第389話
寝そべっていた身体を起し、首や肩を動かしているブラーク。
先程の稽古の際、ブラークは前に出ることは少なく、全体を俯瞰した目で、魔法科、剣術科の面々の動きを見て、動き回っていたのだった。
周りを見ているところに、何度か、リュートから攻撃を受けてしまい、ダメージを貰い、酷いあり様の要因の一つとなっていたのである。
ふーと溜息を零していた。
(周りを見すぎて、隙ができていたか……)
ボリボリと、ブラークが頭を掻く。
最近、剣術科の面倒を見ていたこともあり、大丈夫かと、そちらの方に意識が集中しすぎてしまい、リュートに対し、僅かな隙を与えてしまったと、ブラークなりに分析していたのだった。
(見ないと、連携も取れないし、サポートもできない。配分が難しいな……)
思考を巡らせているブラークよりも、少し早く、身体を起していたキムが声を掛けてきた。
「どう?」
「まぁまぁ、動く。キムは?」
「僕も、動くよ」
ブラークよりも、キムの方が回復していたのだ。
補助を周りに掛けつつ、適度に攻撃を仕掛けては、後衛に下がったりして、極力、攻撃を受けないようにキムはしていたのだった。
「十分に、薬草やポーションを仕込んでいたが、まだ、足りなかったな」
「それもそうだけど。とにかく、もう少し、攻撃を回避する方を、考えた方がいいんじゃないの?」
ブラークの姿を見て、キムなりの意見を口に出していた。
「それも、もっともだが……。リュートだしな……」
考え込むブラークである。
だが、答えが見つからない。
グルグルと、頭の中でいろいろと回っていた。
「……それに、今回は、事前にわかっていたから、仕込むこともできたけど……、突如、始めると、これだけのことを仕込むのは、無理だからな……」
リュートとの稽古を知っていたブラークたちは、戦闘に使えそうな物を掻き集め、使っていたのだ。
万全の体制でこの稽古に臨んでいたのだった。
「この規模だと、回復役が、もう数人必要だな」
キムが言わんとしていることを、ブラークも、戦闘中に感じていた。
今回の稽古と言う戦闘には、回復役が、全然、足りていなかったのである。
クラスメートである魔法科の面々の姿を、ブラークの双眸が捉えていた。
(血の気が多い連中になっているからな……)
バケモノのようなリュートを意識するあまり、誰もが、リュートに集中してしまい、回復役に徹する者が少なかったのだ。
「うん。僕たちは回復魔法も、ある程度、使えるけど、強力なリュートと、一緒にいたことで、攻撃に特化しすぎているところがあるから……」
頻繁に問題を引き起こすリュートに巻き込まれ、先輩や教師、冒険者たちと戦闘を繰り返しているうちに、ブラークたちは攻撃力が増した、特殊な戦いをする集団になっていたのである。
自分たちが変わっていると、それぞれに自覚を持っていたのだ。
「……そうだな。剣術科には、無理だし……」
普通の戦闘では、剣術科たちが前衛で、魔法科が後衛をと言うのが、ベターな戦い方なのだが、ブラークたちは、平然と前衛のスタイルで、戦うことが当たり前のようになっていた。
(……普通の戦闘スタイルを、もう一度、学ぶべきかもな……、でも、戻れるのか……、俺たち)
「だから……、こうなっちゃうだろうね……」
苦笑しているキム。
「そうなんだよな……」
やや遠い目をして、ブラークが考えあぐねいでいたのだった。
近くで座り込んでいたライゼが、ジト目で二人を捉えている。
「私たちも、巻き込んで……」
ライゼたちは、トリスとクラインの罠に掛けられ、無理やりにこの場につれてこられたのだ。
渋々、稽古の付き合わされた組だった。
さすがにリュートを前に、駄々を捏ねる真似はしなかったが、準備不足は否めなかったのである。
「諦めろ。リュートと、一緒のクラスなんだ」
同じように、傷だらけの魔法科のルパートが宥めていた。
クラインに声を掛けれ、素直に応じた一人だった。
未だに、納得がいかないライゼが、早々に諦めているルパートを睨んでいる。
「ライゼ。収穫はあっただろう?」
ニヤリと笑うルパートに、矛先をいったん収めていた。
ただでは、やられないルパートだった。
ルパートの双眸が、ブラークたちにも注がれていたのだ。
「ブラークたち、さらに、いい動きしていたな」
ルパートの話に、ブラークとキムの眼光が注がれていた。
ライゼから突き刺さる双眸を向けられているが、ブラークたちは気にしない。
「このところ、リュートに付き合わされることが多くなっているからな」
感慨深い顔を覗かせているブラークである。
魔法科から剣術科に転科してから、リュートは活発に行動を移すことが多くなり、それに付き合う頻度が増していったので、ブラークたちの魔法の速度や威力、瞬時の対応力など、能力が向上していたのだった。
「どうだ? リュートに、一緒に巻き込まれるか?」
口角を上げているブラークに、首を竦めているルパート。
「断るよ。ちょっと、やりたいこともあるしね」
「ブラーク。トリスたちに、言っておきなさい。もう少し、早く言いなさいって。準備ができないじゃない」
不満を、ライゼが口に出していたのだ。
突然、トリスたちに罠に掛かり、連れてこられたので、ほとんど準備ができないまま、稽古と言う名の戦闘に入ってしまったので、バケモノであるリュート相手に、戦闘する準備がしっかりできないままだった。
不十分なままで、やりきった感が出ず、モヤモヤするものを、ライゼは抱え込んでいた。
溜まった鬱憤を、晴らす機会を欲していたのである。
「言われていただろう? いつでも、どこでも、できるようにって」
ブラークに言われ、さらにライゼの機嫌が悪くなっていく。
「うるさい。わかっているわよ」
「なら、ライゼが悪いんだよ」
言われていることは正しいので、ぐうの音も出ない。
「ルパートは、どうなのよ」
「俺、素直に応じたから、少しは時間があったから、それなりの準備はしていたな」
「何で、私たちは……」
「逃げるだろうって、踏んだからだろう? だから、罠を張って捕まえて、連れてこられたんだろう」
「……応じたかもしれないじゃない……」
「トリスとクラインが決めたんだ。それに、応じると、思っていた者も断ってきた奴らがいたから、捕まえたりと、結構、大変だったんぞ」
「……」
不満げに口を尖らすライゼに、ブラークたちが笑っていたのだった。
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