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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第6章 邪魔するものは、吹っ飛ばせ
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第179話

 話し合いを終え、しばらく、村にいる者たちと打ち合わせをした後、長老は外に出ていた。

 一人で、村の中を歩いていたのだ。

 まるで、自分の目で、様子を確かめるように。


 村人たちも、長老が一人で、村を見回ることもあるので、気にも留めていない。

 普段通りの生活をしていたのだった。




 しばらく歩いていると、長老が、森の中へ入っていく。

 勿論、周囲に目を配ってだ。

 誰も見ていないことを確認し、森の奥へと進んでいった。


 森の別なところでは、互いの者たちが、探り合っていたのだ。

 ゆっくりと歩いていると、目の前の視界に、外に出た三男のモーリスが、佇んでいる姿を捉えている。

 モーリスも気づき、動こうとはしない。

 じっと、父親を見据えていた。


 モーリスの近くで、立ち止まった。

「待たせたか?」

「いや」

 誰にも、知られないように、話をするため、落ち合っていたのである。

 二人しか、知らない合図でだ。


 自分の後を継ぐ、長男にも教えていない。

 まだ、教える段階ではないと、抱いているからだった。


「懐かしいか?」

 父である長老の言葉に、首を振っていた。

 この場所は、モーリスが村で過ごしていた際、一人で、鍛錬していた場所でもあったのだ。

 長老が来るまでの間、モーリスは、この場所を静かな双眸で眺めていたのだった。

「そうか」


「話とは、何だ?」

 少しばかり、モーリスが警戒している。

 血が繋がった親子だと言え、もう立場を違えた息子に、自分に警戒心を持っていることに成長を感じ、口元が緩みそうになるが堪えていた。


(モーリスは、できるのに……)


 ふと、後を継ぐ長男の顔を掠めている。

 まだ、自分の後を継ぐには、覚束ない長男のことは、不安でしかない。

 話し合いに長男も出ていたが、長老としては、物足りなさを憶えていたのだった。

 次男は、外の警備に当たらせていたのである。


「……外に出た者たちは、どうだ?」

「……俺たちから、離れる者もいれば、少しだけ距離を置く者がいる」

 微かに、顔を歪ませているモーリス。

「外の世界を、知ればか……」

 芳しくない顔を、長老も漂わせている。


「……そうかもしれない」

 外に出た者も、段々と、人数が少なくなっていった。

 冒険者家業をしていることもあり、死ぬこともあった。

 だが、この数十年は、カブリート村の掟に、付き合えなくなる者も出始め、彼らから距離をとり、いつしか離れていく者も、増えていったのだった。

 そうした報告も、受けていたので、危惧していたのである。


「だからと言って、外に出さないこともできない。年々、学院側も、より優れた者をよこすように、なって来たからな」

 村の秘密を守るため、長老たちも、日夜努力を重ねていたのだ。

「……」

 逡巡している長老の顔を、それとなくモーリスが窺っていた。


(……まだ、儀式を続けるんだな)


 モーリス自身、外に出て、いろいろと考えることができ、カブリート村の掟や儀式について、疑問を生じ始めていたのだった。

 けれど、父である長老に、口に出したことはない。

 とても大切なことだと、父親が重んじてきた姿勢を、見てきたこともあったからだ。

 だから、疑問を持ちつつも、父親に従ってきたのである。


「儀式が終わったら、数人ほど、外に出すつもりだから、鍛えてくれ」

「わかった」

「底上げの件だが、どれぐらい掛かりそうか?」

「数年は、ほしい」

 親子と言えど、村に残っている者と外に出た者で、事務的な会話になっていた。


「そうか……。それと、ここにいる間でいいから、村の者を、少し鍛えてくれ」

 村の中の強化が、近々の課題だと、巡らせていたのである。

 常に、外に出た者たちを、使うことができないからだ。

「そんなに、切羽詰っているのか?」

 外に出ているので、村の詳細な現状を、把握することは難しかった。


「ああ」

「……」

「モーリス。お前だって、学院側の者と対峙し、能力の高さを、感じただろう?」

「確かに」

「厄介なことだ」

「……」


「私の勘が言うのだ。このままでは、ダメだと」

 深刻な顔を覗かせている長老に、何とも言えなくなる。

「……わかった」

「頼むぞ。今は、お前が、頼りだ」

 できがいいモーリスを外に出したことに、僅かばかり後悔している長老だ。


読んでいただき、ありがとうございます。

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