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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第6章 邪魔するものは、吹っ飛ばせ
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第186話

 今後のことに、危機感を憶えているセナは、魔法科から少し離れた位置に、剣術科のメンツを集めている。

 一人だけ、ブスッとしているビンセントだ。


 剣術科で、混じっていないのは、魔法科と、兼務しているリュートだけだった。

 のん気な顔を覗かせているリュート。

 ユルガやクラインたちと、楽しげにお喋りしていたのだった。

 そして、セナの真剣な眼差しは、剣術科の一人一人に傾けられていた。


「魔法科にやられっぱなしよ。これでいいの?」

「「「「「……」」」」」

 どの顔も、苦い顔を滲ませている。

 このところ、剣術科の見せ場が、一切ない。

 剣術科の生徒よりも、魔法科の方が、動きがよく、剣術科よりも剣術科らしい動きを見せていたのだった。


「実力が、違い過ぎる」

 冷静に、分析にしているダンの言葉。

 ガルサたちが、悔しい顔を浮かべていたのだった。

 魔法科なのに、何で、あんなに動きが俊敏なのよと、皆の心に渦巻いていたのだ。

「唯一、セナだけが、いけるだろうな」


 評価してくれるダンに、苦笑しているセナである。

 同期の中でも、セナだけが抜け出していたのだ。

 セナ自身、しっかりと、そうした自覚は持っていた。

 もう一度、目の前にいる、みんなの眼光を見ている。

「……私も、無理よ。辛うじて、接戦に持っていっても、最後には、負けるかもしれない」


(私は、魔法に対する耐久性が弱い……)


 ちらりと、魔法科を眺めている。

 和気藹々としている、光景だ。

 ゆとりのある雰囲気。

 ムッとしているが、表情に出ることがない。

 心の片隅で、しょうがないかと言う気持ちがあったからだ。


 魔法科と剣術科の能力が、あまりに違い過ぎたのだった。

 同じ時に入学し、同じ時間に学んできたはずなのに、差が大きく、広がっていたのである。

 違いがあるとすれば、リュートがいたか、どうかだと、セナは巡らせていた。


(……強くなってみせる。とにかく、剣術科の底上げよ)


 徐々に、セナの双眸が強くなっていった。

「リュートやトリス、クライン以外でも?」

「……連携とられると、ヤバいかもしれないけど、単独だったら、いけるでしょう」

 ローゼルやガルサの言葉に、首を竦めていた。


(確かに、ブラークたちなら……、いや、たぶん、長期戦に入れば、負けるな。一気に攻めることができるなら、私に勝機があるけど。そう、やすやすと、一気に持ち込めると思えないし……)


「……無理よ。リュートたちの陰に、隠れているけど、さすが、リュートたちと付き合うことがあって、経験もあるから」

 ビンセント、トレーシー、チャールストンは、微妙な顔を漂わせている。

 自分たちのように、能力がない者には、しょうがないが、まさか、『十人の剣』に選ばれているセナでも、負けると、言っていることの方が、信じられなかったのだった。


(((セナが負ける? 嘘だろう)))


 セナ以外のメンバーが、能天気に喋っているリュートたちに視線を傾けていた。

「さすが、魔法科の問題児ってことでしょうね」

 小さく笑っている、セナだ。


(卒業まで、絶対に、超えてみせる)


「負けは、潔く認め、彼らにも、剣術科には、成長スピードが、速いことを見せつけよう」

 大きく、差が広いでいる段階を、急に、埋めることは無理だと、判断していた。

 次にやることは、自分たちには、まだ、成長するノビシロがあると、見せるつけることに、頭を切り替えていたのである。

「どうするの?」

 やる気に満ちている、ニエルの双眸だ。


「簡単よ。訓練を受けた連係プレーを、確実に、且つ、鮮やかにやって見せるのよ」

「それだけ……」

 ガルサが、拍子抜けした顔を見せていた。

 他の者たちも、物足りないと、表情に出てきている。

 それでも、セナの態度は変わらない。

「それだけよ」

 不敵な笑みを漏らしているセナ。


「それ以上のものを見せれば、いいんじゃないのか」

 ダンも、納得できない顔を覗かせている。

「ダメよ」

「何で」

 睨んでいるダンだ。


「それ以上のものを見せようと、躍起になれば、動きが硬くなって、失敗する可能性だってあるでしょう。だから、ここは、確実性を取る。だって、魔法科にとってみれば、口に出していないけど、私たちが失敗する可能性だって、見込んで動いてくるはずよ」

 容赦ない、セナの言葉。

「「「「「……」」」」」

 誰しもの脳裏に、あり得ると刻印されている。


「だから、失敗する訳にはいかない。特に、今回は」

「「「「「……」」」」」

「それとも、失敗するところを、見せたいの?」

 研ぎ澄まされた、セナ眼光だ。

「「「「「……」」」」」

「私は、そんなところ、見せたくないし、したくもない」

「「「「「……」」」」」

「だから、確実な行動を取るべき」

「「「「「……」」」」」

「どう?」

 意見を求められ、ダンたちは何も言わない。


「トリスたちから、命じられても、素直に、反応して見せること。そして、戦いに高揚しても、言われている以上に、前に出ようなんて、考えないで、周りを見て、動くこと。ここには、自分たちの他に、魔法科もいることを、決して忘れないように。彼らの動きを踏まえて、必ず、動くこと。いい?」

 ダンやローゼル、ガルサ、ニエルに、視線が止められている。

「特に、四人は自重して」

「「「「……」」」」


 名を呼ばれた四人。

 僅かに、目を泳がしていた。

 呼ばれた四人は、前に出る傾向があったからだ。

 過去に、何度か失敗していた。

 そして、四人とも、自覚はしていたのである。


 落ち着きのない四人から、視線を移動させていた。

「トレーシー、チャールストン、ビンセント。あなたたちは、もっと率先して動くこと。最近、動きが鈍いわよ」

「「「……」」」

「以前の方が、断然に、動きがよかったわよ。今すぐに、気持ちを切り替えろとは言わない。ただ、油断して、足を引っ張らないように」

「「「……」」」


 そして、セナの双眸が、緊張気味のパウロに注がれている。

「パウロは、いつの通りに。ただ、余裕がある時は、前に出て応戦するように」

 素直に頷くパウロだ。

 もう一度、セナの眼光が、皆の顔を捉えている。

「いい? ここは、個人技ではない。連携し、一人一人、沈めていくこと」


 みんなの視線も、まとめているセナに集まっていた。

 普段だったら、ここで不満の声が上がっても、おかしくはない。

 だが、上がってはこなかった。

 いい雰囲気に、口角が上がりそうになるのを、セナが堪えている。


「……そして、これは、練習でもなければ、模擬戦でもない。……実戦よ。そして、相手は、正真正銘の現役の冒険者たちよ。油断したら、私たちなんて、あっという間にやられることを、肝に銘じておいて。だから、一人一人、連携して戦いに挑むの。そのことを決して忘れないで。それと、村人も混じっているから、その辺の識別は、きちんと、すること」

 ゴクリと、つばを飲み込む面々。

 実戦と言う言葉に、背筋が伸びていたのである。


 いい顔つきになっていく、ダンたち。

 小さく、笑みを漏らしているセナだ。


「ここから先は、常に、神経を尖らせておくこと。いつ、どこで、戦闘が起こってもいいように、頭の隅に置いておいて」

「まず、情報集めって、言っていた」

 ローゼルの言葉で、セナの視線が注がれている。

「勿論。まだ、情報収集の段階よ。でも、ここに、リュートがいることを、絶対に忘れないで」

 リュートの名で、同じ班のメンバーの顔つきが変わっていた。

 さらに、真剣みが増したダンたち。


 胡乱げな視線を、ガルサが巡らせている。

「……ヤバいの?」

 ニエルたちも、首を傾げていた。

「思っている以上に、ヤバいから。言っちゃ悪いけど、この数分後に、戦闘に入ってもおかしくないぐらいに、ヤバいから」

 ますます、班が違うガルサたちは、渋面になっていく。

 対照的に、同じ班であるダンたちは、どこか遠い目をしていた。


「いい? 絶対に、リュートを甘く見ないで」

 強く、念を押すセナだった。

 頷くしかない、ガルサたち。

「じゃ、もう一度、連携の確認を」

 先頭に立つセナに促されるがまま、魔法科から、訓練を受けた連係プレーの確認作業に入っていった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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