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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第8章 古の砂漠の民と路地迷路
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第384話

 貸切の馬車の中で、一人カーチスが騒いでいる。

 ブラークやキムが、以前、露店で買っておいたお菓子を食べながら、空元気なカーチスに付き合っていたのだった。

 馬車の中では、賑やかな声が響いていたのだ。

 他の面々は、それぞれ喋りながらも、空元気なカーチスを静かに眺めていた。

 各々、好き勝手に過ごしていたのだ。

 騒動後に、シャミック家から、刺客が襲われるかと思っていたが、そうした刺客もなく、拍子抜けするところが、リュートたちの中にあったのである。

 勿論、シャミック家の一部の者たちの暴走があったが、リュートたちが気づく前に、グリフィンの部下たちが、事前に潰していたのだった。

 そのこともあって、大きな問題が起こらなかったのだ。


「いつも以上に、騒いでいるな」

 小さな声で、トリスが口に出していた。

「そうだね」

 頷くクライン。

 トリスとクラインは、何もせず、ゆったりとした時間をとっていたのである。

 彼らの近くでは、リュートとミントが露店で見つけ、購入した魔導具を弄っていたのだった。

 魔導具を触る前は、購入したお菓子を食べていた。

 そして、いつの間にか、魔導具を手にしていたのだ。

「普通のお見送りだったね」

 帰る際の出来事を、クラインが思い出している。

「ああ」


 お世話になった、ディアマンテ家を出る際、トリスたちはお世話になった旨の礼を、早々に伝えた後、自分たちがいたら、カーチスたちの邪魔だろうと、気を利かせ、少し距離をとっていた。

 家族と話すカーチスは、学院にいる時のふざけた顔とは違い、真面目な顔で話をしていたのだった。

 そんなやり取りを、トリスたちは眺めていたのである。

 ここに到着した際と、カーチスは、変わらない顔を覗かせていたのだ。

 しんみりとするかと巡らせていたが、いつもと変わらない様子に、幾分、身構えていたトリスたちの方が、拍子抜けしてしまっていた。


「でも、家族と離れたら、やっぱり、堪えたんだろうね」

 クラインの双眸が、空元気な姿を見せているカーチスを捉えている。

 いつも以上に、騒いでいたのだった。

 誰も気づいていたが、誰も言うことはない。

 ただ、静かに見守っていたのである。

「だろうな」

「卒業したら、戻ることはないって、断言していたけど、たまに、顔を出すことになったと言った時のカーチスの顔、物凄く困惑していたし、嬉しそうだったね」

 そうだなと、トリスが笑っていた。


(あの時、カーチスの決意を聞いた時は、相当な覚悟をしたんだなって思っていたけど、ふたを開けてみると、上手い具合にいい着地点に落ちたようで、よかったな……)


 祖父ミゲルから言われたと話し、どういう顔をすればいいのかと、戸惑っているカーチスの姿に、トリスたちはよかったじゃないかと、言葉をかけていたのである。

「少しすれば、元通りになるだろう」

「だな」

 ニッコリとした顔を、クラインが滲ませていた。

「まさか、カーチスが生まれ育った街が、こんな街だったなんてな……」

 感慨深い顔を、トリスが覗かせていたのだった。

 何かあると、それとなく感じるところがあったが、カーチスの学院での姿を鑑みると、まさか、こういった場所だったとは想像もしていなかったのである。

「そうだね。屈託のないカーチスから、想像もしていなかったよ。ただ、このところの様子が、おかしい時もあったから、何かあるのかなって、思っていたけど。まさか、こういうことだったとは……」

「だな」

 神妙な顔で、トリスが頷いていたのだ。


 最近になって、育った街が閉鎖的なところだと、徐々に聞いていたが、こんな場所脱兎とは思ってもいなかったのである。

 次第に、学院の中にある、閉鎖的なカブリート村のことを、トリスも、クラインも、思い返していた。

 魔物に対して、供物として生贄を渡していた村と、似たようなことが行われていたのかと呆れつつも、もしかすると、そうしたことをやる者たちが、各地に多いのかもしれないと改めて思い直していたのだった。


「まさか、卒業したら、家に戻らない覚悟していたなんて」

「知らなかったな」

 しみじみとした顔で、トリスが漏らしていた。

 こくりと、頷くクラインだ。

「でも、顔を出すことが、できるようになって、よかったよ。覚悟を俺たちに話した、あの時のカーチスは、ホント、清々しさの中に、辛さが混じっていたからな」

「そうだな」

「強くなったね」

「ああ。とにかく、これで、ひと安心だな」

「そうだね」

 このところのカーチスの様子が、おかしいと、密かに、トリスたちは案じていたのである。

 今回の件が、片づいたことで、以前のような屈託のないカーチスに、戻ることに嬉しさが湧き上がっていたのだった。


「トリス、クライン。面白いものを、手に入れたか?」

 魔導具を弄っていた手を止め、リュートが二人に視線を巡らせている。

 その隣では、まだ、ミントが購入した魔導具を触っていたのだ。

「ああ」

「勿論」

「後で、見せてくれ」

「「了解」」

「それと、学院に戻ったら、鍛錬に付き合ってくれ」

「「……」」

 顔を、僅かに顰めている二人。

 互いに、目を合わせているトリスとクライン。

 そんな二人に、気にする様子がないリュートだった。

「勿論、全員だ」

 ニカッと、リュートがいい笑顔をしている。


「拒否権は?」

 爛々に瞳を輝かせているリュートに、双眸を注ぎながらクラインが尋ねていた。

 旅を終えたばかりで、鍛錬に参加したくなかった。

「ない」

 きっぱり否定され、うな垂れてしまっている。

「トリス。逃げも許さない」

 リュートの瞳が、次第に獰猛な目になっていたのだ。

 確実に、逃げることができないことを察していたのだった。

「……わかった。けど、旅に身体が疲れている。それに、カーチスは……」

 空元気なカーチスの姿に、トリスの眼光が傾けられていた。

 促される形で、リュートも、誰よりも騒いでいるカーチスを捉えている。

「……大丈夫だ、カーチスは」

「けど……」

「大丈夫だ」

 渋面になっているトリスを、しっかりと見つめていたのだった。


(カーチスが、使えなかったか……)


 カーチスのことを、利用しようとしたトリスだったが、カーチス自身が、もう大丈夫なことを、トリス以上に感じていたのである。

「大丈夫。旅が終われば、いつも通りだ」

「勘か?」

 しぶとく、粘るトリスだ。

「ああ。勘だ」

「外れることは?」

「ない。俺を、誰だと思っている」

「そうだな……」

 ようやく、ここに来て、トリスも諦めていた。

「学院にいるやつも、巻き込んで、鍛錬だ」

「このメンツだけじゃ、不足か?」

「足りない」

 がっくりと、肩を落としているトリス。

「わかったよ」


「さすがに、一日は、休養日にさせてよ」

 クラインの申し出に、僅か数秒だけ思考を巡らせていたのだ。

「一日、休みにして、皆を集めて、鍛錬だ」

 これ以上は、譲れないと言う眼差しを注いでいた。

「「了解」」

 二人からの言質を取り、また、手にしている魔導具を弄り始めていたのだ。

「みんなには?」

 困ったねと言う顔で、クラインがトリスに問いかけていた。

「言わない方が、いいだろう」

 誰一人として、リュートとの話を聞いていた様子がなかった。

 辛うじて、ミントは聞いていたが、何かを言う様子もなかったのである。


(ミントちゃんも、参加だな。これは、誰一人として、逃がす訳にはいかないな……)


 トリス同様に、周囲の様子を窺うと、楽しげなお喋りに夢中になっていたのだった。

「だよね」

「逃がしたら、俺たちの負担が、大きいからな」

「そうだね」

「全員、巻き込む」

 揺るぎないトリスの眼差し。

「じゃ、学院にいる者たちは、逃げないようにしておかないとね」

 微笑むクラインに、トリスも口角を上げていたのである。

「勿論だ」

 二人で、誰も逃がさないような策を編んでいたのだ。

読んでいただき、ありがとうございます。

こちらの章は、今日で終わります。

次の投稿は、11月18日です。

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