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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第2章 幽霊騒動
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第34話

 生徒たちが寝静まった頃。

 パウロを発見した剣術科の教師が、念のために担任のカイルに報告していたのである。

 眠っていたところを起こされたカイル。

 寝ぼけていた顔が、見る見るうちに変わっていく。


 自室で眠って間もなく、その報告のせいで、無理やりに起こされたのだ。

 報告を終えた教師は、自分が寝るために自室に戻っていた。

 部屋に一人残される。

 連日の私用の用事に、睡眠時間が少なく、琥珀の瞳が充血気味だ。

 今日も寝るのが遅く、やっとベッドに潜り込んだ直後だった。


「俺を、寝させないつもりか……」

 報告を聞き、一気に眠気が覚めてしまった。

 窓から見える校舎に、爛々と輝く充血した琥珀の瞳を傾ける。

「今度は、何をやらかすつもりだ」


 脳裏に、それぞれの顔が映し出されていた。

 そして、最後に能天気なリュートのやる気に満ちた顔が、映っていたのである。


「どいつもこいつも、いい面構えだ」

 さらに、瞳がキラッと輝く。

 腕組し、不敵な笑みを覗かせた。

「明日が、楽しみだな……」


 明日の授業は、計画していた内容より、もっとハードな内容に、瞬時に練り直していたのである。

 寝不足の身体に、きつ過ぎるぐらいに。


(俺の授業を、寝不足の身体で受けようとは、いい度胸だ)


 その表情は、悪魔の微笑みと言ってもいいほどだ。

「俺の授業に、ついていけるのか……」

 ふふふと、さらに不気味に笑うカイル。




 その日の授業は、寝不足のせいで居眠りしたり、身が入っていなかったりし、セナたちの班、一班がいつもに増して、手厳しいカイルに散々絞られていたのである。

 それも、ピンポイントに怒られていたのだ。


 どうしたんだと、首を傾げる生徒もいる。

 自分たちの代わりに、怒られている一斑に、手を合わせている生徒もいたのだった。

 他の班の生徒たちも、数人居眠りしたりしていたが、そちらには触れずに、ただセナたち一班を集中的で攻め立てていたのである。


 セナたちは、何で自分たちばかり怒られる?と言う疑念を拭えない。

 けれど、それを口にできるほどの雰囲気を出してない。

 いつも以上に、やる気になっているカイルの目が据わっていた。

 口答えする度胸がある者は、誰一人としていなかったのだ。

 不服を抱きつつ、ただ素直に怒られるしかなかった。


(この不運は何? どうして私たちだけが、怒られるの?)


 魔法科のトリスだけは、授業をサボり、自分のベッドで深い眠りに落ちていたのである。

 そうとも知らずに、一日中セナたちはカイルからの叱責と、地獄のようなしごきに、耐えていたのだった。




 さらに次の日。

 同じように、散々な授業風景が続いたのである。

 パウロとダンは授業中、居眠りし、特別課題を課せられていた。

 とても終わりそうもない量だ。


 誰もが哀れんでいる眼差しを注いでいるが、カイルに意見する者がいない。

 ローゼルとセナは、何とか授業に食らいついていっていた。

 だが、いつもの実力を出せないまま、終わってしまったのだった。


 一人崩れずに、元気でいるのは、リュートだけだ。

 特別課題を出されても、きちんとそれに応えていた。

 いつもと変わらず、張り切って、授業を受けていたのである。


 その姿に、自分たちのように、寝不足のはずなのに、元気に受けられるんだ?と、張り込みメンバーが、ぼやかずにはいられない。

 掃除当番の時間に、少しでも仮眠をしようとするが、ますます目が据わっていくカイルが、見回りに姿を現わすので、眠ることも許されなかった。


 嬉々として、楽しんでいるリュートの姿に、誰もやめようとは言えなかった。

 それに、矜持もあったのだ。

 魔法科の生徒だったリュートに、体力面で劣っていると認めたくなかった。

 ただ、それだけのために、頑張っていたのだ。


 セナたちの身体は、眠りに飢えている。

 けれど、眠ることを許されない。

 寮に戻っても、山のように出された課題をこなすしかなく、やらずにいたら、次の日にその数倍の量の課題が増やされるだけで、眠い身体を押してでも、課題と格闘するしかなく、セナたちは眠る時間がなかったのである。




 掃除の見回りを終え、意気揚々とカイル。

〈第五音楽室〉から剣術科の教師がいる〈第二職員室〉に戻ろうと歩いている。

 その足は軽い。

 充血している表情とは、裏腹だ。


 どちらが先に、折れるのか、我慢比べを、密かに楽しんでいたのである。

 そうとは知らず、セナたちはカイルのしごきに耐えていたのだ。


 リュートたちが、夜中に抜け出し、何かをしていることに気づいていた。

 だが、確かめようとも、咎めようともしない。

 カイルのやる気に、拍車をかけていたのだ。


 自分の授業に、そんな寝不足な状態で受けるのなら、上等だ、寝不足でも、俺の授業についていけるのなら、受けてみろ!と、気づかない振りし、いつも以上に、体力を使う授業内容にし、それに加え、山のような課題を出していたのである。


 無関係な生徒たちに、可哀想な話だ。

 他の生徒たちにとっても、授業内容と課題の内容は、過酷なものだった。

 急に、厳しくなったカイルに、生徒たちは不思議がっている。

 けれど、血走っている瞳を窺うと、何も言えなくなってしまっていた。


 黙々と、カイルのしごきに耐え、他のクラスからは、奇異な眼差しで見られていたのだった。

 まさか、その理由が、リュートたちの夜更けの張り込みとは知らず、クラスの面々は、カイルの授業についていっていたのである。


「カイル」

 背後から、柔らかな声でカテリーナが話しかけてきた。

 その声に、促されるように立ち止まり、後ろを振り向く。

 すぐに振り向かずとも、声だけで誰だかわかっていた。

 長年かけられてきた声音だったからだ。


 目の前に、首を可愛らしく、傾げているカテリーナが立っている。

「デュラン、見つかった?」

「いいや。まだだ」

「そう」

 見つからずに落ち込んでいる様子がないカイル。

 顔を食い入るように眺める。

 いつもなら、落ち込んでいるはずだった。


(珍しい。見つからないで落ち込んでいるカイルが、なぜか嬉しそう)


「どうしたの?」

「何がだ?」

 逆に、カイルが首を傾げる番だった。


「何か、楽しいことでもあったの?」

 瞳をパチパチさせ、口角を上げているカイルを捉えている。

「……まあな」

「それは、よかったわね」

「ああ」


読んでいただき、ありがとうございます。

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