第386話
グランドでの稽古を終えたリュートは寄り道することもなく、まっすぐに保健室のテラスに足を運んでいた。
テラスには、すでに、大量のお菓子が用意されており、リュートの頬が緩んでいたのだった。
リュートが来るであろう時間を考え、事前に用意していたものだ。
グリンシュと約束されていた訳ではないが、稽古終わりに立ち寄るだろうと、リュートが好む大量のお菓子やケーキを、ふんだんに用意していた。
席についたリュートのため、慣れた手つきで温めにハーブティーをグリンシュが出している。
「楽しかったですか?」
「勿論。いろいろと、試すことができた」
「そうですか。それはよかったです」
大量にあるお菓子やケーキを、リュートが頬張っていく。
次々になくなるお菓子やケーキを補充しながら、空になるカップに飲み物を注いでいった。
稽古したため、お腹がすいていた。
あらかた食べ終えたところで、飲み物を飲んで、ようやくひと段落着いたのだ。
「満足しましたか?」
微笑むグリンシュ。
「ああ。美味しかった」
周囲を見渡し、グリンシュを捉えていた。
「他には、いないのか?」
ここに来て、誰もいないことに気づいていたのだった。
「カテリーナは、出かけていますよ。それに、ミントちゃんは、このところ、見かけていません」
「そうか」
「トリスたちは、まだ、来ていませんね。だいぶ、稽古に集中していたのでは?」
「……そう言えば……、そうかもしれない。でも、アニスがいるから、大丈夫だろう」
稽古の光景を思い出しながら、言葉を紡いでいた。
「アニス一人で、回復役を?」
「そうだ」
「……負担かもしれませんね」
「大丈夫だろう。アニスには、ある程度、薬草やポーションを渡しておいたから」
「なら、大丈夫かもしれませんね」
「ああ」
稽古で動けなくなっているトリスたちを、気にする様子もない二人。
「アガール街は、どうでしかた?」
アガール街のことを聞かれ、表情が険しくなっていた。
「立ち並んでいた露店には、面白い掘り出し物がいろいろとあったが……、ムカつく連中がいた」
「そうですか」
「頭の硬い者ばかりだ」
「古い街ですからね」
「報告が上がっているんだろう?」
「えぇ」
リュート自身も、学院側がつけた監視役の者たちの存在に気づいており、無視していたのだった。
そして、学院の保健士であるグリンシュも、上がってきた報告書に、すでに目を通しているだろうと確信していたのだ。
「気に喰わない考え方だ」
憤慨しているリュートに、困ったような顔を覗かせている。
「いろいろと、歴史が残っているところは、まだまだ、硬い者が多いでしょうから……」
グリンシュの言葉に、目を細め、遠くを睨んでいるリュートだ。
「何せ、学院にも、先日まで、そうした古い考えを持った者がいたのですから……」
学院の敷地にある、四つ村があるうちの一つカブリート村でのことを思い返していたのだ。
カブリート村も、アガール街同様に、頭の硬い者たちがいて、生贄を捧げる儀式をしていたのである。
そうした儀式を、未だに信仰している考えに、リュートとしては不満だった。
「……面白くない」
「アガール街の地下は、どんな儀式場だったんですか?」
「たいしたことはない。あれで、儀式を重んじているなんて、バカげている」
鼻で笑っているリュートである。
儀式場とは名ばかりで、何の変哲もない洞窟で、激しい戦闘に耐えられない、脆い造りになっていた。
そのことを、興味のあるグリンシュに聞かせていたのだ。
(いずれ、機会があればと思っていましたが、いかなくとも、よかったですね……)
「それは随分と、お粗末ですね」
「だろう? 儀式を重んじるなら、もう少し考えるべきだ」
辛辣なリュートの言葉。
グリンシュが同意している。
そして、儀式の内部など、気になっていることを根掘り葉掘り聞き、徐々に興味を失っていくグリンシュだった。
「冒険者の質も、悪かったようですね」
「ああ。多少はできるやつも混じっていたが、ほぼほぼ、弱い。あれで、俺たちに勝てると思っていることに、何をやっていたんだと思っている」
アガール街で、戦った冒険者たちのことを思い出し、眉間にしわを寄せている。
「依頼した長老も、甘いですね。そんなやからを雇うなんて……」
微かに、嘲笑が混じる声音をしているグリンシュ。
(閉鎖的で、まともな情報を扱えないなんて……、長老としては、愚策でしかありませんね……)
「ああ。そのせいで、満足することができなかった」
「そうでしたね」
ふふふと、グリンシュが笑う。
「話は、変わりますが、一体、露店で、どんな物と出会ったんですか?」
アガール街での儀式のことは興味が失せたので、次に興味のある露店での話に変わっていった。
砂漠地の拠点の一つになっていることから、様々な商人たち通ること出が集まり、数日滞在し、露店を開くことも多く、掘り出し物の魔導具などが売っている。
以前から、アガール街で、出展している露店に、グリンシュは興味を憶えていたのだ。
無造作に、亜空間から露店で買ったものを取り出し、グリンシュに見せていった。
リュートが買ってきた物で、盛り上がっている二人だった。
最後まで、テラスにトリスたちが姿を現すことはなく、アガール街でのことを興味のあるまま、グリンシュが聞き、そして、露店で買った掘り出し物について、リュートが熱く語ってきたのである。
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