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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第6章 邪魔するものは、吹っ飛ばせ
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第184話

 リュートやトリスからの質問に、真摯にわかる範囲で、ハンナが答えていった。

 途中に、ユルガが話に入り込むことがあったが、順調に、話が進んでいったのである。

 その間、渋面したままで、ビンセントが黙って見守っていた。


 リュートたちの問いかけで、改めて、逡巡したことで、いろいろと、ハンナなりに長老たちの不可解な行動を、疑問視し始めたのだった。

 村の中では、気づかなかった視点だ。

 ビンセントと出会ったことで、そして、リュートたちと会ったことで、自分たちのカブリート村がおかしいことに、ようやく、ハンナは理解し始めていたのである。


 ゆっくりと二人だけで、話をしたいだろうと、トリスの気遣いで、リュートたちから少し離れた場所で、二人っきりになるビンセントとハンナだ。

 少しだけ、気持ちに、ゆとりができた二人。


 だが、知り合いだけの中に、ハンナといると言うことに慣れない。

 居心地が、非常に悪かったのだった。

 同じ班のガルサたちやダンたちから、生暖かい眼差しを傾けられ、ムッとした顔を滲ませていたが、クラインが宥めてくれ、ようやく、話すことができたのだ。


 それぞれ、見える範囲内でいる。

 この状況で、見えないところまで離れるのは、得策ではないと、理解はしていたのだった。

 居た堪れなさを憶えるビンセントだが、しょうがないと内心では諦めていた。

 対照的に、吹っ切れた表情を覗かせているのは、ハンナだった。


「びっくりしただろう?」

 疲れた顔をビンセントが滲ませている。

「うん。でも、ビンセントがいたから、安心できたよ」

 素直なハンナの言葉。

 ビンセントの頬が赤らむ。

「……そうか」


「でも、何で、あんなことになっていたの?」

 純粋なハンナの双眸だ。

 ビンセントが、引きつってしまう。


 何を問いかけているのか、瞬時に、汲み取ったからだ。

 仲間のはずのビンセントが、拘束されていたのを、ずっと疑問に思っていたのである。

 素直に、嫉妬していたからだとは、言えない。


「……いろいろだ」

「……そうなんだ」

 視線をそらしたビンセントに、苦笑していた。

 そして、それ以上の追究を、やめていたのだった。


「そうだ。それよりも、いいのか? リュートたちに頼まれた、情報集めは。危険じゃないのか?」

 不安そうな眼光を傾けていた。

 ハンナ一人だけを、長老側に送り込むことに、不安でしかない。

 だからと言って、同じ村出身とは言え、ビンセントがついていくことができなかった。

 ハンナは長老側にいて、ビンセントは村長側にいるからだった。


(……同じ村なのに……。どうして……)


「……怖いけど、やってみる。だって、これで、イシスが助けられるなら」

「そうか。でも、無理はするなよ」

 ビンセントも、理解はしていたのである。

 長老側の情報が、必要だと。

 ただ、頭で理解しても、心が伴っていなかった。

「うん」


 不意に、ハンナの視線が、リュートたちに向けられていたのだ。

 全然、緊張感がないリュートたち。

 他の者たちも、好き勝手なことを、話していたのだった。

「ビンセントの友達、多いね。あの大人の人も、友達なの? それに、小さい子も?」


(友達じゃない)


 促されるように、双眸を傾けると、リュートはユルガとソルジュ、ミントと話し込んでいたのである。

 離れた位置にいるにもかかわらず、熱がこもっている感が、伝わってきていた。


(楽しそうだな。何か……ムカつく)


 ジト目になっている、ビンセント。

 班が違っていたが、この置かれている状況を楽しんでいることは、正確に把握できていたのだ。


(……けど、リュートたちが、いなかったら……)


 胸が苦しくなっていく。

 そして、自分の無力さを、痛感させられていたのだった。

 リュートや、魔法科の生徒たちがかかわったことで、突破口を見出せることができたのである。

 わかっているが、それが、自分の手で、作り上げたものではないことに、悔しさが込み上げてきて、辛うじて飲み込んでいた。

 ただ、ハンナの前で、不甲斐ない姿を見せたくないと。


「……リュートの友達と、リュートの妹だ」

 苦々しい顔を、僅かに窺わせている。

「大丈夫なの?」

 自分よりも、小さい子がいるので、素直に、ミントのことを案じていた。

「何せ、リュートの妹だから、ハンナが心配することはない。俺よりも……」

 段々と声が萎んで、止まってしまっていた。


(俺は……、あの子よりも、弱い。そんなの、わかりきったことじゃないか……。でも……悔しい)


「ビンセント?」

「何でもない。とにかく、強いから、その辺は、安心してもいい」

「わかった」

 学院のついては、ビンセントだけしか、知らない。

 学院の仕事に、従事していなかったのだ。


 そうしたこともあり、リュートたちが、どれくらいの能力が高いのかは、ハンナが知ることがなかったのだった。

 学院の仕事に、従事しているのは、長老側からは、大人しかいないので、実際に学院の生徒を見たのは、これまでビンセントだけだったのだ。

 村長側からは、大人から子供まで、仕事に携わっているので、ある程度、情報は伝わっていたのである。


「そろそろ、いいか」

 リュートについていたトリスが、いつの間にか、二人の下に来ていたのだ。

 声をかけられるまで、気づかなかったビンセント。

 思わず、眉間にしわを寄せている。


(魔法科だろう。何で、こんなに気配を消すのが、上手いんだよ)


「はい」

 ずっと、ざわついていた心が、ビンセントの顔を見たことで、落ち着きを取り戻していたのだった。

 逆に、ビンセントの表情が、優れなくなっている。

「戻っても、大丈夫なのか? 怪しまれないのか?」

 トリスに向けている、ビンセントの視線。

「今のところ、平気だろう。長老側は、学院側だけを、気にかけているようだから」


(村長側は、随分と、舐められているよな)


「でも……」

「逆に、帰さない方が、非常に警戒され、動きが取れなくなる可能性が、デカい。悪いが何食わぬ顔で、戻った方が、こちらとしては、ラクなんだ」

 全然、ハンナの危険を、考えていそうもない雰囲気。

 一人で、イラついているビンセント。

「ハンナに、危険を冒せってことなのか?」


 半眼しているビンセントに対し、ハラハラとしているハンナだった。

 ビンセントとトリスの間で、狼狽えていたのである。


「そうだね」

「おい」

「ある程度の危険は、しょうがない。だって、イシスってこのことが、絡んでいるんだから」

 詰め寄っていくビンセントの腕を掴む。

「ビンセント。私は、大丈夫だから。それに、無理しないから」


 腕を掴まれ、ようやく、湧き上がっていた怒りが、霧散していった。

 ハンナがいることで、なかなか、理性のコントロールができない。


「できるだけ、ハンナにも危険がないように、動くけど……。百%なんて、無理だぞ」

「……」

「わかっているんだろう」

「ビンセント」

 必死なハンナの言葉。

 強張っていた身体の力が、抜けていく。


(何やっているんだよ、俺は……。これから、ハンナが長老側に戻るって言うのに……。しっかりしないと)


「ごめん。心配かけたな、ハンナ」

 頭を横に振っている、ハンナだった。

「俺たちだって、ハンナを野放しにしておく訳じゃないよ。密かに、遠くで見守っておくよ」


(ただ、ギリギリまで、手は出さないつもりだけど)


 完全に、納得できることではなかったが、ここで、これ以上の不満を口に出すことも、ビンセントができなかった。

「じゃ、送っていく」

「俺も」

「ビンセントは、居残り」

「何でだよ」

「セナたちと、打ち合わせ」


 セナたちを見ると、ガルサが早くと声に出さず、動かしていた。

 セナを中心として、剣術科で集まっていたのである。

 剣術科のビンセントとしても、抜ける訳にはいかない。


(こんな時に……)


 不意に、ここに来るまでの特訓のことを思い返していた。

 地獄のようなしごきを、魔法科から受けていたのである。

 自分たちよりも、剣術科のような動きを見せる彼ら。

 ただ、ただ、自分たちは凡庸でしかないと、思わずにはいられなかった。


(このまま、やられっぱなしだと、イヤだ)


「と言う訳で、ハンナは、俺とカーチスとカレンで、送っていくよ」

 いつの間にか、カーチスとカレンが来ていたのである。

 トリスたちは、ハンナを連れて行ってしまっていた。

 その場に、取り残されたビンセント。

 不貞腐れた顔で、睨んでいたのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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