表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第6章 邪魔するものは、吹っ飛ばせ
191/389

第183話

 当初の予定通り、長老側にいるハンナを確保し、周囲を警戒している者たちや、ハンナの友人たちがいる場所から、距離をとるため、森の奥の方へと、足を進めていく。

 今後、ハンナを戻す際に、不審に思われないようにするためだった。

 長老側に、まだ、勘付かれる訳にはいかない。


 キョロキョロと、辺りに視線を彷徨わせ、落ち着きのないハンナだ。

 颯爽と、風を切っているかのような、リュートたち。

 散策しているかのように、足取りが軽やかだった。

 まだ、抵抗していることもあり、拘束されたままのビンセントだけは、そのままの姿で連れて行かれている。

 そうした状況に、ハンナが眉を下げていた。


 入ったことがない場所へと、いつの間にか、歩いていく。

 今までいったことのない、森の奥。

 進むことに、戸惑いと恐怖が、胸の中で広がっていった。


(……大丈夫かな)


 視線が定まらない。

 見えるものが、徐々に怖くなっていった。

 常に、決められた場所にしか、入ったことがない。

 すべて、長老たちが決めたことに、従っていたのだ。


 不意に、先を歩くリュートの背中を捉えている。

 怯えている訳ではなく、この状況を誰よりも、楽しんでいるかのように、ハンナの双眸に映っていたのだ。


(変わった人……)


 リュート同様に、楽しんでいる者もいれば、神経を張りつめたように、周囲を警戒している者もいて、様々な表情があったのである。

 そして、この集団に、ビンセントよりも、上の人も一人存在し、下の子も存在し、ハンナの眼光には、奇妙な光景として映っていたのだ。


 次第に、彼らを見ていくうちに、ビンセント以外、知らない顔触れに対し、当初より怖いと言う感情が、なくなっていたのだった。

 冷静に、周囲の状況を窺うことができていた。


 不貞腐れているようなビンセント。

 クスッと、ハンナが笑みを零している。

 この中において、往生際が悪そうで、子供のように見えていた。


「笑われているわよ」

 冷たいガルサの言葉に、近くにいるハンナを捉えると、確かに、笑みを漏らしていたのだ。

 段々と、抵抗が弱まっていく。

 そして、ばつの悪い表情を覗かせていた。


(ハンナがいたんだ……)


 暴れているビンセントを抑え、歩いていたダンたち。

 それぞれに、安堵の息を吐いている。

 押さえ込んでいるダンたちは、それなりに苦労していた。


 そうとは知らず、リュートは先頭を切って、意気揚々と歩いていたのだ。

 少しは手伝えよと、抱くダンたち。

 だが、問題なく、仕切っている彼らに、代われとは言えなかったのである。

 自分たちが、数段、劣っていることを認識していたからだった。


「ねぇ、リュート。どこまで行くの?」

 不安そうなセナが、質問を投げかけていた。

 何を仕出かすのかと、気が気ではない思いを抱えていたのだ。

 セナの脳裏には、問題を起し、カイルたちに叱られると言うイメージが、鮮明に浮かび上がっていたのである。

 ここまで来た以上、怒られる覚悟はしているものの、それ以上に、怒りを買わないようにしたかったのだった。


「そうだな……」

 先頭を歩いていたリュートが止まる。

 後に続いていた者が、順次、止まっていった。


 辺りを窺う、魔法科の生徒たち。

 ソルジュも、ユルガも、ミントも窺っていた。

 挙動不審な視線を巡らせているのは、今回初めて、リュートたちに付き合っているガルサたちだった。

 何をしているのか、飲み込めていなかった。

 完全に、リュートたちに振り回され、状況を推察するまで、至っていなかったのだ。


「大丈夫そうだな」

「だな」

 セナや同じ班のダンたちは、達観している。

 彼らが、確かめ合っている姿を、ガルサたちが、胡乱げに眺めていた。

 勿論、ビンセントやハンナも、同様な眼差しをしていたのである。


「じゃ、ここで、話を聞くか」

 リュートの言葉に、トリスたちが頷き、ビンセントとハンナだけが、身体を強張らせていた。

 長老側に立つハンナ。

 より詳しい話を聞き、何食わぬ顔で戻すため、誰にも見つからない場所を選んでいたのだった。


 リュートの双眸が、まっすぐにフリーズしているハンナを捉えている。

 そして、トリスたちの双眸も、ハンナに集まっていた。

 心配そうなビンセント。

 ハンナとリュートたちに、視線を巡らせていたのだ。


「友達が、拘束されているんだな?」

 突如、確信を得ている言葉。

 ドキリとしてしまう。

 そんなハンナを、無視しているリュートだ。

「まだ、そこにいるのか? それとも、移されているのか?」


 黒曜石のような瞳と共に、ズンズンと、距離を詰めていく。

 徐々に、顔が近づくにつれ、戸惑が隠せない。

 思わず、ハンナが、後ずさりしていった。


 僅かに、狼狽えているセナやダンたちは、やり過ぎではと、トリスたちに双眸を傾けているが、動こうとはしない。

 静観していたのだ。

 少しだけ、期待を込め、リュートと同じように、好奇心旺盛なユルガにも、助け舟を出すような視線を巡らせるが、ユルガも、ソルジュも、窺っているのみだった。

 誰一人として、ハンナを助けようとはしない。

 諦めモードのセナたちだ。


「おい」

 抗議の声を上げ、ハッとしているビンセントだ。

 いつの間にか、魔法が解かれ、声が出るようになっていたからだった。

「……声が出ている」


 感動しているのは、ほんの僅かで、ビンセントが詰め寄っているリュートを睨んでいた。

 睨まれているリュートは、気にしない。

 眼光を、戸惑っているハンナに、注がれていたのだ。

 チラリと、半眼しているビンセントを窺い、気持ちを落ち着かせているハンナ。


(……大丈夫。ここには、ビンセントもいるんだから)


 意を決めたようなハンナの表情が、あったのだった。

 抗議しているビンセントに、ニコッと笑いかけている。

「大丈夫。ビンセント」

「ハンナ……」

 困ったようなビンセントから、質問してきたリュートに眼光を傾けていた。


「……今日の朝、イシスの家に寄ってきたけど、いたよ」

「そうか。家の周りを見張っている者たちは、同じか? それと、増えているか?」

「増えているよ」

「皆、顔見知りか?」


 逡巡し始め、顔を伏せている。

 リュートに言われ、イシスの家を見張っている者たちの顔を、それぞれ思い浮かべていたのだった。

 そして、ハッとした顔を上げていた。

 眼光に、目の前にいるリュートを映している。


「……知らない顔もあった……」

 愕然としているハンナ。

 リュートに問われるまで、気づいていなかったのだ。


(なぜ、気づかなかったんだろう)


 異様な雰囲気に飲み込まれ、影をできるだけ、消していた彼らに、目がいかなかったのだった。

 彼らも、村の住人にできるだけ存在を、見定まれないように、注意を払っていたのである。


(……あの人たちは、誰? 何で、知らない人たちなのに、長老たちは、何も言わないの? おかしいよ、これは)


「やはりな」

 したり顔のリュートだ。

「知っているの?」

 微かに、ハンナの声が強張っていた。

「長老側が、密かに送り込んだ、者たちだろう」

「嘘。だって、長老は……」

 口に、自分の手を当てている。


(よその人たちを嫌っているのに? どうして、嫌っているのに、村に入れたの?)


「嘘言って、どうなる? 確かな情報だぞ。それも、かなりの数を入れ、必ず、また増えていくだろうな」

 楽しげなリュートである。

「……」

「見たんだろう?」

 頷くことしかできない。


「お前の目を信じろ」

 まっすぐに注がれる、リュートの瞳。

「……」

「長老は、何かをするはずだ」

 自信に満ちた、リュートの声音だった。

「……何を」


「それは、まだ、わからない。だが、確実に言えることは、見張られている、お前の友人であるイシスって子が、使われるはずだ」

「どうして?」

「逃げられないように、見張られているだろう」

「だって……」

「両親も、ある程度、グルだろうな。……わかっていて、諦めているのか」


(おじさんも、おばさんも、知っている……。ってことは、お父さんも、お母さんも、知っているって、ことだよね)


「とにかくだ。何かあるのかは、確かなことだ」

 真剣な眼差しを、リュートに巡らせていた。

「……イシスを、助けてくれる?」

「いいだろう」

「……ありがとう」


「その代わり、教えてくれ。それと、今後、情報もほしい」

「……わかった」

「頼むぞ」

 脇におかれていたビンセントだ。

 二人の話を聞いている間に、徐々に、微妙な顔を覗かせていたのである。


読んでいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ