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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第6章 邪魔するものは、吹っ飛ばせ
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第182話

 ハンナは、友達たちと会っていた。

 これまでだったら、ここの場所に、もう一人、イシスがいたのである。

 だが、いない。

 突如、家に監禁され、家から出られなくなったのだ。


 誰も、理由なんてわからない。

 イシス本人ですら、知らされていなかった。

 ただ、大人たちは、理由を知っているようだが、誰も、それを口に出さない。


 そうした環境に、徐々に、ハンナ一人だけが、違和感を生じさせていたのだ。

 暗い表情をしている、ハンナに声をかける友達。

 ハンナ一人だけが、黙り込んでいたからでもあった。

 他の友達は、お喋りに花を咲かせていたのである。


「どうしたの? ハンナ」

 一人が声を掛けたことにより、友達の視線が集まっていた。

「イシスのこと、気にしているんでしょう?」

「イシスね」

「……うん」

 歯切れの悪い、ハンナだ。


 ハンナ以外の友達は、そういうものだと、以前から、割り切っていた。

 自分以外の子が、全然、これまで一緒にいたイシスのことを、気にした素振りを見せないことに、これでいいのだろうかと、不安だけが募っていく。

 イシスが家から出られない状況以外、彼女たちの日常は、普段通りに流れていったのだ。

 そして、今日も、いつもの日常をするため、集合していたのだった。


 ハンナたち、女の子八人が集まり、森の入り、木の実などを、取ってくることになっていたのである。

 同世代の者は、常に集まって、一緒に行動していた。

 勿論、採取する場所は、すでに決められ、それ以外の場所に入ることを禁じられていたのだった。

 男の子は、木材の加工の手伝いをすることになっていたのだ。


「気にし過ぎよ、ハンナは」

 呆れ顔を、覗かせている女の子。

「……」

「大切なお役目があるから、家から出られないって、聞いたよ」

「「私も」」

「そうなんだ」

「私も、よく知らなかったよ」

 両親やイシスの両親からも、大切なお役目に選ばれ、そのため、家から出られないと、聞いていたのである。


(だからって、あんなに、家の周りに、男の人たちがいるの?)


 不意に、イシスの家の周囲を、見張っている男たちのことを掠めていた。

 イシスの家の周りには、家を見張っている男たちが、周囲を異様な雰囲気で囲っていたのである。

 このところ、一段と、見張っている数が増え、物々しさが増していたのだった。


 そうした状況なのに、誰も見ない振りをしている。

 他の者たちは、何食わぬ顔で、日常を過ごしている様子に、次第にハンナは眉を潜めていったのだ。

 段々と、心細くなっていくハンナ。

 生まれた時から、一緒にいた友達のはずなのに、疎外感が拭えない。


(……ビンセント……)


 仲のいい友達にも、決して言えない名。

 心の中で呟き、少しでも温かさを求めていく。


「ハンナ。イシスの家に、行っているんでしょう?」

 咎めるような声音。

 僅かに、ハンナの身体が強張っていた。

「……」

 他の友達は、目を見張っている。

 イシスのところへ、行ってはいけないと、各々の両親から言われていたからだった。


「ダメって、言われているのに」

「だって……」

「長老様の命なのよ」

「……」

 唇を噛み締めている。


(……だって、イシスが心配だから……)


「長老様の言われることは、絶対なのよ」

 咎められても、伏せたままのハンナである。

 すでに、ここに来る前も、イシスの家に行って、差し入れを持っていったばかりだった。

 けれど、イシスがいる部屋に、入ることはできなかった。

 だが、扉越しに、少しだけ話をさせて貰っていた。


 黙り込んでいる、ハンナを見つめる視線。

「聞いているの? ハンナ」

「……わかっているって」

 微かに、擦れたハンナの声だ。

「……もう、行っちゃダメだからね」

 誰一人として、ハンナに回る者がいない。

 ハンナだけが、異質だと訴えている双眸だらけだった。

「……」


「……。ねぇ、森に入って、木の実を取ろう?」

 重苦しい雰囲気を嫌い、これまで黙っていた女の子が口を開いていた。

 そうした声に、同意するかのように、早くと言う声が上げっていき、ハンナを注意していた女の子も、小さく息を吐いてから、それに同調したのだった。


 森へと、歩き出していた女の子たち。

 女の子たちから、少しだけ遅れる形で、重い足取りで、ハンナもついて行ったのである。

 女の子同士で、お喋りで盛り上がっていた。

 だが、ハンナは加わらない。

 黙って、後をついていっただけだ。


 指定された場所で、木の実などを、採取し始めていく。

 暗い顔したハンナも、その中を混じって、採取していくが、いつもよりも、採取していく手が遅い。

 先ほどの言葉を思い出し、これまで一緒に過ごしてきた友達が、遠い存在にしか、思えなかったのである。


 採取するのをやめ、女の子たちから、離れていくハンナだ。

 とても、一緒にいる気分では、なかったのだった。


 長老の命が過ぎっていたが、それよりも、一人になりたい気分が勝っていたのである。

 しばらく、森の中を彷徨って歩いていた。

 友達の声は、聞こえない。

 風の音や、動物たちの音しか、聞こえていなかった。

 みんなから離れ過ぎたかと巡らせるが、引き返す気持ちになれない。


(どうしよう……)


 怒られるのを覚悟で、一人で時間を潰そうかと、逡巡していると……。

 目の前に、見知らぬ男の子が、姿を現したのだ。

 突然の出来事に、フリーズしているハンナ。


「ハンナだな」

 いきなり、自分の名前を言われ、大きく目を見開いている。

 そうしている間にも、見知らぬ男の子は、不敵に笑っていた。


(なぜ、笑っているの?)


「とにかく、来て貰う」

「……」

 どこかに、視線を巡らせていた。

「騒がれるのも、困るからな……」

 身体が動かなくなり、声を出なくなり、戦慄が走っていく。


「怖がらせて、どうする? 悪い、俺たち、ビンセントの知り合いだ」

 恐怖に慄いている間に、見知らぬ男の子の隣に、また、別な知らない男の子が現れていた。

 そして、別な知らない男の子が、背後を指差している。

 促されるように、眼光を素直に傾けていた。

 自分同様に、身動きが取れないビンセントが、呻き声を上げている光景が、目に飛び込んでいたのだ。

「……」

「ビンセントが暴れるから、しょうがなくだ。おとなしくしてくれれば、拘束は、すぐに解くから」


(……大丈夫なの?)


「とにかく、他の者に、知られると、面倒だから、少し場所を、移動させて貰う」

 よくよく周りを窺うと、かなりの人数がいたのだ。

 どういうことなのと、目で問いかけてみるが、ビンセントは、それどころではない。

 勢いよく、暴れていたのだった。


(……ビンセントの知り合いじゃないの? ……何で、あんなに抵抗しているの? 私も、抵抗するべき? でも……、私じゃ、きっと、叶わないし……)


「じゃ、行こうか」

 言う通りに、ついていくハンナ。

 それに対し、一人で、抵抗しているビンセントだ。


 周りにいる者たちが、ビンセントを窘めている。

「ビンセント。諦めろ」

「暴れると、気づかれるだろう」

「リュートに、任せておけ」

「諦め、悪すぎるよ、ビンセント」

「無駄な体力を、使うな」


 それでも、納得できていないビンセントだった。

 抵抗している姿を、おとなしくついていくハンナが眺めていた。


読んでいただき、ありがとうございます。

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