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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第6章 邪魔するものは、吹っ飛ばせ
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第178話

 カブリート村の長老の屋敷では、外から来た者たちと、長老側との話し合いが、密かに行われていたのである。

 カブリート村の中でも、長老の屋敷は、ひと際、大きな屋敷だった。

 集まって、いろいろと話し合いができるようにだ。

 長老の家族と言えども、認められた者以外、この部屋に顔を出すことができない。

 別な部屋で、静かに話し合いが終わるのを待っていた。


 長老たちの下には、着々と、村の外で、冒険者家業をしている者たちが、入り込んでいたのだ。

 勿論、彼らは、完全な村の外の者ではない。

 全員が、親戚筋に当たっていたのだった。


 長老たちは、自分たちの中で、力のある者を、密かに村の外に出し、力をつけさせ、何十年に一度だけ、密かに彼らを戻し、ある役目につかせていたのだ。

 ただ、長老側についている村人でも、末端の村人たちは、こうした者たちの存在自体を、正確に把握していなかったのだった。


 村の外にいた者たち、全員を集めることもできないので、リーダー格の者だけを招き入れている。

 中央に鎮座している長老だ。

 それなりに空間に、幾人も、集まっている。

 そのせいもあり、部屋自体が狭くなっていたのだった。


 勢揃いのメンバーを、長老がグルリと見渡している。

「どうだ? 問題は、ないか?」

 村の警備に当たらせているのは、村の外から来た者だけではない。

 村に住んでいる者たちにも、任せていた。

 ある儀式を、成功させるためにだ。

 近年、人が多く入ってくることもあり、見張らせる人が必要だった。


「「「「「はい」」」」」

 だが、長老の渋い表情が消えない。


 このところは、村の様子も、落ち着きを払っているが、新たな冒険者たちのパーティがいくつか来たことにより、神経を尖らせていたのである。

 けれど、追い出すことができ、ピリピリしていた空気が、若干ではあるが和らいでいたのだった。

 追い出しても、追い出しても、行き場がない冒険者パーティが、定期的にカブリート村に押し寄せてきていた。

 そうした者たちに、手を焼いていたのだ。


「気を抜くではない。まだ、儀式は、終わっていないんだぞ」

 周りを、引き締めに掛かる長老。

 今後、何があるのか、わからないのだ。

 気を緩めることが、できなかったのである。


 瞬く間に、辺りの空気がわかっていった。

 彼らにとり、長老の言葉は、絶対だったのだ。


「「「「「申し訳ございません」」」」」

「わかれば、よろしい」

 チラリと、隣にいる者に、長老が視線を巡らせる。

「村長や学院側の動きは、どうなっている?」

「性懲りもなく、動き回っているようです」


 勿論、長老たちは、常に、反目している村長たちや、何かとうるさい学院側の動きを、見張っていた。

 彼らに、儀式のことを、知られる訳にはいかないからだ。

 常に、神経を尖らせていたのである。


「儀式のことは、勘付かれていないな?」

「はい。いつものように、動き回っているだけです。それに、いくつか、カモフラージュを施しておりますので、バカ正直に、そちらに、視線が巡っております」

 微かに、バカにしたような笑みを零していた。

「……そうか」

 ほんの僅か、長老の緊張が緩む。


「イシスの方は、どうだ?」

「少し、不安定になっておりますが、両親には、言い包めております」

「そうか。ハンナが訪ねていると、以前に、報告を受けていたが、問題はなかろうな」

 逐一、村の様子は、些細な出来事でも、長老に伝えられていたのである。

 いろいろと村の中を、長老は把握していたのだった。


「はい。向こうの両親にも、やめさせるように、言っているのですが、……ハンナは、定期的にイシスの元に……。元々、あの子たちは、仲がよく、遊んでおりましたから……」

 長老の様子を窺いながら、年配の男が話していた。

 長年、長老の下で動きいていたので、頭が上がらない。

 常に、長老の顔色を窺っていたのだ。

「……困ったものだ」


「申し訳ござません」

 頭を下げている、年配の男だ。

「ハンナの様子は、どうなんだ?」

「不安な様子は、見受けますが、特段、変わったことは……」


 ギロリと、長老が目を眇めている。

 気圧され、年配の男がフリーズしていた。

 だが、誰一人として、助ける者がいない。

 外から来た者たちも、静観しているだけだった。


「……大丈夫なのだな」

「も、も、勿論です。両者の両親にも、よく言い聞かせ、何か、変わったことが起こったら、すぐに、知らせるように命じております」

 大量の汗を、年配の男が掻き始めている。

「……そうか」


 納得できない顔を滲ませていたが、長老は小さく息を吐き、気持ちを落ち着かせていたのだった。

 そして、長老は、外から来た者の代表を務める、自分の息子の三男であるモーリスを捉えていた。

 全然、表情が揺るがない。

 平然と、数年ぶりに、顔を合わせる父親を見つめている。

 そこには、親子の情が見えなかった。


 いったん、外に出た者は、許可なく、カブリート村に顔を出すこともできない上、帰ってくることも、できなかったのだ。

 生涯、外で暮らすことになっていたのである。

 そうした掟が、密かに、カブリート村にでき上がっていたのだった。


「学院側は、何か、仕掛けてくると、思うか?」

 長老としても、学院側の自分たちの動きを、気にかけていることを感じていたのである。

 だから、今後の動きを気にしていた。

「わからない」

「……」

「人数が増えたかと思ったら、このところ、人数が減っている気がする」


 学院側の者たちが、カブリート村を探っていることは、長老たちも認識していたのだ。

 勿論、見ていただけではなく、排除も行っていたのだった。


「どういうことだ?」

 モーリスの言葉に、顔を顰めていたのだ。

「わからない。ただ、いつも以上に、静観しているような」

 感じ取ったことを、モーリスが口にしていたのだった。

 モーリス自身も、彼らの動きに、微かに動揺をし、訝しげていたのである。


「何を、考えているんだ……」

「さぁな」

「モーリス。お前の目からして、学院側の力は、どうなんだ?」


 長老としては、村長側についている者は、歯牙にもかけていない。

 ただ、気に掛けているのは、段々と、学院側の能力が、高くなっていることを危惧していたのだった。

 学院側の者たちを、徐々に追えなくなっていたのである。


「たぶん。俺たちよりも、強いやつがいる。けれど、向こう側も、本腰を上げていないこともあり、様子見と言うことで、今のところ、均衡が取れているような感じをしている」

「……そうか」

 悔しげな表情を滲ませていた。

 このところ、学院側の者たちの能力が、上がってきたことを、長老は肌で感じていたのだ。

 けれど、自分で対処できない以上、外に出た者に頼むしかなかった。


 今後の方針としては、外に出た者の底上げが、必要だなと思考している。

 この後も、儀式が続くからだ。


「儀式が、終わった後は、すぐに、能力の向上に、着手しろ」

「承知した」

 もう一度、長老は、年配の男に顔を傾けていた。

「……村長や学院側は、任せる」

「……わかりました」


 長老は、村長や学院側の者と、このところ顔を合わすことがなかった。

 全て、年配の男に、任せていたのである。


読んでいただき、ありがとうございます。

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