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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
始まりは突然に
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第22話

「とらぶる❤」、今年最後の投稿となります。

来年も、頑張ります。

 気分が晴れないまま、カイルが朝食を終わらせた。すでにリュートたちは食事を終わらせ、食堂を後にしていたのである。

 憂鬱なまま〈第二職員室〉に向かっている途中で、これから朝食をしようとしているチェスターと出くわした。


「げっ」

 自分の運の悪さに落ち込む。

 授業の準備をしていたチェスターは、いつもより遅くなっていたのである。


 視界に捉えた瞬間、顔が思いっきり引きつってしまう。

 会いに行かないと思っていた相手に出くわしたからだ。

 そして、会いたくない相手でも会った。


「よっ」

「カイル。元気か?」

「まぁな」

「そうか。それはいいことだ」


 微妙にこの場から逃げたい気持ちを押し殺す。

 浮かれモードが気色悪いと抱きながら、恐る恐るマドルカの異変を聞いてみた。

 予想している解答がそのまま返ってくる。


「マドルカが? そんなこと、あり得ないよ。カイル」

「そ、そうか」


(やっぱり、当たっていたな。変わらないやつだ)


「ああ。マドルカはいつものマドルカだ」

 当然だろうと言う顔を覗かせている。

「ならいいんだ」

「変なこと言うんだな、カイルは」

「……」


 ナルの話を始めようとしたので、それじゃとそそくさとその場から離れていった。

 気にすることなく、チェスターはスキップで食堂へ行ってしまう。


(あいつの恋の病にも困ったものだ……)


 カイルが深い溜息を漏らす。




 カイルより、リュートたちはひと足先に食堂から出て、一限目の授業が始まるまで、庭で軽い食後の運動をするために歩いていた。

 授業をサボる気満々のトリスに、近頃は何も言わなくなっていた。ただ、授業の邪魔だけはしないようにと釘だけは刺していたのである。


「今日は、どこで授業だ?」

 どこで授業をするのか、事前に調べていないのん気なリュートに、セナが嘆息を吐いた。

 場所も知らずに先頭に立って歩いていたのだ。

 脱力感が否めない。


 何も気にする様子もなく、トリスが口を開く。

「カイル先生で、確か〈第五グランド〉だ」

「そうか、〈第五グランド〉か」

 当たり前ように、スラスラと言うトリスの姿に目を剥く。


「ちょ、ちょっと、トリス」

「何?」

「何で剣術科の授業割のこと、知っているのよ」

「さぁ、何でかな?」

 意味ありげな視線を注ぐ。


 小バカにするような態度に、ムッとするセナ。

「こっちが聞いてるの!」

 やれやれとご立腹なセナに首を竦めている。

「ある程度は知っていないと」

 チラリと前を歩くリュートに視線で指した。


「あ、そう」

「そう言うこと」

「便利ね、トリスは」

「何でも聞いてくれてもいいよ」

 ギロッと茶化すトリスを睨む。


「いりません」

「便利で、使い勝手もいいと思うけど」

「何でも知っているぞ」

 急にリュートが二人の会話に突っ込んできた。

「結構です」

 きっぱりと断った。


「素直に聞けばいいのに」

「リュート! うるさいわよ。それにそれぐらい、頭に叩き込んでなさいよね」

「別にいい……」

「人を当てにしない! いいわね、リュート」

 何で俺が怒られると理不尽さを滲ませるリュートに、トリスがクスッと笑っている。


「聞いているの?」

「ああ」

 怒ったまま、今度はトリスに矛先を傾けた。


「トリスも甘やかさない。いいわね」

「おう」

 三人の目の前に、グリンシュと噂をしていたマドルカが話を終え、別れる最中の場面に遭遇する。三人は同時に足を止め、その様子を静かに見守っていたのだった。


「……すまなかったな」

「いいえ。いつでも相談してください」

「ありがとう」

 三人に気づかず、マドルカは三人に背中を向けたまま姿を消してしまった。


 普段のマドルカからは考えられない行動だ。

 だから、余計に気になる三人だった。

 しばらくして、マドルカの背中を見つめていた三人は小走りで、グリンシュの元へ駆け寄る。

 グリンシュもマドルカの後ろ姿を眺め続けていた。


 近づいてくる三人に気づき、にこやかに到着するのを待っていたのだ。

「食事は終わったのですか?」

 興味津々の顔を、むき出しにしている三人に話しかけた。

 わざと違う話題を振ったのだ。


「終わった。上手かったぞ」

 素直に食事の感想を述べたのはリュートだけだ。

 二人はおいと突っ込みを入れたくなっていた。

 三人三様の表情を楽しむ。


 笑顔でグリンシュが感想に合いの手を入れる。

「それはよかったですね」

「おう」

 満足しきった顔だ。


「リュート、何がおいしかったですか?」

「みんな、美味しかった」

「そうですか」

「でも、今日のローストビーフのソースが、いつもと違っていた。グリンシュも食べてみるといい」

「それは楽しみですね」

「それとな……」


 続きそうな話をトリスがバッサリと遮る。

「その話はいい。ところでだ……」

 先程まで話していたマドルカと何を話していたのか尋ねた。

 話の端を折られ、面白くないと頬を膨らませるリュート。


「話が終わっていない……」

 剥れているリュートをほっとき、グリンシュの返答を待っている。

 瞳を輝かせ、セナも返答を待っていた。

 わざと焦らせていたので、楽しませて貰いましたと言う笑みを零す。


「大したことではありませんよ。マドルカが以前所属していた騎士団から、戻ってこないかと誘われている話をしていただけですよ」

 話していた内容をあっさりと暴露した。


「騎士団……?」

 抑揚のない声でリュートが呟いた。

 話を聞いたトリスは眉間にしわを寄せ、セナは驚愕であんぐりと口をあいている。


(毎年、いくつかスカウトの話があったのは知っていたが……。これか……)


「行くのか?」

 冷静に尋ねたのがリュートだ。

 予想外の返答に二人は二の句が継げない。


「随分と悩んでいるようですよ」

「行く可能性が高いのか?」

「どうでしょう」

「教えてくれ」

 淡々と答えていくグリンシュに、三人の中で落ち着いていたリュートが詰め寄っていった。


「先方の方では、先の戦で負傷が大勢出たようで、大変らしいですよ」

「戦……」

「えぇ。一年前にあの辺りで大きな戦がありましたから」

 いやな響きだなと眉間にしわが濃いリュート。


「マドルカには、どうしても戻ってきてほしいと頼んでいるようです。ああ見えて、マドルカは恩義を大切にする人ですから」

 一瞬だけ真剣な面持ちをみせたかと思った次の瞬間、リュートは素っ気ない態度をみせた。

 その脳裏では、チェスターの落ち込んでいる姿がくっきりと浮かんでいたのだ。


 素直に態度を窺わせたのはトリスだった。

「もし、仮に騎士団に戻ったら、落ち込むだろうな」

 誰がとは言わない。

 誰もわかっているからだ。


「そうですね。傍にいることが当たり前のようになっていますから」

 沈黙が漂う。


「グリンシュ。その話、いつ来たんだ?」

「五日前に来ていましたね」

「五日か……」

 黙り込むトリス。


 五日前に来た話と言うことで、そろそろマドルカ自身もそれに対しての答えを出さなくてはいけない時期だと巡らせる。

 行くか行かないか、どちらを選ぶのだろうと予測が立たない。


(真っ先にチェスターのことを考えれば、行かない選択もありうる……、けれど、マドルカ先生の性格などを踏まえれば、行く可能性も出てくる。はたして、先生はどちらを選択するのだろうか……。難しい問題だな)


「……私だったら、そんないい話、受けるけどな」

 ボソッとセナが本音を漏らした。

「だって凄い話じゃない。自分の実力を買われているのよ」

「立場が違うと思うけど?」

 羨ましそうに話す姿に、冷静にトリスが突っ込んだ。


 セナの頭の中は実力を評価されたことしか入っていない。

 幼馴染と言うキーワードが抜けていた。


「トリス、あなただったら、どうするのよ」

 ムスッとした顔で、目を細めている。

「俺だったら、行かない」

「何で?」

 訝しげな眼差しを傾けていた。


「そんなに戦うのが好きじゃないし」

 単純な解答を耳にし、何のためにここにいるのよと胡乱げな視線を送る。

 次にリュートにあなたはどうなのよと眼差しを投げかけた。

「騎士団に興味がない。面白かったら、行くかもしれないが」


 行く基準が違うだろうと突っ込みを入れたくなるのを堪えつつ、短い付き合いの中でこいつらはこういう人間だったと諦めも出てきていたのである。


(こいつらと一緒にいると、私の方がバカになりそう……)


 三人の一部始終を静観していたグリンシュが、ふふふと笑い声をあげる。

「二人らしい答えですね」

「先生……」

 ほのぼのしすぎている二人を眺めているグリンシュに訴えかけていた。

 けれど、そんな視線を気にしない。


「いいと思いますよ」

「でも、これじゃ……」

 心配げにのん気な二人に視線を傾ける。


「本人たちは、いかにお互いが大切な存在だか、気づいていないだけなんですよ」

 困っているセナに、話の本題を戻した。


「大切な存在? だったら、教えてあげらればいいだろう?」

 わからないとリュートが率直な意見を述べた。

 それにセナも賛同する。


「それじゃ、つまらないでしょう? もう少し、この楽しい状況を楽しまないと」

 茶目っ気たっぷりにグリンシュがウインクしてみせた。

 トリスとセナは悪魔だと同時に心の中で呟いている。


「そういうものなのか」

 リュート一人だけが、そうなんだと頷いていた。

「そういうものなんです」

「知らなかった」


 トリスとセナは同時に叫んでいる。

「「変なこと、教えるな!」」


 近頃、面白いことがないと感じていたグリンシュはこの状況を心の底から楽しんでいたのだ。何かが起こらないかと密かに期待していたのである。


読んでいただき、ありがとうございます。

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