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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第2章 幽霊騒動
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第36話

(出し抜けれた、俺たちが?)


 愕然とし、その場に立ち尽くしているトリス。

 相手の方が、自分より上手だったことが信じられなかった。

 外に通じるドアが、一つしかない。

 その一つしかないドアの付近を捜索したのが、探索の名手であるトリスだった。


 何か仕掛けられている形跡も、呪文の跡も、残されていなかった。

 自分たちが〈第五音楽室〉に入って、誰一人として通り過ぎて出て行ったものがいなかったのである。

 そして、隣の準備室から外に出ることが、できない仕組みになっていたのだ。

 準備室から外の廊下に出るには、一旦〈第五音楽室〉に戻る必要があった。


(どういうことだ? どうやって、ここから逃げた? リュートや俺がいるにもかかわらず、俺たちの前を通り過ぎるなんてできない。一体どうなっている?)


 開いている準備室のドアを、ゆっくりとトリスが閉める。

 勿論、ドアを閉める前に、中の様子を確かめることを忘れなかった。


 ギ、ギィィィィー。


 ピクッと、セナが身体を動かす。

 物凄い形相で、音がした方へ勢いよく振り向いたのだ。

「……誰もいないな」

 訝しそうな表情で、トリスが辺りの様子が窺っている。

 まだ、どこかに潜んでいるのかと、捜していたのだ。


「くそぉー」

 唇を噛み締め、リュートが地団太を踏む。

 何とも言えぬ、敗北感だけが残っている。

 謎を解く自信があったにもかかわらずだ。

 それは、傍にいる冷静さを保っているトリスも、同じだった。


「何なんだ」

 苛立ちと共に、リュートが吐き捨てた。

 気持ちが晴れることがない。

 さらに、増していくだけだった。


 悔しがるリュートは、落ち着かない。

 あちらこちらに、視線を彷徨わせている。

 ただ、静かにトリスが、物思いに耽っているだけだ。


 こんなにあっさり逃げられるとは思ってもみなかった。

 探索技術に自信があっただけに、逃した悔しさは、とてつもなく大きい。


 対照的な二人に対し、珍しく無口になっているセナ。

 その胸中は、複雑な心境だった。

 この奇妙な状況が、決してあり得ないからだ。

 その恐怖と戦いながら、〈第五音楽室〉を探索していたのである。


 もう一度、ぐるりと室内に視線を巡らすリュート。

 誰もいない教室。

 なぜ、ピアノの音が聞こえたのか。

 その論理を導く。

 いろいろと逡巡するが、いっこうにまともな答えが浮かばない。

 一つも、解決できないことで、苛立ちを募らせる一方だ。


「……どうして」

 掠れた声で、セナが呟いた。

 変な悪寒が走り、ハッとする。

 けれど、背後を振り向くことができない。

 先ほどよりも、身体がフリーズしていたのだ。


 大きく目を見開き、セナが解答を探している二人を窺う。

「……」

 声をかけようと、口を開くが、咄嗟に閉じてしまう。


 助けを求めようとしたことを、恥ずかしかったからだ。

 何も気づいてない様子に、ホッと胸を撫で下ろす。

「よかった……」

 誰にも、自分の弱さをみせたくなかった。

 だが、増していく恐怖が拭えない。


(怖くない。怖くない)


 懸命に、止め処なく襲ってくる恐怖を押し殺す。

 眉間にしわが刻み込まれたまま、リュートが口を開く。

「調べるぞ」

「好きにしろ」

 あまり気乗りしないトリス。


 捜索に意味を持たないと抱き、トリスが壁に背中を預けた。

 腕組みをし、置かれている状況を精査する。


(俺たちを出し抜くなんて、どんなやつだ?)


 特別棟で呪文を使える者を、頭の中でリストアップしていく。

 リストアップした者に、いたずらを仕掛けるような者がいないし、いたとしても、上級生で研修の旅の準備をしていて、この時期にいたずらを仕掛けるとは、とても思えなかった。

 トリスの思考が、さらに深くなる一方だった。


 捜索しないトリスをほっとき、リュートが先ほどよりも、小まめに辺りを調べ始める。

 その様子を窺い、不安が拭えないままセナたちも、周囲を調べ始めた。

 調べることに、集中できないセナ。

 いつになく、真剣な面持ちのリュートに話しかける。


 塵一つ見逃さないぞと言う意気込みを、滲ませていたのだ。

 そんな重苦しい雰囲気に、セナが耐えられなかったのである。

 話して、この場を少しでも、明るいものにしたかった。


「魔法科連中の、いたずらじゃないの? リュートが使えるってことは……。一応、体力を使うかもしれないけど、魔法科連中も使えるってことでしょ? 全員とは言わないけど?」

 注意深く、調べているリュートに成り代わり、ぎこちないセナの質問に、短くトリスが吐き捨てる。

「違う」


(何、その短い返事は? ちゃんと会話しなさいよね。こっちは聞いているんだから)


 あまりに短い返答に、逆にバカにされた感が否めない。

 壁に背中を預けた状態で、トリスの思考も続いたままだ。

 その態度も、気に入らなかった。

 質問に答える態度ではなかったのだ。

 そのせいもあり、口調が荒い。


「なぜ、はっきり答えられるのよ。第一、リュートがここで使えたでしょ?」

 臨戦態勢を取り始めるセナ。

 それに対し、トリスが冷めた眼差しを注いでいる。


「使えるとしても、それはごく一部の生徒だけだ。それも、上級生のなっ」

 剥きになり始めているセナが、口を開いた瞬間、冷静なトリスが先読みをする。

 出る名前がわかっていた。

 ムッとしているセナが、そう予想するだろうと、巡らせたのである。

「ミントちゃんでも、ない」


「断言できるの?」

 ますますセナの機嫌が悪くなっていく。

「ミントちゃんに、張り込みをする前に聞いた。ここでそんな真似をしてないって、言っていた。ミントちゃんが、弾くピアノを聞いたことがあるが、違う音色だ。音楽はよく知らないが、俺の耳、結構いい方だ」

 揺るがない自信が、琥珀色の双眸に溢れていた。


 〈第五音楽室〉で張り込みの計画を立てた、その日の後に、トリスは念のために、特別棟で呪文が使えるだろうと思えるミントに確かめ、その話をリュートにも伝えていたのである。


「……信用できるの?」

「ミントは、嘘をつかない。トリスの耳も、いい」

 調べる手を止めず、リュートが平然と口にした。

 とんでもないことしでかす時もあるが、同じように法力のレベルが高いミントが、自分の利益にならない嘘をつかないと、兄リュートは確信していたのである。


 信じられないと言う顔を、覗かせているセナ。

 小さなことも見逃さないぞと、闘志を燃やすリュートに視線を傾ける。

 その表情は、妹ミントを疑っていなかった。


「そういうことだ、セナ」

「そうみたいね」

 渋い表情を、調べる気がないトリスに戻した。


(じゃ、誰なのよ。こんな真似するのは!)


 苛立っているセナに、首を竦めているトリス。

 明確な答えは出ていないが、冷静に分析をし、今段階で把握していることを口にする。

 口に出すことによって、確かめる意味合いもあったのだ。


「魔法科での、法力のレベルの高さは、たぶんリュートが上位だろう。そのリュートでさえ、ここでの呪文は、きついと証言している。一応、俺にはここで呪文を使うことは、できない。法力のレベルが低いからね。他の生徒だったら、かなり消耗しているはず。それなのにだ、瞬時に消えている……、あり得ない話だ。先生だったら、できるかもしれないけどな。……けど、先生が、こんないたずらめいたことするとは思えない。第一、意味がない。先生がこんなことして、何のメリットがある?」

 幼馴染のリュートの実力を、断定しなかった。

 トリスの中では、一番だろうと言う核心もあったのだ。


 けれど、学院内で行われる優秀な生徒たちで行う『バトル』に、リュートは一度も出場したことがない。

 出場の機会があっても、面倒臭いと言う理由だけで、出なかったのである。

『バトル』とは、体育祭の最終日にメインイベントの一つとして、行われる種目である。魔法科、剣術科関係なく、優秀な生徒たちが、リング場に上がり、一対一で戦う試合だった。

 出場してないために、はっきりとした確証がない。

 だから、天才と目されているリュートの実力を断定しなかった。


 トリスの話を耳にし、考え込んでいたセナがぼやく。

「メリットね……」

「こんな、低レベルなことするか?」

 入学早々、リュートたちは低レベルないたずらを仕掛け、教師や生徒たちをからかって遊んでいた。

 そんないたずらに、参加する頻度は少なくなっているが、未だに遊びが続行されたままでもある。

 すっかり自分たちの立場を忘れていたのだ。

 そして、それはトリスに洗脳されているセナにも言えた。


「だよね」

「誰だ。こんな低レベルな、いたずらを仕掛けるやつは?」

「ホントね」

「グリンシュ!」


 調べる手を止め、リュートがそれぞれの顔を窺った。

 調べている最中に、二人の会話を聞きながら、自分なりに考えを巡らしていたのである。

 いくつもの動作を、こなしていたのだ。

 沈黙の空気が、その場に流れる。

 それを否定する言葉が、瞬時に出されない。


「……違うな」

 自分で言っておきながら、その答えをきっぱりと否定した。

 その顔に、また眉間にしわを刻み込んでいる。

「自分で言って、自分で否定しないでよ」

「そうだと思って、違うと判断したんだ」

「何、それ。どういう頭してるのよ」


 剥れているセナ。

 それを無視する形で、リュートは別な思考へと飛ばしていった。

 いたずら好きなグリンシュでも、こんな真似をする訳がないと巡らせたのだ。

 どう考えても、メリットがない。

 それに、自ら動くタイプではなかった。

 どちらかと言えば、誰かが仕掛けるいたずらを静観して、楽しむタイプだ。


「先生じゃないとすると、誰が、こんないたずらするのよ」

「それがわからないから、こうして調べているんだ。な、リュート」

 トリスの問いかけに、生返事を返した。

 すでに、リュートは捜索に夢中になっていたのである。

 最後に残して置いた、最も重要なピアノを注意深く調べた。


 調べ尽くしたとばかりに、セナの調べる手はすでに止まって、調べているのはリュート一人だけになっていたのだ。

 残りの三人は、ただ傍観している。

 内部に仕掛けはないかと、細心の注意を払い、ピアノ線、一本一本までも、丁寧に調べていった。


 細工が施された形跡がない。

「……何か、トリックがあるはずだ」

 闇雲に、何か痕跡がないかと、リュートは探し回っていたのだ。


 全然、調査に参加しないトリス。

 一通り室内の調査を終えたセナを捉えていた。

 一旦、この件から身を引き、リラックスしようとしていたのである。

 落ち着きがなく、そわそわと辺りを気に掛けていた。


 しばらく観察していたトリスがほくそ笑む。

「やはり。そういうことだったか」

 周囲に、忙しなく視線を彷徨わせているセナ。

 見られていた意識がなかったのだ。


 調査に夢中になっているリュートは、鍵盤の真下に女の子用の髪飾りを発見する。

「!」


読んでいただき、ありがとうございます。

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