第393話
学院内の教師たちは忙しい。
『バトル』にあまりかかわらない、低学年を受け持つ教師たちも加わり、盛り上がりを見せるイベントの一つ『バトル』に向け、様々な準備が行われていたのである。
一学年を受け持つチェスターとマドルカも、授業の合間に、警備に問題がないかと、学院の敷地内を奔走していたのだ。
開催中に、生徒たちにちょっかいを出すやからがいるので、ここ数年は、入念に不備がないかと、事前に見回りをしているのだが、毎年、諜報員の数が増えていき、教師たちが頭を抱えることになっていたのだった。
その原因であるのがリュートだったが、今年はリュート以外に、妹のミントも加わり、さらに警備を厚くする必要が出てきたのだが、限られた者たちしかいないので、どうしても教師たちの負担が大きくなっていたのである。
「いくつか、見直す箇所があるな」
真面目な顔をし、マドルカがチャックしていた。
割り振られた場所を見回る役目を、二人が本日は受け持っていたのだ。
渋い顔を、チェスターもしている。
先程、見て回った箇所も、補修し直すほど、酷い状況に陥っていた。
「このところ、諜報員の数が増えていたからな」
疲れた顔を覗かせながら、マドルカが呟いていたのだった。
『バトル』がない、日常の学院においても、毎年のように諜報員の数が増えていったのだ。
そうしたやからに対応するしかない、忙殺する日々を、教師たちや学院を守る警備している者たちが、日々追われていたのである。
学院関係者において、休み日なんてなかった。
その上、盛り上がりを見せる『バトル』を加わり、学院関係者は目も回る忙しさが増えていたのだった。
ただ、そうした汗水たらしながら、仕事をしない者も存在していたのである。
ごくごく一部の教師たちが、自由気ままなライフを過ごしていたのだ。
真面目に働く二人が、嘆息を零していた。
悪戦苦闘しているのに、さらに『バトル』によって、その脅威が増していたのだった。
「いつまで、続くんだ……」
ついつい、遠い目をしているチェスター。
このところ、仕事が多く、マドルカと休みに出かけることができなかった。
「とりあえず、ミントが卒業するまでだろうな」
「……先が長いな」
長さを思い、眉間にしわを寄せていた。
「しょうがない。〈法聖〉であり、あの有名なリーブの子供なんだ」
「確かに、目立つ」
「ま、リュートが卒業すれば、少しは、あっちに矛先が向くだろうから、幾分かは、ラクになる可能性もあるしな」
励ます言葉を、マドルカが紡いでいた。
少しだけ、先が見えたような気がするチェスターだ。
「頑張ろう」
「そうだ。頑張ろう、チェスター」
次の目的地まで、歩いている二人だった。
お喋りしながらも、周囲に注意しながらも、問題がないかと、細かく目を配っていたのである。
「そう言えば、今回の『バトル』は、リュートも、出場するんだろう?」
「まだ、決まっていない」
やや顔を顰めているマドルカ。
正式に剣術科から推薦を出すか、決まっていなかったのである。
「出る気満々じゃないか」
目を丸くしているチェスターだ。
リュートが出る気になっている以上、出場するものと思っていたのである。
「一部だが、ほんの一部の意見だが、転科して、間もない者に、簡単に、推薦を出していいものかと言う意見もあってな。他の生徒たちに、影響が出てしまうのではないかと、危惧している者がいて……」
剣術科の内部では、転科して間もないリュートに、『バトル』の推薦を与えていいのかと言う教師たちが一部いたのである。
能力的に、推薦を与えても、問題ないレベルだったが、魔法科時代の問題行動や、今も、休みの間に引き起こした問題行動に、剣術科の教師の一部で、もう少し、様子を見るべきと言う意見もあり、推薦を出すかどうか、正式に決まっていなかったのだった。
「担任のカイルは、どう言っているんだ?」
「意見を出していない。ただ、見定めているんじゃないのか?」
意見が割れている中、担任であるカイルは、どちらの意見にも賛同することなく、口を閉ざしていたのだ。
そうしたこともあり、余計に意見がまとまらなかった。
「剣術科の基準は、わかりにくいな」
渋面な顔になっているチェスターである。
魔法科だけに在籍していた際は、能力の高さだけで、即効でリュートの推薦は決まっていたのだ。
ただ、推薦を出しても、本人であるリュートに出る意志がなく、これまで『バトル』に出場することがなかったのだった。
「そうだな。魔法科は、実力主義だからな。簡単で、羨ましい」
毎年、剣術科では、誰に推薦を出すかと揉めていたのである。
日々の仕事が忙しいのに、推薦を誰に出すのかと言う会議が、何度も行われ、そうした時間が無駄なと、毎年思うマドルカだった。
「簡単って言うけど、それなりに、面倒なんだぞ? 声をかけても、出る子が少ないから、結局のところ、いろいろと、声をかけるしかないし……」
推薦を出すことは、あっと言う間に決まるが、出場を拒否する生徒もいるので、それなりに魔法科の教師たちも苦労はしていた。
拒否するリュートを、そのまま推薦したのは、気まぐれで出る可能性があったので、拒否しても出場メンバーの一人として名前があったのだった。
魔法科としては、ここ数年、魔法科の成績がよくなかったので、無敵状態のリュートに出て貰い、少しでも魔法科の地位向上を狙っていたのである。
「それも、大変だな」
「上学年の先生たちは、大変だよ。あっちこっちに、声を掛け回っているから。魔法科はどちらかと言うと、研究気質の子が多いから、そんなイベントよりも、自分の研究が大事って感じで、引き受ける子が少ないんだよ」
ぼやくチェスターだった。
「そうなんだ」
「ああ。逆に、剣術科は、血の気が多い子が多いから、出場したがる子が多いんだろう?」
「その通り。出場させてくれって、うるさくって困る」
チェスターとの見回りの前にも、生徒たちがマドルカに声を掛け、推薦を出してほしいと頼みに来ていたのである。
そうした生徒たちを捌くのに、剣術科の教師たちは手を焼いていたのだった。
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