第191話
リュートたち一行は、堂々と、カブリート村の正面から入っていった。
先頭を歩いているのは、足取りも軽やかなリュートで、ユルガ、ソルジュ、ミントが続き、その後に、魔法科のメンバーが歩いていたのだった。
魔法科の後に、剣術科のメンバーが続き、居た堪れない顔を滲ませていたのである。
村人の多くは、リュートたち、魔法科の顔を見て、眉を潜め、歓迎している者なんて、誰一人いない。
長老側、村長側、両方にとっても、リュートたちに、以前、痛い目にあっており、警戒心を膨らませていたのだ。
穏やかな日々が、壊されるのではないかと。
さらに、進んでいく彼ら。
リュートたちに、なかなか、近づく者なんていなかった。
冷たい視線に、セナたち剣術科のメンバーだけが、居た堪れなさを覗かせていたのである。
眉間にしわを寄せながら、いつもとは違う対応に、ビンセントが戸惑いを隠せない。
「どうした?」
トレーシーが声をかけていた。
「いや。村の様子が……」
「こんなんじゃないのか?」
トレーシーたちは、カブリート村のことは、話でしか聞いたことがなかったのだ。
だから、こういうものだと、半ば諦めていたのだった。
「確かに、そうなんだが……」
ビンセントの双眸が、先頭を歩いているリュートに傾けられている。
(……こいつら、一体、何をしたんだ?)
いつもの対応と違うことに、何となく、感じ取っていたのだった。
この辺一体は、村長側で、ここまであからさまな態度を取ることがなかったのだ。
村の者以外を見れば、すぐさま、警備する者たちが現れ、対応していたのである。
だが、いっこうに、警備する者たちが姿を現そうとはしない。
遠巻きに、見ているだけだ。
(何で、警備しているやつも、見ているだけで、出てこない)
ビンセントの視界に、きちんと警備している者を捉えていた。
どの顔も、見知っていたのである。
「……いつもなら、警備をしている者が、姿を見せて、誘導するはずなんだが……」
トレーシーや、話を聞いていたチャールストン、ガルサ、ニエルが辺りを窺っているが、村人は誰一人として、近づいてくる者がいなかった。
ほとんどが、冷ややかな眼差しを向けていたのだった。
「いないな」
「いないわね」
トレーシーやガルサが、口にしていた。
「いやそうに、みんな、こっちを見ているわよ」
ニエルの言葉に、長老側だったら、そうした表情にも、納得できたのだが、この辺一体は、まだ村長側で、大歓迎とはいかなくっても、いやそうな顔を浮かべることもなかったはずなのだ。
それにもかかわらず、馴染みある人たちから、物凄くいやそうな顔を浴びせられ、ビンセントの心が、徐々に沈んでいった。
(……何で、誰も、出てこない)
「私たち、大丈夫なの?」
ガルサの双眸が、村の出身であるビンセントに巡らされている。
「知るか」
どこか、投げやりな態度をしているビンセント。
無理やり、つれてこられたことを、未だに根に持っていたのである。
不安がっているガルサたちに気づき、トリスがいつの間にか、彼らの元に下がっていたのだ。
「大丈夫」
突如、自分たちのところにトリスがきて、虚を突かれた顔を覗かせている面々だった。
全然、トリスの気配を察知できていなかった。
「「「「「……」」」」」
セナに言われたはずなのに、気を抜いていたことに、もう一度、気持ちを入れ替え、神経を研ぎ澄ませ始めていたのである。
「そっちに、向けている視線じゃないから、俺たちに、向けられたものだから、気にする必要はないよ」
「……一体、どうしたら、こういう対応になるの?」
ムスッとした顔で、ニエルが突っ込んでいた。
「少しだけ、遊んでいただけだよ」
「少しって……」
胡乱げな眼差しを傾けているニエル。
「ホント、少し」
苦笑しているトリスだ。
ここまで酷い対応されると、少しとは言えないのではと、ジト目でガルサたちが過ぎらせていた。
「俺たちにとっては、少しだが、ま、村人にとっては……」
ガルサたちから、僅かに視線を、そらしているトリス。
「ビンセントは、聞いていないの?」
何やっているんだよと言う顔を、滲ませているビンセントに、ガルサの双眸が注がれている。
突如、振られ、渋面しつつ、ビンセントが考え込んでいた。
「……入り込んでくる生徒たちの話を聞いているけど、誰かってことは……聞いたこともないし、話してもくれない……」
「そうなの?」
「そうだ」
反抗期で、両親と、余り話していないとは言いたくなかったのだ。
このところは、完全に父親を拒絶し、ロクに話をしていない。
「ねぇ、トリス。リュート、ただ、歩いているって、だけじゃないわよね?」
ニエルの問いかけに、話がそれたと、ビンセントは、ホッと胸を撫で下ろしていた。
村の中にある広い道を、ひたすら歩いていたのである。
「歩いているだけだよ」
「「「「「……」」」」」
「大丈夫。もうすぐ、誰かが、来るから」
「ホントに?」
疑っている視線を、流しているニエルだ。
「ホント。そうだろう? ビンセント。誰かが、出てくることになっているんだろう?」
「……ああ」
「だったら、誰かが出てくるよ。カブリート村に、顔馴染みが何人かいるから、俺たちが話をつけるから、安心してくれ」
清々しく、笑っているトリス。
溜息を零している、ガルサたちだった。
ビンセントだけは、顰めっ面で、トリスを捉えていたのである。
「リュート。お前たち、また、何しに来たんだ?」
遠くの方から、リュートたちに、声をかけているアセンがいた。
村長から、また、面倒ごとを頼まれ、顔を出していたのだ。
「アセン。久しぶり」
気軽に、挨拶しているリュート。
父アセンの登場で、ビンセントは顔を歪めていたのだった。
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