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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第2章 幽霊騒動
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第40話

 〈第五音楽室〉を飛び出し、そのまま恐怖に怯えるセナ。

 自分の寮へ戻っても、布団をかぶり、丸くなっていた。

 朝まで眠ることもしない。

 ただ、ぶつぶつと、何かを呟きながら、夜が明けるのを、ひたすら布団の中で待っていたのである。


 同部屋の女の子たちが、不審な行動をしているセナに声をかけた。

 けれど、大丈夫と返事するのみだ。

 頑なに布団から、出てこようとしない。

 さらに、いつもとは違う様子に、女の子たちが首を傾げるばかりだった。


「ホントに?」

 どう見ても、冷静沈着なセナの行動から、考えられない。

 別段、親しいと言う仲でもない女の子たち。

 それほど、セナの行動が異質だったのだ。


「ホントに大丈夫。気にしないで」

「具合が悪ければ、保健室に……」

「ホントに、大丈夫だから」

 布団の中で、声を荒げた。


「……そう」

 女の子たちは、どうしょうと顔を見合わせる。

 だが、そのまま放置することにした。


 いつの間にか、それぞれに部屋を出て行ってしまい、静寂に包まれている部屋に、布団を頭から、かぶっているセナ一人だけが残っていたのである。

 その間も、セナの呟きがやむことがない。




 厳しいカイルのしごきのような授業が続いていた。

 音を上げる様子もないリュート。

 剣術では上のセナに、闘志を燃やしていたのである。


 セナが脱落したことで、残るはリュートのみとなった。

 さらに、闘志を煌々と燃やし、授業を行っている。

 手足に重りをつけ、体力を消耗させる目的で、二時限続きの素振りを、休みなく続けさせたりしていたのである。

 その後、チャイムが鳴るまで、走り続ける走り込みをさせたのだ。


 どの生徒も、疲労感を窺わせている。

 張り切って、学院内の敷地を汗だくになって、走り込んでいるリュートだけだった。


 視線を集中させ、信じられないとばかりに、驚愕し、首を傾げるダン。

 夜更けの張り込みを、早々に切り上げてしまったダンたち。

 夜更けの張り込みをしているリュートの元気さが、信じられなかったのだ。


「まだ、続けているでしょ?」

 ダンの後方を走っているローゼル。


 長いブロンドの髪が、汗で首や顔にまとまりつく。

 まとわりつく髪を直すローゼルに、邪魔なら切るか、縛るかしろと、ダンが心の中で毒づく。

 毒づいているダンの視線を感じても、気にする様子もない。

 これに対し、完全無視の態度を続けていたのだ。


 ローゼルはギリギリまで体力を温存し、ラスト数周に力を注ぎ込む作戦を取っている。

 温存している者にとっても、驚異的なリュートの体力に驚かざるおえない。


「ああ。やっているそうだ」

「夜中に、張り込みしているって、思えない元気さよね、あれは?」

 二人の視線の先が、快調に走っているリュートだ。

 先頭を走っていないが、先頭集団の後方についていた。


((体力バカだな))


「つくづく思うな、天才なんだって」

 微かに、羨望の眼差しを注いでいる。

 胡乱げに、ダンを捉えていた。


「噂を信じるの? そういうタイプじゃないと、思っていたけど?」

「噂を信じて、天才と思った訳じゃない。飲み込みの速さだ」

「……確かに。早いわね」

「噂なんて、くだらない」

「あら、噂って、大切よ」

 ギロッと、涼しい顔しているローゼルを睨む。


「今後の人生設計に大切で、必要不可欠なものだわ。いい噂にしろ、悪い噂にしろね。だってそうでしょ? 学院にある噂一つで、将来にかかわるんだから」

「あの話か?」

 いやそうな表情を覗かせるダン。

 それに対し、楽しそうに話しているローゼル。


「そうよ。学院に広まっている噂が、村へ広まって、各国の諜報員が、村にある噂を聞きつけて、いい人材の生徒を、引き抜いていくんだから」

「面倒臭せ。だったら、俺たちの実力をじっくりと見て、見極めろって感じだ」

 苦虫を潰したような顔を、ダンが滲ませていた。


「一理あるわね。その意見に」

 簡単に、ローゼルが同意した。

「だろう」

「でも、噂を仕入れているなら、私は柔軟に受け入れる」

「お前らしいな」

 感心しているダンだった。


「噂と言えば……。チラッと聞いた話だけど、まったく魔法科の授業に出てないって、話を聞いたわよ」

 名前をあげず、ローゼルが視線だけで促した。

 楽しげに走っているリュート。


「それはないだろう。まったく出ていないで、トップの訳ないだろう? それにあいつの後のやつが、可哀想だろう。勉強してるのに、しないやつに、トップを奪われて」

 顔を顰めているダンだった。


「それもそうね。今回のテスト、どういうことに、なるのかしら?」

「トップはない。実技がある」

 自信満々にダンである。


 書くことを苦手としているダンは、身体を動かす実技を得意としていた。

 剣術科に転科して間もない、リュートがトップになるのは難しいと読んでいる。


「でも、うかうかしてられないかもよ?」

 ローゼルの口角が上げていた。

 人をバカにする態度に、虫唾が走るが、それをグッと堪え、余裕がある表情を覗かせていたのだ。


「まだまだだ。俺は負けない。ローゼルこそ、足掬われないようにしろ」

「ありがとう」

「どういたしまして」

 視線をぶつかり合わせ、火花を散らした二人。


 互いに、二人の視線の先を元に戻した。

 身体全体に汗を掻いているものの、夜更けの張り込みの疲れを感じさせないバカモノに。


 隣で走っているローゼルに、視線を移した。

「セナは、ダウンか?」

 気遣いの表情を窺わせる。


「そうみたい。ベッドから起きないって、言っていたから」

「セナが、ダウンしたのに、あいつは、いつになったら、ダウンする?」

「知らない。でも、あれ見ていたら、しない気がした」

「俺も」

 張り切っているリュート。


「変なところで、気が合うわね」

「そうだな。ところで、今日も張り込みするのか」

「やるんじゃないの?」

 張り切っているリュートに、呆れ交じりの視線を投げかけているローゼルだった。


「毎回、寮を抜け出して、遊んでいるのも、勉強の一つなんだな」

「そうかも。あれで実証済みだもん」

 意気込むリュートが、抜かされそうになるのを食い止めようと、さらにエンジンをかけ、スピードを上げている姿に、視線を巡らせている。


「だからって、ダン。真似しないでよね。魔法科と違って、こっちは連帯責任なのよ」

 寮を抜け出し、遊びそうなダンに、釘を刺した。

 ジト目なローゼルに、ふんと鼻先で笑ってみせる。


「わかってるさ」

「なら、いいけど」

 疑り深い視線を、しばらくの間注いでいたのである。


読んでいただき、ありがとうございます。

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