第385話
今日から、新章に入ります。
広いグランドで、息も絶え絶えなトリスたち。
魔法科や、セナたち剣術科の生徒が入り混じって、あちらこちらに座り込んだり、横たわっていたのだった。
用意していた回復要員であるアニスが、次々に、状況が酷い者たちから回復させている。
辛うじて動ける者は、薬草やポーションを使い、自分たちで回復していたのだ。
先程まで、この広いグランドにはリュートがいたが、稽古が終わると、颯爽と離れてしまっていた。
リュート対その他大勢で、模擬戦と言う名の稽古が行われていたのだ。
剣術科の生徒や魔法科の生徒の面々をものともせず、リュートは剣や魔法を自在に操っていたのだった。
カーチスに実家があるアガール街の帰り道、リュートとトリスたちの間で稽古が決められ、セナたちやブラークたちもつき合わされていたのである。
それでも、人数が足りないと言うリュートのために、魔法科、剣術科のクラスメートに声をかけていった結果、素直に応じる者や、応じない者も数多くいたので、トリスやクラインたちが稽古の生贄を増やすため、リュートとの稽古を拒否するクラスメートを、次々と捕獲し、待ち合わせ場所につれてきたのだった。
勿論、この場には、魔法科でリュートの次に、強者であるバドの姿がない。
バドを捕まえてつれてくると言う考えが、最初からトリスたちの頭の中になかったのである。
リュートの次に、ある意味、研究バカであるバドがいれば、経験則から、ただでは済まないと感じていたからだった。
バケモノ二人を相手にしたくなかったのだ。
長く、息を吐くトリス。
そして、緩慢な動きで周囲を窺っていた。
今日一日は、使い物にならないだろうなと苦笑している。
トリス自身も、いつものように身体が動くのは、難しいと、感じ取っていたからだった。
座り込んでいることも、億劫なほどだ。
(これで、少しは落ち着くといいんだが……)
若干の不安を、トリスは過ぎらせている。
アガール街で、冒険者たちと戦ったものの、思う存分戦った気分が得られなかったため、不満なリュートの要望を聞き入れ、この稽古が行われたのだ。
不満を募らせれば、後で酷いことになると、過去の出来事からトリスやクラインが想像できたからだった。
不満が溜まり過ぎないように、リュートの様子を見定めながら、トリスやクラインたちが不満を排出させていた。
トリスの身体から、滴る汗。
億劫そうに、汗を拭うトリスだ。
これだけ人員をぶつければ、もう少し、手を抜けるかと期待していたが、嬉々としたリュートはトリスの想像を遥かに超え、結局のところ、立つことも億劫なほど、疲労感を漂わせていたのである。
(今度は……、難しいが、他のクラスから捕まえてくるか……)
深く、トリスが息をついた。
そこへ、クラインがゆっくりとした足取りで寄ってきて、ヘロヘロなトリスの前に腰を下ろす。
(……クラインのやつ。もうここまで動けるのか……)
持っていたポーションを渡したのだ。
「最後の一個」
受け取ったトリスは一気に飲み干し、先程までの疲労感が僅かに薄らいでいった。
「ラクになった? 少しは」
「ああ。よく残っていたな」
リュートとの稽古の途中で、手持ちの薬草やポーションをトリスは全部使い切ってしまったのだ。
いつもよりも様々な回復薬を多く所持していたが、次からは、もっと用意しようと心の中で誓っている。
軽く、息を零していた。
稽古が終わっても、動くことができず、その場に座り込んでいたのだった。
「残しとかないと、後が大変だろう? だから、必死に残しておいたんだ、いくつかは」
ニコッと笑みを漏らしている。
その笑みの中に、僅かに疲れも滲んでいたのだ。
「そうか……」
残しておく技量に、トリスが感心している。
「この後の授業、出れそうもないね」
クラインの双眸が、回復できていない面々を巡らせていた。
まだ、多くの生徒が、動くこともできず、横たわっていたのだ。
(無理だな)
この時間帯も、授業を取っている者もいたが、それを無視し、捕獲して連れてきたのはトリスやクラインたちだった。
「でも、アニスがいてくれて、助かったね」
「そうだな」
回復役に徹しているアニスは、この稽古に参加していない。
見学に回っていたのである。
そして、稽古が終わると、即状況の悪い者たちの回復に当たっていたのだ。
当初、ミントも、この稽古に加わることになっていたが、直前になって、稽古をキャンセルし、友達と遊びに出かけてしまった。
(もう一人、回復役を用意しておくべきだったな)
「もう少し、かかるかって思っていたが……」
リュートとの稽古の時間を、もう少し掛かると見込んでいたトリスだったが、思いの外、想定していた時間より、早く終わってしまい、自分の分析力が悪さに反吐が憶えている。
「そうだね。想定より、早く終わったね」
リュートがいってしまった方向へ、クラインの眼光が注がれていたのだった。
「ま、楽しそうに稽古していたから、当分の間は、持つと思うけど、早く、終わった分だけ、少し早くなる可能性もあるから、気をつけないと」
「だな。魔法だけじゃなく、剣を使うようになったから、さらに、動きに磨きが掛かっているしな……」
さらに強者になっていく姿に、どこまで強くなるんだと呆れているトリスだ。
「前よりも、魔法の速度も、威力も、上がっているし」
「ああ。剣に固執しなくなったから、柔軟性もまして、さらに厄介になったな……」
「カイルのアドバイスが、利いたね」
「魔法嫌いだったが、このところは、よく併用しているからな」
苦笑しているトリス。
魔法が大っ嫌いだと言うことも忘れていて、トリスとしては安堵感もあったのだ。
(このまま、忘れてくれると、助かるんだが……)
「剣と魔法を使われるから、ホント、大変だよ」
「大変だけど、いい経験にはなる」
「そうだけど。その分、こちら側の疲労や苦労が……」
遠い目をしているクラインだった。
捕獲していった記憶を思い返していたのだ。
トリスとクラインが中心となって、拒否していった者たちを捕まえていたのである。
「このまま、魔法嫌いを忘れて貰うと、いいけどな」
「バドも、参戦して貰う? 今度」
「……まだ、早い」
時期早々だと、トリスは抱いている。
「それに、後が面倒だ。各方面から、苦情が出るぞ」
「確かに」
「だから、バドを投入するにしても、もう少し後だ」
「これじゃ、足りないよ」
「他のクラスから、捕獲するしかないな」
「大変だな、それは……」
ぼやきながらも、クラインの頭の中では誰を選び、どのように捕獲しようかと案を巡らせていたのだった。
二人で喋っている間に、多少、動ける程度に回復した者たちが増えていった。
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