第388話
滴る汗を、無造作に拭うセナ。
リュートとの稽古を終え、その場に座り込んでいたのだ。
誰よりも、激しく打ち込んでいったこともあり、消耗が激しく、アニスに回復して貰っても、動くことがままならない。
対峙したリュートは無傷で、自分たちの方がボロボロで傷だらけと言う状況に、唇を小さく噛み締めてしまっていた。
誰一人として、リュートに傷をつけることができなかった。
そして、セナ自身も、その一人であることを自覚しているものの、剣の他に、魔法を混ぜ込む戦法になったリュートに、一太刀も入れられなかったことに矜持が傷つけられていたが、周りに仲間がいる以上、感情を押さえ込んでいたのだ。
セナの近くに、ローゼルやダン、パウロがいた。
最初は、バラバラに切り込んでいったが、途中から、連携した方が効率的だと判断し、ローゼルたちと連携を駆使する戦法で挑んでいったのである。
けれど、なす術がなかった。
一息、セナがついていた。
少しずつ、身体は癒えてきているが、まだ、動かせない。
さらに、周囲に双眸を巡らせている。
他の班のメンバーや、魔法科も混じっていた。
ここに集められたメンツは、魔法科七年A組の生徒と、剣術科七年一組の生徒だった。
どちらも、リュートのクラスメートだ。
これだけの人数が束になっても、リュート一人に、傷一つつけることができなかったのである。
もう一度、息を吐いていたのだ。
稽古を終えた直後に、稽古に参加していなかったアニスから回復して貰っていた。
身体の具合としては、まだ、横たわっていたいところだが、『十人の剣』の称号を持つ矜持で、セナは起き上がっていたのである。
チラリと校舎の方へ、視線を巡らせていた。
戦闘を終えてから、時間だけが過ぎていく。
本来であれば、次の授業にいかなければならない時間だったが、起き上がることが精いっぱいで、立ち上がり、歩くことが億劫だった。
大きく、息を吐くセナ。
「……大丈夫?」
班のメンバーの様子が気になり、セナが声を掛けていた。
「……あれだけの人数を相手に、平然としているなんて」
眉間にしわを寄せ、ローゼルが不満を口に出していたのだ。
セナよりも、回復していた。
無理して動こうとすれば、動くことができたが、無理をしないローゼルだった。
スッキリした顔で、立ち去っていったリュートの姿を思い返していたのである。
「リュートだからな」
「だよね」
このところ、リュートたちと行動を共にすることが多いダンとパウロは、これがリュートだからと、悟りを開いたような、淡白な口振りだった。
「麻痺し過ぎよ」
半眼しているローゼル。
やれやれと、二人が首を竦めている。
回復したとは言え、疲労が抜けないローゼルが盛大な溜息を吐きながら、まだ、動けないでいる面々を見渡していた。
全滅した状態だ。
ローゼルのように、ある程度、無理をすれば動く者もいたが、精神的なダメージも酷かったので、その場に止まっていたのだった。
「今日一日、使い者にならないんじゃないの? これじゃ」
冷静に状況を見て、ローゼルが口に出していた。
「……」
誰も彼も、動かない姿に、先生たちからの苦情が、頭の中を掠めていくセナ。
(リュートが来てから、小言ばかり貰っている……。リュートのせいだ!)
「俺も、無理だな。今日は休む」
「うん」
お前は、どうするんだ?と、渋面になっているローゼルに、双眸を巡らせているダンだった。
「私も、無理よ。で、セナは?」
「……出たいけど、さすがに……」
視線を彷徨わせている。
この後の授業のことを逡巡しているが、身体が上手く動かすことができない。
自身の魔法の耐性に弱い体質を隠すには、授業に出るべきだと抱くが、身体が言うことを利かなかったのだ。
そして、このところ、リュートたちと遠出することが多く、授業が休みがちになっていたので、これ以上、休む訳にはいかないと、いろいろと揺れ動いていた。
だが、思う以上に、身体が機能しない状況に、明日の授業のため、休むべきかと思い悩んでしまっていたのだ。
「リュートのやつ、一段と、動きのキレが増していたな……」
先程の稽古を、真面目に振り返っているダンである。
ローゼルとセナが話している間に、持っていた薬草を使い、さらに回復していたのだった。
「そうね」
ダンの言葉に、ローゼルが素直に頷いている。
ローゼルも、稽古の最中に、何度もリュートに対し、舌打ちを打つほどのいい動きをされ、戦闘をしつつも、対峙しているリュートを分析していたのだった。
パウロも混じって、戦闘後の考察をしている三人。
リュートが加入する前は、ダンとローゼルは頻繁に衝突することが多かったが、このところは、衝突することは少なくなり、戦闘後の考察をし、さらに自身の能力がよくなるように、互いにいろいろと考察していたのである。
「よく考察しているわね、あんだけ、戦って」
呆れ顔で、ガルサがセナに声を掛けてきた。
その間も、ローゼルたちの考察は、ヒートアップして行く。
(私たちも、負けていられないわね……)
「戦ったばかりだからでしょう」
見慣れている光景になっているセナだ。
「セナは、いいの?」
「私は……、疲れた」
同じ班長であるガルサに、本音を吐露していた。
「そうね。私も、疲れた」
疲労が抜けていない顔を、ガルサも覗かせている。
顔を見合わせ、互いにボロボロの姿に苦笑していたのだった。
「前よりも、いい動きするようになったじゃない?」
稽古の際、奮闘していたガルサを賞賛していたのだ。
的確な指示を出しながら、リュートに仕掛けていく姿を目にし、以前よりも、腕を上げている姿に負けられないと、戦闘中に抱いたことを思い出していたのだった。
「鍛えられたからね、魔法科に」
立ちはだかる壁のようなトリスたちに、ボロボロになるまで、鍛えられたことを思い返しているガルサ。
「いい刺激になっているわね」
「それでも、リュート一人を、傷をつけられないなんて……、どんだけ、凄いのよって感じよね」
呆れているガルサ。
小さく、セナが笑ってしまっていた。
「ホント」
「七年生だし、『バトル』の予選に出るために、推薦を狙っていたけど……」
僅かに、ガルサが顔を曇らせている。
『バトル』に出場するために、推薦を貰えるように頑張っていたガルサの姿を目にしていたので、ガルサが何を落ち込んでいるのか、セナは理解していたのだ。
(あれだけ、トリスたちに鍛えられたのに、一矢も報われなかったことで、落ち込んでいるんだろうけど。リュートを見て、考えることは、やめた方がいい……。でも、私も未だにリュートを基準に見ちゃうこともあるんだけど……)
「本選は、無理かもしれないけど、予選には……出られるんじゃないの?」
「そう思う?」
真剣な顔をセナに注いでいる。
「リュートは別格。リュート抜きで、考えないと」
「……」
「ガルサ。自信家のあなたは、どこにいったの?」
励ましてくれるセナの姿に、沈んでいた気持ちが少しだけ浮上していった。
「結構、腕、上がっているわよ」
「私、推薦は、貰えそう?」
「このまま、鍛錬をおこたらず、精進すれば、いけると思うけど?」
本心を口に出していたのだった。
世辞ではなく、セナの本心を読み取ったガルサの口元が上がっている。
「頑張る」
ガルサの眼光が、爛々と輝かせていたのだ。
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