚上げ、アニスに注意をしたのである。


「そうよ。あれには驚いちゃった。……えっ? トリスも見たの? でも、私が聞いた時はわからないって、言ってなかった?」

「……あ、あの後にな」

 気まずいので、視線を外した。

「そう……なの。でも、よかった。いたずらって、わかって」

「そ……だな」


 落ち着きのないトリスときょとんとしているセナを、交互に見比べる。

 二人が何を話しているのか、アニスにさっぱりわからない。

 ただ、ただ、頭に?が浮かぶだけだ。


「もう、あんなことはしないでね」

「あんなこと?」

 瞬きを繰り返しながら、首を傾げてみせた。

 全然、思い当たる節がない。


 さらに、セナの口が滑らかになっていく。

「そう。ポスターに、いたずらは、ダメよ」

「あの? 何の話ですか?」

 遠慮気味な眼差しを、セナが捉えている。


「えっ?」

「ポスターとか、いたずらとか、何ですか?」

 話の内容が、掴めないでいる。

 さらに、突っ込んで聞いていたのだった。

 それぞれに怪訝そうな表情を滲ませていたのである。


 唯一、リュートだけが、パチパチと瞬きを繰り返していた。

 自分で仕掛けた細工も、忘れているのかと、トリスが肖像画のポスターから、血の涙が流れた話を、当惑しているアニスに語った。

「私、していません」

 何がなんだかわからず、きょとんしているアニス。


 二人は同時に驚き、そして同時に疑いの眼差しで、きょとんと二人を見つめるアニスに視線を注いだ。

 表情に、困惑を滲ませている。

 嘘を隠している素振りを、何一つ窺わせない。

 眼光が揺れず、セナとトリスを眺めていたのだ。


 驚愕している二人に、もう一度、同じ答えを繰り返した。

 愕然としている二人。


「嘘でしょ……じゃ、あれは?」

「マジ……」

「はい。理由がないですから……」

 目を丸くし、二人が顔を見合わせる。


「誰かの、いたずらでしょうか……」

 何気に、アニスが呟いた。

 ここでは魔法が使えない、使えたとしても、限られた人物だけだと言う言葉が、くっきりと掠めている。

 誰かのいたずらと、決め込んでいるアニスだった。

 二人は息を合わせたように、心の中で同時に突っ込んだ。


((それは、違う))


 学院内で、いたずらを仕掛ける中心人物は、自分たちだった。

 その自分たちが、仕掛けていない。

 トリスとセナは、見つめ合ったまま、無言で会話をしている。

 言葉なんて、必要なかった。

 怯んでいる瞳が、何を言っているのか、互いにわかっていたからだ。


 もう一人、話がつかめないリュート。

 縋る気持ちで、二人が同時に視線を傾けた。

 何?と言う顔で、二人を眺めている。


 突然、アニスの言葉が割り込む。

「三人で、毎日張り込みしていたんですか? 大変ですね」

 ただ単に、三人の苦労を労った。

 トリスとセナの顔色が、瞬時に変わる。


((さ、さ、三人?))


「そうだよ。でも、これぐらいは、平気だ」

 どこまでものん気なリュートだった。

 アニスの言葉に、おかしな点を二人は見つけていたのだ。

 聞き流しているリュートは、気づいてない。

「本当に、ごめんなさい」

「いいよ。楽しかったから」

「そうだったんですか」


 自然に、アニスの顔から、笑みが零れる。

 そして、リュートの顔からも、笑みが漏れていた。

 青ざめていく二人に対し、ほのぼのと和む二人。

 二組の顔は、まさに明と暗を分けたように、対照的だった。


「私、そろそろ帰ります」

「そうか」

 一礼をし、帰ろうとするアニスを、大切なことを思い出したリュートが、制止させる。

 目が合った途端、アニスに、また緊張が走った。

 ポケットから、髪飾りを取り出し、緊張気味のアニスの前に出したのである。


「お前のだろう?」

「えっ。……これは」

 髪飾りから視線を、ニコッと笑っているリュートに移す。

 緊張は、どこか吹き飛び、優しく微笑みを漏らす。


「ありがとう。探してたの」

「もう、落とすなよ」

「うん」

 アニスが、自分の寮へ戻っていった。




 姿が見えなくなってから、顔色が悪くなっているトリスが、謎が解明したとホクホク顔のリュートと、震えているセナに声をかける。

 その顔が、固く、放心状態だ。

「さっき、アニス。三人で張り込みしていたのかって、聞いたよな?」


 確かめるように、ゆっくりと、それぞれの顔を窺っていた。

 アニスの言葉を耳にしてから、トリスとセナが顔を動かせずにいたのである。


「それが?」

 きょとんとしているリュート。

 状況を把握してない。

 トリスの言葉に、何度も頷くセナ。

 その赤みが差した顔から、徐々に青白い顔に、変化していった。


(嘘でしょ。アニスの言葉は、おかしいよ。四人いるはず……)


 一人一人、指を指しながら、トリスが名前を言っていく。

「俺、セナ。リュート。……」

 最後に、残った男子を指差しながら、止っていた。

 男子の名前が、出てこない。

 指差したまま、誰だと自分に問いかけた。

 それは、セナも、同じだった。

「……」


 どんなに、逡巡しても、名前が出てこない。

 今までずっといたのに、名前を知らないことに、気づいていなかったのだ。


 二人の足が、ガクガクと震え、腰が砕けそうになる。

 スレスレの線で、二人は立っていられたのだ。

 何かが違うと、セナが違和感を持ち続けていた。

 それが何だったのかと、答えが出た途端、頭の中がパニック状態に変貌していた。


 二人は同時に、裏返った声で、男子に問いかける。

「「だ、だ、誰?」」

 問いかけられた男子が、何も答えようとはしない。


「何、バカなこと、言っている?」

「お前は、言えるのか」

 すかさず、狼狽えているトリスが突っ込む。

「こいつの名前は……」

 言葉は、そこで止まってしまった。


 男子の顔を垣間見、名前を思い出そうとするが、名前が浮かんでこない。

「悪い、忘れた。名前、何だっけ?」

 リュート以外の者に、曇よりとした空気が流れる。

「……」


読んでいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ