第188話
校舎の近くで、カブリート村を探らせている部下からの報告を、受けているグリフィン。
生徒たちは、誰もいない。
授業を終えたグリフィンは、学院の周囲を、見回りを行っていたのだ。
勿論、彼の当番ではなかった。
ラジュールの当番で、代わりに見回りをしていたのだった。
そこへ、報告しに、現れた部下である。
立ち止まり、報告に耳を済ませていた。
「……リュートたちは、順調に、カブリート村に入ったのか」
「はい」
持っている部隊の一部を、カブリート村周辺に配置させ、窺わせていたのである。
カブリート村に興味を持った、リュートたちを止めることなく、遠くで静観しているように命じていたのだった。
「リュートたちは、どうしている?」
「また、おとなしく動いております」
グリフィンの問いに、真摯に答えて行く部下。
彼は、グリフィンよりも、やや年上で元冒険者だ。
冒険者としての活動に、見切りをつけたところで、学院側からのスカウトもあり、学院側の警備の仕事に当たっていたのである。
彼のようにスカウトされ、学院側の仕事に携わっている者も多くいたのだった。
「そうか……」
(リュートたちの動き次第では、もう少し多く配置することを考えていたが、現状維持でいいか。それにしても……)
「いつまで、持つかな」
黙っている部下である。
グリフィンの下について、もう、五年は経っていたのだ。
ある程度のグリフィンの思考を、読むことは容易だった。
「ラジュールたちの話を、無視したからだ」
「……」
「上層部も、少しは、あたふたした方がいい」
グリフィンの眼光に、ほの暗い光が灯っていたのである。
以前に、カブリート村に関して、ラジュールやデュランが進言したにもかかわらず、今まで放置してきた、上層部のやり方に、ずっと憤りを抱いていた。
だから、カブリート村に、興味を持ったリュートたちを止めることなく、放置することを選んだのだ。
勿論、上層部には、報告していない。
リュートたちが、カブリート村で、動き回っていることを。
「ホントに、いいのですか?」
「リュートたちのことか」
視線の矛先が、部下に巡らされている。
心配げな眼差しを注いでいたのだ。
リュートたちの、問題行動の後始末などをしていた彼らにとり、リュートたちを放置することが、どれだけ危険か身に沁みていたのだった。
「はい。これまでのことを考えると、大きな騒動になるかと」
「なるだろうな。リュートたちがかかわっているし、人数も多い」
「はい」
「ま、バドは、加わっていないんだろう?」
「はい。研究室にこもっているようです」
「なら、このままだ」
「……」
「バドがいないだけ、少しは、マシだろう?」
不敵な笑みが零れていた。
何とも言えない顔を覗かせているのは、部下だった。
これまでの後始末の、あれやこれが、走馬灯のように流れていたのだ。
「……」
「それに、リュートたちが、好き勝手に動くことによって、カブリート村の膿も出るし、何より、長老たちが、何をやっているのかも、解明できる可能性が、大だ。だから、絶対に、リュートたちの邪魔だけはするな」
「はい」
「剣術科の連中は、どうだ?」
「リュートたちに、ついていくのが、やっとのようです」
脳裏に浮かぶのは、カイルの生徒たちである、セナたちの姿だ。
今後、自分も、担当する可能性もあるので、セナたちの実力は、以前から眺めて、把握はしていたのである。
「だろうな。経験のさもあるし、何より、リュートとの付き合いが、断然、剣術科の方が、短いからな。その分だけ、どうしても、実力に開きが出てしまう」
「はい」
「トリスも、クラインもいるから、その辺は、大丈夫だろうな」
(あれたちは、ラジュールが、鍛えた生徒だからな)
トリスとクラインに、ある程度の信頼を置いていたのである。
どちらかが欠けていれば、グリフィンも、静観すると言う行為を、行っていなかったほどだ。
「ただ、危なくなった時だけ、手を貸してやれ」
「はい」
「後、証拠は、手に入れておけ」
強い眼光で、部下を見つめている。
頼もしい部下の姿に、口角が上がっていた。
「はい」
「確実に、言い逃れができないようにな」
「はい」
ジト目になっている部下に、苦笑していた。
部下が、グリフィンのことを理解できているように、グリフィンも、部下の思考を読むこともできたのだ。
「そんな目で、見ないでくれ。ちゃんと、カイルには、少しだけ、話している」
「なら、いいです」
「さすがに、話さないのは……、な」
「勿論です」
「とにかく、この後も、監視を頼む」
「了解しました」
報告をした部下が、グリフィンの前から立ち去っていた。
一人残ったグリフィンは大きく背伸びをし、まだ残っている見回りの仕事に戻っていったのだった。
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