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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第2章 幽霊騒動
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第43話

 空腹が満たされたリュートが保健室を出た直後、もう平気と言って、まだ体調がよくないトリスが、覚束ない足で保健室から出て行った。

 一人でいるのもいやだったが、グリンシュといるのも、今の心境では無性に居たくないと、心も身体も訴えているような気がしたからだ。

 保健室に、またグリンシュだけになる。


 しばらくすると、デュラン捜しと、生徒たちの指導で、疲れ切っているカイルが、姿を現す。

 生徒たちの前では、爛々と血走っていた琥珀色の瞳が、曇よりと落ち込んでいたのだ。

 目の下に、くっきりとくまができている。


「いるか?」

「えぇ。その様子だと、まだ見つかっていないようですね」

「ああ。捜し回っているが、見つからない。どこにいるやら……」

 か細い声音だった。

「大変ですね。彼は研究に没頭すると、次から次へと、移動してしまう癖がありますから」

 グリンシュの言葉に、力強く頷く。


 ここ数日の自分の行動を、振り返った。

 デュランを図書館で見かけたと言う話を聞けば、図書館に出向くが、姿がすでにない。

 次に、薬草園で見かけたと聞くと、薬草園に足を進めるが、またしも姿がなかった。

 こんなことを、毎日続けていたのである。

 けれど、捜し人であるデュランを、見つけることができなかった。

 グリンシュの言葉通り、研究に没頭したデュランを、捜すのは容易なことではなかったのである。


 足下がふらつくカイル。

 椅子に座るように勧めるが、あっさりと断られた。

「そうですか。それで、私に用ですか?」

「ちょっとな」

 無造作に、髪を掻く。


 学院内の見回りの途中、保健室に立ち寄った。

 疲れている身体で、学院の仕事もこなしていたのだ。


「どうだ? 付き合わないか?」

 指で、後ろを指した。

「いいですよ。生徒もいませんから」

 簡単に、了承した。


 外へ連れ出すには、理由があった。

 それは、すでにリュートたちが来ていたとは知らないカイルが、リュートたちに話している間に、来られてはまずい話だったからだ。


 連れ出されたグリンシュ。

 カイルが来た訳も、すでに察しがついていた。

 歯切れの悪い態度が、おかしく気づかぬ振りをし、困って、しどろもどろのカイルで、遊んでいただけだった。


 何も話さず、ただ二人は並んで廊下を歩く。

 上手く、話を切り出せない。

 再三の絶好のタイミングを失っているとも気づかず、悶々と、どうやって、話し出すきっかけを作るかと、悩み逡巡していた。


 すでに、察しがついているグリンシュ。

 密かに、この状況を楽しんでいたのである。

 歩きながら、何度もグリンシュの穏やかな顔を窺う。

 気づかぬ振りを続行したままだ。

 変わらないカイルの行動に、ほくそ笑んでいる。


「いい天気だな」

 別な話題から、切り込む。

 面白がって、ことを大きくする傾向が、グリンシュに昔からあることを把握しつつも、だから、細心の注意を払って、聞き出さないといけないと、強く言い聞かせる。


「そうですか」

 チラッと、窓の外を確かめた。


 空の色は、いい色とは言えない。

 雲が多く、うっすらとグレー掛かった色をしている。

 口に出したカイルが空を見ず、言っただけで、空の色に気づいてない状態だ。

 グリンシュの返事も、素通りしたようで、ひたすらに本題をどう切り出そうかと、ベストタイミングを窺っている。


 その仕草が、おかしくて堪らないグリンシュ。

 けれど、表情に出さない。

 当の本人が遊ばれていることに、気がついてないのだ。

 二人の間に、会話がなくなっていることも、気づいていなかった。


(どういうべきか……)


 自分の生徒のことで、尋ねる行為が不本意だった。

 話好きなグリンシュが、なぜ話さないと、心で悶々と巡らせながら、横目で何度も様子を窺っている。

 いつもと変わらない涼しい表情で、まっすぐ前を見据え、歩いていた。


(大抵のことは、知らせてくるはずなのに……。もしかして……グリンシュも、一口噛んでいるのか? ……あり得る話だ。あのグリンシュだからな……)


 すべてではないが、教師となったカイルに、担当している生徒たちの話を、時々グリンシュが話していたのである。

 すべてを話せないのは、生徒たちのプライバシーもあるからだ。

 横目で窺わなくても、カイルの様子が、手に取るようにわかっている。

 苛立つ様子に、笑うのを必死に堪えていた。


(まだ、まだ子供ですね)


 人より寿命が長いエルフにとって、三十歳のカイルは、まだ小さな子供のような存在だったのである。

 悩むことに、業を煮やし、人を掌で転がすところがあるグリンシュに、直球を投げた。

「……あいつら、何を企んでいる?」


(考えた挙句、やはり直球できましたね)


 あいつらとは、勿論リュートたちのことだ。

 深く考え込む傾向があるカイルが、行きついた先は、直接尋ねることだった。

 直球過ぎる行動に、おかしくなって、心の内側で吹き出して笑っていたのだ。


 生徒の頃の性格と、変わっていない。

 ずっと、悩み続け、底辺までいったところで、どん詰まりとなって、策も工作も見出されないままに、捻りもなく、最初に戻って、そのままズバリな言動をするのである。


 真剣な琥珀の瞳で、グリンシュを捉えていた。

 夜中に寮を抜け出し、何かしていることまで掴んでいた。

 だが、そこまでで、それ以外のことを、まだ何も掴んでない。

「俺のしごきに耐えて、まだ続けているぞ」

 何のことでしょう?と、惚けた顔を覗かせる。


「話せ。これ以上厄介ごとを、増やさないでくれ」

 最後は、悲痛な叫びだった。

 学院内を知り尽くしている情報通で、なおかつ面白いことに、首を突っ込むグリンシュの好奇心旺盛な性格を踏まえ、そして何より、グリンシュと逢って、リュートたちと一緒になって、一枚噛んでいると推測にいたったのだ。


「わかりません」

 返答に、納得できない。

 口元が、微かに微笑むのを、食い入るように眺める。

 微妙な変化を、読み取ろうと必死だ。


 全然、読み取れなかった。

 けれど、長年の付き合いで、何かを隠していると察する。


(お前は、絶対に隠している。何を隠しているんだ。吐け! 吐くんだ!)


「そうか。わからないか」

「はい」

 それ以上、問いつめても、何も言わないと巡らせ、これ以上深く尋ねずに聞き流した。

 意地になって、聞きだそうとすれば、逆にことを大きくされても困るからだ。

 そういう茶目っ気も、グリンシュにあると把握していた。


 リュートたちのことで、頭を悩ます姿に、優雅な微笑みを滲ませる。

「カテリーナは、相変わらずですか?」

「手紙一枚で、フラッとだ」

 素っ気なく返した。


「ラブレターですか?」

「違う! ただの置き手紙だ!」

 やや顔を赤らめていた。

 それについては、突っ込まないグリンシュである。

「冗談です」


 フォーレスト学院の生徒の頃から、カテリーナは突然いなくなることが、何度となく繰り返されていたのである。

 その度に、カイルやスカーレット、グリフィンなどが手分けし、行方を捜した経緯があった。

 ただ、リーブやラジュール、デュランは心配ないと言って、いつも通りに変わらない生活を送っていたのだ。

 そんな学生生活で、心配が絶えないカイルが、カテリーナに手紙を置いてから、出かけるように義務づけたのだった。


「心配ですね、カイル」

 含みのある微笑みを、溜息を漏らそうとしたカイルに投げかけた。

 それを聞き、ギョッとしている。

「……」


(何だ? その言葉と、微笑みは?)


 少し、顔を引きつらせた。

 ゆっくりと、優雅に微笑んでいるグリンシュの顔に、視線を合わせる。

 カテリーナの件は、慣れたと言う態度を、常にとっているが、その裏では姿を消すたびに、内心では心配を繰り返していたのだ。

 秘めた内面を、見透かされたような居心地の悪さが隠せない。


「……な、何で、俺が心配する?」

「心配になりませんか? 私は心配になりますよ」

「別に、俺は……」

 完全に、煮え切れない。

 揺れ惑う気持ち、そのままに、眼光も彷徨う。


「魔法の使い手といっても、やはり可愛らしい女性ですから」

 意味ありげな微笑みを、覗かせ続ける。

「確かに、少しくらいはな。仲間として、心配だよ」

 まっすぐに、見られない。

 瞳を合わせた瞬間に、良からぬことを言いそうな気がしたからだ。


「ですよね?」

 嫌味な男だと、カイルが苦虫を噛み締めた。

 遠回しに言われるのが、苦手なカイルにも、率直に口に出せない事実を知っていたのだ。


「ところで、置き手紙には、なんて書かれていたのですか?」

 手紙の内容を、そのまま伝えた。

 隠すことも、なかったからだ。

「花摘みですか」

 当分の間、帰ってこないですねと、心で呟く。

 カテリーナの花摘みは、気に入る花が見つかるまで、帰ってこないことが多かったからだ。


「残念……」

「何か、言ったか?」

「何でもありません、私事ですから」

「そうか」

「ところで、大変そうですね。見回りが強化されたようで」

「だな」

 他人事のような返事をする。


 フォーレスト学院では、学院内やその周辺でも、警備が強化されていた。

 教師たちの私用の時間が削られ、時間がある教師は、すべて警備に回されているのである。

 生徒たちの情報を手に入れようと、各国の諜報員が、フォーレスト学院がある半島に入り込んで、すでに調査を始めていると、情報を掴んでいた。

 各国は、より優秀な人材を集めようと必死なのだ。

 かなりの有名人である生徒が、突然に編科手続きを取って、魔法科から剣術科に移動したと流れれば余計である。


「有名人がいると、何かと大変ですね」

「俺たちの時も、大変だっただろうな」

 しみじみと、感慨深げな眼差しをしている。


「ええ。それは勿論です。でも、今頃ですか」

「あの頃は、全然気にしてなかった」

「教師になって、ようやくですか」

「悪いか」

「いいえ。宝庫の時代でしたから」

 ほんの少し前の出来事を、グリンシュが思い出していた。


「宝庫ね。まぁ、俺には関係ないことだったからな」

「そんなことありませんよ。いろいろと、話があったではないですか」

 優しく微笑む顔を窺う。

 高い評価をし過ぎだと、常々思っていた。

 昔からカイルに対し、高い評価をしていたのである。

 だが、当の本人は、それを認めようとはせず、俺には関係ないと、冷めていたのだった。


「……昔のこと、忘れたよ」

「カイルは考え過ぎです。もっと楽に物事を……」

「性分でな」

 頑固な姿に、嘆息を零した。

「そうですか」


 話題を変えようと、〈第二職員室〉で話題になった話を尋ねる。

「保健室の利用、どうなんだ?」

 近頃、病気やケガをする生徒が多く、職員室内でも話題になっていた。

 カイルのクラスでも、病気やケガで休んでいる生徒がいたのである。


「以前に比べると、多いですね。悪い風邪でも、流行っているようですし」

「大変だな」

「戻ってくる際は、手を洗って、うがいを徹底させて下さい」

「わかった」


 その他の予防策を聞いた。

 グリンシュはカテリーナがいないことを残念がり、一緒にお茶を飲みながら、話をしたかったと口惜しいと嘆くのだった。




 午後の最後の授業に、顔を出したセナ。

 顔色が悪い中でも、授業を受けていたのである。

 珍しくリュートが、コックリと首を前後に動かし、居眠りをしていたのだ。

 その二人の姿に、早々に脱落したローゼルが、よく続くなと抱きながら、授業に耳を傾けている。


「抜かせるかしら?」

 常に、上位にいるセナに、ローゼルが見返したい気持ちを常々持っていた。

 向上心を持っているも、優秀なセナを抜かせることもできず、テストの結果を耳にするたびに、苦水を密かに飲んでいたのである。


「こんな好機、ないかもね」

 瞳が妖しく光っていた。


読んでいただき、ありがとうございます。

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