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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第2章 幽霊騒動
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第30話

 〈第五音楽室〉がある特別棟では、魔法が使えないように、結界が張られていた。

 ただし、例外として、保健室がある1Fでは、治療のため、魔法が使えるようになっていたのである。それ以外の場所では、生徒たちのレベルで、法力を使うことができなかったのだ。


 目を見開き、セナたちがあんぐりと口を開けていた。

 付き合いの長いトリス一人だけが、頭を押さえ込んでいる。

 ムッとした顔で、ただそれらの光景を、リュートが傍観していた。


(何なんだ、これは。何で、俺だけ知らない)


 みんなに言いたい放題言われ、徐々にその表情が、苦虫を潰したようになっていく。

 そして、頬が引きつっていたのだ。


「何だよ! はっきり言えよな」

 完璧な膨れっ面だ。

 久しぶりに、天然ぶり全開の姿に、トリスが嘆息を吐いた。

 幼少の頃より、天然だと抱いていたが、ことあるごとに、自分の予測を覆すほどに、全開に表す天然姿に、脱力感が否めない。


(ホント、リュートって、面白い)


 思わず、口元が僅かに上がっている。

「いつまで、そうしている」

 早く教えろと言う顔を覗かせていたのだ。


 やれやれと首を竦め、無関心なリュートの保護者的な存在であるトリスが、特別等では、魔法が使えないと説明したのだった。

 目を丸くしている姿に、今頃かよと、心の中で突っ込んだ。


「それ、本当か?」

「本当だ」

 普段の表情に戻ったトリス。

 この状況に、慣れてないセナを初めとする剣術科のメンバーたち。

 改めて、まざまざと天然だと感じるのであった。

 魔法を使う者にとって、致命的とも言える場所があることぐらい、把握しろよなと、ここにいる誰もが突っ込んでいたのである。


「……でも、俺。ここで使えるぞ」

「はぁ?」

 何気ないリュートの告白。


 絶句しているトリスが、フラフラと歩み寄った。

 特別棟には、強い結界が仕掛けられていたからだ。

 教師ですら、強い結界のせいで、使えない者もいる状況だった。


「ほら」

 《火球》を、手のひらの上に出してみせる。

 それも、意図も簡単に。

 胡乱げに、それぞれがリュートを窺っている。

 その表情は、苦痛とは言えず、楽々といった表情だ。


 法力のレベルが低いと、強い結界によって、吸収されてしまう。

 だから、吸収される法力に耐え、法力を出し続けていないといけないのである。

 特別棟で呪文を使うとしたら、相当な法力のレベルと体力が必要だった。


 煌々と輝く《火球》を、食い入るように、物珍しそうにダンたちが凝視している。

 じっくりと、見たことがなかったのだ。

「……」

 興味津々なダンたちを尻目に、慣れているトリスと、慣れ始めてきたセナが、化け物かと同時に、頭で掠めていた。


「でもさ、疲れるんだよな。ここで使うと……、あっ、だからか」

 手のひらの上にあった《火球》を、空中爆発させた。

 そして、一人で言って、一人で理解したリュート。

 合点がようやくいった言う顔で、ボンッと、手を叩く。


「バカ」

「マヌケ」

 二人の呟きが、届いてない。

「だからだったのか。この学院は奥が深いな……」

 一人で、感心している。


 脱力している二人。

 顔を見合わせ、ダメだとお互いに嘆いていた。


 不意に、ついていけないと思ったローゼルが、〈第五音楽室〉にまつわる面白い話を思い出す。

「ねぇ、知ってる? ここでの怪奇話」

「怪奇話?」

 すっかり掃除を、忘れている面々。

 首を傾げているセナ。

 授業の際は、積極的に仲間の輪の中に入っていくが、それ以外の普段のセナは、一人でいることが多く、他の生徒と交わることをしなかったこともあり、生徒たちの噂話にはうとい側面を持っていたのだ。


 話を聞いた途端、情報通のトリスが、どんな話なのかと思い出し、ダンたちがウキウキしながら、ローゼルの次の言葉を待っている。

 けれど、リュート一人だけが、不服そうな表情を滲ませていた。

 この手の話に、興味がなかったのだ。

「他に、面白い話ないのか?」

「面白いよ、怪奇話」


 どこが面白くないの?と言う顔を、渋面しているリュートに傾けていた。

 生徒たちの間で、今、怪奇話が人気が高かったのである。

「邪魔するな」

 別な話を求めるが、ダンたちはローゼルの怪奇話に、興味を抱き、話を進めるように促した。


(もっと、面白い話がないのかよ。くだらない)


 不満げに、口を尖らせていた。

 話したいローゼルが、うずうずとした顔で傾けた。

 興味のないトリスと、掃除を従っていたセナの顔色を窺っている。

 嘆息と漏らす二人。


 何も言わないのを了承の意味と受け取り、咳を一つして、その場を仕切り直す。

 誰もが聞きたい雰囲気に、リュートが渋々聞く態勢をとった。

「何年も前からの話なんだけど」

 身体を突き出しながら、ローゼルが抑揚をつけながら語り始める。

 それを、ダンたちが耳を済ませていた。


「……誰もいるはずもない、この教室で……」

 臨場感出すために、ローゼルの口調が、いつもより低めだ。

 それが、より一層恐怖を煽る。

 この中で、一番体格のいいダンが、ゴクリと生つばを飲み込む。

 大半が聞き入っている仕草に、ローゼルの口元が微笑んでいた。


「綺麗な、歌声が聞こえ……」

「歌声? それじゃ、誰かいるんじゃない?」

 怪奇現象とは、無縁なセナ。

 唐突に、話に割り込んだのだった。


 誰もが、邪魔だと言う顔を窺わせていたのだ。

 その先を語ろうとしたローゼルが、出鼻を挫かれ、ムッとした表情を覗かせている。

 場の空気を悪くしたと気づき、セナが申し訳ないと、口を固く結んだ。


「……歌声が聞こえる教室に、意を決して、そぉーと、ドアを開けたの……。けれど、誰も教室にはいないの……」

「マジかよ」

 最初から、食いつきがよかったダン。

 段々と、怪奇話にのめり込んでいったのだ。

 ダンとは対照的に、信用してないセナ。

「誰かの、いたずらでしょ」


 また、場を邪魔したセナの発言に、誰も無視していた。

 そして、同じように信用していないリュートも賛同し、頷いていたのである。

 けれど、それを口に出さない。

 どうでも、よかったからだ。


「くだらない、いたずらをしたものね」

「セナ。つまんねーこと、言うなよな」

「本当のこと、言っただけよ」

 剥れるセナ。

 興を削がれたと、ダンが舌打ちを打つ。


「二人とも、聞く気あるの?」

 いっこうに、話が進まない。

 苛立ちで表すように、二人を思いっきり半眼した。

「「……」」

 またやってしまったと、落胆するセナだった。


「セナ、黙っていろ! ローゼルが話せないだろうが」

 怒るダンに、いつもはケンカばかりする二人なのに、こんな時ばかり、息が合っているのよ、それにうるさいのは、お前もだろうがと、言いたい気持ちを、グッと堪えた。

 ダンと口論し、ローゼルや場の雰囲気を壊したくなかったのだ。

 黙るのが、適切な判断と口を閉ざす。


「あれ、見て」

 気を取り直したローゼルが、教室の後ろの壁を指差す。

 そこに、いくつもの音楽家たちの自画像が飾られていた。


「あれが?」

「夜な、夜な。あの自画像から、血の涙を流すの」

 不気味な笑みを滲ませ、怪奇話に興味があるダンやパウロに、顔を近寄っていった。

 思わず、パウロが、ヒイッと呻き声を上げてしまう。

 思った反応を示すパウロに、ローゼルの口の端が笑っていた。

 手本のように、黙り込んでいるトリスが辟易している。


「この話は、つい最近、同じ寮の子から聞いた話よ」

「早く、話せよ」

「歌声の話と、似ているけど。セナ、言っておくけど、この話には、たくさんの証人がいるからね」

 ローゼルが、セナに念を押した。

 少し、いきり立っていたのだ。


「後、途中で割り込まないで、最後まで聞いてよね」

「う、うん」

 ローゼルの迫力に、気圧されてしまう。

 気持ちを整えてから、ローゼルがまた語り始めていくのだった。

「誰もいない教室から、ピアノの演奏が聞こえる……」

 臨場感を出すために、興味丸出しに聞いている二人に、口角が上がっている顔を近づけていく。

 その声は、さらに落とし、僅かに耳に聞こえるほどだ。


「それも、とても悲しいメロディーが………聞こえてくるのよ」

 ゴクリと、つばを飲み込むダン。

 つられるように、パウロもつばを飲み込む。


「誰か、いるのかと確かめようと、ドアを開けようと、……手をドアに近づけた瞬間……。演奏が止ってしまったの……」

「それで、話は終わり?」

 ピアノの演奏の話に、興味が湧いたセナが、思わず閉ざしていた口を開いてしまった。


「もう! 続きがあるわよ。そんなに、急かさないで」

「ごめん」

 誰も口を挟まないでと、一人一人の顔を睨む。

 気後れし、誰もコクコクと頷く。


「話すわよ」

 全員が声を出さずに頷いた。


「その子、確かめたの、……ドアを開けて。そうしたら、……誰もいなかった。隠れているのかと思い、机の下や、脇など探したけど、誰も見つからなかった……」

 最後まで話したローゼルが満足げだ。

 身震いしているダンたち。

 大して興味がないリュートは、明後日の方向を眺めている。


「その子が、入ると同時に、出たんじゃないの?」

 最後まで信じようとしないセナに、眉を潜めた。

「ここは、一つしかないのよ」

 一つしかない入口を、不愉快な顔を覗かせているローゼルが指し示した。

 さらに、反論を続ける。

「トリスも、言っていたけど、特別棟では、魔法が使えないのよ。使えたとしても、それは変わり者よ」


 変わり者発言に、一斉にその対象となるリュートに、視線が注目した。

 ムッとした表情で、変わり者と呼ばれたことに反論する。

「おい。俺を変人扱いするな」


 誰もが、自分だと気づいたんだと思う面々。

 憤慨している姿に、疑いの眼差しで傾けている。

 犯人を見るような眼差しに、さらにムカムカと腹を立てた。


「言っておくが、俺は、そんな幼稚ないたずらしないからな」

「やりそうだな」

 ポツリと、トリスが漏らした。

 誰もが、そうだと頷く。


 幼なじみが言うんだから、間違いないと言う眼差しで、その場にいる者たちが、剥きになっているリュートを双眸に捉えていたのである。

 さらに、疑いの眼差しの原因を作ったトリスに抗議する。

「お前な!」

「悪い、悪い」

 軽く笑ってみせた。


「こいつ一人では、いたずらはしないさ。カーチスやブラーク辺りが、噛むだろうからな。俺の耳に入ってないし、たぶん犯人はリュートじゃない」

 リュートが、個人的に仕掛けるのならば、相手が魔法科の教師で、一年生の時の担任チェスターしか考えられなかったのだ。

 それ以外の問題行為は、魔法科の同級生であるカーチスやブラークが発起人だった。

 それに、ただ付き合っていただけだ。


「どう? まだ信じられない?」

 勝ち誇った表情で、反論の言葉を探していたセナに投げかけた。

「……」

 結局、反論する言葉を見つけることができない。

 何も言わずに、わだかまりが残るものの、何も言わなかった。


 ローゼルの笑みに、無性に腹が立った。

 だが、それを顔に出す真似をしなかったのである。


 自分が犯人扱いされたことが許せないリュート。

 機嫌がいいローゼルに、ピアノが鳴る現象が起こるのは、いつからだと不満げな表情のままリュートが尋ねた。

「確か……、ここ二週間ぐらいだったかな」


(最近の話だな……)


 少し逡巡してから、頼りになる情報通のトリスに、意見を求めた。

「確かに……、そういう噂は耳にした。お前と同様に、その手の話に、興味ないんでな。それ以上のことは、知らん」

「そうか……」

 真剣な面持ちで、濡れ衣を着せられたリュートが考え込んだ。

 かけられた濡れ衣を晴らしたかったのだ。


「!」

 セナの背中に、ゾッとするような冷たい冷気が走る。

 とてもいやな感じで、身震いを憶えた。

 辺りを見渡すと、いつもとは違う違和感を抱いた。

 誰もが、何かを真剣に巡らせているリュートに、視線を傾けていたのである。


「これは、何?」

 か細く呟いた。

 辺りの光景に、変わったところなどない。

 けれど、ゾッとするような冷たい冷気が続いていた。

「……」

 気分が段々と悪くなり、顔色が青ざめていく。


 セナの変化に、気づかないローゼル。

 パウロやぼんやりと立っていた男子に声をかける。

 その顔が、からかいに満ちていた。


「夜中、トイレにいけなくならないでよ」

「うるせい」

「う、うん」

 意地悪くローゼルの口元が歪む。

 それを見て、ダンが声を上げ、笑った。


 今まで考え込んでいたリュートが、面白いアイデアが閃く。

「なぁ、調べてみないか?」

「何を?」

 急に話し出したリュートに、困惑気味なローゼル。

 ダンたちは眉を潜め、浮かれているリュートに視線を注ぐ。


「犯人捜し」

 唐突な提案に、付き合いの長いトリスが、言い様のない不安を憶える。

 今まで、ロクなことがなかったからだ。

 話題を変えようと、話しかけようとするが、すでに遅かった。

「正体を暴こうぜ」

 楽しい笑みを零していた。


(凄くやる気になっているな。ダメだ、これは。でも……)


「マジかよ」

 露骨にいやな表情を、ダンが滲ませていた。

 あまり面倒なことをするのが、いやだった。


 隣にいるローゼルが、上目使いの目で、気乗りしないダンを挑発させる。

「怖いの?」

「バ、バカ言え。誰が怖いか」

「だったら、やりましょうよ。そう思わない? セナ」

 話に加わってないセナに、挑発をかけた。

 挑発を受けたセナは、負けられないと、調子が悪い素振りをみせない。


「別にいいけど、テスト近いわよ」

 テストと言う単語に、敏感にリュートが反応した。

 けれど、湧き上がった好奇心を抑えることができない。

 正体を暴くことに、比重が重く置かれていたのだ。

 どうしても、犯人を見つけたいと言う衝動が大きい。


「テストより、面白そうだな」

 久しぶりに、面白いことに出くわしたと抱いたトリス。

 踏ん切りがつかないダンたち。


「やるぞ」

 一人楽しんでいるリュートが後押しした。

「わかった」

 浮き足立っているリュートを含め、七つの手が上がった。


 全員が賛成し、掃除もせずに、今日の夜から〈第五音楽室〉の外で、張り込む計画を立てた。

 誰もが掃除のことをすっかり忘れ、張り込む計画に、夢中になっていたのである。


読んでいただき、ありがとうございます。

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