第390話
「これで、少しは、静かになるかな……」
完全に回復していないクラインが、本音を漏らしていた。
リュートたちに付き合うことが多くなっていたので、この後、しばらくはのんびり過ごしたいと巡らせていたのである。
休ませて貰えない状況が、続いていたのだ。
クラインとトリスの周りには、気合いの入ったリュートにやられた面々が、未だに座り込んでいたのだった。
リュートとの戦闘から、だいぶ時間が経過していたが、誰一人として、その場から離れていない。
体力や精神力が、ごっそりと取られていた。
話しながら、トリスとクラインが耳を済ませると、リュートとの戦闘においての検証の声が、あちらこちらで飛び交っていたのである。
いい傾向に、トリスの口角が上がっていたのだ。
「どうだろうな……」
「『バトル』の前にと、思っているの?」
(『バトル』の前に、また、稽古に付き合うかもな……。どうしたら、稽古から、回避できるかな……)
「その可能性も、ないとは言い切れないだろう?」
淡々としているトリスの姿に、もう少し、危機感を持ってほしいと抱くが、無理かと、諦めてしまっていたのだった。
(なんだかんだで、リュートに付き合っているからな……。ま、僕たちも、その部類には入っているのかもしれないけど……)
「……そう……だね。……今回の『バトル』には、出場するつもりなんだろう?」
「出る気満々だ」
わかっていたとは言え、改めて、リュートが、これまで魔法科から推薦を貰いながらも、一度も出場してこなかった『バトル』に出ることに、随分と、気合いが入っているなと、クラインが小さく笑みを漏らしている。
「ま、推薦は、貰えるだろうね」
『バトル』に出場するには、魔法科、剣術科から、推薦を貰えないと出場することができなかったのだった。
多くの生徒が、この推薦を貰うため、必死に、日々の授業や、テストでアピール合戦を繰り広げていたのだ。
けれど、リュートは『バトル』に興味を持っていなかったので、アピール合戦には参加していなかったが、一年生の時から能力が際立っていたので、毎年、推薦を貰えていたが、『バトル』に出場することがなかったのである。
「カイル曰く、日常の振舞いも、考慮するらしいぞ」
魔法科では実力主義で選ばれていたが、剣術科では、能力の他にも、日常の振舞い方も含まれていたのだった。
「……微妙かな」
(……このところ、昔のやんちゃが、出ているからな。でも、昔より、丸くなっているから、大丈夫かな?)
「でも、出るだろうな、リュートは」
笑っているトリスに、クラインの双眸が巡らされていた。
「剣術でも、申し分ないぐらいの力を、発揮するようになったんだぞ?」
(剣術科の生徒を相手に、同じ剣で、いい線まで、仕上がっているのは、確かに、凄い。とても、最近、始めたとは思えないほどだからね……。それに、真面目に、毎日、鍛錬を欠かさない姿は、ホント、あのリュートなのかって、思うほどだからね)
「そうだね。ホント、リュートって、器用だよね。昔から、そう思っていたけど、改めて、実感した感じだね。苦手なものなんて、一つもない」
何でも、器用にこなす姿を、思い浮かべていたのだ。
「あるだろう? リーブ様が」
真面目な顔で、トリスが突っ込んでいた。
「ああ……、そうだね。でも、リーブ様を苦手として、カウントしていいのかな」
首を捻っているクライン。
「いいだろう。クラインたちは、実際に、目にしたことは、未だにないだろうが、リーブ様の前だと……」
「確かに、見たことはないけど、話をしたり、聞いたりしただけで、物凄く、挙動不審になっている姿を、見ていると……ね? だって、我が物顔でいるリュートが、あんな姿になるんだから、相当、強いんだろうなって、思うよ?」
困ったような顔を、クラインが覗かせている。
これまで一緒にいて、クラインたちは、リュートの母、〈法聖〉リーブを見たことがなかった。
いつも、リュートの幼馴染であるトリスから、話を聞いていたのだった。
トリスから聞く話よりも、少ないが、直接、リュートからも、話を聞いたことがあった。
その際は、いつも挙動不審で、いつもの姿とは、かなり違ったのだ。
「とにかく、強いけど、おばさんは、お茶目な人だよ」
笑っているトリスに、クラインが首を傾げている。
(……お茶目ね……。僕としては、リュートよりも、傲岸不遜って、感じがするんだけどな……)
「クラインは、どうするんだ? 『バトル』に出るのか?」
「リュートも、出るだろうし、出ようかな……。トリスは? 勿論、出るんだろう?」
クラインの双眸が、トリスに注がれていた。
「どうしようかって、思っている。別に、俺が出なくっても、いいんじゃないのかって」
「出れば、いいじゃないか? せっかく、リュートも出るんだし、トリスも、出ればいいじゃないか?」
「面倒臭いんだよな」
『バトル』に出場することに、トリスとしては、メリットを感じていない。
リュートが出るなら、様子を見るために、出た方がいいかなって思う程度で、やる気がなかったのだった。
「ブラークたちは、どうするんだ?」
「やる気になっているリュートに、触発されたみたいで、出てもいいかなって、感じにはなっているよ」
「へぇー。じゃ、出るな」
「だろうね」
「じゃ、今回の『バトル』は、少しは、面白いことになるかな?」
ニヤリと笑っているトリスの姿。
それに対し、クスクスと笑っているクラインだ。
「これまでにない、面白さが、出るかもね」
「カレンも、そうなると、出るだろうし……」
思考を巡らしているトリスだった。
「カーチスも、出ると思うよ」
「だろうな」
「今回は、僕たちのクラスから、かなりに出るかも」
「ま、バトは、出ないだろうが」
「だね」
リュートに次いで強いバドは、リュートと同じように、興味を示さない物に関心が薄かった。
「俺が出てくっても、いいか?」
「無理にとは、言えないけど」
「ま、『バトル』まで、もう少し、あるからな」
「そうだね」
トリスとクラインが、『バトル』のことで話しているのを、周りにいる剣術科の生徒たちが聞き耳を立てていたのである。
そして、聞き耳を立てていた剣術科の生徒たちが、誰もが、トリスとクラインに突っ込んでいた。
(((((推薦、貰った気でいるのかよっ)))))
読んでいただき、ありがとうございます。




