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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第6章 邪魔するものは、吹っ飛ばせ
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第185話

 ビンセントと離れたことにより、僅かに心細くなっているハンナをつれ、トリスとカーチス、カレンが、森の中を迷いもなく、歩いていたのである。

 森の奥の景色は、大して変わらない。

 低レベルの魔物や、動物たちが、遠巻きに四人のことを窺っていた。


 トリスたちも、襲ってくることがないので、放置していたのだった。

 だが、長老側の者たちに対しは、警戒をしていたのだ。

 近くに、見回りに来ている可能性もあるからだった。

 まだ、ハンナと繋がっていることを、知られる訳にはいかない。


「……」

 黙って歩いていることに、ハンナが居た堪れなくなっていたのである。

 トリスたちも、歩きながら、聞いた話をいろいろと、頭の中で整理していたのだ。

 長老側の情報が僅かに入り、整理する必要性があったのだった。


「……慣れているけど、ここの森に、よく来ているの?」

 ハンナが話しかけていた。

 とても、トリスたちの足取りが、初めて来た感じではと抱いていたのだった。

「いや。昔に、二、三度、程度かな」

 首を傾げているトリス。


 トリスの視線は、カーチスたちに、向けられていた。

「俺たちも、お前たちと、来たことしかないぞ」

「私もよ」

「ってことらしいよ。いろいろな森の中を、駆け回って遊んでいたから、それで、慣れているのかな」

 苦笑しているトリスである。


 大概、リュートにつき合わされ、面倒をかけられた記憶しかない。

 それは、カーチスも、カレンも同じだ。

 先頭を歩いているトリスに、ハンナが続き、後方をカーチスとカレンが守っていたのである。


「そうなんだ」

 何の不審も抱かないハンナだ。

 学院との繋がりがないので、リュートたちの噂を耳にすることが皆無で、学院の中にある森の中で、訓練をしているものと信じていたのだった。

 ある意味、ハンナの解釈は、間違っていない。

 学院の森にある村も、学院の一部だからだ。


 トリスたちも、ハンナの思考を、訂正しようとはしない。

 ただ、笑みを漏らしているだけだった。

 そして、学院にいる生徒は、誰も強いと思い込んでいたのである。

 頼もしい助っ人に、心が軽くなっていた。


「学院って、大変なんでしょう? 規則とか守らないと、厳しい罰則があるって。それに、厳しい訓練も、毎日のようにあるって、ビンセントが話してくれたの」

 ビンセントから、以前、聞いていた話をしていた。


(抜け道は、いくつもあるんだけど。ま、知っている者が、少ないからな)


「剣術科と魔法科では、違うから」

 首を竦めているトリスだ。

 背後にいる二人も、小さく笑っている。

「そうなの?」

「剣術科と違って、割りと、魔法科はユルいよ」

「そうなの?」

 純粋に、目を丸くしている。


 トリスたちが、さらに笑みを強くしていた。

 魔法科も、厳しい指導を行っているが、それを気にも留めないのがリュートであり、トリスたち、問題児が多いが成績優秀な魔法科のA組だった。

 そういうこともあり、A組のことはラジュールに任せ、野放し状態になっていたのである。

 A組を止められる教師が、少なかったのだ。


「身体を動かすのが、剣術科の基本だから。今のうちは、ひたすら基本の型を、みっちりやっている感じだからね」

「そうなの」

「俺たちは、身体を動かすこともやるけど、頭を使う授業も多いから……」

「そうなんだ」

「規則は……いろいろだね」

 言葉を濁しているトリスに、首を傾げているハンナだった。


「無理しないように」

 瞬時に、トリスが何を口に出しているのか、ハンナは理解し、真剣な眼差しになっていたのである。

 肩に力が入っているハンナ。

 三人が困ったなと言う顔を覗かせていた。


「そんなに、張りつめないように。もっと、気軽に、目にしたことを、話してくれればいいだけだから」

 穏やかな声音で、カレンが口にしていた。

「でも……」

 納得がいかない顔だ。

 どうしても、イシスを助ける手助けをしたかったのだ。

 自分ができる、精いっぱいのことを。


「いつも通りの行動をして、いつも通りに振舞う。そうした中を、ただ、詳しく見て、記憶しておくだけ。それだけで、十分だ」

 何でもないような口調のカーチスだった。

 緊張感がない三人。

 それに対し、次第にハンナも、強張っていた身体が解けていった。

「いいの? それで」


「いいさ。それで」

「後は、俺たちに任せてくれ」

 柔和な笑みを、トリスが零していた。

「……イシスは、大丈夫かな」

「今のところは」

 嘘は言わないトリスだ。


(ただ、いつ何があるかわからないけど)


「……」

「リュートや俺たちがいるし、それに、今回は、剣術科も揃っているから、長老側が揃えたメンツと対峙しても、負けないと思うよ」

 気軽なトリスの声だった。

 戦闘においては、負けないと自負していたのである。

 だが、家に監禁されているイシスのことだけは、いろいろなことが想定されるので、不安要素でもあったのだ。


「うん……。でも、複雑」

「「「複雑?」」」

「だって、知っている人たちで、争うし……」

 自分が知っている者同士が戦うことに、やりきれない気持ちを抱いていたのである。

 そして、それは、長老側と村長側が、戦うかもしれないと。

 日常的に、村長側と繋がりがなくっても、毎日のように、顔を合わすことはあったのだ。


 嘆息を漏らしているハンナ。

 伏せていた顔を、パッと上げている。

「ごめんなさい。助けてくれるって、言うのに……」


「いいよ」

「気にすることないよ。それが、当たり前の反応だろうし……」

「そうそう」

「……ありがとう」

「大事なことを、教えておくね」

 暗くなっていた話題を、トリスが変えていた。


「うん」

 素直に応じるハンナに、先ほどの曇っていた顔がない。

「俺たちと、連絡する時の合図だけど……」

 連絡の仕方などのレクチャーを、ハンナに教えている。

 わかりやすいトリスの説明。

 頷き、時には、質問も投げかけていた。

 理解するまで、トリスの説明は続けられていたのである。


 その間、カーチスとカレンが、口を挟むことはしない。

 黙って、周囲の警戒に、当たっていたのだ。

 それも、ハンナに気づかれないように。


 いざと言う時のため、いくつかのものを、トリスから受け取っていた。

 それらの物を、バレないように、仕舞い込んでいたのである。

 勿論、隠すために、トリスは、アドバイスもしていた。

 そのアドバイスに従い、服などの至るところに、締まっていたのだ。

 仕舞えないものに関しては、持っている籠に入れ、すでに摘んであった木の実などで、見えないように覆っていたのだった。


「こんな感じで、大丈夫?」

 見た目では変わらない。

「大丈夫」

 いろいろと話しているうちに、ハンナと友達がいた付近に、差し掛かっている。

 先頭を歩いていたトリスが、立ち止まった。

 後続についていたハンナたちも、立ち止まったのだ。


「たぶん、ここからは、大丈夫だよね」

 トリスの言葉を受け、周辺を眺めてみると、慣れ親しんだ場所だった。

「うん」

「じゃ、ここからは……」

「わかった」

「「気をつけて」」

 カーチスとカレンが声をかけ、ハンナは、トリスたちに別れを告げてから、自らの足で森を抜けていった。


 ハンナの友達は、すでに戻っていたのだ。

 森から、一人で抜け出したハンナは、みんなから叱られたが、大きな話にはならなかった。

 イシスの件があったからだ。

 遠くからトリスたちは、そうした光景を窺い、ハンナが自分の家に帰るまで見てから、リュートたちの元へ帰っていったのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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