第34話
生徒たちが寝静まった頃。
パウロを発見した剣術科の教師が、念のために担任のカイルに報告していたのである。
眠っていたところを起こされたカイル。
寝ぼけていた顔が、見る見るうちに変わっていく。
自室で眠って間もなく、その報告のせいで、無理やりに起こされたのだ。
報告を終えた教師は、自分が寝るために自室に戻っていた。
部屋に一人残される。
連日の私用の用事に、睡眠時間が少なく、琥珀の瞳が充血気味だ。
今日も寝るのが遅く、やっとベッドに潜り込んだ直後だった。
「俺を、寝させないつもりか……」
報告を聞き、一気に眠気が覚めてしまった。
窓から見える校舎に、爛々と輝く充血した琥珀の瞳を傾ける。
「今度は、何をやらかすつもりだ」
脳裏に、それぞれの顔が映し出されていた。
そして、最後に能天気なリュートのやる気に満ちた顔が、映っていたのである。
「どいつもこいつも、いい面構えだ」
さらに、瞳がキラッと輝く。
腕組し、不敵な笑みを覗かせた。
「明日が、楽しみだな……」
明日の授業は、計画していた内容より、もっとハードな内容に、瞬時に練り直していたのである。
寝不足の身体に、きつ過ぎるぐらいに。
(俺の授業を、寝不足の身体で受けようとは、いい度胸だ)
その表情は、悪魔の微笑みと言ってもいいほどだ。
「俺の授業に、ついていけるのか……」
ふふふと、さらに不気味に笑うカイル。
その日の授業は、寝不足のせいで居眠りしたり、身が入っていなかったりし、セナたちの班、一班がいつもに増して、手厳しいカイルに散々絞られていたのである。
それも、ピンポイントに怒られていたのだ。
どうしたんだと、首を傾げる生徒もいる。
自分たちの代わりに、怒られている一斑に、手を合わせている生徒もいたのだった。
他の班の生徒たちも、数人居眠りしたりしていたが、そちらには触れずに、ただセナたち一班を集中的で攻め立てていたのである。
セナたちは、何で自分たちばかり怒られる?と言う疑念を拭えない。
けれど、それを口にできるほどの雰囲気を出してない。
いつも以上に、やる気になっているカイルの目が据わっていた。
口答えする度胸がある者は、誰一人としていなかったのだ。
不服を抱きつつ、ただ素直に怒られるしかなかった。
(この不運は何? どうして私たちだけが、怒られるの?)
魔法科のトリスだけは、授業をサボり、自分のベッドで深い眠りに落ちていたのである。
そうとも知らずに、一日中セナたちはカイルからの叱責と、地獄のようなしごきに、耐えていたのだった。
さらに次の日。
同じように、散々な授業風景が続いたのである。
パウロとダンは授業中、居眠りし、特別課題を課せられていた。
とても終わりそうもない量だ。
誰もが哀れんでいる眼差しを注いでいるが、カイルに意見する者がいない。
ローゼルとセナは、何とか授業に食らいついていっていた。
だが、いつもの実力を出せないまま、終わってしまったのだった。
一人崩れずに、元気でいるのは、リュートだけだ。
特別課題を出されても、きちんとそれに応えていた。
いつもと変わらず、張り切って、授業を受けていたのである。
その姿に、自分たちのように、寝不足のはずなのに、元気に受けられるんだ?と、張り込みメンバーが、ぼやかずにはいられない。
掃除当番の時間に、少しでも仮眠をしようとするが、ますます目が据わっていくカイルが、見回りに姿を現わすので、眠ることも許されなかった。
嬉々として、楽しんでいるリュートの姿に、誰もやめようとは言えなかった。
それに、矜持もあったのだ。
魔法科の生徒だったリュートに、体力面で劣っていると認めたくなかった。
ただ、それだけのために、頑張っていたのだ。
セナたちの身体は、眠りに飢えている。
けれど、眠ることを許されない。
寮に戻っても、山のように出された課題をこなすしかなく、やらずにいたら、次の日にその数倍の量の課題が増やされるだけで、眠い身体を押してでも、課題と格闘するしかなく、セナたちは眠る時間がなかったのである。
掃除の見回りを終え、意気揚々とカイル。
〈第五音楽室〉から剣術科の教師がいる〈第二職員室〉に戻ろうと歩いている。
その足は軽い。
充血している表情とは、裏腹だ。
どちらが先に、折れるのか、我慢比べを、密かに楽しんでいたのである。
そうとは知らず、セナたちはカイルのしごきに耐えていたのだ。
リュートたちが、夜中に抜け出し、何かをしていることに気づいていた。
だが、確かめようとも、咎めようともしない。
カイルのやる気に、拍車をかけていたのだ。
自分の授業に、そんな寝不足な状態で受けるのなら、上等だ、寝不足でも、俺の授業についていけるのなら、受けてみろ!と、気づかない振りし、いつも以上に、体力を使う授業内容にし、それに加え、山のような課題を出していたのである。
無関係な生徒たちに、可哀想な話だ。
他の生徒たちにとっても、授業内容と課題の内容は、過酷なものだった。
急に、厳しくなったカイルに、生徒たちは不思議がっている。
けれど、血走っている瞳を窺うと、何も言えなくなってしまっていた。
黙々と、カイルのしごきに耐え、他のクラスからは、奇異な眼差しで見られていたのだった。
まさか、その理由が、リュートたちの夜更けの張り込みとは知らず、クラスの面々は、カイルの授業についていっていたのである。
「カイル」
背後から、柔らかな声でカテリーナが話しかけてきた。
その声に、促されるように立ち止まり、後ろを振り向く。
すぐに振り向かずとも、声だけで誰だかわかっていた。
長年かけられてきた声音だったからだ。
目の前に、首を可愛らしく、傾げているカテリーナが立っている。
「デュラン、見つかった?」
「いいや。まだだ」
「そう」
見つからずに落ち込んでいる様子がないカイル。
顔を食い入るように眺める。
いつもなら、落ち込んでいるはずだった。
(珍しい。見つからないで落ち込んでいるカイルが、なぜか嬉しそう)
「どうしたの?」
「何がだ?」
逆に、カイルが首を傾げる番だった。
「何か、楽しいことでもあったの?」
瞳をパチパチさせ、口角を上げているカイルを捉えている。
「……まあな」
「それは、よかったわね」
「ああ」
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