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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第2章 幽霊騒動
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第45話

 先に向かっていったリュートを、追う形で二人が立ち上がろうとする。

 出遅れた失態に、内心、二人が舌打ちを打っていたのだ。

 いつもだったら、こんなみっともない失態をしない。


 拳を握っているトリス。

 その背後から、男子が声をかける。

「大丈夫?」

「驚かなかったのか?」


 ローブの埃を払うのも忘れ、怪訝そうな表情をトリスが覗かせていた。

 男子の様子が、変わってない。

 尻餅をついたトリスたちに、驚いている様子だった。


「平気」

「マジで?」

「驚くほどの声じゃ、なかったと思うよ」

 全然、驚いた様子がない。

 尻餅までついて驚いた自分が、情けないと抱く。

 ばつが悪くなり、男子の顔を直視できなかった。


「……そうか」

 下唇を噛むトリスを眺めている。

 その前にいるセナにも、視線を注ぐ。

「そ、そうだったかもね」

 尻餅をついた自分に、照れと苦笑交じりの顔を滲ませていた。


 立ち尽くしているトリスに、ニコッとした顔を傾ける。

「意外とお前、肝据わっているな」

「そうでも、ないよ」

 照れを帯びた微笑みをみせていた。


 気持ちを切り替え、トリスとセナが互いに顔を見合わせる。

 引きつった、ぎこちない笑顔だった。

 恐怖の匂いが、綺麗に払拭されてない。

 けれど、怯えている状況ではなかったのだ。


 〈第五音楽室〉の中から、リュートが呼ぶ。

 リュートと黒い影の膠着状態が、まだ続いていたのだ。


「何している? 早く来いよ」

「ちょ、ちょっとな」

 遅れて〈第五音楽室〉へと、トリスたちが入っていった。

 入ってくるのを確認し、そこで、ようやく〈灯〉を使い、周辺を明るくする。

 確保したことに浸り、明るくすることを、忘れていたのだ。


「!」

 リュートの近くに、立ち止まるトリスたち。

 黒い影の正体に、その場にいた誰もが、絶句している。

 思いっきり、眉を潜めているリュート。


 黒い影の正体が、可愛らしい女子だった。

 いきなりの叫び声と、目の前に立ちはだかれたせいで、可愛らしい女子も声が出ず、怯えきった瞳を滲ませ、その場に立ち尽くしていたのである。

 その瞳に、うっすらと涙の雫が溜まっていた。


 何とも言えぬ、沈黙の空気が流れる。

 フリーズしている可愛らしい女子に、リュートは何となく見憶えがある気がした。

 衝撃の事実に、トリスたちも同じように、直立不動で立ち竦んでいた。

 誰なのか、名前が出てこない。


「トリス」

「んっ?」

 突然、声をかけられ、我に戻ったトリス。

 立ち竦んでいる間、恐怖に怯えていた二人が、黒い影の正体が生きた人だとわかり、ホッと胸を撫で下ろしていたのだった。

「どこかで、見たことないか?」


 首を傾げるリュートに近づき、肩を軽くポンッと叩く。

 いつもの保護者的なトリスに、戻っていた。

「アニスだよ」

 名前を言われ、ビクッと体を震わせ、アニスがゆっくりと怯えた瞳を、朗らかに笑っているトリスに移していた。


 どうして、リュートたちが、ここにいるのか、アニス自身、全然検討がつかなかったのだ。

 アニスにとって、リュートたちは、唐突な訪問者だった。


 名前を聞いても、ピンとこない。

「アニス?」

「憶えてないのか?」

 眉を潜めたトリス。

 唸り声を出しながら、逡巡している姿に、マジかよと呆れてしまう。

 そして、思わず頭を抱え込む。


(お前の記憶力は、どうなっている? 人に対して、少しは興味を持て!)


「どういう知り合いなの?」

 二人の会話に、訝しげにセナが入っていった。

 トリスの口ぶりでは、知り合いと言うことがわかっていたからだ。

 だが、それ以上の話が進まない。

 目の前にいる、怯えきっている女子との関係性が、掴めなかったのである。


「一応、顔と名前は知っている。趣味は、読書で、サークルは、吹奏楽部に入っている。カレンの友達でもあるな」

 考え込んでいるリュートを放置し、困惑しているセナに説明してあげた。

 同じ魔法科の生徒であるアニスを理解できないリュートだった。

 わかっていないセナと同様に、さすが情報通と賞賛を送る態度を示していた。


「アニスって、誰だ?」

「この子」

 即座にトリスが、正面に立っているアニスを指差した。

 指されたアニスも頷き、畏怖している瞳のままで、まだ理解できない天然ボケを眺めている。

 本当にわからないのだろうかと、疑心暗鬼だ。


「わからない」

「おい!」

 間髪おかず、突っ込んだ。


「あの……」

 二人の会話に慄ぎながらも、真摯にアニスが話しかけた。

 セナと同様に、困惑している表情も隠せない。

「何?」

「一年生の時、吹き飛ばされた者です……」

 怯えた瞳で、覗き込むように、思い出せないでいるリュートに声をかけた。

 その声音も、僅かに震えていたのだった。


「吹き飛ばす……、一年の時?」

「はい……」

 うねり声を上げ、腕を組み考え込む。


 あまりにも、数が多過ぎて、誰だったか思い出せない。

 それほど、いろいろな事件を起こしてきたのだ。

 いろいろとあるので、思い出すのが難しかった。


 そんな姿に、呆れながらトリスが助け舟を出す。

「ほら、ルパートが好きだった子だよ。ルパートに頼まれて、この子のバースディーの時、花火あげようってなって……」

 ルパートとは、魔法科のクラスメートである。


 ルパートの初恋であるアニスの誕生日パーティーに、綺麗なものを上げたいと言う話になり、散々話し合った結果、大きな花火を上げようとなった。

 けれど、その花火を大きく作り過ぎてしまい、威力が強大となり、爆発してアニスを初めとして、パーティーに参加していた者を、巻き込む形となってしまったのだった。


「あー」

 ようやく、目の前にいるアニスを把握した。

 ぼんやりと、浮かんだ幼い顔と重なり合う。

 ルパートやパーティー、花火と言うキーワードで、昔の記憶が、鮮明に蘇ったのである。


「思い出したか」

「思い出した、思い出した。アニス。そう、アニスだよ」

「思い出したか……」

「あの時の花火、綺麗な花火だったよな」

 まだ、戦慄から解けないアニスに、同意を求めた。


 ケガをさせたことを、すっかり忘れていたのだ。

 その後、散々校長たちに説教を喰らったことも、綺麗さっぱりに忘れ、綺麗な花火を上げたと言う意識しか、残っていなかった。


「そう思わないか?」

「……」

 満足げに話す姿に、若干戸惑ってしまう。

 だが、苦笑交じりの笑顔で、少しだけ首を横に傾けたままの姿勢で、アニスが頷いてみせた。

 吹き飛ばされたアニスにとって、怖く苦い思い出に過ぎない。

 吹き飛ばすのは、日常茶飯事だったこともあり、リュート自身、大きな事件と言う認識が、薄かったのである。


 疑問を抱くセナが、同じように苦笑いを覗かせているトリスのローブを、引っ張る。

 本当に、楽しかったのかと真意を、小声で確かめたのだ。

 どう見ても、アニスが気楽に笑っているリュートを、怖がっているようにしか見えない。

「そう思うか?」

 眉間にしわを寄せているセナから、臆しているアニスに、視線を注ぐ。

 それに促されるようにセナも、アニスに視線を傾けた。


「思わない」

「だろう」

「どういうことよ」

「簡単なことさ。大きな花火を作り過ぎて、大爆発を起こした。そして、それに気づかずにリュートのやつ、法力のコントロール忘れて、アニスに向かって……」

 最後、言葉にせず、両手で爆発の表現したのである。


 花火を打ち上げた後、さらに華やかにするために、リュートが魔法を使って、盛り上げる予定になっていたのだった。

 セナの目の前で、トリスがパチッと指を鳴らす。

「やっちゃったのさ」

「……だから、飛ばされちゃったのね」

「そういうこと」

「怯える訳だ」


 躊躇っているアニスに、同情する眼差しを傾けていた。

 リュートにとって、懐かしい回想も終わり、何でここにアニスがいるのかと、不思議そうに捉えていたのだった。

 アニスが〈第五音楽室〉にいる理由が、わからなかったからである。


 床とリュートを交互に見ているアニス。

「わ、わ、わた、私は……ただ、練習してただけです」

「練習?」

 首を何度も縦に振り、その声音が上擦っていた。

 さらに、尋ねられ、答えに詰まってしまう。

「え? あー。それは……」


 その身体が震えていたのである。

 傍観していたトリスが、大きく嘆息を漏らしていた。

 これでは、埒が明かないと。


読んでいただき、ありがとうございます。

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