第384話
貸切の馬車の中で、一人カーチスが騒いでいる。
ブラークやキムが、以前、露店で買っておいたお菓子を食べながら、空元気なカーチスに付き合っていたのだった。
馬車の中では、賑やかな声が響いていたのだ。
他の面々は、それぞれ喋りながらも、空元気なカーチスを静かに眺めていた。
各々、好き勝手に過ごしていたのだ。
騒動後に、シャミック家から、刺客が襲われるかと思っていたが、そうした刺客もなく、拍子抜けするところが、リュートたちの中にあったのである。
勿論、シャミック家の一部の者たちの暴走があったが、リュートたちが気づく前に、グリフィンの部下たちが、事前に潰していたのだった。
そのこともあって、大きな問題が起こらなかったのだ。
「いつも以上に、騒いでいるな」
小さな声で、トリスが口に出していた。
「そうだね」
頷くクライン。
トリスとクラインは、何もせず、ゆったりとした時間をとっていたのである。
彼らの近くでは、リュートとミントが露店で見つけ、購入した魔導具を弄っていたのだった。
魔導具を触る前は、購入したお菓子を食べていた。
そして、いつの間にか、魔導具を手にしていたのだ。
「普通のお見送りだったね」
帰る際の出来事を、クラインが思い出している。
「ああ」
お世話になった、ディアマンテ家を出る際、トリスたちはお世話になった旨の礼を、早々に伝えた後、自分たちがいたら、カーチスたちの邪魔だろうと、気を利かせ、少し距離をとっていた。
家族と話すカーチスは、学院にいる時のふざけた顔とは違い、真面目な顔で話をしていたのだった。
そんなやり取りを、トリスたちは眺めていたのである。
ここに到着した際と、カーチスは、変わらない顔を覗かせていたのだ。
しんみりとするかと巡らせていたが、いつもと変わらない様子に、幾分、身構えていたトリスたちの方が、拍子抜けしてしまっていた。
「でも、家族と離れたら、やっぱり、堪えたんだろうね」
クラインの双眸が、空元気な姿を見せているカーチスを捉えている。
いつも以上に、騒いでいたのだった。
誰も気づいていたが、誰も言うことはない。
ただ、静かに見守っていたのである。
「だろうな」
「卒業したら、戻ることはないって、断言していたけど、たまに、顔を出すことになったと言った時のカーチスの顔、物凄く困惑していたし、嬉しそうだったね」
そうだなと、トリスが笑っていた。
(あの時、カーチスの決意を聞いた時は、相当な覚悟をしたんだなって思っていたけど、ふたを開けてみると、上手い具合にいい着地点に落ちたようで、よかったな……)
祖父ミゲルから言われたと話し、どういう顔をすればいいのかと、戸惑っているカーチスの姿に、トリスたちはよかったじゃないかと、言葉をかけていたのである。
「少しすれば、元通りになるだろう」
「だな」
ニッコリとした顔を、クラインが滲ませていた。
「まさか、カーチスが生まれ育った街が、こんな街だったなんてな……」
感慨深い顔を、トリスが覗かせていたのだった。
何かあると、それとなく感じるところがあったが、カーチスの学院での姿を鑑みると、まさか、こういった場所だったとは想像もしていなかったのである。
「そうだね。屈託のないカーチスから、想像もしていなかったよ。ただ、このところの様子が、おかしい時もあったから、何かあるのかなって、思っていたけど。まさか、こういうことだったとは……」
「だな」
神妙な顔で、トリスが頷いていたのだ。
最近になって、育った街が閉鎖的なところだと、徐々に聞いていたが、こんな場所脱兎とは思ってもいなかったのである。
次第に、学院の中にある、閉鎖的なカブリート村のことを、トリスも、クラインも、思い返していた。
魔物に対して、供物として生贄を渡していた村と、似たようなことが行われていたのかと呆れつつも、もしかすると、そうしたことをやる者たちが、各地に多いのかもしれないと改めて思い直していたのだった。
「まさか、卒業したら、家に戻らない覚悟していたなんて」
「知らなかったな」
しみじみとした顔で、トリスが漏らしていた。
こくりと、頷くクラインだ。
「でも、顔を出すことが、できるようになって、よかったよ。覚悟を俺たちに話した、あの時のカーチスは、ホント、清々しさの中に、辛さが混じっていたからな」
「そうだな」
「強くなったね」
「ああ。とにかく、これで、ひと安心だな」
「そうだね」
このところのカーチスの様子が、おかしいと、密かに、トリスたちは案じていたのである。
今回の件が、片づいたことで、以前のような屈託のないカーチスに、戻ることに嬉しさが湧き上がっていたのだった。
「トリス、クライン。面白いものを、手に入れたか?」
魔導具を弄っていた手を止め、リュートが二人に視線を巡らせている。
その隣では、まだ、ミントが購入した魔導具を触っていたのだ。
「ああ」
「勿論」
「後で、見せてくれ」
「「了解」」
「それと、学院に戻ったら、鍛錬に付き合ってくれ」
「「……」」
顔を、僅かに顰めている二人。
互いに、目を合わせているトリスとクライン。
そんな二人に、気にする様子がないリュートだった。
「勿論、全員だ」
ニカッと、リュートがいい笑顔をしている。
「拒否権は?」
爛々に瞳を輝かせているリュートに、双眸を注ぎながらクラインが尋ねていた。
旅を終えたばかりで、鍛錬に参加したくなかった。
「ない」
きっぱり否定され、うな垂れてしまっている。
「トリス。逃げも許さない」
リュートの瞳が、次第に獰猛な目になっていたのだ。
確実に、逃げることができないことを察していたのだった。
「……わかった。けど、旅に身体が疲れている。それに、カーチスは……」
空元気なカーチスの姿に、トリスの眼光が傾けられていた。
促される形で、リュートも、誰よりも騒いでいるカーチスを捉えている。
「……大丈夫だ、カーチスは」
「けど……」
「大丈夫だ」
渋面になっているトリスを、しっかりと見つめていたのだった。
(カーチスが、使えなかったか……)
カーチスのことを、利用しようとしたトリスだったが、カーチス自身が、もう大丈夫なことを、トリス以上に感じていたのである。
「大丈夫。旅が終われば、いつも通りだ」
「勘か?」
しぶとく、粘るトリスだ。
「ああ。勘だ」
「外れることは?」
「ない。俺を、誰だと思っている」
「そうだな……」
ようやく、ここに来て、トリスも諦めていた。
「学院にいるやつも、巻き込んで、鍛錬だ」
「このメンツだけじゃ、不足か?」
「足りない」
がっくりと、肩を落としているトリス。
「わかったよ」
「さすがに、一日は、休養日にさせてよ」
クラインの申し出に、僅か数秒だけ思考を巡らせていたのだ。
「一日、休みにして、皆を集めて、鍛錬だ」
これ以上は、譲れないと言う眼差しを注いでいた。
「「了解」」
二人からの言質を取り、また、手にしている魔導具を弄り始めていたのだ。
「みんなには?」
困ったねと言う顔で、クラインがトリスに問いかけていた。
「言わない方が、いいだろう」
誰一人として、リュートとの話を聞いていた様子がなかった。
辛うじて、ミントは聞いていたが、何かを言う様子もなかったのである。
(ミントちゃんも、参加だな。これは、誰一人として、逃がす訳にはいかないな……)
トリス同様に、周囲の様子を窺うと、楽しげなお喋りに夢中になっていたのだった。
「だよね」
「逃がしたら、俺たちの負担が、大きいからな」
「そうだね」
「全員、巻き込む」
揺るぎないトリスの眼差し。
「じゃ、学院にいる者たちは、逃げないようにしておかないとね」
微笑むクラインに、トリスも口角を上げていたのである。
「勿論だ」
二人で、誰も逃がさないような策を編んでいたのだ。
読んでいただき、ありがとうございます。
こちらの章は、今日で終わります。
次の投稿は、11月18日です。




