表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第2章 幽霊騒動
45/401

第44話

 日中は授業や訓練に勤しみ、その夜中に、連日のように張り込みを続けていたのである。

 いつもより早い時間に、〈第五音楽室〉のドアが見える位置で待機していた。

 見えざる犯人を、今日こそは捕まえる意気込みで、待ち構えていたのだった。


 体調の悪いセナが、平静を装っている。

 だが、心の中では、もう来たくない気持ちの方が勝っていた。

 体調の悪さを、気づかれないように、振舞っていただけだった。


 ピアノの旋律の件を、解明したい気持ちが強いリュート。

 セナの体調の悪さに、気づく様子もない。

 ただ、謎の解明を追及するのみ。


 天然ボケのリュートに、絶対に弱みを見せたくないと言う意地だけで、ここに一緒にいたのである。

 けれど、この張り込みを、すでに終わらせたい気持ちでいっぱいだ。

 瞳を彷徨わせ、セナが逡巡している。

 先頭に立ち、見張っているリュートに、落ち着きがないセナが、視界に捉えていた。


 一心不乱に前を窺い、何かの気配を感じられないかと、神経を研ぎ澄ましていたのだ。

「いい加減に……やめない? 試験も、近いし……」

 歯切れの悪いセナ。


 それに同調するように、休んでも疲れが取れないトリスも話しかける。

 その声が微かに震え、裏返っていた。

 トリスの状況にも、気づかないリュートだった。

 考えるのは、犯人を捕獲するのみだ。

「セ、セナの言う通りだ。切りがない、それにカイルたち、勘ぐっているぞ。だからさ、もうやめようぜ。な、リュート」


 二人が声をかけても、返答がない。

「ちょっと、聞いているの? 私たちの話」

 微動だに、動かない。

 しびれを切らし、据わった眼差しと共にセナが声を荒げる。

 けれど、その声が小声だ。

「リュート!」


 息を潜め、ただドアを射抜いているだけだ。

 怒りに震える拳で、殴りたい衝動に、セナが襲われている。

 邪魔するなと言う背中を、眼光鋭く睨むだけだった。

 どうしても、それ以上のことができない。

 ただ、ドアを凝視している姿に、これ以上言ってもムダと、トリスが首を竦める。

 早々に、トリスの方が諦めていた。


 何度、呼んでも、返事がないことに、セナがイラつく。

 無視を決め込む姿勢に、意地になり、力を入れ、ローブを思いっきり引っ張った。

 小さな意思の現われだ。


「何する」

 眉間にしわを寄せた顔を傾けた。

「帰ろう」

 強い口調で促した。

「ダメだ」

「何も、起こらないわよ」


 じっと、ムスッとしているセナの顔を睨みつけていた。

 早くこんな場所から、解放されたいと強く抱き、根気良くセナが説得を試みる。

「勉強は、どうするの? 今日の授業、居眠りしていたでしょう? もう体力の限界なんだよ。だからさ、試験のために、こんなこと、やめるべきだと判断するべきよ。……それにこれ以上、何も出ない」

「いやだ」

 即答で否定された態度に、青筋が浮かび、頬が引きつっている。


 二人の口論が、小声で続けられた。

 それを、トリスが傍観していたのだった。

「……試験、大切じゃないの?」

「大丈夫だ」

「何が、大丈夫なのよ。どこから、そんな自信が出てくる訳?」

 苛立ちを隠さない。

 ただ、不安の欠片もないリュートに、突っかかっていく。


「授業を、受けていた」

 真面目に授業に出て、寮でも勉強していた自負から、自信満々の態度だった。

 その態度に、より一層腹を立てる。


(勉強したからって、上位は無理よ)


 自信が漲るリュートを、ここぞとばかりに半眼していたのだった。

 どこに、そんな自信があるのよと、吐き捨てたい思いを噛み殺す。

 ひと呼吸置いてから、口を開く。

 無駄な言い合いを続けていたら、大声で怒鳴ってしまう可能性があったからだ。

「もういいでしょう? 帰ろう」

「いやだ。姿を見るまでは帰らないし、終わらせない」


 強情なリュートに、脱力感が否めない。

 帰らない怒りよりも、段々と空しさと悲しさが襲ってきたのだった。


「こんなことして、何の意味があるの?」

 頑固な姿勢に、セナが半べそを滲ませていた。

 暗闇のせいで、沈んでいるセナの顔を、リュートに読み取ることができない。

 それ以上に、自分の好奇心の気持ちが大きく、他人を思いやる気持ちが皆無だった。


「ワクワクするだろう?」

「ワクワクって……」

「それだけじゃ、いけないのか?」

 きょとんとした顔で、困惑気味のセナを、薄暗い中で眺めている。

 先程より、月にかかっていた雲が取れ、薄明かりが僅かに差し込んでいた。

 二人の間に、少しばかり沈黙が流れる。


 徐々に、訝しげるセナだった。

「それだけなの? ホントに?」

「それだけで、何が悪い?」

 それだけの理由で、ここにいるのかと巡らせ、肩ががっくりと落ちた。

 そして、大きくうな垂れてしまう。


 ワクワクする気持ち一つだけで、今まで張り込みをしていたかと、抱くだけで今までの苦労はなんだったのだろうかと、落胆の色と憔悴感の色が、複雑に入り混じっていたのである。

 気が抜けたまま、顔を上げた。

 すると、黒曜石の瞳が、キラキラと輝いている。

 更なる脱力感に、押し潰された。


「お前は、楽しいか?」

 ついてきている男子にも、気軽に声をかけた。

 この状況を満喫しているリュートの問いかけに頷く。

 満面の笑みを、うっすらと覗かせていた。


 話し合いが終わったと、ドアに視線を戻したのだった。

 セナとトリスが、同時に疲れを帯びた、深い溜息を漏らす。


 こうなったら、てこでも動かないと、幼馴染は把握していたのだ。

 落ち込みが激しいセナと、同様に体調が悪いトリスの背中に、電撃でも喰らったかのような悪寒が、上から下へと走り去っていく。

 トリスとセナは、思わず目が合わす。

「「!」」

 ゴクリと、二人がつばを飲み込む。


「今……」

「うん」

 返事をしたセナの身体が、金縛りに合ったようにフリーズしている。


 二人の暗闇の視界に、何も映らない。

 けれど、硬直と悪寒で、身体が何かを知らせてくる。

 微かに、漏れる声で、二人は確かめ合う。

 それ以上の言葉が、震える唇で出てこない。


 前で、張り込みを続けているリュート。

 視線を傾けるものの、同じような硬直と悪寒を感じている様子が一切ない。

 硬直と悪寒に襲われているのは、セナとトリスの二人だけだった。


 薄れてゆく意識を堪えながら、セナが気丈にも、終わらない張り込みをし続けている。

 気配を感じ、たった一つのドアを凝視していたリュートに、緊張が走っていた。


(来た!)


 背後にいる面々にも、伝わっていた。

 リュートの口元が、楽しげに微笑む。

 動く黒い影を、視界に捉えていたのである。


 〈第五音楽室〉のドアの前で、立ち止まった。

 黒い影は周辺を警戒し、音を立てないように、慎重にドアが開けた。

 もう一度、周辺を確認してから、中へと入り込んでくる。


 黒い影に気づかれないように、誰もがはやる気持ちを押さえ込んだ。

 逃げられたら、またこれで終わりだった。

 先頭のリュートが、より一層身を潜める。

 急に、身体を引っ込めたリュートと、ぶつかるセナ。

 文句を言いたい気持ちを、グッと抑え、さらに背後に控えているトリスに、気遣いながら、後方に下がっていった。


 部屋の奥へ進んで行く黒い影が、まっすぐにピアノに向かい、歩いていくのを捉えている。

 耳を研ぎ澄まし、黒い影の歩みを、感じ取っていたのだ。


(絶対に逃さないぞ。今日こそは、正体を突き止めてやる!)


 心の中で、数を数えながら、出るタイミングを計っている。

 黒い影がピアノの椅子に、腰掛けようとした瞬間を見逃さない。

 一人だけ元気なリュート。


 一心不乱に、黒い影の下に走っていったのである。

「今だ!」

 唐突な叫び声に、驚いた黒い影が後退りをしていた。

 背後にあったピアノの椅子が、大きな音と共に、倒れてしまう。


 突然の行動と、大きな音に、セナとトリスが驚愕し、尻餅をついた。

 硬直と悪寒が走る身体で、リュートと同じような俊敏な動きができなかったのである。


 態勢を整えようとしている黒の影の前に、立ちはだかった。

 そして、リュートと黒い影が、暗闇の中で視線が絡み合う。


読んでいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ