表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第2章 幽霊騒動
32/401

第31話

 放課後、剣術科の教師で、リュートたちの担任カイルが、魔法科の教師たちがいる〈第一職員室〉に足を運ぶ。

 所属違いの教師が、訪ねることは珍しいことではない。

 剣術科に編入したリュートによって、最近では生徒同士でも、剣術科と魔法科での行き来があるようになった。

 でも、教師たちとは違い、それまでは生徒同士で行き来が、あまりされていなかったのが現状だった。


 汚れた服装のまま、着替えもせずに、目当ての教師を捜した。

 キョロキョロと捜すが、目当ての教師がいない。


(どこにいる、あいつは……。昔から俺が捜す時は、いつも、いないんだからな。故意にいなくなっているとしか思えん、あいつは)


 魔法科の教師で、一科目だけ、リュートたちのクラスにも、教えているカテリーナが、地面につきそうな、長いピンクの髪を揺らし、憮然と立ち尽くすカイルに近づいていった。

「どうしたの? カイル」

「カテリーナか。デュラン知らないか?」

「デュランですか」


 カイルがずっと捜し回っている教師は、デュランと言って、魔法科の教師である。

 学院で、教師をしているカイル、カテリーナ、デュラン、それ以外にも、複数の教師たちは、リュートやその妹ミントの母親リーブとは、多少歳が違うが、フォーレスト学院の同期組の仲間だった。


「知らないわ。いないの?」

「いないから、尋ねたんだ」

「そうなの。研究室ではないの?」

「そこにも、いなかったから、来た」

 息を吐くカイル。


 魔法科の多くの教師たちは、教師一人一人に与えられている専用の研究室にいることが多く、デュランもその一人だった。

 それを知っているカイルが、職員室に訪ねる前に、すでに研究室を訪ねていたのである。


 剣術科で教えるカイルは、外にいることが多く、それに一人でいるよりも、他の教師たちとの付き合いを大事にしていることもあり、あまり研究室を使うことがない。

 研究室にこもらないカテリーナも、与えられている研究室は綺麗なままだ。


 首を傾げ、可愛い仕草で、考え込むカテリーナ。

「でしたら、どこでしょう……。グリフィンやスカーレットのところは?」

 友人たちの名前を上げていった。

「いない」

 即決で、答えていく。

 すでに、友人たちのところにも回っていたのだ。


「そう……。ラジュールは?」

「いない。……捜し回って、最終的に、ここに来た」

「そうでしたか。それは、残念でしたね」

 疲れ気味なカイルが、嘆息を零した。

 すでにいそうなところは、捜し尽くしていたのである。

 結局、どこにも姿がない。

 最終的に、いる頻度が一番少ない、職員室を捜してきたのだ。


 デュランを捜し、二日目に突入していた。

 昨日の放課後に捜し始めたが、会うことが叶わずに、今日の放課後に至っている。

 教師専用の寮の部屋の前で、待ち伏せしようかと巡らせたが、いつ戻ってくるか、わからずに諦めてしまったのだ。

 研究に没頭しているデュランが、部屋に戻らないことを知っていた。

 だから、無意味となりそうな、待ち伏せを単純に諦めたのだ。


「デュランに、どんな用事なの?」

「頼まれた薬品を、持ってきた」

「薬品ですか。それは、困りましたね」


「……俺は、パシリか」

 か細い声で呟いたカイル。

 脱力し、肩ががっくりと落ちる。


「んっ?」

 首を傾げ、そんなカイルを見つめていた。

「だから、何で俺は、昔から、みんなのパシリなんだ」

 カイルの視線が伏せている。

 視線を上げる、余禄も残ってない。

 過去からのパシリの記憶の欠片が浮かび上がっていた。


「それは、カイルが優しいからよ」

 温和にカテリーナが微笑む。

 伏せていた視線を上げ、目の前にいる陽だまりのような微笑みに視線を注ぐ。


 昔からカイルは、この陽だまりのような微笑みに、癒されていた。

 けれど、優しいと言う響きで片づけられ、ムッとするのである。


「優しいって、カテリーナ。意味が違う気がする。俺は、どうも、みんなにいいように、こき使われているだけな気がする」

 みんなと言う単語に、カテリーナも含まれているが、本人は気にしてない。

 友人の中で、使いやすいカイルを使うのは、日常になっていたのだ。


「それこそ、違いますよ」

「持ってこいの一言でもか」

 怪訝そうな顔を、カイルが覗かせていた。


「えぇ。だって持ってきてと、頼んでも、持ってきてくれる人、いませんもの」

「……」

 言葉が出てこない。

 実際に、その一言で、いつも動いていたからだ。


「カイルだけよ。リーブは面倒臭いと言って、終わりにしてしまうでしょ? デュランは知らんと言って、片づけてしまうでしょ? それに……」

「わかった。その話は、もういいよ」

 曇よりと落ち込み、がっくりと顔を落としてしまう。


(カテリーナ。いいようにパシリにされていると言うんだ、それを)


「それに、大切な友達だと思っていますよ、みんな。デュランなんか、あの時、誰よりも、怒っていたでしょう? いつも怒るリーブよりも、珍しく」

「……ああ」

 パチクリとしていた瞳。

 いつしか、昔を懐かしむ優しい穏やかな琥珀の瞳に、鮮やかな色が差し込んでいた。

 カテリーナに促されるように、過去の扉が開く。

 そして、カイルは自分たちがフォーレスト学院で、一年生の頃の出来事を思い出したのである。


「そうだな。あいつが一番怒っていたな」

「えぇ。カイルはカイルだと言うリーブにも、怒っていましたね」

「そうだな」

「ケンカなんか、くだらないと、いつも言うデュランが。ホント、あの時は面白かったですね」

「でも、散々暴れたおかげで、こってりと、校長や先生に絞られたけどな」

「そうですね。リーブやデュランなんか、納得できないと、先生に意見してましたね」


 過去の欠片の思い出が、昨日の出来事のように、鮮やかに二人の中で蘇っていく。

 カイルたちが一年生の時に、同級生や上級生が、言いがかりをつけられてきたことがあったのだ。

 その時のカイルは黙って、ひたすら耐えていた。

 デュランやリーブ、仲間たちがカイルに代わって、同級生や上級生に立ち向かっていた経緯がある。


 懐かしい思い出に、目を細める。

 そして、胸の中が熱く感じた。


「結局、反省文のレポートと、トイレ掃除は、免れなかったけどな」

「楽しい思い出です。似ていませんか? 今の彼らに」

「……ああ」


 ほのぼのと話すカテリーナ。

 誰を指していたのか、すぐにカイルが把握した。

 カテリーナが指す彼らの、担任をしていたからだ。

 彼女と同じように、過去と現在を重ね合わせる。


「逆の立場に、なったんだな……」

 感慨深げに慕っていると、リュートたちが掃除当番を、真面目にやっているのか、不安が急浮上してきた。

 生徒たちの前では、言えない封印していた過去が、解除されていたのである。

 よくない過去の記憶に、言葉が出てこない。

 掃除をせずに、罰掃除を命じられた口だった。


「どうかしたの? カイル?」

 デュランを捜すことばかり気に取られ、真面目に掃除しろよと、釘を指すのを忘れていたのだ。

「あいつら掃除……、真面目にやっているのか……」

 何度も、カテリーナが瞳をパチパチさせる。

 その表情は、とても愛らしかった。


「あら、リュート君たち、掃除当番なの?」

「ああ。不安だ。真面目にやっているのだろうか。セナがいるから、大丈夫な気がするが……。でもセナ一人で、止められないだろうな」

 訝しげな表情を、カイルは滲ませていたのだ。


「大変そうね」

 返事をする代わりに、嘆息で答えている。

 クスクスと笑っているカテリーナだった。


「でも、楽しそうね。彼らを見ていると、よく昔を思い出すの。カイルは?」

「俺もだ。それなりに、大変なことも多かったが、今となっては、いい思い出だな」

 カイルの口元が、優しく笑っている。


「そう言えば、デュランに渡しておきましょうか?」

 双眸に、カイルが持っている物を映していた。

「いや、いい。俺が捜して渡すよ、〈第五音楽室〉を見廻った後に」

「そう」

「じゃ、な。カテリーナ」

「また、いらしてくださいね」

「ああ」


 活力を取り戻したカイルの足が軽い。

 背中が見えなくなるまで、見送っていた。




 〈第五音楽室〉に到着した際、リュートたちが張り込む計画に、花を咲かしている最中だった。

 掃除をしていないメンバー。


 怒りを露わにし、掃除が終わるまで、カイルが見守っていたのである。

 部外者であるトリスが、睨みを利かせるカイルの隣で、計画を邪魔され、少し機嫌が悪いリュートを、クスクスと笑い、傍観していた。


読んでいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ